遊戯王外伝 ある幼き天才少女の友人Y   作:黒月天星

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なんでもない少年は、天才少女に絡まれる 前編

 

『……ーさん。マスターさ~ん? そろそろお時間ですよ?』

 

 耳元で聞こえる鈴の音のような声に、僕はゆっくりと目を開ける。

 

『大丈夫ですか? やっぱり疲れが溜まっちゃってるんですよぉ。マッサージとかします? お背中をこうぎゅっぎゅって』

「それ傍から見たら僕が半裸で横になっているだけの不審者に見えるから止めてほしいな」

『つまり誰も居ない二人っきりの時にですね! 了解了解!』

 

 少々スキンシップの激しい困った家族に苦笑しながら、僕は控室を後にする。

 

 コツコツ。コツコツ。ギイィ。

 

 長い廊下を歩き、歩き、歩き続け、目的の場所へたどり着いて扉を開く。そこは、

 

 ワアアアアアアっ!

 

 響き渡る観客達の歓声。戦いを待ち望む者達の咆哮。

 

 それを若干煩わしくも思いながら、僕は戦いの舞台へ上がる。そこには、一人の可憐な少女が待っていた。

 

「遅かったじゃない。まっ! ワタシが勝つのには違いないけど、それでも堂々と勝つのと不戦勝じゃあちょっと意味合いが違うもの」

「それは悪かったね。対戦前に手を考えていたらついうとうとしてしまって」

 

 僕が謝ると、彼女……この全米リーグ決勝戦の対戦相手レベッカ・ホプキンスは、フフっと笑って自分のデッキを手に取って見せる。

 

「今日の為にしっかり仕上げてきたわ! 覚悟しなさい。アンタなんかけちょんけちょんにしてあげる」

「……ぷっ! ククッ!」

「ちょっとぉ~。何がおかしいのよっ!?」

「いやゴメンっ! そういえば僕達が最初に会った時も、そんな感じだったなぁと思い出してさ!」

 

 どこか見覚えのある仕草と言葉に、つい僕はクスリと吹き出してしまう。それを見て憤慨するレベッカにごめんごめんと謝りながら、僕はあの時の事を思い出していた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 おっと。その前に、簡単に自己紹介を済ませておこうか。

 

 僕の名は神凪遊美。些か可愛らしい名前だけれど……男だ。

 

 別に長ったらしいプロフィールはない。ごくごく平凡で、どこにでも居そうな人間。強いて特別な点を挙げるなら……カードの精霊が視えるくらいかな。

 

『いやあ~流石アメリカ! 日本よりどこもかしこも規模が大きいですねぇマスター!』

 

 あちこちに目を向けて子供のようにはしゃぐのはビィ。僕が小さな頃からいつの間にか居る、自称ブラックマジシャンガールの精霊だ。

 

 まあ色々あって今のデッキにはカードを入れていないのだけど、よく試作デッキのテストに付き合ってもらったり、デュエル中に他の人に見えないからって野次を飛ばしたりする。

 

 僕の両親はI2(インダストリアルイリュージョン)社に務めるカードデザイナーで、父は本社勤務。母は僕と一緒に日本暮らしだったけど、自宅からデザインを送ったり定期的に本社に行ったりという生活だった。それで長期休みの時は僕も良くアメリカに行っていた。

 

 あれは僕が中学一年生だった時の事。僕とビィはI2社の近くの公園に居た。

 

 両親はどちらも本社でデザインしたカードのプレゼンの真っ最中。母にはこちらの家に帰っておいてと言われているけど、それなりに時間もあってこの辺りを散策していたんだ。

 

『あっ! あちらにアイスクリームの移動販売車がありますよっ! こ~んな暑いんですからお一つ如何です? マスターの好きなミント味も売ってるみたいですよ!」

 

 そこでビィがふわりとデフォルメされた二頭身の姿で現れとある方向を指さした。

 

 見るとカラフルな移動販売車が、アイスクリームの描かれた旗を掲げて景気の良い音楽を流している。なので、

 

「ホントだね。……じゃあ二つほど買ってこようか。バニラとミントを一つずつで」

『二つ? マスターったら食いしん坊さんですね? まあこの暑さじゃ多少は』

「何言ってるんだい? 一つはビィの分だよ。この前バニラフレーバーをじっと見てたから好きだと思っていたけど違う?」

『へっ? …………良いんですか? ワタシ精霊ですけど』

 

 一瞬呆気にとられた顔をして聞き返すビィに、僕は何を言っているんだと重ねて続けた。

 

「あのね。流石にアイス二つ程度でどうにかなるほど男子中学生の財布は軽くないよ。それにアイスを食べる時間くらいどうせ実体化できるだろうし、僕だけアイスを食べてたらおかしいじゃないか」

「……はい。はいっ! ありがとうございますマスターっ! ああでも、どうせならバニラじゃなくて期間限定スペシャルトッピングという手も。いや~悩んじゃいますねぇっ!』

 

 一転してぱぁっと笑顔になるビィを現金だなと苦笑しながら、僕はよっと勢いよくベンチから降りて、

 

 グニュっ!

 

「んっ!? 何か踏んだぞ?」

 

 柔らかい感触にそれを手に取ってみれば、

 

『ぬいぐるみですねぇ。可愛いクマさんです』

「結構しっかりした作りだし、誰かの落し物かな? え~っと日本だと交番に届けるけどアメリカだと……」

「あああっ! テリーちゃんっ!?」

 

 そこに叫び声が聞こえてきたと思ったら、一人の少女が飛び込んでくる。見た所日本で言うなら小学生くらい。金髪のツインテールがくるりと風で揺れ、元気なイメージを抱かせる子だ。

 

「どこでテリーちゃんを落としたのかと思ったら、アナタが盗ったのねこのドロボーっ!」

「ドロボー? いやちょっと待ったっ!? 僕は偶々今このぬいぐるみを拾っただけで」

『そうですよっ! なんですかこのお子様は。話も聞かずにマスターをいきなりドロボー呼ばわりなんてっ!?』

「言い訳無用っ!」

 

 少女は興奮した様子で服からデッキを取り出すと、僕に向けて突きつけてきた。

 

「覚悟しなさいドロボーのお兄さんっ! この天才デュエリストレベッカちゃんが、デュエルでけちょんけちょんにしてあげる」

 

 これが、後に全米リーグで争う事になる僕の友人。レベッカ・ホプキンスとの出会いだった。

 

 

 

 

 こうして何故か拾ったクマのぬいぐるみを賭け、近くの休憩スペースでテーブルデュエルをする事になってしまった僕達。

 

 最初僕はレベッカの事を、ただの人の話を聞かない女の子だと思っていた。ひとまずデュエルをすれば丸く収まるだろうと。ただ、

 

「きゃあ~!? ワタシのモンスターちゃんが~っ!?」

 

 僕の『暗黒の竜王』が守備モンスターを破壊した時、レベッカはややオーバーな程に驚きを露にした。

 

『やりぃ! まずはこっちがペースを握りましたぁっ……と言いたい所ですけど、マスターさんも気づいてますよね?』

「うん。アレはただの演技。誘いだね」

 

 半透明の姿のビィにそう返して、僕は少し警戒度を上げてレベッカの出方を見る。

 

「うわ~んショック~っ! でもね。今破壊されたモンスターは『クリッター』ちゃん。その効果で、破壊されて墓地に送られた時デッキから攻撃力1500以下のモンスターを1枚手札に加えるわ。『黒き森のウィッチ』をデッキから手札に」

「OK。僕はカードを1枚伏せてターンを終了するよ」

 

 初期LPは2000。先行ドロー不可。召喚に生け贄が必要なく、また直接攻撃は不可。手札枚数上限なし。そして魔法と罠の手札からの発動及びセットがそれぞれ1ターンに1枚ずつのみ。

 

 そういうアメリカ式のルールに最初は少し悩んだけれど、何度も渡米していれば少しは慣れてくる。

 

「ワタシのターンね! ドローっ! ワタシはまたモンスターを場に裏側守備表示で出して、カードを2枚伏せて終了するわ」

(2枚伏せ? つまり魔法と罠をそれぞれ1枚ずつ伏せたっていう事か。となるとレベッカの狙いは、おそらく次のターン手札と合わせて魔法カードを使う事。なら)

「待った。僕はターン終了時に伏せてあるカードを発動。速攻魔法サイクロン。レベッカの今伏せたカードの……僕から見て右側を破壊する」

 

 突風がレベッカの伏せカードを1枚巻き上げる。そのカードは、

 

「ざ~んねん。『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』が破壊されちゃったわ。中々やるじゃないドロボーさん」

「そっちも、どうやら自称天才デュエリストというのはハッタリじゃなさそうだね」

 

(クリッターや黒き森のウィッチといった豊富なサーチカードにこれ。……とくれば)

 

 レベッカがヒュ~と口笛を吹いてこちらを見る中、僕は破壊したカードを見てレベッカのデッキにある程度当たりを付ける。そんな中、

 

『この歳でこのデュエルタクティクス。そしてこの生意気な口調にクマのぬいぐるみ。……もしやとは思いましたが』

「何か気づいた事でも?」

『いいえ。大した事じゃありませんっ! このデュエルには何の関係もないお話ですよマスターさん』

 

 意味ありげにポツリと呟いたビィにそっと尋ねると、ビィはぶんぶんと首を横に振る。

 

「ちょっと~? ドロボーさんのターンよ。Hurry up(急いで)!」

 

 

 

 

 遊美 LP2000 手札4 モンスター 暗黒の竜王 魔法・罠 なし

 レベッカ LP2000 手札3 モンスター 裏守備1 魔法・罠 伏せ1

 

 

 

「僕のターンだ。ドロー」

 

 レベッカの場の裏守備カード。普通に考えればさっき手札に加えた黒き森のウィッチ。墓地へ行くだけでデッキから後続をサーチする優秀なカードであり、クリッターと合わせて互いをサーチし途切れる事なく手札を補充できる。でも、

 

(怖いのはここがアメリカルール。LP2000なのに生け贄無しでモンスターが出せるって事なんだよな)

 

 仮にこう考えてみよう。初手で黒き森のウィッチを手札に加えた事すらブラフ。それを伏せたと見せかけて、本命は高レベル高守備力モンスターによる反射ダメージだとしたら?

 

 もし直接攻撃可能なら、下手すると一撃で勝負を決められかねない2000ライン。そして生け贄無しで大型モンスターが出せるという環境は、どうしても動きが慎重になる。

 

 今僕の場に居るのは攻撃力1500の暗黒の竜王だけ。手札のモンスターも同じような物。なら、

 

「僕は手札からモンスターを裏守備でセット。暗黒の竜王を守備表示に変更し、カードを1枚伏せてターン終了」

 

 暗黒の竜王 DEF 800

 

「あ~ら。ドロボーさんったら、こ~んな子供の伏せたカードに怖がってるんだぁ? や~い怖がり~!」

 

 レベッカがこちらを煽るが、僕は読みが当たっていた事を確信してニヤリと笑う。ターンを終えた時、レベッカの口元が本当に僅かだけど険しく引き絞られたのが見えたからだ。

 

 しかしそれ以降はまるで内心を出さず、レベッカはワタシのターンねとカードを引く。

 

「ふふ~ん。ワタシはそんな臆病者じゃないんだから。手札から黒き森のウィッチを攻撃表示で召喚」

 

 黒き森のウィッチ ATK1100

 

「バトルよ。黒き森のウィッチで、守備表示の暗黒の竜王に攻撃っ!」

 

 暗黒の竜王が破壊されるが、守備表示なのでダメージは無し。このまま攻撃表示で出しておく事で、返しのターン反撃を受ける可能性もあったが、

 

「メインフェイズ2。ワタシは伏せてあったカードを発動するわ。魔法カード『痛み分け』。自分の場のモンスターを生け贄に捧げる事で、相手も自分のモンスターを一体生け贄にしなくてはいけない。ワタシは黒き森のウィッチを生け贄に」

「……こっちは裏守備の『フェアリー・ドラゴン』を生け贄にする」

「そして黒き森のウィッチの効果発動! このカードが墓地に行った事で、デッキからクリッターちゃんを手札に加えるわっ!」

 

 これは上手いな。本来痛み分けは破壊耐性を持つ相手でも生け贄として除去出来るカードだけど、自分のモンスターも生け贄にしなければならない分使った方が枚数で見たら損をする。

 

 でも生け贄にするのがウィッチであれば、能動的に好きなモンスターをサーチしつつ相手を除去出来るという効果に早変わりする。おまけに攻撃力の低いウィッチを場に出しっぱなしという弱点もなくなった。

 

「ワタシはカードを1枚伏せてターン終了。フフフっ! ワタシの天才的なタクティクスに驚いて声も出ないみたいねドロボーさん。でもまだまだよ。このデッキの真骨頂はこれからなんだからっ!」

『これはまた、厄介なお子様に捕まっちゃいましたねマスターさん。どうします? 適当に負けてもそのクマちゃんを普通に返すだけで問題ありませんけど?』

「そうだねぇ。最初はそのつもりだったんだけど……気が変わったよ」

 

 僕はちょっぴり面倒くさそうな顔をするビィに対して穏やかに、そしてついレベッカに対して獰猛に笑ってみせた。

 

 

 

「やはりゲームは相手が強くなきゃ楽しくないよね! このクマは勝って叩き返してやるっ!」

『……ふふっ! マスターさんもやっぱりデュエリストなんですねぇ。相手が強いからこそ火が着いちゃいましたか。それはそれで良い事ですけどね!』

 




 知っている方はお久しぶり。知らない方は初めまして。黒月天星と申します。

 しばらく筆を置いていたのですが、リハビリがてらリクエストされた設定を元にこうして短編を書かせていただきました。

 後編も近日中に投稿する予定です。この作品が、読者様の暇潰しにでもなれば幸いです。
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