戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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最近何度も死滅回遊を読み直してるんですけど、羂索周りの流れを把握し切るの難しすぎますね。
俺は雰囲気で呪術廻戦を読んでいる。


第三十九話 久々に帰ったけれど

「……嘘だろ」

 

逢坂の関を越えて北野へとやってきた俺は、目的の店の前で完全に足を止めていた。

 

京の都で今一番話題の甘味『長五郎餅』。

先の秀吉の大茶湯で振る舞われて以来、その評判が都中に広まっているらしい。

 

せっかく実家に帰るのだから、何か買って帰るかと軽い気持ちで足を運んだのだが、そこにあったのは最後尾が路地裏まで伸びる、大行列だった。

 

並ぶのを諦め、何か別の物でお茶を濁そうかと回れ右をしかけた、その時だった。

 

行列の先から、かすかに呪力を感じた。

次の瞬間、周囲の客が蜘蛛の子を散らすように場を空けた。

店の前では三人組の男が店主の胸ぐらを掴み、喚き散らしていた。

 

「――だから、俺たちが先だと言っている!今すぐ包め!」

 

耳障りな声だと思った瞬間、店主の肩がびくりと跳ね上がった。

呪力を乗せている。えぇ餅食いたさにそこまでするか、普通。

 

「……あ、あの、予約の……お待ちの皆様も……」

 

「何を言っている?誰も待ってなどいないではないか」

 

術師が一般人にそういうことしちゃダメだろ。

 

「おいおい、お前らそういうのは良くないぞ」

 

俺の声に、三人は弾かれたようにこっちを見た。

 

「……なんだお前は?おい」

 

店主に絡んでいた男が声をかけると、残りの二人が俺を囲んでくる。

俺はわざとらしく肩をすくめ、彼らの顔を交互に見渡した。

 

「おいご同業、あそこにいる子供たちだって、順番を守って並んでたんだぞ?見習えよ。いい大人なんだから」

 

「てめぇ!」

 

「なめやがって!」

 

こいつら沸点低すぎか。

いきなり掴みかかろうとしてくるとか。

しゃーないな。

俺は影を伸ばし、彼らの服の内側へと潜り込ませた。

影が衣の内側へと這い込み、その体を縫い留めた。

 

「……っ!?」「体が……!?」

 

「おい、どうした……っ!?」

 

固まったままの仲間と、俺を交互に見比べた。じりっと半歩退く。

 

「さて。お前だけはまだ動けるようだが、どうする?」

 

男は店主の胸ぐらを離し、そのまま俺の方へ店主を突き飛ばした。

よろめいた店主を肩で受け止めると、男は忌々しそうに舌打ち。

 

「……くそっ覚えてろよ!」

 

捨て台詞を残し、男は転がるようにして逃げ出した。判断が早い!

縫い止めていた二人を解放してやると、背中を追っていく。

 

「おーい! 俺は禪院影久だ、文句があるなら直接うちにこいよー!」

 

その言葉が届いたのか、三人の肩が目に見えて大きく跳ねた。

 

 

 

その後問題解決のお礼ということでその場で一つ、出来立てを試食させてもらった。

 

(おー、あんまり甘くないんだ。そしてでかい、めちゃくちゃ腹に溜まりそう)

 

おやつとして食べるなら二つに割ってちょうど良さそう。

茶請けに常にいくらか欲しいな。十一個包んでもらって、ついでに禪院家への定期的な配達も手配しておく。十一個は影へ。ほうら、お前たち食べるといい。

 

さて、四年半ぶりの帰還だ。

道中、実家はどうなっているだろうかと考える。懐かしさ半分、緊張半分といったところか。

禪院家の門が視界に入った。

 

門前では若い娘が掃除をしていた。

——おおっ、あれはなんの術式だ?線を引いて動かして、落ち葉をまとめてるのか?

俺は興味を引かれ、掃除をしている彼女の背中に声をかけた。

 

「君は躯所属、だよな?器用だね。それは術式でやってるんだよな?」

 

声をかけられた娘が、肩を大きく跳ねさせた。掃除の手を止め、慌てて振り返る。目が合うと、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐに警戒心を滲ませて身を引いた。

おっとまずい、驚かせてしまった。

 

「あーっとすまない、俺は禪院影久だ。四年半ぶりに帰ってきた」

 

言葉で説明するよりこっちが早いな。俺は足元の影から二体の式神——白と黒——を呼んだ。

 

「……っ!白ちゃん黒ちゃん!?まさか、ほんとに影久様……。も、申し訳ありません!……おかえりなさいませ!」

 

「ただいま。四年も家を空けてたんだ、わからなくても無理はない」

 

それよりも、だ。

 

「掃除に使ってた術式、かなり扱いが上手いな。日常的に使い続けないとそうはならない。結界術に近いように見えるが、線で境界を引いて落ち葉だけを弾いてるのか?見事だ」

 

「は、はい、境界結界呪法といって、線を引いた内と外で選んだものを外に弾くだけの術式です。お掃除にとても便利なんです。重いものは動かせないんですけどね」

 

待て待て、すごいぞこの娘。

説明を聞きながら、さっきの動きを思い返す。線を動かしながら落ち葉を集めていた——実質、動く帳じゃないか。

めちゃくちゃ応用してるじゃん。

 

「家を綺麗に保ってくれてありがとう。おかげで気持ちよく帰れた」

 

うまく回ってるみたいだな、躯。

 

 

 

 

景次は一通りの旅の話を静かに聞き終えると、俺の後ろで寝っ転がる十歳ほどの、雪のように真っ白な髪と肌を持つ美少年、魔虚羅に視線を落とした。

 

「……それで、その童に見えるのがかの魔虚羅ですか」

 

景次の声には、畏怖に加えて「えっこれが?」という隠しきれない困惑が混ざっている。

わかる、わかるぜ、見た目から受ける印象だとそうなるよな。

なんせ禪院相伝の最強の式神と謳われる存在が、少年の姿で畳の上で寝っ転がっているのだ。

 

「旅の中で魔虚羅なりに落ち着く形を見つけたみたいでな」

 

俺がそう返事を返すと、魔虚羅は景次を一度だけ射抜き、「うむ」といった感じで頷き、影の中へと溶け込んでいく。

 

「兄上の術式は本当に常軌を逸していますね。とはいえ本当に十種影法術が戻ってよかった」

 

「それはほんとにそう。ところで店を脅して回るような質の悪い術師を見かけたんだが、ああいう手合い、最近増えてるのか?」

 

俺の問いかけに、景次はわずかに眉をひそめた。

四年半の不在を埋めるように、次期当主として抱えていた懸念を口にするように、彼は静かに語り始めた。

 

「兄上がいなかった四年間……京の街では、妙なことが続いていたんです」

 

景次は声を潜め、語り出した。

京の各所で定期的に呪力だまりが発生するようになり、たまっていない時期でも、街全体にうっすらと澱が沈殿していることが増えた。

そしてその澱に晒され続けたためか、以前ならば呪力の欠片も感じられなかったような連中が、ある日突然力を持って現れるようになったのだという。

 

「あの蜘蛛の呪霊と出会った廃寺のような場所、か?」

 

「ええ、そうした手合いの処理、あるいは土地の管理を巡って、五条家と禪院家の溝が深まってきています」

 

「……なるほどな」

 

少し間を置いてから、俺は口を開いた。

 

「ああ五条といえば、逢坂の関の手前で六眼に会ったぞ」

 

「……っ、それは本当ですか。どうでしたか」

 

「才能はある、本物だ。ただまだ子供だな」

 

景次は一瞬黙った。それから、静かに息を吐く。

 

「……本気で言っているのですか、兄上。あの六眼相手に」

 

「ああ、とはいえ一回軽く手合わせしただけだからな。あっちも本気ではなかったろう」

 

「……それは、非常に助かります。五条との溝が深まっている今、禪院の相伝の使い手がその六眼にも引けを取らないと示せたのは、これ以上ない牽制になる」

 

景次の言葉を聞きながら、俺は呪力だまりの話を頭の中で反芻していた。

 

「……任務の空き時間に、俺が警邏で潰して回る」

 

景次はしばらく無言でこちらを見つめ、それから小さく頷いた。

 

「……助かります、兄上」

 

細かい段取りはそれからまとめることになったが、とにかく今日のところはそれで話が落ち着いた。

さて、久々の実家だ。

 

景次の部屋を辞して、久々に屋敷の中を歩く。四年半ぶりに踏む廊下は、記憶よりもずっと手入れが行き届いていた。

板張りの艶、塵一つない隅。躯がきちんと回っている証拠だ。

 

「……ん?」

 

廊下の角を曲がったところで、向こうから歩いてきた人影と鉢合わせた。

 

「おわっ」

 

扇一郎だった。

向こうも驚いたように足を止め、俺の顔をまじまじと見る。

それから、視線がゆっくりと上へ移動した。

 

「……でけぇ」

 

「久しぶり、扇一郎」

 

「いやちょっと待ってくださいよ。去り際はまだ俺の顎くらいまでしかなかったじゃないですか、なんで目線が同じになってるんですか」

 

言われてみれば、そうか。旅の間は自分の背丈など気にしたこともなかった。

 

「四年半あったからな」

 

「四年半でそうなりますか普通!?」

 

扇一郎は心底驚いた顔で俺の頭のてっぺんから足先までを往復してから、ようやくいつもの軽薄な笑みに戻った。

 

「……まあいいや。おかえりなさい、影久サン。無事で何よりですよ」

 

「ただいま。お前こそ、炳筆頭になったって景次から聞いたぞ」

 

「あー……なっちまいましたねぇ」

 

扇一郎は頭の後ろを掻きながら、どこか照れたような、それでいて誇らしそうな顔をした。

 

「影久サンがいない間に、いろいろありましたよ。まあ、その話はおいおい」

 

「そうだな。あと、定期的に長五郎餅が届くように手配してきた。北野の店のやつだ」

 

「あの行列の?……さすがですね、抜け目ない」

 

扇一郎は目を細めて笑った。

 

「しっかり働いてくれてたみたいだし、みんなで食えよ」

 

「ありがたく。……じゃあ影久サン、俺は任務前の確認があるんで」

 

「ああ、またよろしくな」

 

廊下を歩き去る扇一郎の背中を見送ってから、俺は庭の方へ足を向けた。

 

縁側から庭を見渡すと、隅の方に人影があった。

 

禪院源蔵。齢七十を超えてなお背筋の伸びたその姿は、細く伸ばした影を使って、庭木の枝をゆっくりと整えていた。

影の先端が枝の形に沿って動く。呪霊を祓っていたその術式が、今は植木鋏の代わりになっている。

縁側に腰を下ろして眺めていると、源蔵が気配に気づいて振り返った。

 

しばらく、無言だった。

 

源蔵は影を静かに収め、俺の顔をじっと見た。それから、目尻の皺を深くして、小さく口を開いた。

 

「……おかえりなさいませ、影久様」

 

「ただいま、源蔵。庭まで手を回すようになったか」

 

「おかげさまで。……ずいぶんと、大きくなられましたな」

 

「そうか?」

 

「ええ」

 

源蔵はそれ以上多くを言わなかった。ただ、もう一度だけ俺の顔を見て、静かに頷いた。

俺も何も言わなかった。言わなくていいと思った。

しばらく、二人で庭を眺めた。

 

「躯はよく回ってる。門前でも、屋敷の中でも、すぐわかった」

 

「皆がよく働いてくれております」

 

「お前が仕切ってくれてたからだろ」

 

源蔵は小さく笑って、それには答えなかった。

源蔵と庭を眺めてひと息ついてから、俺は屋敷の奥へと足を向けた。

厨房が近づくにつれて、出汁の匂いが漂ってくる。腹が鳴った。

旅の飯も悪くはなかったが、やはりここの匂いは別物だ。

昔っから散々口出ししてきたからなあ。

 

土間を覗くと、躯の面々が夕餉の支度でキビキビと動いていた。包丁の音、火の爆ぜる音、それから女中たちの世間話が混ざり合って、賑やかな熱気が漂っている。

その足元で、白い影が数匹、するすると床を滑っていた。

 

脱兎だった。

 

俺が意識して出したわけではない。気がつけば影から這い出して、当然のような顔で女中たちの手伝いを始めていた。

一匹は食材を運び、一匹は竃の薪を整え、もう一匹は湯呑みを両手で抱えてよちよちと歩いている。

懐かしい光景。

 

「あら、脱兎ちゃんたちだわ」

 

女中の一人が声を上げた。それから顔を上げて、土間の入り口に立っている俺に気づく。

 

「……影久様!」

 

「邪魔するぞ。飯の匂いに釣られた」

 

「おかえりなさいませ!ちょうど良いところに、もうすぐ出来上がりますよ」

 

女中たちがぱっと顔を明るくした。脱兎が一匹、俺の足元にとことこ近づいてきて、ちょこんと座ってこちらを見上げる。

おっと本体も出てきたな。

 

「影久様が戻ってらっしゃったってことは、今夜は手伝ってもらえますね」

 

「もう手伝いはいらないんじゃないか?」

 

と言っても家にいる限りは勝手にやってそうだけど。

 

俺は空いている板場の隅に腰を下ろし、支度の様子をぼんやりと眺めた。脱兎たちが動き回るたびに、女中たちの動きがほんの少し軽くなる。四年半、こいつらなしでよく回していたものだ。

いや違うか。

いなくても回るように、頑張ってたんだな。

 

「影久様、お茶でも」

 

「ありがとう」

 

温かい湯呑みを両手で包みながら、竃の火を眺める。

(……帰ってきたな)

旅の間中、どこかで感じていた張りつめた感覚が、ゆっくりと解けていくのがわかった。

 

 

 

夕餉を終えて廊下を歩いていると、足元の影がさざ波のように揺れた。

影が伸び、あちこちから這い出してくる。

脱兎はとっくに土間へ戻っていったが、他の連中も思い思いに屋敷へ散り始めていた。

 

白と黒が廊下をすんすんと嗅ぎ回りながら奥へ消えていく。蝦蟇が縁側の隅にどっかりと腰を落ち着け、庭の方をぼんやりと眺めている。

大蛇はするすると外壁の方へ向かっていった。昔、あいつは屋敷の外周を気が向いたときに巡っていたのだ。また始めるつもりらしい。

満象だけは屋敷の中には入れないので、小さく縮んだまま庭の片隅に座っている。それでも源蔵が剪定した木の根元で落ち着いているあたり、気に入った場所を見つけたようだ。

好きにしろよ。

俺は苦笑いしながら自室の襖を開けた。

 

「……お前は」

 

部屋の中央で、魔虚羅が布団の上に大の字になって寝ていた。しかも布団がきちんと敷かれている。女中に頼んだのか、こいつ。

 

「いつ出てきた」

 

答えはない。すやすやと、寝息を立てている。

 

「睡眠が必要な式神がいるか」

 

俺はその隣に横になった。天井を眺める。見慣れた木目。旅先では毎晩違う天井を見ていたから、同じ天井というのがこんなにも落ち着くものだとは思わなかった。

(さて、やることは山積みだが)

呪力だまりの警邏、十種影宝術のさらなる研鑽、景次が抱えている五条との軋轢。考え始めれば切りがない。

だが今夜は、まあいいか。

 

魔虚羅が寝返りを打って、俺の腕に頭を乗せてきた。重い。

 

「……お前な」

 

起こすのも面倒で、そのままにした。

四年半ぶりの天井を見上げたまま、俺はゆっくりと目を閉じた。

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