戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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第四十七話 闘ろう

慶長八年、秋。

 

江戸にやってきたのである!

いやー江戸の街って、この時期だとまだ城下町ってほど発展してたわけじゃないんだな。

武家屋敷が並んでるかと思えば急に空き地になったり、道も半端なところで途切れてたり。

 

流石に何百年も積み上げてきた京とは違うか、幕府開いてまだ三年だしな。

おっと、この思考、すっかり京に染まってしまってるな俺も。

 

(それにしても、御前試合か)

 

原作でも御三家での試合だったんだろうか。

まあ加茂が来るのは自然といえば自然か。

備えはそれなりにしてきた。

無下限への適応も茈まではほぼ完全に終わっているし、遥はまだ領域を使えない、極ノ番も。

つまり、遥相手にやられることはないだろう!

 

どちらかというと問題は加茂の方である。

景次と一緒に招集された場所にいたのは……なんと。

 

 

 

 

一月ほど前、京での話に遡る。

幕府の使者が三家を一堂に集めたのは、とある公家屋敷の一室だった。

禪院側は景次と俺、五条側は遥とその供、加茂側は当主と数名。向き合って座ると、それだけで部屋が少し窮屈になった。

部屋の広さに対して人数集まりすぎである。

 

使者が御前試合の段取りを説明する間、俺は向かいの、いささか歳を感じる懐かしい術師の顔に釘付けになっていた。

 

鹿紫雲一である。

 

加茂の客分という触れ込みで座っている。

こちらに気づいて、ゆっくりと視線を向けてきた。

特に何も言わない。ただ、目が笑っていた。

 

ああそうだ、懐かしいな再戦の約束。

 

ただ、小さく顎を引いた。

そうだな闘ろう。

 

鹿紫雲も同じように顎を引いた。約束を覚えていたな、とお互いに確信する。

 

使者の説明が続く中、隣で遥が腕を組んだまま加茂側を眺めていた。

六眼が鹿紫雲を捉えた瞬間、その眉が微かに動いたのが見えた。

 

視線が鹿紫雲で止まっている。六眼で何かを捉えているのだろう、いつもより少し真剣な顔をしていた。

幕府の使者が目の前にいるのに耳打ちしてくる。

 

「鹿紫雲一ってお前の師匠みたいな術師だろ?」

 

「おい、後にしろよ」

小声でそう返すが、全く聞いちゃあいない。

 

「稲妻みたいな呪力特性持ってるね、強そうだ」

 

そこで遥は少し黙って、それからこちらの方を半目で見てくる。

 

「お前の吸収はいまだに見えないほんとなんなの?」

 

何を言っても無駄と感じ、遙は一旦無視することにした。

 

使者が引き上げ、三家がそれぞれ腰を上げたところで、鹿紫雲がこちらへ歩いてきた。

 

「影久」

 

「久しぶりだな、鹿紫雲。再戦は御前試合、ということだな?」

 

「ああ」

 

それだけ言って、鹿紫雲は加茂の当主の方へ戻っていった。

 

「無視すんなよ」

 

使者が出ていった後、遥が隣に立っていた。ご立腹の様子である。

 

「使者が話してる最中に耳打ちしてくるお前が悪いだろ」

 

「あっちは別に大した話してなかったし」

 

はー、待て待てこいつ何にも聞いてないじゃん。

 

「してたよ、ちゃんと聞いてたか?」

 

遥が少し口をへの字にした。聞いてなかったらしい。

 

「……まあ景次がいるからいいじゃないか」

 

「それはそう」

 

俺も景次がいるから安心して鹿紫雲を眺めていた口なので、あまり強くは言えない。

 

「で、鹿紫雲一ってほんとにお前の師匠みたいな人なのか」

 

「まぁ、そうだなあ。旅の道連れだな。色々と鍛えてもらったから、師匠でも間違いはないよ」

 

「強いのか」

 

「ああ」

 

遥が少し黙った。加茂の方へ戻っていく鹿紫雲の背中を、まだ六眼で追っているようだった。

 

景次が隣に来て、小声で言った。

 

「兄上、試合の順番についてですが」

 

「ああ、聞いた。第一試合が五条と禪院、第二が禪院と加茂、第三が五条と加茂だったな」

 

「連戦になります」

 

「わかってる」

 

景次の顔に心配の色が滲んでいる。わかってる、とは言ったが景次からすれば心配だろう。

俺が第一と第二を続けて戦う形になる。

 

「円鹿がいるから体の疲れはなんとかなるだろう。呪力の消耗の方も、まあ、これもなんとかなるよ」

 

呪力の吸収がある。

遥の呪力を喰いながら戦えば、消耗どころか逆に補填できるんだよな。

だからそれは心配していない。

問題があるとすれなら、精神的な疲れになるだろう。

 

遥は手加減をしない。

俺相手なら壊れないとわかっているから、手合わせとは全然違う本気でくるだろう。

全力で闘うとなると、体がどれだけ万全でも精神的には削られるからな。

 

景次が一度頷いたところで、遥が景次の隣に割り込んできた。

 

「第一試合、手加減とかいらないからな」

 

「してやろうとも思ってなかったぜ」

 

「僕は本気でやるぞ」

 

景次が苦笑いをしながら少し後ろに下がった。

 

「鹿紫雲一に勝てるか」

 

「昔のままなら、どうあっても負けないだろう。だがね、あいつはそんなタマじゃない。きっとなにか……。そうだな、勝ちも負けもどっちもありうる、そんだけだ」

 

「はぁ?なんだそれ」

 

遥が少し考えるような顔をした。

 

「……負けんなよ、って今から言っててもしょうがないんだけどさ」

 

納得したのかしていないのか、それ以上は聞いてこなかった。

 

 

 

江戸へ向かう道中、東海道を進んでいた頃、少し外れた林の中に二級程度だろう呪霊がいた。

響と直景がほぼ同時に足を止める。

響の方が半歩早かったな。

 

「お父さん、あっち」

 

「二人ともよく気がついたな」

 

景次が二人を撫でる、それから俺を見た。

 

「兄上、よろしいですか」

 

「いいよ、円鹿もいるし任せてみようか」

 

景次が響と直景に向き直った。

 

「やってみなさい」

 

響の顔がぱっと明るくなった。直景は無言だが、目が変わった。

 

「円鹿、一応出といてくれ、反転は俺が言うまで使うな」

 

響が先に動いた。

 

地を踏みしめた瞬間、びりりと空気が揺れた。

振動が林の中を走る。呪霊が跳んで避ける。

だが完全には躱しきれず、体の一部が弾け飛ぶ。

 

「速い」と直景が呟いた。

 

呪霊が大きく弧を描くように、響の攻撃を避けて回り込む。

響に突っ込んでくると、体の一部を伸ばし縦に大きく振るってきた。

響は横に跳んで躱す。着地と同時にまた踏む。振動が走る。また避けられた。

 

呪霊が大きく旋回して距離を取った。響も直景も、じりじりと間合いを測りながら動く。

 

「あいつ思ったより早い」

 

直景が小声で言った。

 

「姉さん、呪霊を俺の影に誘導できる?」

 

響が呪霊を見たまま答えた。

 

「やってみる。どっちに引き込む?」

 

「左。俺が先に影を伸ばしとく」

 

直景が地面を踏んだ。影がじわりと左へ広がっていく。呪霊はまだ気づいていない。

響が踏み込んだ。振動を右側へ走らせる。呪霊が左へ跳んだ。

 

直景の影の上へ。

 

「もらった」

 

呪霊の影が直景の影と重なった瞬間、体が硬直した。

無理に動こうとしてその体が大きくよろめく。

響がよろめく呪霊の体の中心へ、座標を絞って全力で踏み込んだ。

どうっ、と重い地響きがした。

呪霊が崩れる。

響が膝に手をついて息を整えている。直景も肩で息をしていた。

 

円鹿にふっと笑ったような表情をし、影へと戻って行った。

景次が静かに言った。

 

「よくやった」

 

響がようやく顔を上げた。まだ息が上がっている。直景は無言のまま、倒れた呪霊のあった場所をじっと見ていた。

 

「直景、最初から誘導するつもりだったのか」

 

「……姉さんの術式が当たらないのを見て、思いついた」

 

「頭使えてるじゃないか」

 

直景が少しだけ照れたような顔をした。

響が直景の肩を叩いた。

 

「なお、よくやった!」

 

「姉さんが誘導うまくやってくれたから」

 

「当たり前でしょ」

 

景次が二人の前にしゃがんだ。

 

「怖くなかったか」

 

響が少し考えてから言った。

 

「怖かった。でも面白かった」

 

直景は黙って頷いた。

景次が立ち上がってこちらを見た。

「怪我もなく良かった」そう言って頷きを返す。

 

街道へ戻って再びあるき出した。

響と直景がまだ何か話している。景次が隣に並んできて、小声で言った。

 

「子供の成長は早いですね、兄上」

 

「響の術式の扱いがまだまだ大雑把ではあったが、直景がうまいこと補う形で連携してたな」

 

「あの二人、稽古でも似たようなことをやっていたようで。気づいたら自分たちで考えて、ああやって動くようになっていました」

 

前を歩く響と直景がまだ話し合っている。

響が何か言って、直景が頷いている。

さっきの戦いの反省でもしているのだろう。

 

「景次、お前と郷子がちゃんと育てたな」

 

景次が少し間を置いた。

 

「兄上が直景を見てくださっているのも大きいと思います」

 

「俺はたまに顔を出してるだけだよ」

 

少し歩いてから、景次に聞いてみた。

 

「そういや江戸って、幕府が開いてからどんな感じになってるんだろうな。前に来たのは随分前で埋め立てしてる最中だったよ。そんとき呪霊を祓いに来たのが最後なんだよな」

 

「二年ほど前に一度来ましたが、まだ整備中という感じでしたよ」

 

「まだそんなもんか」

 

前を歩く響と直景が何か言い合いながら歩いている。

そうして江戸入り、景次の言った通り、まだまだ発展途上といった感じだった。

 

 

 

宿に落ち着いてから、しばらく天井を見ていた。

景次は子供たちと隣の部屋にいる。夕餉が運ばれてくるまで、まだ少し時間がある。静かだ。

影の中で魔虚羅の気配がした。

 

「遥との一戦、どう思う」

 

気配が動いた。

——問題ない——という返事が返ってくる。

 

「……お前もだいぶ流暢に伝えるようになってきたよな。付き合いも、もう十六年になるか?最初は単語一個ずつだったのに」

 

魔虚羅の気配が少し揺れた。何か言いたそうだが、言葉にはならない。

 

「茈まではもう適応が終わってる。領域も極ノ番も、まだ使える様子がない。俺もそう思う」

 

では鹿紫雲は、と問う。

 

「鹿紫雲はどうだ」

 

少し間があった。

 

——未知——という返事が返ってきた。

 

「まあそうだよな、長いこと会ってないんだから仕方ない。というかお前は一応初対面になるのか?でもあいつの呪力と電気には、多少適応はできてるはずだよな。……でもあいつがそれだけで終わるとは思えない。幻獣琥珀を何かしら変えてくる可能性はある。だが未来の宿儺に使う切り札のはず、ここで出すか?」

 

沈黙。

 

「出さないよな、普通。ならば戦いながら解析して、適応を上乗せしていけばいい。お前がいれば、なんとでもなる」

 

魔虚羅の気配が静かになった。

天井を見たまま、少し間があった。

 

ただ、羂索だけが引っかかる。

 

京以来、何もない。動いていないわけがない。

あいつが何もしないはずがない。

それがどこから来るか、全くわからないのが、どうにも落ち着かなかった。

 

六眼を殺すために、俺を利用する可能性はまだ全然残っている。

 

死ぬつもりはない。

ただ、万が一というものはある。

景次には、話しておいた方がいいな。

 

夕餉が運ばれてきて、景次と子供たちと四人で食った。

響が江戸の飯について何か言って、直景がそれに答えている。景次が時々口を挟む。

そんな夕餉の時間だった。

食い終わってから、響と直景が部屋に戻る。

景次は残っていた、俺が何も伝えずとも。

 

「兄上、何かありますか」

 

「よくわかったな」

 

「顔に出ていますよ」

 

「……景次、一つ頼みがある」

 

景次が手を止めた。

 

「万が一俺が死んだら、死体を完全に破壊してくれ」

 

しばらく沈黙があった。

 

「……理由を聞いてもよいですか」

 

「説明できない。でも頼む」

 

景次が再び黙る。俺の顔をじっと見ている。何かを読もうとしているのだろう。

やがて静かに息を吐いた。

 

「説明しない、ではなく出来ない、そういうことですね?」

 

「ああ、そうだ説明することは、出来ない」

 

「わかりました」

 

しばらくして景次が口を開いた。

 

「兄上は、この試合が終わったら何かしたいことはありますか?」

 

少し考えた。

 

「うーん、特に考えたこともないな。まあでも死ぬつもりではないよ」

 

「わかっています」

 

それだけ言って、景次は立ち上がった。

 

「おやすみなさい、兄上」

 

「ああ、おやすみ」

 

景次が部屋を出ていこうとしたときこちらを振り返った。

 

「ああ、やって欲しいことがありました、兄上。いい加減、婚姻を結んで子を成してもらえませんかね?」

 

「…………」

 

「禪院家の当主として、切実なお願いでございます」

 

「……はぁーわかったよ」

 

「それでは今度こそ、おやすみなさいませ」

 

景次が今度こそ部屋を出ていった。

残された俺は天井を見た。

影の中で魔虚羅の気配がしている。なんか笑ってる気がする。

 

「笑うな」

 

……確認をしておくか。呪物化について。

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