戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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第一部完って感じです。


第十四話 俺の式神なのに

「……はは、なるほどな」

 

景次の手を離し、俺は皆と肩を並べた。

霧が晴れた広場。そこに鎮座する巨躯の蜘蛛は、なりふり構わぬ殺意を剥き出しにしている。

あの時より2回りほど大きくなった蜘蛛の呪霊。

 

人の姿を保てなくなった口から出る音は、もう人の言葉を成していなかった。

 

「コソコソ隠れてた時より、そっちの方がよっぽど似合ってるぜ」

 

吐き捨て、拳を握り込む。呪力は底を突きかけているが、不思議と感覚は研ぎ澄まされていた。

 

「……兄上。あの時の、寺のやつですよね」

 

「あぁ。……たっぷり礼をしてやる」

 

俺は白の首筋を一度だけ叩き、その野性を肯定するように告げた。

 

「さっきのは悪くなかった。……ここからも好きにやれ」

 

白が地を裂くような咆哮を上げ応えた。

 

「んじゃ影久サン、景次様――行くぜ!」

 

扇一郎の長柄刀が白熱し、空気が爆ぜる。

それを合図にしたように、鎮座していた巨躯が跳ねる。八本の脚が土を砕き、視界を埋め尽くすほどの質量が頭上から降り注いだ。

 

俺たちは弾かれたように四方へと散る。

 

背後で扇一郎の長柄刀が唸りを上げ、爆炎が蜘蛛の側面に叩きつけられた。

炎を嫌った蜘蛛が俺のいる左前方へと這い寄る。

そこへ景次が絶妙なタイミングで礫を弾いた。ダメージを与えるためではない。

その「振動」を合図に、白が影から跳ね上がった。

 

蜘蛛の注意が、上空の白と後方の扇一郎に割かれる。

空振りに終わった蜘蛛の脚を足場に、白がその巨躯を駆け上がった。

 

「――ッ!」

 

声にならない意思の疎通。白が牙を剥き、蜘蛛の複眼を食い破る。

のたうつ異形の隙間に、俺は最短距離で潜り込んだ。

 

全身に残った僅かな呪力を、右拳一点に凝縮させる。

 

——合わない。

そう思った瞬間だった。

 

白が俺の背中を蹴る。

——その瞬間、呼吸が、重なった。

 

その推進力を乗せ、拳を突き立てた。

 

 

――100万分の1。

 

 

空間が歪むような重低音と共に、黒い火花が爆ぜた。

 

俺の右拳から放たれた黒く染まった呪力の奔流が、蜘蛛のその巨躯を、背後の民家の残骸ごと跡形もなく消し飛ばす。

 

「……嘘だろ、兄上……」

 

景次の呆然とした声が、遠く聞こえる。

 

土煙が晴れた跡には、膝をつく俺と、その横で誇らしげに喉を鳴らす白。

そして、巨大な蜘蛛がいた場所には、ただ黒く焼け焦げたクレーターだけが残されていた。

 

「…………おいおい」

 

静寂を破ったのは、拍子抜けしたような扇一郎の声だった。

熱気を帯びた長柄刀を構え、今まさにトドメの一撃を叩き込もうとしていた彼は、獲物を失った構えのまま、立ち尽くしている。

 

「……冗談だろ影久サン。景次様に肩借りてたのはなんだったのよ。最後に全部持っていくのは、流石に性格が悪すぎやしませんかねぇ」

 

呆れたように肩をすくめ、白熱していた刀の熱をふっと逃がした。その口調こそ軽いが、目はクレーターの中心にいる俺と白の「異常な一撃」を焼き付けている。

 

「……は。……あぁ、そうだな」

 

自分の声さえ、どこか他人事のように響く。

荒い吐息とは裏腹に、体の中には黒い火花がもたらした瑞々しい呪力が溢れ、空っぽだった回路を無理やり満たしていく。

 

俺は隣で誇らしげに鼻を鳴らす白の頭に、重い腕を置いた。

右拳の芯には、まだあの「黒い衝撃」の熱がこびりついている。

 

一人で戦っていた時には決して辿り着けなかった、理の外側の感触。

視界は異常なほど鮮明で、景次の震える呼吸も、扇一郎の刀から立ち上る陽炎も、すべてがスローモーションのように手に取るように分かった。

 

「兄上……? 兄上、今の……何だよ、それ」

 

心配そうに顔を覗き込んできた景次の口から、ふいに、作り物の丁寧さが剥げ落ちた声が漏れた。

整えられた言葉遣いも忘れて、ただ呆然と俺を見つめている。

 

俺は数秒遅れて、その幼い驚きに視線を向けた。

 

「……あぁ。……最高に気分がいい」

——それが、自分のものではないような気さえした。

 

口元が、自然と歪んだ。

呪力切れの消耗を上書きする、暴力的なまでの昂揚感。

隣で白が誇らしげに、短く吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの「全能感」は、どこへ行った。

 

蜘蛛を消し飛ばしてから数日。俺たちはようやく京の禪院の屋敷へと帰還した。

黒閃の効果が切れた後、数時間は指一本動かせないほどの虚脱感に襲われたが、幸い、呪力の巡りそのものは以前よりスムーズになっている。

問題は、俺の隣で欠伸をしている「こいつ」だ。

 

「おい、白。そこは俺が座る場所だ。どけ」

 

自室の縁側、一番日当たりのいい場所を陣取っている白い巨躯に声をかける。

白は耳をピクリと動かしただけで、薄目を開けてこちらを一瞥すると、ふいっと顔を背けて寝直した。

 

 

 

……完全に無視された。

 

 

 

あの戦場で、あれだけ噛み合っていた相棒はどこへ行ったのか。

今の白の首には、俺がつけた覚えのない、立派な組紐の首輪が巻かれている。

 

「兄上、無駄ですよ。それ、下女たちが

 

『せっかくの綺麗な毛並みなんだから、飾りくらいないと可哀想』

 

って、勝手につけたみたいです。白も満更じゃないみたいで」

 

お前それお菊のモノマネか?

めちゃめちゃ似てるやんけ。

 

庭の方から歩み寄ってきた景次が、困ったように笑いながら白の頭を撫でる。

するとどうだ。俺の問いかけには石のように動かなかった巨躯が、嬉しそうに喉を鳴らして景次に擦り寄っていくではないか。

 

「……おい、景次。こいつ、その辺の野良犬じゃないんだぞ。戦場でありえない機動を見せる、れっきとした……その、凄腕の式神なんだ。飾りをつけるなんて、なめられすぎだろ」

 

「あはは、よしよし。白、お腹空いたの?」

 

俺の言葉などどこふく風。景次が懐から干し肉を取り出すと、白は「待ってました」と言わんばかりに尻尾を振り、行儀よくお座りまでしてみせた。俺には一度も見せたことのない従順な姿だ。

 

「影久様、そんなに怒らないでくださいまし。白ちゃん、お庭の掃除中もずっと私たちを見守ってくださるんですよ」

 

「そうですよ、お菊の持ってきたお握り、とっても美味しそうに食べてくださって!」

 

廊下の向こうから、下女たちがクスクスと笑いながらこちらを覗いている。

見れば、白の足元には彼女たちが持ち寄ったらしい余り物の魚や、小さな手毬まで転がっていた。

 

「……見守ってるんじゃなくて、お零れを待ってるだけだろ、それは」

 

俺が呆れて呟くと、白はこれ見よがしに「くあぁ」と大きな欠伸をして、景次の膝に顎を乗せた。

俺を「たまに怖いところに連れて行くうるさい管理者」程度にしか思っていないんじゃないか?

 

「影久様、そんなに怖い顔しないでくださいよ。白も戦いで疲れてるんです。ね?」

 

景次にまでそう宥められ、俺は空になった右拳を握り込み、天を仰いだ。

 

「最高に気分がいい、なんて言った数日前の俺を殴りたい……」

 

黒閃の残り香は、今やただの筋肉痛と、主人の座を奪われた虚しさ、そして自由奔放な式神への頭痛にすり替わっていた。

 

「――影久様、景次様。少々騒がしゅうございますな」

 

ふいに、廊下の先から低く地を響かせるような声が届いた。

その場にいた全員の背筋が凍りつく。下女たちはあわてて頭を下げ、蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 

そこに立っていたのは、源蔵だった。

恭しく一礼してはいるが、一切の隙を感じさせない佇まいは、平和な縁側の空気を一瞬で塗り替えてしまう。

 

その瞬間。

さっきまで景次に甘えていた白の耳がピンと立ち、鼻先に皺を寄せた。

源蔵が顔を上げるよりも早く、白は「……あ、これ無理なやつだ」とでも言いたげな顔で俺と景次を交互に見て、そのまま影の中へと溶けるように消えた。

 

「おい、白……!」

 

呼んでも戻ってこない。

あいつ、説教の気配を感じ取って自分だけ逃げやがった。

 

「影久様、式神の躾が滞っておられるご様子。……それと景次様、あまり甘やかされては、この者のためになりませぬぞ」

 

源蔵の冷ややかな、しかし澱みのない視線が俺たちを射抜く。

俺は逃げた相棒の薄情さを呪いながら、数分前までの全能感が完全に消え去ったことを悟った。

 

「……あぁ。以後、気をつける」

「……ごめんなさい」

 

俺たちが短く応じると、源蔵は「よろしい」と頷き、そのまま音もなく背を向けて去っていった。

一分の隙もない、完璧な武人の背中だ。

 

だが、俺は見逃さなかった。

彼が去り際、白が消えた影の跡を、ほんの一瞬だけ――捨てられた子犬でも見るような、悲しげな目で見つめていたのを。

 

(……ショック受けてんじゃねーよ)

 

実はこの男、結構な動物好きだ。

厳格な付き人としての建前で「躾がなっていない」と宣ったものの、本心では自分も白に触りたかったのだろう。それなのに、顔を見た瞬間に全力で逃げられたのだから、内心はズタボロに違いない。

 

俺の隣で、景次が大きくため息をついた。

 

「源蔵、怒ってましたね」

「……あぁ、そうだな。怒ってたな」

 

俺はあえて、源蔵の名誉のために真実は伏せておいた。

黒閃の残り香は、今やただの筋肉痛と、自由奔放な式神への頭痛、そして「鉄の男」の意外な弱点を知ってしまった、なんとも言えない妙な気分にすり替わっていた。

 

……だが、あの感覚だけは、確かに消えていなかった。




初対面の時呪霊は準1の中で弱いやつでした。
今は特級に近い1級。
本体の性能はそれほどではないです、とにかく悪辣ではめ殺しタイプ。
円鹿でなんとかなる呪霊がほとんどの中(普段の任務はこの手のやつ)
円鹿ではどうしようもないのに当たりました。


領域使えればワンパン雑魚です。
でも呪術戦の頂点だから使える術師は少ないんだ、悔しいだろうがしょうがないんだ。
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