戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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十種影法術の解釈、縛りなどについてですが。どちらでも、が多かったので、気になる方だけ見ていただけるよう、十八話の後書きにまとめておきました。


第十九話 相転虚層と、魔虚羅の檻

木之本宿の茶屋。

殺し合いで始まった出会から、改めて自己紹介をした俺たちは一緒に飯を食っていた。

炭火で炙られた脂の香ばしさが、ささくれ立った神経を鎮めてくれる。

 

「誘って素直に付いてくるなんて思わなかったよ」

「お前の奢りだっつったからな」

 

鹿紫雲は食事を終えると、出された茶を飲み干し口を開いた。

 

「で、ただの飯食って終わりじゃねぇんだろ」

 

そうだ、これから話すことのために鹿紫雲を連れてきたのた。

 

「……鹿紫雲。頼みがある。あいつを祓うのに、あんたの手を貸してくれ」

「あぁん? 喧嘩の最中に何を言い出すかと思えば。俺はあいつをぶち殺すつもりだが、お前と馴れ合うつもりはねぇぞ」

 

「馴れ合いじゃない、合理的な提案だ。……あの呪霊、おそらく今は『呪胎』の状態にある。殻の中で何かを取り込み、孵化しようとしてるんだ。さっき戦った時はまだ『未完成』だった。だが、放置すれば確実に『成体』として外に出てくる」

 

俺は店先の焚き火を見つめながら言葉を継ぐ。

 

「今ですらあれだ、孵化しちまったら、あいつの能力は手が付けられなくなるかもしれない。内側から殻を破ろうとする今の状態なら、逆に利用して外側から叩き潰せるはずだ」

 

これから頭を使う作業になる、甘味を注文し先ほどの谷でのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

突如出現し戦闘に水を差した呪霊にイラついた鹿紫雲が「それ」に踏み込む。雷光が走る。

だが――

ズレる。当たったはずの一撃が、わずかに「遅れて」消える。

 

「……チッ!」

 

鹿紫雲が舌打ちした。

「攻撃が消えてんじゃねぇな」

 

もう一度、踏み込む。

今度は、わざと半拍遅らせる。

雷が“発生する前”に、拳を叩き込む。

 

――わずかに、触れた。

異形の輪郭が、初めて「ぶれる」。

 

「……なるほどな」

 

鹿紫雲が、笑う。

 

「攻撃が消されてるんじゃねぇ。“起きた後”が食われてるんだ。だったら――起きる前にぶち込めばいい」

 

 

 

 

 

その後も何度か試したが攻撃が通ることはなかった。

 

「……あいつ、俺の影も表面から順に削ってやがった」

 

俺はとち餅を口に放り込んだ。

 

「現象の成立そのものを食う呪霊。……特級呪霊『虚層喰い(きょそうぐい)』。そんなところか」

 

「名前なんざどうでもいいだろ」

 

そう言って鹿紫雲は鼻を鳴らした、名前は大事だろ!雰囲気出るだろ!

 

「なあ。あいつが『成立した結果』を食うなら、あいつの喉に、無理やり餌を詰め込み続けたらどうなると思う?」

 

「あぁん?」

 

「俺の影を。絶え間なく食わせ続けて、あいつの『食う』っていう処理を飽和させる。一瞬、あいつの口が塞がるはずだ」

 

俺は鹿紫雲の瞳を真っ直ぐに見返した。

 

「そこを、あんたの火力で貫いてくれ。あいつが飲み込む余裕もない、最大出力をな」

 

鹿紫雲は、牙を見せてニヤリと笑った。

 

「理屈は知らねぇが、要はお前が盾を並べてる間に、俺が全部吹き飛ばせばいいんだな?」

 

鹿紫雲が立ち上がり、指先でチリ……と青白い火花を散らす。

 

「良いぜ。……ガキ。奢りの分くらいは、働いてやる。そんかわり、うまくいったら、俺と戦え。」

 

夕刻。

俺たちは再び、賤ヶ岳の麓にある谷底へと戻ってきた。

西日に照らされた山の稜線とは対照的に、谷底はすでに夜の気配が支配している。その中心に、陽光すら食い破るような異形――『虚層喰い』が、変わらずそこに在った。

 

だが、その輪郭は先ほどよりも硬質に変質し、時折、内側から現実を押し広げるような不気味な脈動を繰り返している。孵化はもう、目前だ。

 

「……行くぞ、鹿紫雲」

 

「あぁ、分かってる。さっさとその『餌』、並べてきな」

 

鹿紫雲一が低く構え、地を蹴った。

先ほどのような闇雲な突撃ではない。影久の動きに合わせ、放電の予兆を押し殺したまま肉薄する。

 

 

俺は影を九層展開――固定。

 

 

俺は呪力反射炉を全開にし、今出せる限界の厚み、九枚の影を完全に重ね合わせた。

それを異形の「口」に当たる歪みの中心へ、楔を打ち込むように垂直に叩き込む。

 

『――――ッ!』

 

異形が影の塊に食らいつく。

だが、あいつの食い方は「消失」ではない。あくまで多重構造の表面から順に、一枚ずつ「層」を剥ぎ取り、咀嚼し、嚥下していく作業だ。

 

「(……いける。一度に飲み込めるのは一層ずつだ!)」

 

一気に全部は食えない。九層という分厚い板を丸呑みしようとして、あいつの「顎」が九枚分の厚みで固定されている。

だが、俺の精神には一枚剥がされるごとに、凄まじい衝撃が突き刺さる。

 

一層、二層。

剥がされるたびに、盾の厚みが減り、俺の守りも薄くなっていく。

 

「(三枚、四枚……九枚目が消えたら、次は俺の身体が食われる!)」

 

盾を「出し続ける」ことなんてできない。

これは、あいつが九層を食い終わるまでの、数秒の猶予を買うための使い捨ての「詰め物」だ。

 

五枚、六枚……。

異形の輪郭が、未曾有の密度のエネルギーを「処理」しきれず、不協和音を上げて震えている。影を貪る口の隙間から、孵化を待つ呪胎のどろりとした呪力が溢れ出した。

 

「七枚……八枚ッ!」

 

影の盾が、今にも消え入りそうなほど薄く、透け始める。

異形の喉が、九枚目の「最後の一枚」に届こうとしたその瞬間。

 

「今だ、鹿紫雲!!」

 

「待たせたな。……こいつで殻ごと弾けろ!」

 

鹿紫雲の呪力が、必中を捨てた純粋な破壊エネルギーへと転換され、一点に収束する。

放たれた青白い熱線が、最後の一枚が食い破られる、コンマ数秒手前、無防備となった呪胎のど真ん中を貫いた。

 

視界が白一色に染まり、谷底が轟音に震える。

だが、光が収まった視界の先――。

 

 

 

 

 

鹿紫雲の雷が、確かに核を撃ち抜いていた。

手応えはあった。破壊の感触も、確実にあった。

なのに――

 

「……消えてねぇな」

 

俺の呟きに応えるように、撃ち抜かれたはずの核が、そこに“ある”

いや違う。

“撃ち抜いた結果”だけが、消えている。

 

「……おい、影久」

 

鹿紫雲が笑う。

 

「こいつ、今の一撃……」

バリ、と音がする。

 

「“食いやがったぞ”」

 

殻が割れる。

中から現れたそれは――

さっきより“攻撃を理解している”形をしていた。

 

 

 

 

 

特級呪霊、孵化体――《相転虚層(そうてんきょそう)》。

 

 

 

 

 

「……ッ、鵺! 満象!」

 

俺の思考に呼応して影が蠢く。だが、形を成さない。

即座に実体化する式神たちが、影の淵で歪に波打ち、まるで出口を失ったかのように自律して外へ出ようと藻掻いている。だが、外側の「世界」がそれを受け付けない。

 

「(召喚できない……? いや、影を固定する『空間の定義』をあいつが弾き出してやがるのか……!)」

 

空気が爆ぜるほどの踏み込みと共に、鹿紫雲の右拳に呪力特性の電撃が収束する。触れれば必中の落雷。

 

だが、突如呪力そのものが消える電撃が発生しない。鹿紫雲の拳が異形の顔面を捉える、目に見えない壁に阻まれたかのような挙動。

 

「チッ……」

 

電撃という現象が、拳による物理的接触が、発生する前に「消去」されている。

 

「(……孵化前と、術式が違う……!?)」

 

さっきまでは「起きた結果」を喰らっていた。だが今は違う。

「現象が起きるための前提」そのものを書き換え、上書きしてやがるんだ。

 

「円鹿……ッ!」

 

円鹿を呼び出そうとした。だが、やはり出ない。影の淵で鹿の角が虚しく揺らぎ、霧散する。

ならばと、円鹿の反転だけの抽出を試すもダメ。

 

(物理も、呪力も、反転、中和すら……。俺たちの手札が、あいつというに一枚ずつ否定されていく……!)

 

だが、これほど出鱈目な術式が、無制限に、それもノーコストで発動できるわけがない。

前世の記憶が、冷静な思考を強制する。

パソコンやスマホ、それこそ俺の脳も処理落ちのような状態に陥ることがある。

 

孵化前のあの時、事象を詰め込むことで生じた「ラグ」があるなら、今のこいつも、書き換えの回数や密度に応じて処理速度が落ちる一種の“サーマルスロットリング”のような現象が起きるはずだ。

 

「鹿紫雲! 攻撃の手を緩めるな! こいつの『書き換え』に、処理の限界があるか試す!」

 

「ハッ、言われなくても!」

 

鹿紫雲が再び踏み込んだ。

今度は単なる打撃ではない。呪力を爆発的な推進力に変え、異形の周囲を全方位から強襲する。

左、右、上、背後。

「消去」が間に合わないほどの、圧倒的な手数。

 

それに合わせ、俺も俺も止まることなく式神の召喚を試み続ける。

実体化できずとも構わない。影の淵で「形」になろうとする式神たちの膨大な呪力質量を、もう結ぶこともほぼなくなった印で、顕現をサポートしそのまま弾丸として叩きつける!

 

「満象! 鵺!!」

 

完全な顕現をあいつの領域が拒むなら、俺自身が「影の通り道」になるまでだ。

背後に噴出した黒い泥のような影が、一瞬だけ巨大な象の鼻の輪郭をなし、物理的な質量となって相転虚層を横なぎに打つ。

 

直後、俺の足元から無数の影の羽――「鵺」の断片が、黒いカミソリの暴風となって異形の視界を塞――だが、その視界不良、あいつは「なかったこと」に書き換える。

 

「(ッ、くる!)」

 

ついでとばかりに相転虚層が指を鳴らす。

瞬間、俺が放った「鵺」の影が、あろうことか俺自身の背後に再定義されて出現した。自らの術式による、自らへの不意打ち。

 

「がっ……あ!」

 

背中を裂く衝撃。

同時に、鹿紫雲の踏み込みという「過程」が書き換えられ、彼は虚空を蹴る形となって体勢を崩す。その隙を逃さず、異形の腕が鞭のようにしなり、鹿紫雲の脇腹を抉り飛ばそうと襲いかかる。

 

「鹿紫雲!!」

 

俺は強引に「貫牛」の影を前方に噴出させ、物理的な「壁」として無理やり固定した。形を成さない黒い泥が、あいつの爪を辛うじて弾く。

 

瞬間、稲光と共に体制を整えた鹿紫雲が再び地を蹴った。

 

(鹿紫雲が物理的な因果をパンクさせている隙に!)

 

 

鹿紫雲の連撃に合わせ、俺は止まることなく印を結び続ける。

 

「 貫牛! 虎葬!――脱兎!!」

 

召喚の「試行」の弾幕。

鹿紫雲の拳という「物理的な衝撃」、そのコンマ数秒の演算の隙間に、俺は自らの腕に「貫牛」の突進力を、脚に「脱兎」の指向性を無理やり纏わせた。

 

実体化を阻害された式神の呪力が、行き場を失って俺の肉体を内側から軋ませる。

だが、その「不完全な影」を纏った俺の拳が、あいつの『書き換え』の膜を強引に削り取っていく。

 

右から必中の雷、左から影の打撃。

異なる属性、異なる因果の事象を、次々とねじ込んでいく。

 

影の底で、俺の呪力反射炉が限界を超えて唸りを上げる。

脳が焼けるような感覚。視界の端で、相転虚層を形作っている空間の輪郭が、ほんの僅かに、だが確実に「ブレ」始めた。

 

一度に一系統しか処理できない。

その仕様を、力技で、物量で、強引にこじ開けようとする俺と鹿紫雲。

 

「ハッ、見えたぞ! 書き換えにムラが出始めた!」

 

鹿紫雲が吠える。

彼の拳が、初めてあいつの皮膚に触れる直前まで肉薄し、バチィッ……と、消去しきれなかった青白い火花が異形の頬を焼いた。

 

(いける……! 処理が追いついていない!)

 

相転虚層の動きが、不気味なほどにピタリと止まる。

 

――ギ、ギギッ……。

 

あいつの胸の奥から、機械が軋むような低い音が響く。

何かを変えた。

反射炉が、かつてない強度の警告を俺の脳に叩きつける。

 

(……マズい、来るッ!!)

 

回避を、と脳が指令を出すより速く、世界から「過程」が剥ぎ取られた。

つい先ほどまであったはずの距離が、一気にゼロになる。

鹿紫雲の攻撃が「届かなかった」ことにされたように、俺を狙ったあいつの指先が「届かなかった」という事象そのものが、書き換えられた。

 

気づけば、あいつの指先が喉元に「存在」していた。

 

「影久、避けろ……っ!!」

 

鹿紫雲の怒号すら、脳に届くのが遅すぎる。

いや遅すぎるどころではない、「触られた」のはもう「終わったこと」なのだ。

 

(終わったこと、なぜだ?)

 

(……本当にそうか?)

 

 

あいつが「結果」を自在に書き換え、喉を突いた、殺した、消したという結末を押し付けてくるなら。

――その「終わったこと」にされた後の世界で、それに適応し続けてしまえばいいんじゃないか?

 

理不尽な上書きを、さらに上回る後出しジャンケン。

 

俺は、魂の最深部、決して触れてはならない檻を、外側から蹴り破った。

あいつの指先から流れ込む「上書き」の波動を、そのままバイパスにして、俺の脳を焼きながら十層目の底の底へ叩き込む。

 

 

「布瑠部――由良由良……ッ!!」

 

影が“沈む”んじゃない。

沈んでいたはずの影が、浮かび上がる。

深さの概念が反転する。

底が、こちらに近づいてくる。

 

反射炉を極限まで回す負荷で脳が、血管が、術式そのものがミシミシと悲鳴を上げた。

本来、未調伏の魔虚羅をこの場で完全に御することなどできない。

だからこれは、命を担保にした「五分間限定の擬似的調伏」。

 

この五分間で魔虚羅が破壊されれば、儀式は失敗。

その代償として、俺の十種影法術は再起不能のダメージを負うだろう。

 

だが、構わない。

五分後のことなんて、今この「絶望」を喰い殺した後に考えればいい。

 

 

 

 

 

 

ガコンッ

 

影一枚、皮膚の下。重厚な金属音が鳴り響いた。

 

上書きに、対抗するための、適応。法陣が、回る。

 

 

 

 

 

瞬間、喉元に食い込んでいた相転虚層の指先を、俺の影から這い出した「何か」が、内側から弾き飛ばした。

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