戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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第二十話 俺たちを、助けてくれ

「……ハ、ッ……ガハッ!!」

 

影久の口の端から溢れた鮮血が、泥濘に赤い斑点を作った。

脳が焼ける。深淵に沈んでいたはずの魔虚羅が、俺の肉体という薄い皮一枚を隔てて、すぐ裏側で呼吸している、内側から彼の術式を、魂の檻を、ミシミシと食い破ろうとしていた。

 

法陣は最初の一回転で沈黙した。

相転虚層の「書き換え」と拮抗し、互いの存在を否定し合うだけの、綱渡りのような停滞。

だが、その拮抗を維持するためのコストは、彼の肉体が支払える限界をとうに越えている。

 

「影久……? おい、お前……」

 

その傍らで、鹿紫雲一が初めて戦闘狂の笑みを消し、戦慄に近い眼差しを影久に向けた。

影久の目、鼻、耳から、止めどなく溢れ出す血。そして、その影の底から漏れ出る、この世のものとは思えない「絶望的で純粋な暴力」の気配。

 

「……鹿紫雲、聞け……」

 

掠れた声で、影久は鹿紫雲を見据えた。

 

「時間がないもうすぐ……俺の術式が壊れる。そうなれば、この影の中にいる『やばい式神』が強制的に顕現する」

 

影久は震える指で、自身と、そして鹿紫雲を交互に指す。

 

「そうなれば……俺も、あんたも……この一帯すべてが、そいつに殺し尽くされて消える。」

 

「……何?」

 

沈黙していた法陣が、火花を散らしながら無理やり半回転した。

 

 

 

(ガ、コン……ッ!!)

 

 

 

脳を直接、巨大な鉄槌で叩かれたような衝撃。

同時に、視界にノイズが走る。相転虚層が維持していた「式神の顕現を拒絶する空間の定義」が、魔虚羅の強引な適応によって、今、この瞬間に限り「俺に都合の良いルール」へと書き換えられていく。

 

「鹿紫雲、頼む……。あんたの……肉体を造り変える術式を、使ってくれ」

 

その言葉が出た瞬間、鹿紫雲の全身から青白い火花が爆ぜた。

それは驚愕か、あるいは剥き出しの殺気か。

それを知るはずのないガキが、今、あろうことかその封印を解けと命じている。

 

「……なぜ、そいつを知っている」

 

「説明してる時間が惜しい、俺を……俺たちを、助けてくれ」

 

「…………」

 

「…………」

 

鹿紫雲の瞳が、鋭く細められた。

「俺たち」。

その言葉の中には、当然、鹿紫雲自身も含まれている。

 

影久は、自分一人が生き残るために鹿紫雲を駒にするのではない。

自分が死ねば、制御不能の化け物が現れて鹿紫雲も死ぬ。だから、あんたを死なせないために、あんたの最強を貸してくれ。

――それは、最悪の心中への誘いであり、同時に、この鹿紫雲一という男の「最強」に対する、絶対的な信頼の証だった。

 

「……ハッ。アハハハハハッ!!」

 

鹿紫雲が、天を仰いで狂ったように笑い出した。

その笑い声には、自身の奥義を見抜かれた驚愕も、そして、一回りも年下の少年に命を預けられたことへの、筆舌に尽くしがたい昂ぶりが混じっていた。

 

「面白い……! 面白すぎるぜ、禪院影久ッ!! この鹿紫雲一に『助けろ』だと!? 己の命だけでなく、俺の命まで背負って戦えと言うか!!」

 

鹿紫雲の全身から、これまでとは比較にならないほど高密度に凝縮された呪力が溢れ出し、周囲の空気を青白く焼き始める。

それは、彼が生まれてこの方、ただの一度も解放したことのない、己の肉体さえ燃料とする「終着点」。

最強を求めて彷徨い続けた人生の、最初で最後の幕引き。

 

「いいぜ。そこまで言われて、出さねえほど野暮じゃねえ。……地獄に堕ちる前に、極彩色を見せてやるよ!」

 

 

 

 

「――『幻獣琥珀』!!」

 

 

 

 

空気が、一瞬で「死んだ」。

鹿紫雲の肉体が、バチバチと音を立てて発光し、人外の領域へと加速的に変質していく。それは、一度始めれば二度と戻れない、命を燃料とした終わりの始まり。

 

「円鹿……ッ!!」

 

先程まで霧散していた翠の光が、今度は霧散しない。

むしろ、相転虚層が世界に押し付けていた「上書きの波動」そのものを苗床にするかのように、より鮮烈に、より濃密に影の中から噴出した。

 

顕現しきれない円鹿の角が、鹿紫雲の背後に重なるように揺らめいた。

間髪入れず、影久は自身の呪力を導線にして、円鹿の反転術式を鹿紫雲の肉体へと直接「接続」した。

(来い……崩壊するそばから繋ぎ止める! 負荷は全部、俺に流せ!!)

 

「ガ、アアアアアアアアアアッ!!」

 

影久の視界が真っ赤に染まった。

鹿紫雲の肉体が負うべき「人外へと至るための代償」が、円鹿というフィルターを介して、凄まじい熱量とノイズとなって影久の脳へ、そしてすぐ底にいる魔虚羅へと雪崩れ込む。

 

一方、鹿紫雲は――笑っていた。

本来なら内側から焼き切れるはずの自身の四肢が、翠の光によって強制的に補完され、際限なく出力を上げ続けている。

 

「ハッ……ハハハ! 壊れねえ! 壊れねえぞ、影久!!」

 

人外の速さを得た鹿紫雲が、もはや「移動」という過程すら省略して、相転虚層の目前へ「存在」した。

書き換えが追いつかない。

「届かない」という因果を上書きするよりも速く、鹿紫雲が放つ電磁波の波状攻撃が、相転虚層の定義そのものを物理的に、そして暴力的に塗りつぶしていく。

 

『ギ、ギギギ……ッ!?』

 

相転虚層の輪郭が、未曾有の処理負荷に耐えかね、ノイズ混じりに激しく明滅した。

魔虚羅の「適応」という錨が、その逃げ道を塞いでいる。そこへ、円鹿というバッテリーを得た鹿紫雲の「無限の暴力」が叩き込まれる。

 

理屈は理解していない。

 

だが、壊し方だけは本能で知っている。

 

鹿紫雲の両手に、天そのものを凝縮したような白銀の雷光が収束した。

それは必中という理屈さえ不要な、ただの「死」の具現。

 

 

同時に、影久の限界が来た。

 

繋ぎ止めているはずの肉体が、

同時に“別の何かに書き換わっていく”。

 

 

 

修復と変質が、同時に走る。

脳内の呪力反射炉が、過負荷による熱でミシミシと音を立てて爆ぜる。

 

(……これで、終わりだ。全部持っていけ!)

 

影久は、自身に流れ込んでいた「幻獣琥珀」の全負荷を、魔虚羅に押し付け影の底へ叩き落とした。

 

その瞬間――脳裏を過る、悍ましい感触。

 

流し込んだはずの破壊的な負荷が、魔虚羅というに触れた刹那。

 

 

ごきり

 

 

(嘘だろ……。この崩壊にすら、あいつは食らいつくのか!?)

 

背筋を凍るような戦慄が影久を貫く。

だが、どれほど魔虚羅が全自動の適応を試みようと、鹿紫雲の命を燃やしたエネルギーは、生物が受容できる許容量を数千、数万倍も凌駕していた。

 

(――だが、流石に間に合わないだろッ!!)

 

適応という演算速度を、物理的な熱量がぶち抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

十種影法術(システム)が、負荷の重圧に耐えかね――無期限の休止(スリープ)に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光。

そして、すべてを飲み込む影の奔流。

 

木之本の山々を震わせる轟音と共に、白銀の光が夜の帳を焼き払った。

 

……。

……。

 

どれほどの時間が経っただろうか。

耳鳴りだけが支配する静寂の中、俺は泥濘に顔を埋めたまま、辛うじて意識の端を繋ぎ止めていた。

 

指一本動かない。脳は熱を持ったまま感覚を拒絶している。

ふと、縋るような思いで自身の「影」に意識を向けた。

 

――何も、聞こえない。

 

(……白)

 

返事はない。

 

(黒)

 

沈黙。

 

(……円鹿)

 

――何も、いない。

 

 

脳内に響いていた式神たちの鼓動が、一つ、また一つと遠のき、やがて完全な沈黙が訪れた。

呼びかけに反応はなく、多重に重なり深淵を成していた影の「層」は剥がれ落ち、足元にへばりつく、ただの一枚の薄い膜へと成り下がっている。

 

(……あぁ、消えたな)

 

それがいつ、再び目覚めるのか。あるいは、二度と起動することはないのか。

その答えを握るコンソールは、今の俺の手には届かない場所に隠されてしまった。

命を繋ぐために、俺は術師としての未来をすべて、再起動の目処すら立たない暗闇へと投げ捨てたのだ。

 

「……おい、影久」

 

不意に、上から掠れた声が降ってきた。

顔を上げると、そこにはボロボロになりながらも、確かに「人間」の形を保った鹿紫雲一が立っていた。

術式は強制終了され、命の崩壊は止まっている。

 

鹿紫雲は、震える手で自身の顔を触り、それから信じられないものを見るような目で俺を見下ろした。

 

「……死ねなかったな、俺は」

 

「……うるせえよ。……奢り、高くついたな?」

 

俺が吐き出すように言うと、鹿紫雲は一瞬呆然とし、それから今日一番の、腹の底からの笑い声を上げた。

 

夜風が、浄化された谷底を通り抜けていく。

俺たちは、ただ並んで、白々と明け始めた空を眺めていた。

 

 













【気になる人用、特級呪霊「相転虚層」のギミックと攻略法まとめ】

設定が複雑になったので、今回のタッグバトルの裏側を箇条書きで整理しました!「ガバや矛盾はありそうだけど、こんな思考で書いてたんだな」という補足としてどうぞ。

1. 特級呪霊「相転虚層」の攻略ロジック

呪胎時(レイド第1段階)

事象の「捕食」による完全無敵。

多層の影を「餌」として喉に詰め込み、一時的なオーバーフロー(処理落ち)を誘発させて強引に当たり判定を作った。

孵化後(レイド第2段階:絶望)

現実の上書き(「殴られた」→「殴られてない」)が可能。

鹿紫雲:勝てるが「幻獣琥珀」を使えば自壊して死ぬ。

影久:上書き能力で式神の顕現を封じられ詰み。

逆転のトリガー(魔虚羅と心中パス)

魔虚羅の擬似召喚: 外に出さず、影の最浅層(皮膚のすぐ裏)に置くことで、5分間限定で「上書き」に「適応」し、無理やり式神(円鹿)を使える環境を再構築。

負荷の押し付け: 幻獣琥珀による「肉体崩壊」の代償を、円鹿のパスを通じて全て魔虚羅に肩代わりさせる。

結論: 限界を超えた魔虚羅は崩壊して影の奥底にしまっちゃいましょうね!相転虚層は鹿紫雲の最大火力で吹き飛ばして解決!

2. キャラクター強度イメージ(指換算)

影久(14歳):指6〜7本分
反射炉による「準・無限呪力」。長期戦は強いが瞬発力不足。

若・鹿紫雲(30代):指7〜8本分
スペックは化け物ですが呪力操作は伸び代あり(解釈違いは許してください!)。

相転虚層(孵化):指14本分
書き換え能力がバグ。常に殴られ続けていたので領域を出す余裕がなかったのが唯一の救い。

3. 円鹿(まどか)が強すぎる問題

反転アウトプットが呪霊特攻すぎて、真っ当な敵だとすぐ終わるため、今回は「回復結果を捕食する」という天敵を用意しました。普段はもっと楽勝な任務ばかりなんです、本当です。

4. 幻獣琥珀のバフ盛り

全ステータス100倍くらいのイメージ。
強すぎるので慣れてないと振り回されそう。
すべてのステータスが100倍になるということは戦闘力で言うと100のn乗みたいなパワーアップ。つ、強すぎる。
初めて術式使って宿儺に切り札切らせてるの控えめに言って頭おかしい。
死なずに使いこなせて、研鑽できてたら余裕の作中最強キャラだと思っていますが、死ぬからこその超パワーか……。
今回は「円鹿で繋ぎ、魔虚羅に全てを押し付ける」という、実質的な魔虚羅の不当解雇(ブラック労働)により、本来不可能な「死なない幻獣琥珀」を成立させました。

この無理が祟り、現在影久のシステムはスリープ状態(術式喪失)に入っています。
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