When The "Saints" Go Marching In Ivalice 作:N22b
飛空艇の墓場 揚陸艇「パトナ」
第2甲板 機関操縦室
大音響と体全体への衝撃で目が覚める。
特に肘が痛い。何かで強かに打った。
おぼろげだった目の焦点が合う。
身体は・・・電纜やらファイバー・ケーブルやらが絡みついている。見上げると大穴。アタシはきっと、あそこから降ってきて・・・甲板2層を突き破って、今は天井からマリオネットの人形みたいに、仰向けにぶら下がっている。柔らかい金属板のダクトと、ケーブルの束がクッションになってくれたんだ・・・。
そして・・・素っ裸だ。
ついに、脱げた・・・あの恥ずかしい服が!
頭もスッキリしてる。
ここが何処なのか、アタシは知ってる。
兄さん、アタシ、ずーっと意識あったよ。「飛んでた」のは、あの子の身体に入ってからのほんの一時。ノヴァヤ・ベルベニヤの時と同じに、「ドス黒い」ミストに包まれて、抗ったけどダメだった。
でも、それ以外はずーっと。
もし一人ぼっちだったら、とうに気が狂ってたかも知れない。でも、兄さんが居てくれた。樹になった身体をゆっくり動かして、延々と何かを作っているのを「観て」いた。だから、全然寂しくなかった。稀に人の形になった時には、話しかけてくれた。兄さんからはアタシは見えてなかったし、アタシの声も届かなかった。でも、兄さんは、アタシが「居る」と信じて話しかけてくれた。「ハリさん」と、子供の頃の顔が混じったような、よく分からない顔になっていたけれど、そもそもアタシは大人の兄さんの顔を知らない。だから特段気にはならなかった。息抜きのゲームまで作ってくれたし・・・。だからアタシは解ってる。兄さんが何のためにこの2隻のフネを用意したのか。ここで、アタシがやるべき事も!
・・・上甲板に誰かいる?コッチ来てる?
マズい・・・何がマズいって?アタシは今、スッポンポンなんだ!
身体をバタつかせてケーブルの束から離れる。ここは機関操縦室だ。なら、まずここでやるべきは主機の起動。そして行くべきは後部の小火器整備室。そこに「服」がある!武器も!
兄さんがバッテリーに括り付けた人工クリスタルの欠片から、1000年以上経って流石にスッカラカンになったバッテリーに給電する。旧いけれども流石はユードラ製。バッテリーの電圧は問題なく上がるし、補助発動機も主機も分かりやすいボタンを押すだけで一発で起動する。まあ、兄さんが整備してくれたのもあるんだろうけど・・・。振動と共にガス・タービンの主機が立ち上がり、発電機と空調の音が響き、非常灯の灯りが点いて、フネに命が宿った事を教えてくれる。通路はまだ暗いけれど、兄さんが「目印」を残してくれている。光る樹液のような黄色い筋が、通るべき道を示してくれている。
明け放しになった小火器整備室のハッチを跨いで電灯を付ける。全てツヤツヤに整備された大量の銃火器がラックに並ぶ。この部屋だけ見ると、とてもここが廃墟だとは思えない。真ん中の整備卓には折りたたまれた厚手のツナギのパイロット・スーツとブーツ。下着・・・は、ないか。まあ、しょうがない。
その横にはゴツい弾帯ベルト。歪なクリスタルの欠片が幾つも差し込まれている。兄さんが何百年もかけてそこら中から探し出してきた魔石だ。使えそうな魔法が充填してある。充填が終わった後、「兄さん」は1年以上ピクリとも動かなかったのを覚えてる。きっと、すごく消耗したんだ・・・。
感傷にふけってる場合じゃない。すぐに「聖天使」がアタシの身体を取り戻しに来る。兄さんがそう言ってた。
急いでスーツに身体を収める。ベルトを巻いて武器を選ぼうとしたその時、前方からモンスター独特の叫び声が響いてきた。一つじゃない、何匹もいる!
そして・・・間違いない。誰かが戦ってる。行かなきゃ!
一見、雑多に掻き集めたように見える銃器は、全てアタシが「学校」で触ったことのあるものが選ばれていた。きっと、兄さんがまだ情報軍にいた頃に調べて、覚えていてくれたんだ・・・。信頼性と威力の高いユードラ陸軍工廠製M56機関銃。女性でも一人で支えられるよう、弾帯ベルトに固定できる可動アームが付いてる。接近戦用に、取り回しやすそうな小型のレバー・アクション装填式ショットガン。後は拳銃。相手は人間じゃない。できるだけ大口径のデカいやつを選ぶ。
また、モンスターの叫び声と金属音。
早くいかないと。
発電機をやられるわけにもいかない。「本命」を起動するのに必要だから。
ショットガンをベルトの背部に留めて、機関銃を抱えて前部に戻る。機関操縦室の後部扉をくぐった所で「戦場」が見えた。操縦室の前部扉に陣取った「剣士」が、後ろに編み込んだ金髪を振り乱しながら部屋に入ろうとする化け物達と格闘してる。ミストを帯びた特殊な「剣術」で何匹もを吹き飛ばす。スゴい!でも多勢に無勢だ。援護しようにも彼女?が射線の邪魔で銃を向けられない。でもどうしようもない。あの出入り口を突破されたら、化け物達が一斉に部屋に入り込んで囲まれてしまう。彼女?も多分、それが分かってるから、あそこで頑張ってる。
彼女?が後ろに弾き飛ばされる。向こうの通路には何対もの光る目玉!例外なく「コッチ」を見てる。ええ、そうでしょうね!
不思議な事に、恐怖じゃなくて闘志が湧いてくる。「アイツ」にいいようにされたアタシの身体が、やり返したがってるんだ。
起き上がろうとする剣士に向かって思い切り叫ぶ。
「伏せて!!」
すぐさま金髪が地べたに這いつくばる。良い子!
腰溜めにした機関銃の引き金を引く。反動よりも室内に反響しながら耳に響く射撃音がキツイ!でも出入り口の向こうでは化け物共が面白いように挽き肉になっていく。
ザマアミロ!
金髪ちゃん(やっぱり女の子だった!)がこっちを見てる・・・いや、視線はアタシよりも右上だ。視線を追うと、アタシが落ちてきた「穴」から化け物が入ってくる。機関銃は間に合わない。銃把から右手を離して背中のショットガンを掴み取り放つ。化け物が天井からもんどりうって落ちる。でも浅い。昔、遊び半分で覚えたスピンコックで再装填。起き上がって向かってくるのに筒先を向けるのと同時に、背後に気配を感じる。
ああ・・・入り口から入られたんだ。
間に合わない。プロテクターも付けてくればよかった。でも、それじゃあ金髪ちゃんは間に合わなかったよね。
目の前の化け物の頭を吹き飛ばしながら「詰んだ」と思ったけれど、後ろの化け物の爪はアタシには届かなかった。その前に、視界の隅で地べたを猫みたいに素早く通り過ぎた金髪ちゃんが化け物に剣を叩きつけていた。
化け物が倒れて塵になる。肩で息をする彼女と目が合う。最後に此方に来た人達の一人だ。あの時は一人ひとりはよく見てなかったけれど、ちゃんと自分の目で近くで見ると、綺麗な人。化粧もしてなさそうなのに・・・て思ったら唇だけがツヤツヤと艶めかしく光ってる。それ、絶対凄くいいリップ使ってるでしょ。
いや、ソレはいい。アタシの方を見て目をまん丸にして、どうにも困った顔をしている。
化け物達を始末してほんの一瞬なんだろうけれど、とても長い時間に感じる。
「あなたは・・・いったい、何なんだ!?」
唐突に彼女の口を突いて出てきた言葉から、戸惑いと憤りを感じる。
「儀式」で兄さんが私に「澱んだ血」を流し込んだ時、意識を失う前に数えることも出来ないほどの叫びを聞いた。アタシの名前だ。男も女も老いも若きも、小さな子供までもがアタシの名前で救いと安らぎを求め、許しを請うた。あの感覚だ・・・まだ、私がベルベニアの生き神様だった頃、盲目的に、熱狂的に何がしかを求める人達の叫びと同じだった。その叫びと、流れ込む断片的な記憶が、理解させた。現世で、自分がどんな存在になっているのか・・・兄さんがアタシを「蘇らせる」ために、多分アディを使ってやったこと。どれだけ時間が経っても、世界に何が起きてもアタシの事を忘れずに、確実にこの場所に「ヴァルゴ」と「適合者」と「魂のミスト」を集めることができる組織と体勢を作らせた。殆どの人はただ「組織」を存続させるためだけにアタシの名を拝む。それで天国に行けるのだと信じこまされて・・・。
兄さんは、アタシを「絶対に蘇らせる」ことと、蘇ってから「生き残る」ために何をすれば良いかは口酸っぱく教えてくれたし、そのための武器も用意してくれたけれど、そもそも「どうやって蘇らせる」のかは教えてくれなかった。さっきは、身体と心が戻った事を素直に喜んだけれど、目の前の「彼女」の叫ぶような問いかけで思い出した。これがそのための手段なのだとすれば許されることじゃあない。きっと、「彼女」もそうなんだ。生まれて、物心ついてからずっと、疑うことなくアタシの名前で祈ってきた。アタシが全ての善性の象徴なんだと信じてきたに違いない。だから今、戸惑って、怒っている。今、「彼女」の目の前に居るのは、ただの人間どころか、千年以上もの間、ありもしない「救済」を餌に人々を騙してきた組織の象徴だ。それどころか、世界をメチャクチャにしようとする悪魔の親玉だ。アタシにそんな気がなかったとか、兄が勝手にやったことでして・・・とか、そんなヌルい言い訳は通じない。
兄さん・・・助けてもらっといてなんだけど、アタシ辛いよ。国境地帯の頃はまだ良かった。「神の御子」を演じて、皆の祈りをこの身で受けても、「良くなる暮らし」と「未来への希望」で応えてあげる事ができたから。でも、兄さんのコレは違う。アタシは、信じて祈る人達に何も返してあげられない。ベルベニアの時と同じだ。コレじゃイカサマだよ・・・バレなきゃいいなんて笑ってられるのはマージャンだけだよ。
もう一度、目の前の「彼女」を見る。戸惑いと怒りだけじゃあない・・・その目は本当に「信じられる答え」を求めてる。イカサマまみれのアタシにどんな答えが返せる?これまでの人生を全部語って聞かせる?今は戦わなきゃいけない。そんな時間ない!
「話すと・・・とっても長い。今、そんな時間はない。」
苦し紛れに答える・・・ダメだよね。
じゃあ、コレだけは信じて。今からアタシが「本当に、絶対に」やろうとしていること。今はそれだけ信じてくれれば良い!
「これから「聖天使」を倒す。貴女の仲間を助ける・・・それじゃあ、駄目?」
お願い・・・アタシは、あなた達を天国になんか連れていけない。救いも、赦しも与えてあげられない。今、出来るのは、あの異形者と戦う事だけ・・・戦って、あなたと、アタシの依代になってしまったあの子達を助けることだけ!
「来て!」
それだけ伝え、弾薬の切れた機関銃を捨てて、答えを待たずに「格納庫」へと足を向ける。信じてもらえなければ、後ろから叩き切られるだけだ。そうされてもしょうがない・・・報いだ。兄さんにも文句は言わせない。この人は、アタシ達兄妹が千年以上騙し続けてきた人達の「代表者」なんだ。
強い口調で呼び止められる。
名前を聞かれた。そう言えば、アタシからは誰にも、名乗ってない。ごめんなさい。アタシはアジョラ・グレバドス。でも、あなた達が思ってるようなのじゃあない。