戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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渋谷事変③

22:55 渋谷

 

恵の呪力量では、円鹿で扇の命をなんとか繋ぐまでしかできなかった。

これ以上の治療は呪力を使い果たすことになる。

 

それでも、と続けようとした恵は、話せるようにまで回復した扇から止められた。

 

「ありがとう恵くん。君の気持ちは嬉しい、しかしね。……おいぼれが、若者の足を引くなどあってはならない。まだ、何があるかわからない。いま呪力を無駄にしてはいけないよ」

 

恵が臍を噛んだ。自分の呪力量がもっと多ければ、もっと呪力の扱いを伸ばしていれば。

直哉が恵の隣に膝をついた。

 

直哉は強さに固執している。

但しそれは、強くあることが個人の価値を決めるからだと考えているからではない。

直哉は時期当主であり、禪院家を運営するための教育を受けている。

その教育には時代に繋ぐまで、絶対には死んではならない、というものがある。

その代わり、死にゆくものを背負う。

禪院直哉は、殉職した身内の名前を全て覚えている。

 

その禪院直哉が禪院家時期当主の顔をし、禪院扇を見ていた。

 

「禪院扇。遺言はあるか?」

 

「わるくない人生だった。直哉。真希と真依を頼む」

 

術師にとっては死に目に出会えることすら幸運。

 

「あんたは立派だった、真希ちゃんと真依ちゃんのことは任せとき」

 

扇の目が閉じる、意識が途切れた。その命が失われるまであと……。

 

「親父!」「扇さん!」

 

真希と釘崎が駆け寄ってくる。

この場には場違いな二人を連れていた。

真希は扇の下に駆け寄る、直哉と話を始めた。

 

「釘崎、無事だったか!……その二人は」

 

「ちょっと複雑になりそう、私も詳しい話聞いてるわけじゃない、あんた達改めて話してもらえる?」

 

釘崎の声に頷いた二人は語り始めた。

 

「私たちは枷場美々子と枷場菜々子。夏油様の体を取り返して欲しい」

 

 

 

二人から渋谷事変の裏側の事情が暴露される。

 

1、渋谷事変を起こしたのは夏油傑の体を乗っ取って操っている誰か。

 

2、頭部に縫い目があり、脳を入れ替える術式を持っている可能性が高い。

 

3、偽夏油たちの真の目的は、渋谷事変の混乱に乗じて五条悟を獄門疆に封印することだった。

 

4、この情報と今持っている宿儺の指を渡すから夏油傑の肉体を取り戻すのに協力して欲しい。

 

恵は宿儺の指を受けとった。

そして何の気なしに、今のこの状態で手で持つのもな。という軽い気持ちで影へと放り投げた。

 

 

 

 

指が影の中に沈む。

 

 

 

 

恵の影が、ざわついた。

 

 

 

 

 

——ガコンッ

 

 

 

 

 

ずっと、ただそこにいるだけだった何かが、400年ぶりの刺激を受け取った。

長く、誰も呼んだことのない深い場所で、何かが目を開ける。

 

 

影が膨れた。

誰のものでもない、恵自身の影が。

操作などしていない、呪力を練ってすらいない。

混乱する。

(何が起きた!?宿儺の指か!?)

自分の術式ではない何かに影が接続しているその接続先へを意識を伸ばすと……・

 

「な——」

 

そこに立っていたのは、白い装束に身を包んだ童だった。

ふわりと広がる白髪。

目は閉じられている。眠りから今しがた覚めたばかりのような、緩慢な静けさ。

 

恵だけが、わかった。

あれは自分の中から出てきたものだ、と。

 

「死にかけだな。懐かしい術式を持っているようだ」

 

童が声をあげた。

誰も動けなかった。

 

恵も、真希も、釘崎も、枷場姉妹も、声を失っていた。

 

ただそこに立っているだけで、空気の密度が変わっている。

呪力の質ではない。もっと根本的な、存在としての重さだった。

 

直哉だけが、唇を動かした。

 

「……おいおい」

 

次期当主として教え込まれた禪院家の記録。

四百年前、存在した、規格外の術師。

十種影法術の歴史そのものを変えた男。

その姿は禪院影久が操ったとされる式神の……。

 

「嘘やろ……真っ白い式神……禪院影久の」

 

ただ、禪院影久のものと思われる魔虚羅は軽く手を上げた。

影が裂ける。

自分たちの知る円鹿とは、比較にならない大きさのものが、影から這い出てくる。

円鹿が扇に鼻先を近づけた。

 

一瞬だった。

 

傷が、消えていく。

裂けた皮膚が、繋がっていく。

扇の呼吸が、深く、安定したものに変わった。

円鹿が影に沈む。童が額がぶつかりそうなほど直哉に近づき声をかけた。

 

「お前が今の当主か?」

 

 

 

 

 

 

 

23:00 渋谷 道玄坂

人気のない渋谷の街、そこには虎杖、いや宿儺と裏梅の姿あった。

宿儺の手が震えだす。

 

「ちっここまでか、裏梅。お前は羂索の元へ迎え。小僧が起きる前にな」

 

「宿儺様……かしこまりました。必ずやまた」

 

裏梅の判断は早い。宿儺の決定に異を唱えない、宿儺の命令を疑わない。

裏梅が飛び去った。

 

「なかなかだったな、この時代。五条悟以外にもいい術師がいるではないか、なあ小僧」

 

体の主導権が虎杖に戻った。

生死のような大量の一般人を虐殺してはいない、だが。

虎杖悠仁は、苦悩していた。

殺した。禪院扇を。友人の大叔父を。先輩の父親を。

禪院から何度も聞かされていた。幼少期から鍛えてもらった。料理がうまい。

まだ先だが高専を卒業したら、扇さんの部隊に入るかもしれない。

戦いだけじゃない、術式で日常を豊かにしている。

尊敬すべき大人だと。

 

真希は父親の話をする時、めんどくさそうに語っていた。

曰く、戦いに興味がない癖にとんでもなく強い。

料理のことばっか考えてるバカ。

そして何より、親バカ。

 

その顔はどこか誇らしげで、それは照れ臭さからくるものだと、明らかにわかるようなものだった。

 

それを殺した。

 

 

 

 

23:00 東京メトロ 渋谷駅 B5F副都心線ホーム

 

獄門疆を抱えた羂索が後退する。

釈魂刀が振るわれた。床が裂け、柱が崩れる。

 

「おいおい、ここは地下だよ、崩れたら危ないだろ」

 

「お前が大人しく切られたらそんな心配もなくなるぜ?」

 

羂索の左腕は既に動かなくなっていた。

釈魂刀による傷は無視できない、ならば被害は集中させた方がいい。

その時吹き飛ばされた改造人間とともに、階段から血液が流れ込んできた。

血液が弾け改造人間を穴だらけに変える。

 

「弟の元へはいかせん!」

 

「はははは!!そんなに怒るなよぉ!」

 

甚爾の後ろから真人と脹相が現れる。

 

(パッチワークとフェイスライン!(弟?))

 

甚爾は考える。

 

(縫い目、パッチワーク、フェイスライン、流石にこれは撤退か?)

 

「加茂憲倫!!」

 

警戒する甚爾を横を血液の線が通りっていく。

羂索へ穿血が迫る。

 

(仲間割れ?都合がいい、まずは数を減らす)

 

甚爾は釈魂刀で近くにいた真人を切り裂いた。

 

真人は魂の輪郭を捉えられない術師からはほぼ無敵と言っていい、呪力の続く限り即再生が可能である。

虎杖悠仁、釘崎野薔薇は魂への直接攻撃ができるため真人にとって天敵と言ってよかった。

では釈魂刀を持った甚爾の斬撃は果たして。

 

真人が死にかける、分たれた体の一部呪力を失った小さな体で羂索に助けを求めた。

 

「助けて」

 

真人の小さくなった体が羂索へ飛ぶ。

真人を受け止めた。

 

「ありがとう真人」

 

その掌が真人へ触れる。グシャリ。

真人の身体が崩れ黒い玉となる。

 

「思ったより育たなかったけど、まあ、なんとかなるかな」

 

その術式に見覚えがあった。百鬼夜行。夏油傑。

 

「お前」

 

羂索が顔を上げる。

甚爾が目を細める、警戒を強めた。

 

「夏油か?」

 

脹相が叫んだ

 

「違うあいつは加茂憲倫!夏油の体を乗っ取っている!」

 

羂索が少し笑う。

氷擬呪法「霜凪」

 

地下鉄ホームに氷が走った。羂索と氷の壁で分たれる。

 

(新手……おかっぱ、多分殺せるが、夏油(仮)と組まれると厄介、フェイスラインはどう動く。)

 

裏梅がイライラした様子で羂索へと話しかけた。

 

「ちっ何やってる」

 

「助かったよ。裏梅。ここであんまり呪霊を消費するわけにもいかなかったからね。メッセンジャーを残したかったが……」

 

「器には10本食わせることに成功した。炎の術式の刀を使う術師が死にかけ。もういいだろさっさと引くぞ」

 

(扇のオッサンが負けたのか!?)

 

「はぁ、メッセージ残してる暇はないか。しょうがない、どこかで君たちに届くようにするよ」

 

ドパッ

 

羂索が大量の呪霊を吐き出した。

ホームには放心状態の一般人。

 

「加茂憲倫ィィィィ!!」

 

(逃さねえ、と言えたら良かったが、リスクが高すぎる、それにオッサンのことも気になる)

 

「虎杖悠仁をメッセンジャーにできたら、最高だったんだけどね」

 

氷を砕こうともがいている脹相、呪霊を祓い始めた甚爾をおいて、羂索と裏梅は消えた。

 

「おいお前、氷から出してやるから手伝え。ついでに色々話してもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

0:30 渋谷駅周辺

 

帳無事に解除され救助活動が始まっていた。

重傷者の搬送に負傷術師の回収。

完全に混乱が収まったわけではないが戦いそのものは終わった。

 

その一角に術師たちが集まっていた。

現状の確認が大体終わった。

 

現状確認は大方終わっている。

集まりを代表して口を開いたのは日下部篤也だった。

 

「まず五条悟は本当に封印されたらしい」

 

全員が頷いた。

元夏油一派、枷場姉妹の証言。

弟達の保護と引き換えに術師側に付くことになった呪胎九相図、脹相の証言。

甚爾の目撃情報。

状況証拠は揃っていた。

 

「んで黒幕は夏油じゃない」

 

脹相に目を向け、日下部が続ける。

 

「脳を入れ替える術式を持った何者か。加茂憲倫もそいつだったことだな」

 

「俺たちは奴によって作られた」

 

日下部が頭を掻く。

 

「少なくとも150年前から生きてる呪詛師ってことか」

 

直哉が腕を組んだ。

 

「ほな黒幕はそいつで確定や」

 

渋谷事変の概要はその場で共有された。

五条悟は獄門疆によって封印。

黒幕は夏油傑の肉体を奪った加茂憲倫でもあった何か。

特級呪霊、漏瑚は禪院扇によって祓われた。

真人は偽夏油によって取り込まれ消滅。

脹相、壊相、血塗の三兄弟は偽夏油と敵対、高専側につく。

枷場美々子と枷場菜々子は保護を求め高専に出頭。

宿儺は十本分の指を取り込み復活したが、現在は虎杖悠仁へと戻っている。

術師側の被害は大きい。

だが五条悟を除けば、想定されうる最悪には至らなかった。

 

そしてもう一つ。

全員の理解が追いついていない問題が残っていた。

宿儺の指を吸収し、禪院恵の影から現れた魔虚羅を自称する少年。

全員の目が少年へを向けられる。

 

「で……、そっちの白いのが」

 

「禪院影久の十種影宝術の式神、魔虚羅だ」

 

「「「しゃ、しゃべった!?」」」

 

まさか式神が言葉を話すとは思っていなかったのだろう、実際に魔虚羅の現れた場面に居合わせなかったものは面食らった。

 

「400年の間少しずつあっぷでーとを重ねたゆえにな」

 

そう言いながらVサインをする。

思ったより愉快な式神のようだった。

 

「ちなみにこの話し方は禪院影久、主の模倣をしてる」

 

それから魔虚羅は語った。

禪院影久は致命をきっかけとした縛りで呪物化したこと。

禪院家の誰かの影に居候してきたこと。

宿儺の指が投げ入れられ、それを取り込み刺激となって目が覚めたこと。

本来ならもっと目が覚めるまで時間がかかっていたであろうこと。

禪院影久はまだまだ寝ているであろうこと。

そして——

 

「この時代の食べ物が食べたい。他の式神達の分も頼む」

 

と〆たのであった。

直哉が思わず吹き出した。

 

「本当に、手記の通りなんやな」

 




起きちゃった。

今の魔虚羅は


【挿絵表示】


これの右側ですが、この後左にアップデートされることでしょう。
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