戦国転生 4歳から始める十種影法術 作:匿名希望
間違って三十七話を投稿したので、消して三十三投稿します、ログ流して申し訳ない。
村の外れにある家を使っていいということで、そこで一晩過ごした。
取り込んだ呪力を溶かし切るのはしんどくウンウン唸っている間にいつの間にか寝てしまっていたらしい。
まだ薄暗い中目を覚ますと、枕元に見知らぬ子供が座り込んでいた。
白い神衣を纏い、顔には目元だけを隠した面布を身につけている。四歳児ほどの小さな子供だ。この村の子供じゃないよな。そもそもアイヌの子供と着てる服も違う。
声をかけようとした瞬間、脳裏に(――朝――)という意思が伝わってきた。
「お前魔虚羅かよ!」
おっと思わず突っ込んでしまったぞ。
どうやら魔虚羅・天之日矛(もう今後は魔虚羅でいいか)は幼児の姿で顕現したらしい……。
いや、なんで幼児の姿なんだ?
もしかして、赤子や子供と扱ってきたせいだろうか。
そう思案していると、またもいや意思が伝わってきた。
(――四才――)
お前自分の年齢それベースで固定しちゃったの?
でも実際、こいつが生まれてからまだ四年くらいしか経っていない。そう考えてみれば、中身も外見も子供なのは当然か。
やってきたことだけ見れば結構エグいが、実態は成長のために栄養取ってたってだけだしな。
これが本来の等身大の姿ということか。
「……とりあえず、ちょっと歩くか」
このまま家の中に引きこもっているのも落ち着かない。俺は上着を羽織ると、魔虚羅を連れて、朝の散歩がてら外へ連れ出すことにした。
村から少し離れて、近くの山中までやってきた。平らな岩を見つけて腰掛け、目の前についてきた魔虚羅を見つめる。
俺は影からおにぎりを取り出して、差し出してみた。
「お前、人間の飯って食えるのか? 白はよく食ってたけど」
今までは呪力とか残穢やらの負のエネルギーを食事にしていたわけだが、物質的な食事は代謝できるんだろうか?
四歳の魔虚羅は小さな手でそれを受け取ると、面布の隙間から無言のまま普通にもぐもぐと食べている。
「こういうのを食べないと存在できないってわけじゃないよな?」
尋ねると、脳裏に(――否――)と短い気配が返ってきた。嗜好品、あるいは出されれば一応エネルギーとして処理できるって感じかな。
「まあ、食えるならいいか」
俺もなんとなくおにぎりを取り出し、並んで食べ始めた。
山の中の静けさと冷たい空気の中で、四歳児の姿をした最強の式神とおにぎりを齧ってるってのは、なかなかシュールな絵面になってそう。
おにぎりを食べ終わって、本題を切り出した。
「全体の復旧のために、まずは円鹿の部屋から切り離して立ち上げるのがたぶん効率いいよな」
魔虚羅はもぐもぐと口を動かしたまま、脳裏に(――応――)という気配を響かせ、こくりと首を縦に振った。
「よし、じゃあその方向でやってこうぜ。それと、だ。村でしばらく過ごすなら、お前のことも紹介しておいた方がいいな」
山を下りて村へ戻る道すがら、ふと木々の奥で何かが動く気配がした。
足を止め、目を凝らす。
朝霧の向こう、少し開けた斜面に立っていたのは、立派な角を持つ一頭のエゾジカだった。まだこちらの存在には気づいていないらしく、のんびりと地面の草を食んでいる。
「……ちょうどいいな」
居候になる身だ。村で手伝いを探すのもいいが、こういう分かりやすい手土産を一つぶら下げて帰る方が話が早いだろう。
すると、隣にいた魔虚羅が、すっと前に出て小さな拳を握り、何故かやる気満々でシカをロックオンしている。
「……お前がやるのか?」
思わず声が出た。えっマジで?やる気じゃん?
問いかけに、魔虚羅は頷きを返して歩き出そうとする。
「ちょっと待て。骨を砕いたりしたら素材として使いにくくなるかもしれん。できるだけ傷をつけずに、そのまま持ち帰れるようにやれるか?」
俺が注文をつけると、魔虚羅は一度足を止め、少し考えるような間を置いてから再び力強く頷いた。
トコトコと迷いのない足取りで距離を詰め、シカがこちらに気づくより早く、その背後に回り込む。
魔虚羅は跳躍一番、小さな手でシカの角を掴んで固定すると、そのまま首を一気に捻りあげた。
パキリ、と乾いた音がして、シカは暴れる間もなく崩れ落ちた。
俺の視線に、魔虚羅は(――見――)と短く脳裏に気配を返してきた。
「見……あ、俺が狩りしてるとこ見てたのか?」
そういえば、こいつは生まれてからずっと俺の影の中にいた。どうやら俺が旅をしながら、飯のために動物を狩っていた姿を、影の中からずっと見て学習していたらしい。
なるほど、元が魔虚羅なだけあるな。これも「適応」の範疇ってことか。
「うーん。大したもんだな」
俺が言うと、魔虚羅は少しだけ得意げに胸を張った。
顔わ見えんけどさっきから意外と感情表現が豊かだなあ。
幼児の見た目で態度は一人前なのがちょっと面白い。俺は仕留めたエゾジカのところまで歩み寄ると、それを丸ごと自分の影の中に放り込んだ。
「よし、帰るか」
山を下りて村に戻ってくると、先ほどよりは少し人の気配が増えていた。
それでもまだ静かな早朝だ。歩いていると、広場でちょうど作業を始めようとしていた村の男と目が合った。
「――あ、昨日の。あんた、もう起きてたのか」
エカシから「昨日のやつがしばらく村に住む」とでも聞いていたのだろう、男が声をかけてくる。
だが、男は俺の後ろをトコトコと無言についてくる魔虚羅に気づくと、ピタリと動きを止めて目を丸くした。
「……なぁ、その子は、一体どこから連れてきたんだ?」
「あー、そうだな俺の術式、本州の技術で生み出した式神だ。名前は魔虚羅っていう」
「シキガミ……マコラ……?」
聞き馴染みのない言葉に眉をひそめたが、俺の後ろで無言のまま「さぁ見ろ!」とでも言いたげに堂々と胸を張っている幼児に目を向け、息を飲み込んだ様に見えた。
「……ヘカチ・カムイ」
「?」
ヘカチ?なんだっけ子供の神?まあいいか。
「色々と説明が必要な奴なんだが、本州の術の話になるからあんたに言っても分かりにくいだろ。エカシにまとめて話したいんだが、もう起きてるか?」
「お、おう……エカシなら、もう起きてるよ。……あんた、本当に何者なんだ」
「ただの和人の居候だよ。――あぁ、それと、これは手土産だ。帰り道でちょうど出くわしてさ」
そう言って、俺は足元の影から、先ほど魔虚羅が仕留めたエゾジカを取り出し、魔虚羅を連れて村の奥へと歩き出した。
向かうは、昨日も訪れた長老のチセ。
中からはすでに、静かに薪が燃える匂いと、朝の気配が漂ってきていた。
パチパチと薪の爆ぜる音が響く中、エカシと囲炉裏を挟み向かい合う。
「あんたの助言のおかげか、術式の根幹にいた子供が、顕現できたよ。名前は魔虚羅っていう」
「……マコラ、か」
エカシは静かにその名を反芻し、それから魔虚羅からこちらへと視線を戻した。
老人はしばらく無言で俺たちを見つめていた。一晩でここまで事態が変わるとは思っていなかったのだろう。
エカシはふいに微かに目元を和らげた。
「……長生きはするもんだ、人の形をしたカムイにお目にかかる日が来ようとは」
エカシはふっと短く息を吐き、白く長い髭を揺らした。
「分かった。そのヘカチ・カムイ共々、村にいる間は好きに過ごすがいい。……ただ、村の者が過剰に怯えんよう、少しだけ気を使ってやってくれ」
「あぁ、善処するよ。ところで……やっぱりこいつ、あんたたちからするとカムイに見えるのか?」
「我らにとってカムイとは、人間を遥かに凌駕する力そのものだ。猛る吹雪も、命を奪う大嵐も、そしてその子供が内に秘めている力もな」
エカシは再び魔虚羅へと目を向け、深く頷く。
「それが人の手によって編まれた術だろうと関係はない。これほどの格を持つ存在を、カムイと呼ばずになんと呼ぶ」
「そういうものか」
それからしばらく、魔虚羅について調べるのに時間を費やした。
まずは見た目の話になるのだが。
背格好は四歳児ほど。だが、子供特有のぷにっとした柔らかさは一切ない。汚れ一つない陶器か、あるいは大理石の彫像を思わせるほどに肌は白く滑らかで、どこか生物離れした硬質な印象を与える。
それでいて、いざ動けば生身の肉体以上にしなやかで、その硬質なはずの四肢を滑らかに躍動させるのだから面白い。
そして面布で隠れているその顔が気になり、ふと遮る布をめくってみた。
人形のように端正に整った顔立ちには、固く閉じられたままの、開く気配のない一対の瞼があった。中に眼球が存在するのかすら定かではない。
だがその目の下には、白い鳥の羽を模したような、二対の奇妙なラインが刻まれている。時折、その紋様がピクピクと不気味に蠢く。視界など確保できているはずもないのに、布越しであっても、その顔の正面は常に俺の動きを正確に追っていた。
「……見えてんのか?」
試しに顔の前に二本、指を立ててみる。
魔虚羅は声を発することこそなかったが、小さな自らの右手を持ち上げると、俺の真似をするようにちょこんと二本の指を立ててみせた。
どうやら、外の状況は完璧に『見えて』いるらしい。
布を元に戻してやる。
もちろん、いつまでもタダで居候するわけにもいかない。昼間は狩りや村の雑務を魔虚羅と共に手伝ったりしている。
その手伝いの一環として、近隣の山に冬眠し損ねて飢えた「穴持たず」が潜んでいると聞いた時のことだ。
ウェンカムイ化する前に先手を打って仕留めてきたのだが、その際に魔虚羅の能力がいくらかわかってきた。
仕留めた後、魔虚羅は自らの足元の影を広げると、人間の何倍もある巨大なヒグマの死体をズブズブとそこに放り込んでいたのだ。やっぱ影操作はできるっぽい。
同行した村の男たちは「やはりヘカチ・カムイだ……」と遠巻きに拝んでいたが、実害がないと分かればそれ以上踏み込んでくることはなかった。
それとは対照的に、魔虚羅は村の子供たちに妙に人気があった。
自分たちと同じくらいの背丈の、大人しくて顔を隠した不思議な奴。子供たちの目にはそう映るらしい。
村の雑事には子守りのような役目もあるのだが、そこに魔虚羅を交ぜてみると、最初は鬼ごっこをしても圧倒的な身体能力で誰も捕まえられず、かくれんぼをすれば気配を完全に消して誰にも見つけられなかった。
しかししばらく見ていると、なぜか子供たちといい勝負になるように、絶妙な調整が入り始めている。
当の魔虚羅は相変わらず無表情で声も発しないのだが、子供たちに揉みくちゃにされながら、どんな遊びにも淡々と付き合っていた。
もし魔虚羅がいちいち『適応』して手加減を覚えているのだとしたら、それはちょっと面白いな。