戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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禪院恵編だけど、実質禪院家編ですねこれ・・・。


一級術師 禪院恵 中編

2018年9月 幼魚と……

 

その日禪院恵は肩の力が抜けていた。

 

虎杖悠仁は死んでいなかった。

いや、自分は虎杖悠仁を殺していなかったのだ、と安堵した。

そして同時に強く思った。

五条悟に必ず罰を与えねばならないと。

 

「クソが、なんで俺だけに教えたんだ。どうせ交流会に虎杖も出るならそのタイミングでいいだろ。これからどんな顔で釘崎や先輩方に会えばいいんだ」

 

一級術師七海建人が負傷。

そしてその報告にあった、未登録の特級呪霊出現との情報により、任務の引き継ぎが行われることとなった。

 

高専からは禪院恵が、禪院家から禪院甚爾が神奈川県川崎市に派遣されてきた。

 

「で、お前の友達ってのは監視対象の家にいるのか?」

 

「あー、どうもそうらしい」

 

「じゃ、ちょうどいい。高専にスカウトするかもしねえなら、こっちから向かった方が早いだろ」

 

結果、吉野順平の母は命を落とすことはなく。

吉野一家は呪霊に狙われた経緯から保護されることになる。

宿儺の指は高専によって回収された。

 

そして——

 

禪院甚爾の身体が魂の変形を押し返す。

かろうじて捻じ曲げた指が、まるで時間を巻き戻すように元へ戻った。

真人の顔から笑みが消える。

 

「……は?」

 

「なんだよ、触ればって言うから触らせてやってみれば、指をちょっと変形させるだけか?」

 

生まれて間もない真人では理解できない。

目の前の男が、自らの肉体だけで術式を否定していることを。

後一月後なら結果は変わっていたのかもしれない。

だが、そうはならなかった。

 

「なんなんだよおまえはぁ!」

 

「んじゃまあ、死んどけや」

 

真人にとって不幸だったのは、改造人間を担当したのが虎杖と恵だったこと。

真人にとって幸運だったのは、甚爾がそれ以上に厄介だったことだ。

 

「逃げるぞ」

 

本能がそう告げてきた。

虎杖悠仁が来る前に。

改造人間の対処より早く甚爾に追い詰められ、三人揃う前に、体をバラバラに弾けさせての退避を選んだ。

これにより戦場から逃げ切ることに成功する。

 

「ああそうだ、恵、これ真希に渡してやれ」

 

別れ際、恵は当時から遊雲を受け取ることとなる。

 

 

 

 

2018年9月 姉妹校交流会

 

団体戦の最中に特級呪霊が侵入した。

 

「狗巻先輩、加茂さん。俺が前に出ます」

 

赤血操術は継戦能力に欠け、呪言は聞きが悪い。

ならば自分が前に出るべきだ、恵はそう考えた。

二人に呪霊の搦手を対処してもらい、式神の顕現を抑え呪力を節約。

前衛を務めながら情報を取る。

 

基本は撤退戦、帳の外目指す。

もしその前にチャンスがきたなら。

 

(領域で終わらせる)

 

「狗巻!呪霊に呪言を使いすぎるな!」

 

「しゃけ!」

 

加茂のアドバイスを受け狗巻がタイミングを絞る。

効きが悪い格上に連続で使うことは、限界を早めてしまう。

乱発するわけにはいかない。

 

高専の屋内を駆ける。

呪霊の術式により天井から、床から、植物が生え行手を塞ぐ。

それを部分顕現で切り開きながら進む。

加茂が呪霊の意識を逸らし、狗巻が攻撃の手を妨害する。

 

三人と呪霊が外へと躍り出た。

向かいの屋根にいた真希がこちらに跳んでくる。

 

「恵ぃ!遊雲よこせ!」「真希さん!」

 

恵は咄嗟に鵺を顕現した。

影でできた式神は、そのまま影のストレージにもなっている。

その背へ腕を差し込み、遊雲を引き抜いた。

真希へ向けて投擲する。

 

空中ですれ違う。

真希が遊雲を掴む。

 

——合わない。

 

恵は考えるより先に体が動いていた。

 

玉犬白。

部分顕現。

真希の背を蹴る。

 

——その瞬間、呼吸が、重なる。

 

「———行け!!」

 

遊雲が振り抜かれる。

 

 

――100万分の1。

 

 

黒い稲妻が弾けた。

 

そして。

遅れて、もう一つ。

空間そのものが悲鳴を上げる。

 

黒閃。

黒閃。

 

二重の衝撃が特級呪霊を塵一つ残さず吹き飛ばした。

 

恵は息を吐く、その時、一瞬だけ。

真希の影が揺らいで見えた。

 

(錯覚か?)

 

そう思い目を擦った時には、もう元に戻っていた。

 

「恵!」

 

加茂の声に振り返る。

その違和感を追うことはなかった。

 

 

 

 

2018年10月 鯉ノ口峡谷

 

特級を祓い宿儺の指が落ちる。

任務は終わった、だが、戦いは終わっていない。

 

宿儺の指の回収に訪れた、脹相・壊相・血塗。

恵対脹相、虎杖対壊相、釘崎対血塗の三対三が始まった。

 

——百斂——

 

——穿血——

 

(赤血操術!?しかも練度が高すぎる、加茂さんよりずっと!)

 

「お前、加茂家の関係者か?」

 

脹相は答えない。

返答の代わりに、次の百斂を構築する。

 

「……そうかよ。答える気はないらしいな」

 

満象・部分顕現

恵は水を散らしながら戦う。

赤血操術は水に弱い。

 

——しかし

 

(何度も使える手じゃない、呪力は無限じゃない)

 

相手の血を薄めながらの殴り合い。

脹相の顔に血液の線が走る。

『赤鱗躍動』脹相の身体能力が上がる。

この状態での接近戦は恵には分が悪い。

 

(かと言って距離を取ると超高速の穿血がくる)

 

——穿血——

 

恵は首を傾けて回避する。頬を掠める。

血が一滴皮膚に付着した。反射的に袖で拭う。

 

(まずい!)

 

赤血操術を詳しく知っているわけじゃない。

だからこそ付着した血液から何をされるかわからない。

 

(警戒をするべきだ、幸い初動を避ければ——)

 

「禪院!足元!」

 

虎杖の声に足元を見る。

避けた穿血、その血液がまだ動いていた。

 

(まずい)

 

壊相を殴り飛ばして、虎杖がこちらへ駆けてくる。

同時に、脹相の口が開く。

 

「超新星」 (影に——)

 

間に合わない。

 

虎杖が恵を突き飛ばした。

その体を血飛沫が散弾のように撃ち抜く。

 

直後、『赫鱗躍動・載』

 

恵の身代わりとなった虎杖に脹相の掌底が突き刺さった。

 

空間が軋む。

黒い火花が弾けた。

 

「虎杖!!」

 

血の流れ。呪力の流れ。弟達の位置。

殴られ吹き飛んだ壊相。

痛みに苦しんでいる血塗。

自らの手によって倒れた虎杖。

 

脹相の様子がおかしくなる。

戸惑い、弛緩とまではいかずとも張り詰めていた空気が緩む。

 

「帰るぞ」

 

突如、脹相が踵を返した。

 

「は?」「兄者?」

 

状況がよくわからないのだろう、壊相と血塗も困惑しながらそれに続いていく。

 

「待て!!」

 

釘を放つ、しかし血液の壁によって防がれる。

釘崎がガシガシと頭を掻いた。

 

「何なのよアイツら!?……ってそんな場合じゃない!虎杖は!」

 

釘崎が虎杖の方に目をやるとすでに恵は円鹿で虎杖の治療を始めていた。

円鹿は十種影法術の式神の中でも取り分けコストがかかる。

ここで虎杖を治し切ることもできるかもしれないが、こんなところで呪力を切らすわけにはいかない。

 

「釘崎、完全には治すことは難しい。家入さんに連絡入れてくれ」

 

釘崎が「わかった」と、答えてスマホを取り出した。

キレ散らかしている。

 

「それにしてもあいつらなんだったのよ!」

 

「わからん。……なぜ急に撤退したのか」

 

「虎杖を半殺しにしておいてね!次会ったら絶対許さねー!あっ硝子さん、今ね……」

 

虎杖を治療しながら恵がつぶやいた。

 

「はぁ、でっかい借りができちまったな」

 

 

 

 

 

 

2018年10月31日 渋谷。

 

禪院班 1

禪院家時期当主 禪院直哉

「悟くんおるのに、僕ら来る意味あるん?」

 

禪院家「炳」筆頭 禪院甚爾

「アイツ油断しがちだからな、なんかやらかすんじゃねえか」

 

一級術師 禪院恵

「五条先生はそういうとこある。つか親父だけでなく直哉さんまできてくれたんすね」

 

「流石にな。甚爾くんは一人で動くみたいやけど、恵くんは勝手に突っ込まんようにな。君、割とそういうとこあるやろ」

 

「オッス、よろしくお願いします」

 

「んじゃ、俺は一足先に五条の坊の様子を見にいってくるぜ。そろそろ目も向かねえだろ」

 

ひらひらと片手を振りながら、甚爾は歩き出す。

術師を入れない帳も彼には意味をなさない。

呆気なくその黒を越え奥へと消えていった。

 

 

禪院班 2

禪院家「躯」筆頭 禪院扇

「早く終わらせて帰らねばならんのに、面倒な帳を張りおって……。ところで真希、前の帰省から比べて、急に腕が上がったように見えるが」

 

準一級術師 禪院真希

「あー、やっぱ親父もそう見える?なんか特級払ってから体の調子が妙に良くてさあ」

 

三級術師 釘崎野薔薇

「真希さん交流会からめっちゃ調子いいですよね」

 

「釘崎くんは娘の後輩かな?これからも仲良くしてやってくれ」

 

「こ、こちらこそ。真希先輩にはいつもお世話になってまして!」「やめろやめろ!本人の前で!」

 

扇は娘が順調な高専生活を送っているようで安心していた。

しかし、娘の成長だけでは説明がつかない違和感がある。

禪院家にいる真依もこの間から調子がいいと言っている。

気になる、だが今は渋谷だ。

今考えるべきことではない。

 

 

 

 

 

 

21:30「五条先生があっ、封印されたんだけどー!!!」

 

「……なにしとん。悟くん」

 

直哉が信じられない内容に思わず空を見上げた。

いや内容もそうだが、渋谷中に響くような大声やばい。

 

「つか何やこれ」

「虎杖です」

 

「拡声器かなんか、つこてるんか?」

「いや」

 

「多分地声です」恵が首を振って否定した。

 

「ええ、これ地声なん?声でかいなあ。

……悟くんどうすっかなあ。まぁでも、甚爾くん向かってんのやったら、問題ないか」

 

「そうですね、俺らはこの帳をなんとかしましょう」

 

21:55 渋谷 セルリアンタワー上空 鵺

 

「ふーん。呪詛師がおるね。オガミ婆と粟坂二良や。手配書で見たことあんで。あの婆は何呼ばれるかわからん。さっさと仕留めてくるわ」

 

そう告げると直哉は鵺の背から身を投げ出した。

夜の渋谷。遥か上空からの自由落下。呪詛師たちは気付かない。

オガミ婆だけが何かを感じたのか、僅かに顔を上げる。

 

遅い。

 

着地の衝撃と共に婆の身体が潰れた。

 

隣にいた孫がようやく状況を理解する。

だがこちらも一歩遅い。

 

投射呪法によって加速した直哉の蹴りが側頭部を砕き、そのままアスファルトへ叩き付けた。

 

「——な」

 

オガミ婆と孫を瞬殺した直哉が粟坂へ向かう。

再び加速した蹴りが顔面を捉える。

だが粟坂は吹き飛ばない。

わずかに首が揺れただけだった。

 

(なんやコイツ)

 

今度は本気の蹴り。

踏み込んだアスファルトが砕ける。

それでも粟坂は平然としていた。

 

「痛い痛い」

 

口ではそう言いながら、顔には笑みが浮かんでいる。

その時、蹴りに煽られたコンクリートの破片が頬を切った。

粟坂の笑みが僅かに歪む。

直哉が眉をひそめた。

 

鵺が上空を横切る。

 

「直哉さん!」

 

「恵くん、ちょうどええわ。コイツ妙やねん」

 

鵺から飛び降りた恵が粟坂を見る。

外傷はほとんどない。

直哉の足元に目を向けると、砕けたアスファルトが散乱している。

 

「強く蹴るほど効いてへん、気持ち悪い」

 

粟坂が肩を竦めた。

 

「お前ら、禪院直哉と禪院恵だな。こんなところで禪院家の大物に会えるとは、殺し甲斐がある」

 

「こいつ、ずいぶん煽ってきますね。直哉さん」

 

「ああ、なるほどな」

 

直哉が短く答えた。

その横で恵がアスファルトの欠片を拾った。

指で軽く弾いた欠片、それを粟坂は必死に避けた。

 

「ほな、そういうことやな」

 

粟坂が顔をしかめた。

直哉と恵の視線が交差する。

 

「あべこべってとこですかね」

 

「っ」

 

粟坂の笑みが消えた。

その反応だけで十分だった。

直哉が肩を回す。

 

「ほな、さいなら」

 

恵も同じ結論に至っていた。

 

 

 

 

 

 

22:20 井の頭線 渋谷駅 連絡通路

 

陀艮の領域の内側、海水が干からびる。

砂浜はひび割れ、潮風は熱風へ変わる。

無数の式神は生まれる前から焼き尽くされていく。

 

領域の押し合いではない。

より強固な領域による侵食。

世界そのものの塗り替えだった。

 

領域展開『八百万竈神宮』

 

陀艮も例外ではなかった。

熱に耐えきれず皮膚が裂ける。

 

「ま、待っ」

 

最後まで言葉にならない。

領域が崩壊した。

 

「……親父」

 

真希は息を呑んだ。

特級呪霊、それも領域を展開した相手が、あまりにも簡単に消えた。

これが直哉の言っていた、親父の、禪院扇の本気。

 

直後、扇と真希に緊張が走る。

 

「釘崎くん、上に戻れ」

 

「え?なんですか急に」

 

「比較にならん」

 

扇が階段下を見据えたまま続けた。

 

「真希頼む、時間がない」

 

真希が釘崎を抱えて、来た道を戻る。

四階アベニュー口、オフィス棟の奥へ。

扇の言うことは正しい。時間がない。

なぜならば——

 

「ちょ、真希さん!」

 

「舌噛むぞ!黙ってろ!」

 

真希が声を上げた直後、背後から熱風が襲いかかった。

 

ただ熱いのではない。空気そのものが灼けていた。

真希は本能的に悟る。

 

あれに巻き込まれてはいけない。

 

 

 

 

 

 

漏瑚は立ち止まった。

焼け焦げた通路の先。

残滓だけが残っている。

 

「……そうか」

 

仲間と呼ぶには短い時間だったかもしれない。

それでも。

 

「逝ったか……陀艮」

 

扇は動かない。漏瑚が立ち上がる。

互いに相手を見ている。

 

「貴様か」

 

扇は答えない。熱気が着物の裾を揺らした。

数秒の沈黙。

 

漏瑚が腕を上げ、通路が爆ぜた。




魔虚羅のイメージをあらすじに載せたので気が向いたら見てください……!
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