戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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とりあえず四話まで投稿して、あとは週1で投稿していけたらいいなと思います。


第三話 脱兎調伏と、影の実験

「……あーくそ、やっぱり影の性質をいじりすぎるのは無理があるか」

 

朝食を摂り終えた俺は休憩がてら中庭の縁側で、ごろんと寝転がり、俺は眉間に指を当てて呻いていた。

数日前に影へ放り込んだ熱い茶がそのままの温度で出てきたことで、俺は影の中を「静止」と「流動」の二つの部屋に分ける実験を繰り返していた。

 

だが、これが驚くほど上手くいかない。

影の中のルールを「時間の停止」に寄せすぎると、俺自身の体が影の中に潜り込もうとした瞬間、まるで見えない壁に突き当たったかのように弾き返されてしまうのだ。

 

(……俺自身が『流動する現実』の存在だからか。影の中の時間を完全に止めちまうと、現実の俺とは噛み合わなくなって、入り口すら開かなくなるわけだ)

 

かといって、俺が入れるように時間のルールを緩めれば、今度は保存しておきたい茶がみるみる冷めていく。イメージの力で影の中に無理やり「仕切り」を作って、二つのルールを同居させようともしたが、それを試みた瞬間に激しい頭痛が襲った。

 

(……あ痛たた……。これ、無理に押し通そうとしたら、脳が焼き切れて廃人になっちまうよ。今の俺にできるのは、せいぜい影を上下に二層重ねるのが関の山で、中身の『時間』まで細かく部屋分けするなんて、今のリソースじゃ完全にキャパオーバーだ)

 

逆にここまで上手くいきすぎていたんだ。

「自分の思い込み」だけで空間を都合よくバグらせるには、まだ全然地力が足りないってことだ。俺は早々に空間分割を諦め、次なる快適化への手段として、手付かずだった式神の調伏に目を向けることにした。

 

 

「……正気か。四歳で、もう調伏の儀を行うというのか」

 

修練場へ向かう廊下、背後から飛んでくる囁きが耳障りだ。術式が発現してまだ一年も経っていない四歳の子供が、自ら調伏を願い出たのがそんなに珍しいか?

ですよねー!そりゃ珍しいわな、普通の術師の子供がどんなもんなのか、禪院家に生まれたからには嫌でも目に入る。

一人前とされるのが早いこの時代だから、当然前世より早い成長を求められるが、それでも俺の呪術に対するスタンスは異様に映るだろう。

とはいえ、だ。この時代の連中は、期待だの疑念だの、いちいち感情の乗せ方が重苦しくていけない。

 

「神童と謳われる影久様といえど、あまりに傲慢ではないか」

「脱兎の物量に呑まれ、泣き叫んで終わるのが関の山よ」

「なんのなんの!そのための我らよ!」

 

野次馬たちの冷ややかな視線や、小馬鹿にするような嘲笑が背中に刺さるが、俺にとっては最高にどうでもいい。俺が欲しいのは一族の称賛ではなく、寝心地を改善するための素材なのだ。

 

ふと見回すと、大人たちの陰から俺をじっと見つめる弟の姿があった。まだ「効率」なんて概念も知らない幼い弟には、無表情で淡々と歩く俺が、何か得体の知れない不気味な生き物にでも見えているんだろう。正直、今はまだ構っている余裕はない。

もうちょっと余裕ができたらうまいこと軌道修正でもできりゃいいけど、それには力が必要だ、発言力を得るためには…暴力!やはり暴力は全てを解決する!

 

「影久。失敗は許されぬ。禪院の名を汚すような真似をすれば、たとえ我が子と言えど容赦はせぬぞ」

 

並んで歩く父の、氷のように冷たい声が降ってくる。失敗したら廃嫡か、あるいはそれ以上か。戦国時代の当主様らしい殺伐とした物言いだが、お前せっかくの相伝やぞ、容赦しないって何するつもりなんだい?そもそも俺からすれば、ただの脱兎相手に何をそこまで力んでいるんだ。と欠伸が出そうになる。

 

俺は一族の期待も熱狂も、まとめてゴミ箱にぽいっと放り投げるような気分で、修練場の重い扉を勢いよく開けた。おらぁ!

 

そしてそのまま進むと修練場の中央に立ち、俺は背後の重い扉を閉めるように言った。

観衆たちは二階の壁際に張り付き、調伏の邪魔にならないよう俺を見ている。

 

(……脱兎の逃げ場を封じた、俺も逃げられないが問題ない。広い場所でちょこまか動かれる方が、よっぽど体力の無駄だからな)

 

俺は呪力を搾って玉犬を呼び出した。こいつらは今回、狩人ではなく誘導員、牧羊犬のような役割を担ってもらう。

準備が整ったところで、俺は影の奥底に眠る脱兎の調伏を宣言した。

 

直後、俺の影が沸騰したように泡立ち、そこから白い濁流がポポポポポポっと溢れ出した。

 

ここは逃げ場のない屋内、逃走経路を断たれた数多の脱兎が膨れ上がり、波となって俺へと押し寄せてくる。

「……始まったぞ!」「避けてください、影久様!」

外野がうるさく騒ぎ立てるが、俺は一歩も動かない、

足元から伸ばした影を壁へと、次々に脱兎が吸い込まれていく中、玉犬に指示を送る。

 

「玉犬」

 

俺の意図を汲んだ二頭が、修練場の壁沿いを超高速で旋回し始める。それは逃げようとする脱兎を中央へ、つまり俺の元へと集め圧縮するための円陣だ。

パニックに陥った脱兎たちは、玉犬に追い詰められ、俺の目の前で巨大な毛玉の塊となった。

 

(……よし、一箇所に固まったな。効率よく一気にいくぞ)

 

俺は自分自身の足元から、修練場の床半分を覆うほどの巨大な「影の穴」を展開した。

密集した脱兎たちは、自重と後続に押される形で、次々とその穴へ——俺の領域へと雪崩れ込んでいく。

 

全員が影の中に落ちたのを確認し、俺は即座に影の蓋を閉じ、多層構造の重圧を一点に叩きつけた。

影の底から「ドォン」という重苦しい響き。それっきり、鳴き声は止んだ。

俺の脳内に、脱兎へのパスが通る感触がくる。調伏完了だ。

 

「……終わったぞ。これくらいのことで騒ぐな」

 

「……な、なんだ、今のは」

「これが調伏の儀……?これは、まるで……」

 

静まり返った修練場に、誰かの呆然とした声が漏れた。

本来の調伏は、式神の猛攻を術者が正面から受け止め、打ち倒すことで資質を示す儀式だ。だが俺がやったのは、地形と習性を利用した一方的な処理でしかない。

観衆たちの目には、俺が幼子らしい勇ましさを見せるどころか、害獣駆除でもするかのような冷徹さで数千の命を飲み込んだように映ったのかもな、効率は大事。

 

「影久……。お前、今何を……」

 

つぶやく父の隣で弟が何か言いたげにこちらを見ていたが、俺はそれどころではない。

せっかく手に入れた素材だ。もう待ちくたびれたぜ!

 

俺は再び影を広げ、まずはベースとなる「マットレスの層」を足元に固定。その上に、調伏したばかりの脱兎を数十羽、一気に吐き出した。

 

(……さあ、来い。俺の安眠を完成させる、天然素材のフカフカクッション!)

 

周囲が「二度目の召喚だと!?」「まだ呪力が残っているのか!」と驚愕するのを余所に、俺は期待に胸を膨らませ、その毛玉の山へと迷わずダイブした。

 

「…………」

 

……沈む。

底なし沼のように、ずぶずぶと体が埋まっていく。

おまけに、俺が上に乗ったことでパニックを起こした脱兎どもが、「プギィッ!」「ピィッ!」と悲鳴を上げながら俺の下で激しくもがいている。

 

(……いや、これ無理だわ。落ち着かねえ。っていうか普通にケツが床に当たるし、層の反発で作ったあの凛とした硬さに、毛皮ごときじゃ完敗だよ、2層影マットレス以下じゃどうしようもねえ)

 

がっくりと肩を落として立ち上がる。

泥だらけならぬ、抜け毛だらけの姿で這い出してきた俺を見て、源蔵たちが「影久様! お怪我は!?」と血相を変えて飛んできた。

 

「……怪我じゃねえ。……失敗だ」

「は……? 調伏には成功なされましたが……」

「そうじゃねえよ。……どけ、寝る場所を探す」

 

俺は混乱する一同を放置し、脱兎を影に戻そうとした。

だがその時、影に呪力を通した指先から、不思議なフィードバックが返ってくる。

 

(……ん? 待てよ。影の維持が、少しだけ楽になってる……か……?)

 

影の中に戻った脱兎たちは、俺の「俺の周りに密集してろ」という適当な命令に従い、俺の足元の影を内側から物理的に補強し続けていた。

それは、今まで俺が脳の演算リソースを割いて無理やり固定していた影の形を、こいつらが物理的な支柱となって勝手に支えてくれているような状態だった。

 

(……なるほどな。寝心地としては及第点をやれないが、俺の代わりに影を支える支柱代わりにはなるか。クルーズコントロールみたいなもんだな)

 

俺の呪力が脱兎を通じて循環し、脳にこびりついていた重苦しい頭痛が、すっと軽くなるのを感じる。

 

(……よし。敷布団にはならんが、お前らは今日から『全自動・影維持システム』だ。俺が寝ている間、影が崩れないように内側から突っ張ってろ。わかったな?)

 

影の底で、数千の気配が「ピピィ!」と呼応した気がした。

こうして、俺の安眠への道は、また一歩(本人の意図とは違う方向に)前進した、かに思われた、が。

 

 

(……お、敷ける。脱兎どもが内側から突っ張ってくれるおかげで、脳への負荷が激減した。これなら、普段の二層に加えて、もう一層……合計三層の影を現実に積み上げられる)

 

脱兎を調伏した夜のこと。

俺は敷布団の上に、影を三枚重ねて展開した。

今までは脳が熱を持つような不快な感覚があったが、今は違う。脱兎たちが内側から構造を支えてくれるおかげで、かつてないほど「凛とした反発力」が現実の布団の上に上書きされていく。

 

(……これだ。この厚み、この静寂。現実の布団の感触すら完全に消失した、純粋な反発の極致。よし、このまま眠り――)

 

 

 

 

「――うおっ!?」

 

唐突に、全身に「現実」が帰ってきた。

ふわりとした浮遊感が消え、背中に伝わるのはいつもの硬い敷布団の感触。影が霧散し、呪力切れで強制終了したのだ。

 

(……あー、そうか。脳の方は余裕だったが、燃費が悪すぎたか)

 

脱兎数千羽による「全自動・維持システム」は確かに優秀だったが、その稼働コストは、まだ呪力を練る技術が未熟な四歳の身からすれば、少々贅沢品だったらしい。

呪力の総量は生まれ持ったものだ。増えもしないし減りもしない。だが、それをいかに「無駄なく回すか」という一点において、今の俺はまだ数千羽の維持費を垂れ流しにするほど未熟だったというわけだ。

 

時間にして約二時間。悪くないが、熟睡するにはまだ効率が足りない。せいぜい昼寝に使えるかどうかといったところだし、そもそも寝るたびに呪力を使い切っていたら、有事の際に詰む。

 

本当は影の中に入って寝たいが、内部に入ると影の外殻が「一層目」としてカウントされる仕様のせいで、中で層を作ろうとすると脳のリソースをさらに食う。現状、影の中で寝るのは「一層のせんべい布団」で寝るようなもんだ。

ハンモックのようにすることもできないわけではないが、個人的にめちゃくちゃ苦手なんだよなーあの感触。

はぁ…飛躍的に呪力効率が伸びるか、演算能力が上がって、影の中で多層構造を維持できるようになれば、誰にも邪魔されない究極の引きこもり安眠が完成するんだが……それはまだ先の話だな。

 

「影久様! 大丈夫でございますか!」

 

深夜に俺が声を上げたからだろう、襖を開けた源蔵が血相を変えて飛び込んできた。

俺は、影の霧散とともに消えてしまった脱兎の「温もりの名残」が残る腕の中を、虚しく見つめる。

 

「……なんでもない、ちょっと夢見が悪くてな」

 

適当な返事をしながら、俺は冷たくなったいつもの敷布団に、力なく身を横たえた。

呪力が底を突き、一羽すら呼び戻せない。さっきまでの極上の反発力も、枕代わりにするはずだった脱兎の腹の感触も、今はもうどこにもない。

 

(……結局、三層の維持効率が上がるまでは、二層で安定させるのが一番の近道か。快適を求めてリソースを使い切ると、最後に待っているのはこの硬い畳と煎餅布団。世知辛いねぇ)

 

俺は一族が「神童」と呼ぶ自分の手のひらを眺めながら、重い溜息を吐いた。

影久の安眠への探求は、空になった呪力という新たな課題を残して、次のステージへと続く。

 




予約投稿できてるかわからない、俺は雰囲気でハーメルンをやっている。
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