戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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第二十四話 獲物と、特性と

問題の検問は、思っていたよりずっと厄介だった。

 

街道が緩やかに開けた先、簡素な木柵が組まれている。

一見すればありふれた関所だが、そこに立つ者たちの質が今までとは異なっていた。

槍を構えた足軽に混じり、明らかに術師と思われる連中がいる。

 

成る程、単なる通行の検分だけじゃないな。不穏分子になりそうな術師も炙り出してるわけだ。

 

ここは交渉一択。そのための越後屋!

(感謝するぜ、お前(越後屋)に出会えた全てに!)

 

隣の様子を窺うと、やばい!

鹿紫雲のテンションめっちゃ上がってんじゃん……。

流石にいきなり喧嘩売られたら通れるもんも通れなくなる!

 

先手を取るしかない。主導権を握るべく、詰問される前に声を投げた。

 

「あー!ええと。近畿の商家、越後屋の縁者だ。西国へ向かう途中でな」

 

紹介状と印判を差し出す。

足軽の一人がそれを受け取り、後方に控える術師へと手渡した。

紙面を追う目と、こちらを値踏みする目。その色が明らかに異なる。

 

(……やはり、視られているな)

 

書面の中身など二の次だ。彼らはこっちの中身――真っ当な術師か、領地に良くない影響を出さないかを、見ようとしている。

案の定、術師の視線が鹿紫雲で止まった。

 

「……後ろの男は何者だ」

 

予想通りの問いが飛ぶ。

 

「用心棒だよ。見ての通り素行は荒いが、腕だけは確かでね」

 

短く、淡々と応じる。

その瞬間、鹿紫雲の呪力が微かに跳ね上がった。高圧の電気が弾けるような、肌を刺す威圧感。

 

(やめろ!そこで昂ぶるんじゃない!頼むから今は収めてくれ!)

 

一気に空気が張り詰める。術師たちの指先がわずかに動く。一触即発。

ここでやり合ったら全部台無しだ。俺は咄嗟に、用意していたカードを切った。

 

「あんたらの仕事代わってやる。それで折り合いはつかないか?」

 

場の空気が変わる。

 

「この辺り、最近呪霊が増えて困ってるだろ。播磨の街道筋を俺たちが掃除してやる。報酬はいらない。その代わり、通行と滞在の許可をくれ」

 

術師の一人が、露骨に眉を動かした。

的中だ。その双眸に色濃く滲む疲労は隠せていない。

深刻な人手不足。戦だらけのこの時代、更に六眼が生まれて呪霊レベルが上がってる今、さぞかし魅力的な提案じゃろ!

 

(これは交渉成立っすねぇ!)

 

それに加えて――隣で鹿紫雲が、抑えきれなくなってきてる戦意を、笑みに変えて立っている。

「これ」を野に放たれて暴れ回られるよりは、管理下に置いて仕事を押し付ける方が、彼らにとっても賢明な判断に違いない。

長い沈黙の後、術師がようやく口を開いた。

 

「……承知した。だが、条件がある」

 

「聞こう」

 

「その男だ」

 

術師が鹿紫雲を指差す。

 

「術師を名乗るならば、こちらが検分をさせてもらう。一手、立ち合え」

 

危険分子になりうるこいつの力量を測り、あわよくば屈服させて手駒にする腹積もりだろう。

俺は短く頷き、一歩退いた。

 

「問題ない。そっちはそっちで好きにやってくれ。鹿紫雲、殺すなよ」

 

その言葉を合図に、鹿紫雲の気配が一段階跳ね上がる。

あーこりゃもう、俺の言葉など耳に届いていないだろう。制止は無意味だと悟るがせめてこれだけは。

 

「おい!鹿紫雲!いいか!殺すな!絶対だぞ!殺さなければ帰りにも立ち会えるかもしれないからな!」

 

まあ、とは言ったものの、一度鹿紫雲とやり合ったなら、もう二度とごめんだろうけども。

 

 

 

――こうして。

俺は呪霊の掃討を。

鹿紫雲は術師との連戦を。

 

綺麗に役割は分かれた。

……分かれた、はずだったのだ。

 

 

 

 

 

 

――結果から言うと。

 

(完全に見積もりミスだわ。俺のバカ!あいつの加減を知らなさを甘く見すぎてた!)

 

呪霊の掃討を含めて、十日もあれば抜けられるだろうという目算を立てていた播磨の行程は、結局、三週間以上かかった。

理由は単純。鹿紫雲が、やりすぎたのだ。

 

「次だ。まだ立てるだろ。構えろよ」

「待て……まだ話が……っ!」

「終わってんだろうが」

 

鈍い衝撃音。はい、また一人脱落です。

地面に叩きつけられた術師が、息を吐くたびに血の泡を吐いている。

それでも鹿紫雲は止まらない。

無慈悲にもう一歩踏み込んだ。

 

現地の術師たちは、最初こそ余裕があった。

だが二日目でその余裕は消え、三日目で顔色が変わり、一週間が過ぎる頃には――。

 

(誰も目を合わせなくなった。あいつら、俺らの後ろを通る時、露骨に気配消してやがるもん)

 

完全に心が折れてる。そりゃそうだ。

「手合わせ」のはずが、蓋を開ければ連日連夜の死線。殺されはしないが、文字通り「殺されかける」経験を毎日だ。

 

(でもちゃんと殺すなってのは守ってる偉い!)

 

結果、二週目に入る頃には、現地の術師はことごとくボロ雑巾のように打ちのめされ、誰も動けなくなった。

播磨全域の呪霊掃討という特大のノルマだけが残り、結局、俺が各地を回る羽目になった。

 

夜、村外れの静まり返った場所で。

一人で呪霊を殴り飛ばしながら、思わずため息が出る。

 

「……なんでこうなるかな、マジで」

 

本来は分担するはずだった。現地の術師も動く前提だったんだ。

だが現実は、俺一人での広域ワンオペ作業。

今日も今日とて拳に呪力を流し、飛びかかってきた呪霊を殴る。霧散。

その瞬間。

 

(……あ? 今、なんか違和感なかったか?)

 

消えたはずの呪力が、消えきっていない。

もう一体。今度は意識して「観る」。殴る、霧散――やっぱりだ。

 

(吸ってる? 俺の影が、わずかに“飲み込んで”ないか、これ)

 

意識していないのに、勝手に。

こんな性質、前はなかったよな?呪力性質って後天的に変わるんだっけ?

(夏油みたいに呪霊を『取り込んでる』のか? それとも虎杖みたいに『器』としての性能が変わっちまったのか?)

 

前世の知識をどれだけ掘り起こしても、今の自分の状態に当てはまる答えが見つからない。

呪力の流れを追う。体内を巡り、足元の影へ落ちる。そして。

 

(……底じゃない。もっと奥に流れ込んでる気がする)

 

消えていない。そこに留まっている。

それだけじゃない。ぞわりと、背筋が粟立つような感覚。

 

(“食ってる”ような感触……いや違う。これ、“欲しがってる”のか? ……おいおい、気のせいか? それとも俺、なんかヤバいことになってんのか?)

 

考えすぎかもしれない。けど、まあいい。強くなっているのは確かだ。

呪力の消耗が驚くほど少ない。むしろ戦えば戦うほど、回復してる?

影の中に呪力反射炉を作ってた時とは、また違う効率の伸び方してる。便利ではあるが……。

 

(長期戦向きすぎるだろ。やったー!ってことで、……とりあえず今は考えないことにする!)

 

違和感はある。が、使えるなら使う。そう割り切って、俺は三週間のノルマを完遂した。

 

そして二十日余り。ようやく区切りがついた。

呪霊は播磨全域で一通り処理。術師たちは――。

 

(半壊。……まあ、五体満足で生きてるだけマシってことで!)

 

 

 

その日の昼。街道沿いの茶屋で、ようやく鹿紫雲と合流した。

板張りの床に腰を下ろすと、じんわりと疲労が足から抜けていく。運ばれてきた茶はぬるく、出がらしのように味が薄い。けれど、こうして座っているだけで「ああ、生きてるな」と実感できる程度には、ここ最近の密度が濃すぎた。

 

「……はぁ、マジで疲れた」

 

「……難しい顔をしているな、影久」

 

顔を上げると、鹿紫雲がこちらを値踏みするように見ていた。

 

「そりゃそうだよ。あんたが予備戦力まで全員潰すからだろ。俺一人で播磨中を駆けずり回る羽目になったんだぞ……。で、あんたは後半、何してたんだよ。戦える術師がいなくなって暇だったろ」

 

鹿紫雲は湯呑みを置き、事も無げに言い放つ。

 

「退屈だったからな。俺も適当に呪霊を潰して回った。山賊の真似事をしてる術師もいてな、いい暇つぶしになったぜ」

 

「あんたが? 術師はともかく、呪霊には興味ないって言ってただろ」

 

「ああ。だが、あの寝込んでいる術師共の代わりに『ここに行け』と言われてな。……まとめて焼いておいた」

 

(あー……。だから後半の担当エリアがやけに静かだったのか。……ってことは、一応こいつも仕事(?)はしてたってことっすねぇ! ……いや待て、あいつの火力だぞ? ちゃんと呪霊だけを狙ったのか? まとめてって、まさか村ごと消し飛ばしてないだろうな?)

 

一瞬だけ嫌な想像に真顔になるが、深く考えるのはやめた。

 

 

湯呑みを置き、少しだけ自分の指先に意識を向ける。体内を巡る呪力の流れを「観る」。

 

(……やっぱりおかしい)

 

ここ数日の戦闘で何度も感じていた違和感。それが、こうして落ち着いた状態になると、よりはっきりと見えてくる。

呪力が減っていないわけじゃない。確かに使っている。殴るたび、跳ぶたびに、呪力は確実に消費されている。――なのに。

 

(残り方が、おかしいんだ)

 

今までだったら、ここまでぶっ続けで動き続けていれば、もっと呪力が減ってる感覚が出てくるはずだ。

それがない。むしろ、戦えば戦うほど「流れが良くなっている」感じがする。

絶対量が増えているわけじゃない。けど、足りなくならない。まるでどこか別の場所から、常に補填されているみたいに。

 

「……なあ」

 

ぼそっと呟くと、鹿紫雲が視線を寄越した。

 

「なんだ」

 

「ちょっと聞きたいんだけどさ。呪力って、後天的に性質が変わることってあるか?」

 

鹿紫雲は一瞬だけ考える素振りを見せた。

 

「なくはねえな。だが普通は術式か、環境の影響だ。それでもかなり珍しいぞ」

 

「環境、ね……」

 

その言葉を反芻しながら、自分の足元に視線を落とす。

影。陽光に焼かれた地面に張り付く、ただの黒い膜。

影。ただの黒い膜に見えるそれ。戦闘中に感じた“あの感覚”を思い出す。殴った瞬間、霧散した呪霊の残滓が――。

 

(消えてない。“落ちてる”)

 

地面に、じゃない。もっと奥。自分の影の中に。

意識してやってるわけじゃない。勝手に、だ。

 

「……影がな。呪力を、飲んでる感じがするんだ」

 

鹿紫雲の眉が、わずかに跳ねた。

 

「ほう。自分のか? それとも相手のか?」

 

「両方……だと思う。正確なところはわからないが、少なくとも外から来たものは確実に“流れてる”。体を通って、そのまま影に落ちる。で――」

 

言いながら、自分の中をなぞる。流れはある。だが、出口が見えない。

(底がない? いや、底に“何かがある”のか?)

そう考えた瞬間、背筋を薄い寒気が走り抜けた。けど、その正体を掴む前に思考を切る。

 

(……考えすぎか。あれだけのことがあったしな。術式が一時的にバグってるか、感覚が過敏になってるだけだろう。実際、強くなってるのは事実なんだしな)

 

消耗は軽く、回復も早い。体のキレもいい。

理由が分からなくても、現状「益」があるなら今はそれでいい。実際に何かできるってわけでもないしな、気になる、気にはなるのだけど!

 

「まあ、便利ではあるな。ワンオペの強い味方ってことで納得しておくよ」

 

「……わんおぺ? なんだそれは?」

 

おっとこれは失言。

 

「俺一人でいろいろやるには都合がいいってことだ」

 

結論を雑にまとめて茶を飲む。鹿紫雲が、じっとこちらを見ていた。

 

「……なんだよ」

 

そのまま、鹿紫雲は立ち上がった。嫌な予感しかしない。

 

「わからんなら、とりあえず試すか」

 

「いや待て、今飯が――」

 

言い終わる前に腕を掴まれ、無理やり引っ張られる。

もう、これだ。こいつ、本当に人の話を聞かない。前世の常識で測る方が馬鹿らしいが、社会性をどこかの戦場に置いてきたんじゃないか。

 

「あーくっそ!すんません、これ代金!」

 

慌てて銭を放り投げ、引きずられるように茶屋の裏手へ。

人気のない荒れ地。遮るもののない風が吹き抜ける中、鹿紫雲が短く「来い」と合図を送った。

 

(……はぁ。まあ、ちょうどいいか)

 

さっきの「感覚」。あれが本物なのか、それとも俺のただの妄想なのか。

それを確かめるには、これ以上ないほど贅沢で最悪な相手だ。

俺は小さく息を吐き、腰を落として構えた。

 

(――鹿紫雲に通るか、試してみるか)

 

踏み込む。打つ。避けられる。

直後、強烈な返しが腹を打つ。衝撃で視界が揺れ、後方へと吹き飛ばされる――が。

 

(軽い。ダメージが通りにくい?っていうか……立てる。残り方が違う?)

 

打ち合う。拳がぶつかる。その瞬間、確信した。

 

(来た。外からの呪力が、そのまま影へ“落ちた”!)

 

鹿紫雲の激烈な呪力が俺の影に吸い込まれ、それがなぜか俺の活力としてフィードバックされる。以前の「反射炉」が自社発電だとしたら、これは「他所から電気を盗んでる」みたいな感覚だ。

もちろん全てを無効化できるわけじゃない。防ぎきれなかった衝撃で体は軋むし、火花のような呪力が皮膚を焼く熱さもある。

 

――それでも。便利すぎる。

それだけに怖い。自分が、自分以外の「何か」で満たされていくような、この不気味な万能感。

 

(……これ、俺が影を操ってるんじゃなくて、影が俺を使って『蓄えて』んのか?)

 

そんな考えが頭をよぎり、数合交わしたところで距離を取る。

鹿紫雲が、愉しげに喉を鳴らして笑った。

 

「変わったな。前はもっと、“削れる”戦い方だった。だが今のお前は削っても減らねえ。いいな。壊れにくくなってきたじやねぇか」

 

「……褒めてんのかそれ」

 

「もちろん褒めてる」

 

確かに、強くなってる。

でも、なんか借り物っぽいな。自分の力じゃない感覚。内側から何かが動いている感じ。

(俺という存在が、影に乗っ取られ始めてるなんてオチじゃないよな?)

 

「じゃ、行くか」

 

鹿紫雲が言う。

 

「はぁ、あんたほんと自由だなー」

 

小さく息を吐く。

ここで足を止める理由はない。むしろ、このまま進み続ければ、嫌でも答えに行き着くはずだ。

この影の奥に潜む“何か”の正体にも。

 

茶屋を後にし、再び街道へと戻る。進路は西だ。

ふと、足元の影が、意識の隅でほんの僅かに揺れた気がした。

 

(気のせいだ。……そう思っておこう)

 

自分にそう言い聞かせ、俺はまた歩き出す。

自分の中に潜み始めた、正体不明の「異質」を引き連れて。

 

 




原作の鹿紫雲ですらあの戦闘優先思考だから、若い時はもうちょっとさらに尖っていてもおかしくない、ということにさせてください……!
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