戦国転生 4歳から始める十種影法術 作:匿名希望
読むときさらにですよね、すいません。
——領域展開「胎蔵遍野」
「領域勝負で私に勝てると?押し合いに自信があるのかな?でもそれは悪手だ」
羂索が笑う。だが徐々にその笑みは引いていった。
目の前に広がった神域には外殻が存在しなかったからだ。
(閉じない……領域。宿儺以外にも?だがそれならば、純粋な押し合いで勝てばいい)
羂索の領域が影久の神域へと触れる。
神域をその内側へと飲み込んだ。
あとは押しつぶすだけ、しかし何も起きない。
(……触れている。なのに押し合わない、なぜだ)
影久の神域と触れ合っている、羂索の領域、その一部が制御から外れた。
最初は神域と触れた境界から墨へ水を垂らしたように、毒水へ清水を流したように。
白が、静かに広がっていく。呪力が白くなる。
結界そのものが、白へ書き換えられていく。
(違う。)
羂索は初めて理解する。
(これは――私の領域が別の理へ。置き換えられている。)
術式を維持する感覚が消えていく。
羂索の指の間から零れる砂のように失われていく。
その時。
「へえ」
影久が少し感心したように呟いた。
「閉じない領域相手だと、こうなるんだ。良かったよ。これなら予定よりも早く終わりそうだ」
その声が羂索には妙に遠く感じられた。膝が折れる。
「……な……」
呪力が流れない。違う。流せない。
思考が遅い。何かを考えるたび、思考そのものが白く漂白されていくようだった。
全部、思い出せない。指一本。動かない。
影久の声だけが聞こえた。
「みんな出てきてくれ。こいつは死ぬと大量の呪霊をばら撒く。逃がさないようにな」
羂索はようやく理解した。自分は。もう。術師ですらない。
(……ぁぁ)
千年積み上げた知識、策、何一つ使えないまま。
世界が……。
爆発するように羂索の体から呪霊が解き放たれる。
が、ほぼ全ての呪霊が円鹿の中和と神域の残り香で消滅。
生き残った特級に相当するような呪霊も式神たちによりに祓われていった。
「悪いね天元、結界修復大変になってしまった。それじゃあ俺は五条のところへ急がせてもらう」
言うや否や影久が薨星宮から飛び出して行った。
天元が頭を抱えてため息をつく。
「羂索相手にこの程度で済んで良かったと思うべきだな」
▫️新宿
無量空処は必殺の領域。
三重疾苦をハックした直後、伏魔御廚子により一瞬で破壊された。
——二重の領域を成立させるためのリソースはあまりにも膨大、そこで宿儺が取った手段は「万の領域を攻撃しないと言う縛り」であり、「領域を成立させる条件」だった。
三重疾苦でもあり無量空処でもある領域を攻撃したことで伏魔御廚子は崩壊。
無量空処が成立する一瞬だけの空白。
万と宿儺に情報が流れ込む。
致命傷ではない、しかし——その様子をみた五条の判断は非常に早かった。
宿儺の一瞬の停滞を見逃さず五条が踏み込んだ。
拳が腹へ深くめり込んだ。宿儺も即座に踏みとどまる。
焼き切れた術式は戻らないが、構築済みの虫の鎧は呪力を流すだけで維持され、四本の腕は変わらず猛威を振るった。
右上の拳を受け流し、左下の掌底を肩で逸らす。続く肘打ちを紙一重でかわした五条は、その懐へ潜り込むように肩をぶつけ、体勢を崩す。
「どうした、宿儺!」
挑発と同時に膝が鳩尾へ突き刺さる。
鎧の上から鈍い衝撃が宿儺の体に通った。
残る腕で五条の腕を絡め取ろうとするが、五条は腰を捻って回避、足払いで軸足を刈った。
「…………」
宿儺は言葉を発さない。いや、発せないのだ。
脳へ流れ込んだ膨大な情報の残滓が、思考の隅にまだまとわりついている。
その僅かな遅れに五条は拳を積み重ねる。
「随分、反応が鈍ってるじゃないか!」
一撃ごとに宿儺の頭が揺れ、反撃は確実に半拍、一拍と遅れていく。
四本腕への対処を身体へ刻み込まれていた五条は、無量空処で処理能力を削られた宿儺を圧倒した。
万が意識を戻す。
その口から宿儺への呼びかけと五条への罵りが続けざまに飛び出す。
『ッ宿儺ぁ!?このくそガキ!』
「ようやくもう一人がお目覚めか?」
万の怒声とともに、宿儺の肉体がわずかに震えた。
その叫びが引き金になったかのように、宿儺の瞳へ焦点が戻る。
五条はその変化を見逃さない。
「──戻ったか」
踏み込み、拳を振り抜くがこれまでのようにはいかなかった。
宿儺の四本の腕が、それぞれ独立した意思を持つように動く。二本が拳を受け止め、一本が五条の肘を押さえ、残る一本が胴を狙って突き出された。
五条は身を捻って離脱する。
両者の間合いが、一瞬だけ開いた。
その刹那、宿儺の口元がわずかに吊り上がる。
「……貴様の領域、本当に厄介だな」
万がこれほど短時間で目を覚ますことができたのは、肉体を操作している宿儺により負荷が偏っていたからだった。
およそ数分、朦朧とした意識で五条の攻撃を何とか凌いでいた。
そしていま、無量空処の残滓は消えた。
思考は完全に噛み合い、呪力の巡りも淀みなく流れ始める。
ほぼ同時に、五条もその感覚を捉えていた。
三人の焼き切れていた術式が、戻る。
—————————————
▫️高専
「すげえ!あの二重の領域を凌いだ」
誰かが、思わず叫ぶ。
高専側の観戦室の張り詰めた沈黙が歓声で満ちた。
宿儺の領域に、万の領域を内包させるという想定外の一手。
その必殺の布陣を、五条は事前の備えだけで切り崩してみせた。
「しかも……無量空処をまともに展開したわけじゃない。あの一瞬だけ通した。それで宿儺の領域を崩したんだ」
モニタでは格闘戦になり、短時間ではあるが無量空処を受けた宿儺の動きが明らかに鈍っている。
いける!誰しもがそう思っていた。その空気を崩したのは、日下部だった。
「……いや、まだだ」
宿儺と五条が同時に距離を取った。
「術式が戻る!」
伏魔御廚子と無量空処。
宿儺の閉じない領域の中に浮かぶ五条の領域。
先ほどとは違い、外殻を攻撃され始める五条の領域。
「何で、壊れないんだ?」
「……内側と外側の条件を逆転させてる、のか?」
「でも、どれだけ領域を持たせても、中の戦いで勝たなきゃ意味がない」
「無量空処が壊されるまでがタイムリミット」
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▫️領域内
『今度は私は領域は使わない、でいいのよね』
「ああ、二重に領域を維持する意味はない。あの小僧に条件を崩される。同じ手は使わん」
宿儺は伏魔御廚子の維持と格闘戦のみに意識を割く。
万は構築術式で編み上げた虫の鎧へ絶えず呪力を巡らせ、その強度を保ちながら宿儺の動きを阻害しないよう補助へ徹する。
それだけでいい、時間は宿儺に味方する。
伏魔御廚子が無量空処を破壊した時、必中の斬撃を防ぐ手段はもうない。
宿儺は静かに一歩退いた。
五条が踏み込み、拳が頬を掠める。
半身を引き、四本の腕を盾のように並べて衝撃を受け流す。そのまま後方へ滑るように距離を取った。
五条の眉がわずかに動いた。
再び踏み込み右の拳、左の蹴り、体当たりへ繋げる連撃。
宿儺は二本の腕で拳を逸らし、一本で肩を押し返し、残る一本で地を突いて姿勢を立て直すと、そのまま横へ流れた。
決して打ち合わない。五条が追い、宿儺は逃げる。
領域の内側を円を描くように、一定の距離を保ったまま動き続ける。
五条は口元を吊り上げる。
「おいおい、何だ。呪いの王ともあろうものが、逃げ回ってばっかですかぁ?」
挑発にも乗らない宿儺に対し、五条が捨て身に近い形で踏み込んだ。
その瞬間四本の腕が一斉に動いた。
防戦に徹し五条の攻撃を捌いた宿儺が、五条の胸を突いて間合いを切る。
それ以上は追わない、今のあからさまなチャンスにすら。再び後退する。
(……やはり、そうきたか)
五条は追う足を止めなかった。
だが、その青い瞳は宿儺ではなく、領域の外殻へ一瞬だけ向く。
宿儺は勝とうとしているのではない。
耐えている。
外側では今も伏魔御廚子が、無量空処を削り続けている。
その時だった。
五条の六眼が、世界の呪力の流れに走った揺らぎを捉える。
(……始まった)
事前に影久から聞かされていた神域が生じさせる天元の理の揺らぎ。
影久と羂索との戦闘、五条の口元が僅かに緩む。
(時間稼ぎ、それはこっちもなんだよ)
—————————————
——12月下旬
「宿儺と万が二重の領域を使ってきたときの対策はいいとして、宿儺の領域の中で僕が領域を展開するじゃん。そうなった時はどうしたらいいと思う?」
影久は少し考えたあと答える。
「……はっきり言うと、かなり厳しい戦いになる。無量空処の外郭を強化して、内と外の条件を逆転させたとしても、無量空処が破壊されるまでに、領域を維持できなくさせるほどのダメージを与えるのはかなり難しいだろうな」
「およそ三分くらいがリミットになるだろう」と影久が続けた。
五条が噴き出した。
「なにそれ、まあ三分ってのがどこから来たのか一旦置いとくとして」
「ああ、問題はその後だな。無量空処が壊れた瞬間宿儺の領域のど真ん中にいるわけだ」
「……じゃあ壊されると同時に、こっちから消えればいいんじゃない?」
五条の作戦は、無量空処の破壊直前に蒼と赤で吹っ飛ぶ。
慣性の法則で移動しながら、無量空処を解除、宿儺の領域外まで逃げ切る、だった。
「……羂索を殺した後、すぐに向かうつもりだ。君が宿儺と戦闘を始めれば、その勝ち負けに限らず、天元を取り込むチャンスだと捉えるはず」
「わかってる、羂索がすぐ動かなかった場合は相当危険ってことだね」
「羂索相手に神域を使えば六眼ならすぐ気付く、特に薨星宮での戦いになれば天元の結界の根本が揺らぐからな」
「じゃあ、それが確認できたら?」
「羂索と戦いが始まったと思っていい」
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「じゃ、あとはよろしく!」
無量空処の破壊直前、宿儺の目の間から一瞬で五条が消えさった。
無量空処が解除される。破壊ではない、解除。
「………」
宿儺は遥か彼方へ吹き飛ぶ五条を見送る。
逃げたと、そう判断するには、五条悟という男を知りすぎていた。
領域を解除する。
「……何を企んでいる」
万も口を開く。
『追う?』
宿儺は答えない。
五条悟が勝敗を捨てて退く?そんな選択をする男ではない。
ならば、この離脱そのものが布石。
「……来るな」
その時、宿儺の足元へ巨大な影が落ちる。
晴天だった新宿が、一瞬だけ陰る。
宿儺がゆっくり視線を上げた。
そして——
「そうか、お前が禪院影久か」
白い式神と共に影久が戦場へ降り立つ。