戦国転生 4歳から始める十種影法術   作:匿名希望

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誤字脱字報告、ほんとありがとうございます助かります!


極致魔境新宿決戦②

(面倒だ)宿儺の眉間に、僅かな皺が寄っていた。

鹿紫雲の呪力操作があまりにも異常すぎる。

絶縁体での防御は全く間に合っていない、ならばと万の甲虫装甲を纏い、領域展延を重ねた。

しかし呪力特性は展延では防げない、当たり前のことだ。

鹿紫雲の打撃が届くたびに、即座に虫の鎧を部分的に切り離し作り直す。

 

『ねぇ宿儺!こいつうざいんだけど!』

 

「………」

 

慣れた構築先、呪力消費は少ない。

だが術式そのものが呪力効率が悪い以上いつまでも続けられないだろう。

 

宿儺の目が細くなった。

 

「面倒だ。さっさと殺して五条を引き摺り出す」

 

『もうやっちゃうの、はっやーい!』

 

「………」

 

——領域展開『伏魔御廚子』

 

静寂に包まれていた新宿中央通りに、突如として禍々しい「生」の気配が噴出する。

辺り一体が液体で満たされ、その水面はおびただしい数の巨大な牛の頭骨が散乱している。

中心には骨を埋め込まれた巨大な逗子。

 

(来た!宿儺の領域!)

 

術式開放——幻獣琥珀・相——

術式反転——霊胎琥珀——

 

 

 

 

—————————————

 

 

 

 

11月某日、禪院家

 

「扇さんは強いよ、現代だと僕の次に」

 

「それほどの術師か」

 

この日、鹿紫雲は五条に連れられて禪院家へとやってきた。

目的は、現在療養中である禪院扇から、宿儺の領域をいかにして耐え抜いたのか、その詳細を聞くためである。

 

療養中の扇は床に座ったまま、鹿紫雲を見上げた。

 

「宿儺の領域についてか」

 

「ああ」

 

「宿儺の領域は外郭がなかった」

 

「扇さん、それ本当なの?直哉もそんなこと言ってたけど。それなら領域外へ逃げることも簡単そうにじゃない?」

 

五条が当然の疑問を口にした。領域が包まれていないのであればただ移動するだけでいい。

だが扇が静かに否定する。

 

「壁の代わりに、斬撃そのものが結界になっている。どこへ動いても、斬撃がある。あの領域に入った瞬間、世界そのものが刃になる。必中があろうとなかろうと、関係ない確かに移動すれば出られる。移動に力を割いて生き延びることができたらの話になるが」

 

「じゃあお前は留まって、どうやって生き延びた」

 

「禪院家の秘伝『落花の情』」

 

 

 

 

—————————————

 

 

 

 

(『落花の情』は俺と相性がいい!)

 

幻獣琥珀・相を解放した鹿紫雲はあまりにも早すぎる。

宿儺の領域をほぼ無傷で耐え、わずかな傷も霊胎琥珀で即座に治癒される。

燃費にさえ目を瞑れば対伏魔御廚子としては完璧な対策と言えた。

 

逸らして、受けて、塞ぐ。

それを繰り返すだけでいい。

宿儺の領域の中心、逗子の前で鹿紫雲は笑っていた。

 

「あの時の術師と同じか」

 

無意識のうちに宿儺の眉頭がわずかに寄っていた。

 

『ちょっと宿儺、こいつ壊れないんだけど』

 

「……」

 

万の声にも答えない、苛立ちではない。

そうだこれは——調整だ。

自分自身でも気がついていない、小さな言い訳。

 

(出力が足りないわけではない、届いていないだけだ)

「……ならば」

 

すでに展開された生得領域を後から変更する超高等技術。

領域が狭まった。斬撃の密度が変わる。

左右上下、どこへ動いても、世界そのものが刃。

鹿紫雲の体に走る線が増えていく。

 

(さすがだ宿儺、だがそれじゃあ俺はやれねえぞ)

 

逸らす。

逸らす。

逸らす。

袖が裂ける。肩を掠める。腿に線が走る。

それでいい。急所じゃない。

幻獣琥珀・相が肉体の限界を引き上げ続ける。

霊胎琥珀が裂けた箇所を塞いでいく。

 

「………万」

 

『いいわよ!宿儺、頼られてあげる!』

 

顔を虚無へと変えた宿儺。

伏魔御厨子の対処で動けない鹿紫雲。

ご機嫌で構築術式を回し始める万。

 

——構築術式『完全な球体』

 

鹿紫雲の口角が上がった。

—パリッ

 

 

 

 

—————————————

 

 

 

 

12月

 

幻獣琥珀の燃費を改善するべくロスを減らそうとしている鹿紫雲のもとへ影久がやってきた。

側には禪院真依を連れていた。

 

「鹿紫雲、構築術式について知識はあるか?」

 

「あん?燃費が悪いあれか?」

 

「ああ、万は平安の術師だ。使いこなすのが難しい術式もおそらく完全にモノにしてる。……これは理論上だが『真球』という物質がある」

 

影久の真球についてのレクチャー。

完全な球体は理論上接触面積が0で、接触した瞬間圧力が一点へ集中する。

防御してはいけない、受けてもいけない、逸らそうとしても駄目。

 

「当たる前に避ける」しかない。

 

鹿紫雲はそれを聞いて答えを導いた。

 

「避けられない状況になったら真球が来る可能性が高い、ってことだな?」

 

「と、見ている」

 

そこまで言うと影久は連れてきていた真依にもアドバイスを求めた。

 

「さて、そこでだ真依。君に協力してほしい」

 

「平安時代の術者と比較されると困るんですけど、ご先祖様の頼みだし、まあ、手伝いますよ」

 

そう前置きして真依の説明が始まった。

 

「構築って、一瞬で出来上がってるように見えるかもしれないけど、実際は違うんですよ。呪力を組んで、形を維持して、固定して、存在が確定する。その途中で呪力の流れが乱れたら、やり直しになるか、目的とズレたものになっちゃうんです」

 

「つまり、ダメージを与えるほどのものでなくてもいいわけだな」

 

「そうですね、それこそ、静電気みたいなのでも一瞬そっちに気を持ってかれたら、目的通りにものを作ることは難しいです。だから威力よりもタイミングが重要かな?術者の力量があまりにも卓越してたら話は変わってくるかもしれませんけど」

 

そこから鹿紫雲の特訓のステージが一段上がった。

幻獣琥珀+落花の情の最中に、構築術式発動のタイミングに合わせ真依に付加した微弱な電荷で、術式の制御を乱す。

 

ひたすらにこれを繰り返す。

徐々に成功率を高め、そして——

 

 

 

—————————————

 

 

 

「!?」『!?』

 

万本人だけが、違和感を覚えた。

完成するはずだった「点」が、ほんの僅かに歪む。

完全だった球は、完全ではなくなった。

『……違う?』万の瞳が揺れる、構築は成功した、呪力も不足していない。

それなのに「真球」が、「球体」になっている。

 

落花の情はただの球体の存在を許さなかった。

 

『なんで!ちゃんと組んだのに!』

(構築を乱されたか)

 

宿儺は一目で理解した。

(組み上げる途中、ほんの一瞬だけだが術式制御が揺れた)

 

伏魔御廚子が崩壊する。

服はズタボロだが傷はない、呪力はかなり消費したが、五体満足。

 

幻獣琥珀・相を解き、鹿紫雲は笑う。

その掌から小さく火花が散った。

 

「現代じゃあ、こういうのをノイズって言うらしいぜ。構築ってのは繊細なんだとよ。ほんの一瞬、意識をズラせばいい」

 

宿儺は考える。

(五条か?)

いや。違う。

この対策を、一か月で思いつく術師ではない。

まるで元々知っていたかのように、宿儺を分析し、万を分析し、鹿紫雲へ落とし込んだ。

 

羂索が400年前警戒していたという、禪院影久。

 

「魔虚羅とか言う式神といい、つくづく邪魔してくれる」

 

 

 

 

 

 

▫️高専

「……絶縁体、宿儺の領域、それから構築術式。ここまでは対策が全部嵌ってるな」

真希が思わずと言った感じで呟く。

 

 

「あれ全部、事前に答えを知ってるわけじゃない。考えて、試して、失敗して、完成させたんですよね」

乙骨も驚きを隠せない。

 

 

「あの反転術式……完全に戦闘用へ調整されてる。普通なら落花の情だけで神経が持たない。霊胎琥珀があるから成立してる」

家入が医療の目線から語った。

 

 

「ちゃんと成功してよかった。構築の隙間、本当に一瞬だから、実戦だとどうなるか心配だったのよね」

少し嬉しそうな真依。

 

 

「宿儺の領域から構築術式まで防げるのは、今なら僕と鹿紫雲、それに影久くらいかな」

五条、少し間を置いて。

「でも、それでも有利とは言えない」と続けた。

 

 

「ええ、なんか押し切れちゃいそうに見えるけど?」

パンダが疑問を口にした。

 

 

「違う。宿儺は「対策された」だけ。まだ「攻略された」わけじゃない」

五条がパンダに答たところで、ちょうど恵達が帰ってきた。

 

「戻りました」

 

「お、帰ってきた」

「お疲れ」

「来栖さん、大丈夫だった?」

 

来栖が小さく頷いた。

影久が結果を伝える。

 

「天使の術式を試してもらったが、完全に受肉してると呪物を剥がすのはやっぱり難しいな。裏梅は消滅、受肉された器の方は死んでしまった」

 

「そっか、残念だけどしょうがない。で、話の続きだけど、このままだと、鹿紫雲の方が先に限界が来るよ」

 

影久が言葉を継いだ。

 

「そうだな。ここから先は、「宿儺が先に崩れるか」じゃない。「宿儺を崩す一撃を、鹿紫雲が先に通せるか」の勝負になる」

 

 

 

 

 

 

▫️新宿

 

宿儺は鹿紫雲を見据えたまま考える。

(万の肉体では限界か。)

 

四本腕。腹の口。この肉体が持っていない器官だが、構築術式なら再現は可能。

 

「……万」

 

万は一瞬きょとんとしてから、満面の笑みを浮かべた。

『えっ。今、私の名前呼んだ?もしかして?使ってくれるの!?私の術式を!?』

 

にっこにこの笑顔。

宿儺の表情だけが、反対に死んでいく。

 

『やっと!愛ね!!』

(……反吐が出る。)

 

誰にも依らず。誰にも借りず。

己だけで頂点に立ち続けた。

その自分が、他者の術式を、しかも、この女の術式を、自ら使おうとしている。

 

耐え難い屈辱。

 

『もっと頼っていいのよ!宿儺は一人じゃないんだから!』

 

「黙れ。」

 

宿儺の胸奥で、黒い感情が膨れ上がる。

 

怒り。嫌悪。屈辱。

 

その全てが呪力へと変わっていく。

万の術式を通して構築される四本の腕。

 

筋繊維。腱。神経。

 

一本一本が、宿儺自身の認識によって編み直される。

「万が作る」のではない。

「宿儺が知る自分」へと。

負の感情に呼応するように、万の肉体が、

さらに宿儺へ近付いていく。

 

宿儺は知っている、二本腕とは異なる運動、四本腕の神経束を。

腹部の口へ至る神経。

千年前、自分が当然のように持っていた肉体を万の術式で再構築する。

負の感情が呪力へ変わる。

その呪力が、構築精度をさらに押し上げる。

 

『きゃー!すごい!宿儺が私を受け入れてくれてる!』

 

(違う。貴様を利用しているだけだ)

 

しかし、その「利用している」という事実そのものが、宿儺には最大級の屈辱。

だからさらに負の感情が増え、さらに呪力が膨れ上がる。

 

 

——四本の腕が静かに開く。

——腹部の口が笑う。

 

「……それがお前の生前の形か」

 

鹿紫雲は静かに呟く。

宿儺は四本の腕を軽く動かし、その感触を確かめる。

 

「ああ。──待っていて、よかったのか?」

 

その問いには嘲りも怒りもない。

ただ事実だけを告げるような声音だった。

 

「貴様が望んだ姿だ。貴様の勝機はもうない」

 

 

形勢が徐々に傾いていく。

宿儺の体術が四本の腕で振るわれる。

本来の宿儺の肉体に比べれば脆弱な万の肉体がベースとはなっているが、万本人による虫の鎧によって身体能力は底上げされている。

電荷を付与しても即パージして新しいものに変わる。

 

鹿紫雲が再び幻獣琥珀を切った。

100%の幻獣琥珀。崩壊を回避しない。

己の肉体を燃やし尽くす「終着点」。

 

再び天秤が傾いた。新宿を雷光が染める。

そこから先の攻防は、人の目で追えるものではなかった。

虫の鎧を貫いて電荷が蓄積する。

鎧の再構築は意味をなさなくなった。

互いに攻略し、攻略し返す。その応酬の終わり。

 

やがて——

 

雷が落ちる。宿儺の右半身が爆ぜ飛んだ。

腕が砕け、腹部が裂け、万の肉体が大きく傾く。

 

「届いたか」

 

鹿紫雲が静かに息を吐く。

千切れた腕が生え、裂けた腹が閉じ、反転術式が宿儺の肉体を瞬く間に修復していく。

宿儺の口元が、ゆっくりと歪んだ。

 

「終わりだ」

 

御廚子が戻る。

斬撃が空間を埋め尽くし、戦場は近接戦から中距離戦へと姿を変えた。

鹿紫雲はなお前へ出る。

電荷を刻み、雷を狙い、最後の一撃だけを求めて踏み込む。

しかし、四本の腕、二つの口。そして、戻った御廚子。

宿儺はもはや、鹿紫雲が知る宿儺ではなかった。

 

——三重疾苦

 

新宿に響いたその一撃が、戦いの終わりを告げた。

雷が静かに消えていく、幻獣琥珀が解ける。

鹿紫雲一は最後まで笑っていた。

 

「……強ぇな」

 

身体が光となって崩れていく。

宿儺はその姿を数秒見つめ、一度だけ、小さく息を吐いた。

 

「…………戦狂いらしい終わりだ」

 

宿儺がゆっくり視線を上げる。

新宿に、新しい足音が響いた。

 

「やっと僕の番か」

 

——鹿紫雲一の消滅からすぐ、戦地に投入されたのは現代最強の呪術師・五条悟。

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