戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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アイアンメイデンは18世紀以降の創作説があるらしいです。
中世は暗黒期だということにしたいその創作のモデルとなったものが1515年に実在していた、ということにします。

で、主人公の知識は曖昧なので、バートリーの方だけ知ってたということで、何卒何卒、、許して。


第十七話 呪物とコネクション

手に入れたカボチャやスパイスの袋を影に入れ、身軽になった俺は、その足で堺の港近くにある、指定された番所へと向かった。

今回の任務は、堺の豪商たちが「異国からの輸入品」として運び込み、制御不能に陥った呪物の鑑定、および処理だ。

 

(……ん?)

 

番所まであと数百メートルという地点で、俺の呪力感覚が微かな違和感を捉えた。

封印の隙間から漏れ出しているのか、今まで見てきた呪霊とはどこか違う、金属的で冷淡な呪力の残滓。

 

「……なるほど、こいつは確かに異質だ」

 

指定の蔵が視界に入ると、その違和感は確信に変わった。

蔵の前には、堺の会合衆に雇われている流れの験者が立っていた。

数珠を握る指先は小刻みに震え、目の下には酷い隈がある。一目で「もう限界です」と顔に書いてある。

 

(あーこりゃ、この人たちじゃ厳しいわな)

 

目の前の験者たちを見て、俺は内心で同情した。

彼らが普段相手にしているのは、おそらく「人の恨み」や「土地の祟り」といった呪いなのだろう。

 

だが、この蔵から漏れているのは、もっと無機質で法則性の見えない、理系的な「バグ」に近いナニカだ。ジャンルが違いすぎる。

野球選手にサッカーやれって言ってるようなもんだ。

専門外の未知に放り込まれれば、そりゃあプロでも精神を削られる。

 

「……顔色が悪いな。それほどまでに怯えが伝播しているようでは、まともな加持もできまい。ここは禪院が引き受ける。お前達は下がれ」

 

俺はあえて、淡々と、拒絶を許さないトーンで言い放った。

これが「禪院影久」としての表の顔だ。名門の威光を背負う以上、安易に同情を見せれば舐められるし、相手の規律も乱れる。

 

(いや本当、こんな蔵の番をさせられて、マジでお疲れ様です。命あっての物種、あとは俺が引き受けるから、終わったら温かい酒でも飲んで休んでくれ)

 

「……は、ははっ! かたじけなきお言葉!」

 

験者は、俺の傲慢な配慮を「格の違いゆえの余裕」と受け取ったのか、心底ホッとした表情で、蜘蛛の子を散らすように距離を取った。

 

(よし、これでギャラリーは消えた。……さて、お手並み拝見といこうか)

 

一人、石造りの蔵の前に立つ。

 

……ギ、ギギィ……カチッ、カチッ……

 

扉の向こうから聞こえるのは、啜り泣きではない。

精緻な歯車が噛み合い、何かが「作動」している機械音だ。

事前に聞いた話では、これを持ち込んだ南蛮の商人は、あるいは入港してしばらくのち「荷物」に食い殺されたのだという。

 

俺は円鹿に即対応出来るように頼むと、呪力で強化した腕で、重厚な扉をゆっくりと押し開いた。

 

暗がりの奥。

わずかに差し込む陽光が照らし出したのは、異様な光景だった。

 

そこには、金細工で装飾された、等身大の「金属製の聖母像」が立っていた。

 

アイアン・メイデン。

中に人間を閉じ込めるためのそれは、今や無数の真鍮製の管や歯車と癒着し、まるで巨大な心臓のようにドクドクと脈打っている。

 

そして、その背後。

像と一体化するように、青白い肌をした異邦人の幽霊――いや、呪霊が、ドロリとした執念を撒き散らしながら、虚空を指差していた。

 

「――……ó……ca……rá……」

 

聞き慣れない、濁った発音。音だけを捉えれば、それはただの異国のノイズだ。

だが、その声が空気を震わせた瞬間、俺の脳内に、意味の塊が直接叩き込まれた。

 

(――……次の……荷物を……早く……詰めろ……)

 

「っ、……なんだ、今のは」

 

耳で聞いた言葉を脳が理解するプロセスをすっ飛ばして、相手の「事務的な悪意」が直接意識に土足で踏み込んでくる。

言葉の意味なんてわからないはずなのに、奴が人間を「在庫」としか見ていない非道さが、嫌な解像度で伝わってきやがる。

 

「――……ju……por……vor……」

 

(――……助けて……お願いだ……熱い……)

 

今度は、金属の像の内側から。

それは掠れたポルトガル語の「音」でありながら、俺の意識には、中に閉じ込められた人間の絶望がそのまま「翻訳」されて響いた。

 

(……なるほどな。呪力が混ざると、言語の壁すら越えて『呪い』として伝わってくるってわけか。迷惑極まりないな)

 

蔵の床、幾何学的な紋様が描かれた空間の断層。そこに囚われた人々の恐怖が、ノイズ混じりの「意味」となって俺を侵食しようとする。

 

「悪いが、俺は客じゃない。」

 

脳内に流れ込む異国のノイズを、自身の呪力で焼き祓う。

 

「――……Não interrompa……」

「もう何言ってるかわかんねえよ!」

 

呪霊が動き出す前に、影からぬっと現れた円鹿が鳴き声と共に反転術式の光を放った。

正のエネルギーが蔵を満たした瞬間、呪霊の放っていたドロりとした負の意志が霧散する。異邦人の呪霊は、断末魔すら上げられずに光の中に溶けて消えた。

 

(よし!邪魔者は消えた)

 

あとは調べるだけなんだが。

「……カチ……カチ……カチ……」

呪霊が消え、聖母像からは無機質な機械音だけが響き続けている。

 

「うーん?」

 

俺は近づいて、振動を繰り返す黄金の表面に直接手を当てた。自身の呪力を流し込み、伝わってくる微かな反応から、呪物の構造を読み解いていく

 

(……お? なんだ、これ。針がないぞ)

 

アイアン・メイデンは中身を串刺しにして血を収穫する目的の拷問器具。依頼でも持ち込んだ商人たちはこれに食い殺されたと聞いていたけど。

内側の構造殺傷用の機構が根こそぎ死んでいる。

 

(これは『殺す』ための道具じゃないってことか)

 

殺すための構造をあえて壊して呪具化したならそこに意味があるはず。

ってことは中に入った奴らは生きてるかもしれない。

となると壊すわけにもいかない、破壊によって中の空間が現実に戻る仕様なら、この中で圧縮されてしまうかもしれん。

 

呪術廻戦0のロッカー的な。

 

「暴走してるってなら所有者変更で出来ねぇかな?」

 

今この呪物を動かしているのは、死んだ呪霊の残滓を、俺の呪力を入れ替えたらなんとかならんか。

 

「円鹿、今こめてある呪力を中和してくれ。俺の呪力に入れ替えていく」

 

円鹿が像に溜まった呪力を洗い流していく。薄まってきたところを見計らい、俺は影の呪力を一気に流し込んだ。

中身を、俺の呪力で強引に塗りつぶした。

 

(……よし、書き換え完了だ。――『開け』)

 

俺が短く命じると、それまで不快な金属音を立てていたアイアン・メイデンが動きを止める。

 

俺の呪力で真っ黒になった聖母像の腹部がゆっくりと開いていった。

 

ドサリ、と。

開かれた扉から、幾つかの「塊」が蔵の床に転がり落ちた。

 

「……っ、……ぁ……」

 

小さな呻き声。

最初に出てきたのは、数人の子供だった。

顔色は悪いが、五体満足で呼吸もしっかりしている。

 

(そうか、人攫いだもんな。そりゃ商品も入ってるか)

 

円鹿で彼らをケアしていると、数人の異邦人が中から転がり出てきた。

どうやら中にいたのはこれで全員らしい。

アイアン・メイデンを影の中に沈めると、蔵の扉を開け声をかけた。

 

「終わったぞ。中へ入れ」

 

外で固唾を呑んでいた験者や番人たちが、俺の声にビクリと肩を揺らす。

彼らは、俺の背後に広がる光景――子供たちと、異邦人たちの姿を見て、目を見開いていた。

 

「呪霊は祓った。中にいるのは被害者と、元凶だ。子供を介抱しろ。そこの異邦人らは主犯の生き残りだ。意識が戻ったら逃がさないよう、厳重に縛って会合衆に突き出せ」

 

「……あ、あぁ……」

「なんと、これほど短時間で……」

 

呆然と立ち尽くす彼らを尻目に、俺は懐から手拭いを取り出し、指先に付いた金属の煤を拭った。

 

「後の事務仕事は任せる。禪院への報酬の件は、追って堺の会合衆へ使いを出す。……いいな?」

 

(さて、まずは宿に戻って飯だな)

 

一仕事を終えた心地よい疲労感を感じながら、俺は

アイアン・メイデンに想いを馳せた。

 

(屋敷の土間において保管庫にするしかねえー!人間が長時間生きてるってことは、間違いなく停止系の呪物!香辛料以外にも掘り出し物を見つけた気分だぜぇ!)

 

おっとそうだ、一応、俺は最後に立ち止まって験者たちを振り返った。

 

「何かあれば、宿坊の『松風庵』まで使いを出せ」

 

それだけ言い残し、俺は夕暮れに染まり始めた堺の街へと歩き出した。

活気ある市場の喧騒を遠くに聞きながら、俺は軽やかな足取りで宿へと向かった。

 

あれから二日。

俺は宿坊『松風庵』を拠点に、堺の街を存分に堪能していた。

 

(いやあ、堺はいいな。歩いているだけで楽しい)

 

影の中には、すでに入り切らんばかりの土産物が詰まっている。

希少な砂糖に、さらに追加で仕入れたスパイス類。そして、念願の「保管庫」ことアイアン・メイデン。

 

(さて、そろそろ京都に帰る準備も始めねえとな。楽しかった休暇旅行(任務)も終わりだなっと)

 

 

 

昼下がり、宿に戻って一息ついていると、宿の主人が殊勝な面持ちで部屋を訪ねてきた。

 

「禪院様、お寛ぎのところ失礼いたします。……実は、先日の蔵の件で救い出されたお子様のご実家、呉服商の『越後屋』の使いの方が、ぜひお礼をとお見えになっております」

 

「……越後屋?」

 

主人の話によれば、あの日助けた子供の一人は、堺でも指折りの呉服商の跡取り息子だったらしい。

渡された文には、丁寧な感謝の言葉と共に、今宵、堺でも一、二を争う料亭にて一献差し上げたいとの招待が記されていた。

 

(呉服の大家か。……ふむ、悪くないな)

 

ただ金を積まれるよりも、商家の有力者と顔を繋いでおくのは禪院家としても、俺個人としても損はない。何より、堺の豪商が選ぶ料亭の料理には興味がある。

 

「分かった。使いの者に、相分かったと伝えてくれ」

 

――その日の夜。

案内されたのは、海を一望できる見事な楼閣だった。

 

「――此度は、我が子を救っていただき、誠にありがとうございました」

 

個室で俺を待ち構えていたのは、隙のない身なりをした初老の男――越後屋の当主だった。

さすがに場数を踏んでいる商人の長だけあって、俺が禪院家の人間だと知っても、卑屈になりすぎず、かつ最大限の敬意を払った振る舞いを見せる。

 

料亭で供された料理は、単に豪華なだけでなく、驚くほど俺の口に合った。

 

(……ほう。これはいいな)

 

おそらく、堺に集まる珍しい調味料や、南蛮由来の隠し味が絶妙なバランスで組み込まれているのだろう。今となっては食べ慣れた戦国時代の標準的な食事よりも、ずっと親しみやすい味だ。

現代の味付けにも通じるように感じられる。

 

(こういうのを待ってたんだよ。……美味いねぇ)

 

箸が進むにつれ、自然と機嫌が良くなっていくのが自分でもわかる。

越後屋の当主は、俺が満足げに料理を口にする様子を見て、ホッと胸を撫で下ろしたようだった。

 

「お口に合いましたようで、何よりでございます。禪院様のようなお方に喜んでいただけるとは、板場も冥利に尽きるでしょう」

 

「ああ。堺の食は面白い。京都のそれとはまた違う発見がある」

 

俺がそう返すと、当主はさらに表情を和らげ、並べられた金包みと共に、将来的な便宜を差し出してきた。

 

「もし禪院様がよろしければ、此度の謝礼とは別に……今後、お召し物や、あるいは何らかの『特殊な布』が必要な折には、ぜひ我が店にお声がけください。全力でご要望にお応えいたしましょう」

 

いいねえ。感謝の心と、商売人としてのしたたかさ。それが同居しているのが、いかにもこの街らしくて好きだぜ。

 

俺は酒を一口含み、軽く頷いた。

 

「その申し出、ありがたく受けておこう。縁があれば、何か頼むかもしれん」

 

「ははっ! ありがとうございます!」

 

宴を終え、夜風に吹かれながら宿へと戻る道すがら、俺は心地よい酔いの中で考えを巡らせていた。

 

(美味い飯に臨時ボーナス、おまけに呉服商とのコネクションか。……さて、明日は京都に発つ前に、もう一、二品、面白い掘り出し物を探しに行ってみるか)

 

俺は満足感と共に、月明かりに照らされた堺の街を歩き続けた。

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