薄桜鬼〜今弁慶の一生〜 作:桜好き
「ぶえっくしょんっ!! おお、
肌寒い冷気が漂う朝。忠司は風通しの良い廊下にある部屋の前に胡坐を掻いている。彼の後ろの部屋には前の晩、土方達が捕えた一人の少女が捕えられている。そのため彼は彼女が逃げ出さないように見張っているのだ。
「あかん寒すぎるわ、こないな時は熱燗でぇ一杯やってはよ眠りたいな」
酒を飲む仕草をしながら溜息をしていると部屋の中ら人の動く気配がし始めた。
「何や、やっと起きよったか」
立ち上がった忠司は襖を開けようとすると。
「全部、悪い夢なら良かったのにな……はぁー」
そんな彼女の呟きが溜息と共に聞こえてきた。忠司はふっと笑うと勢いよく襖を開けた。
―――――――
「……ん……ここは?」
私が目を覚ますとそこは見慣れない部屋だった。まだ寝ぼけている頭を傾げていると、唐突に昨夜の出来事を思い出した。
「そうだ、私……」
ぐるぐると縛り上げられ芋虫のように畳の上で眠りながら私はため息を吐く。
叶うならいつもみたいに暖かく柔らかい布団の中で目覚めたかったな。それに昨夜、出会った人たちのことを考えれば不安がぬぐえない。
「あの人たちってやっぱり……【新選組】だよね」
どうしよう、さきからため息が止まらない。ほんとにこれが。
「全部、悪い夢だったら良かったのにな……はぁー」
「残念、これは夢とちゃうで」
「っ!」
勢いよく開けられた襖の音と話しかけられて私の体は大きく跳ね上がった。恐る恐る振り返れば総髪に眼鏡をかけた大男が顔を出していた。
私が何も言えずいると。
「何、呆けた顔しとる。自分、挨拶も出けぇへんのか」
「え、……あの……おはようございます」
「はい、おはようさん」
私と朝の挨拶を交わしたその人は、松原と名乗った。
「ちょ待っててくれな、今解くからな」
松原さんは笑いながら、ぐるぐる巻きにした縄を解いてくれる。……まあ、手の縄は解いてくれなかったけど。
それでも縄を解いてくれたことに、私がありがとうございますと礼を言うと松原さんは一瞬驚いた顔をすると何故か吹き出し笑い出した。
その様子に私がおろおろし始めると。
「す、すまんすまん。ははっ…………自分、ようお人好しってかいわれへんか」
「え~と」
私が返答に困っている間も肩を振るわせる松原さん。
ようやく落ち着いたの、目にたまった涙をふき取ると松原さんは一回咳払いをすると、私の方を向いた。
「さて、ちょっと来てもらうか」
「え?」
「土方さんに自分が起きよったら連れて来い頼まれとるからな。ああ、間違っても逃げよう何て思うなや、逃げたらバッサリ斬っちまうからな」
松原さんの斬ると言う言葉に私は息が止まりそうになる。
そうだ、どんなに人が好さそうでもこの人は新選組の人なんだ。
「あの、行くってどこに」
「ああ、今朝から幹部連中が自分について話しおうてるんやけど……自分が一体何をみたのか直接確かめたいって土方さんがな」
「……わかりました」
私はうなずくと、立ち上がろうとするがよろけてうまく立ち上がれない。そんな私を見かねて松原さんが手を貸してくれた。
「ありがとうございます」
「別にええ。やけど……われ軽すぎるぞ、ちゃんと食ってんのか。……って、そんなん、ワイがゆうのもお門違いやな」
すまんなと苦笑を浮かべる松原さん。
……思ってるより優しい人なのかな。
「殺すかもしれへん相手ぇを心配してもしゃあないもんな」
……、…………全然優しくなんかなかった!
「ほな行こか」
そう言って松原さんが部屋をで出ていく。これから私はどうなるのか考え、もう一度ため息を吐いた。
―――――――
松原さんの後をついて屋敷の中を歩いていると。
「むぐっ」
「なんや、ちゃんと前見て歩かんか」
「す、すみません……」
きょろきょろと屋敷の中を見ていた私は立ち止まった松原さんに気づかず、その背中にぶつかってしまった。
すぐ様頭を下げるが、松原さんは気にしていないようだ。それにどうやら目的の部屋のに着いたようだ。松原さんは部屋の中に向かって話しかけた。
「土方さん、あいつ起きよったから連れてきたぞ」
「ご苦労。忠司、もう下がっていいぞ。ゆっくり休め」
「ほんなら、そないさせて貰いますわ」
部屋の中から聞こえてきたこの声って……確か。
――動くなよ……動けば斬る――
「あっ!」
「ん? どないした?」
「い、いえ、大丈夫です」
そうだ、この声。昨夜私に刀を向けた人だ。
頭に昨夜の恐怖が思い出せれる。
「自分、大丈夫か? 顔色あかんぞ?」
気づかないうちに顔色が悪くなっていたのか。私を心配するように声をかけてくる松原さん。
私は強張った顔で笑顔を作ると、大丈夫ですと答えた。
「さよか? やったらはよ中に入りな。皆待ってるからな」
そう言ってその場を立ち去ろうとする松原さんを、私は慌てて引き止めた。
「なんや」
「いや! 松原さんも一緒じゃないんですか!?」
「そりゃ、わいは幹部ちゃうからな、会議には出へん……それにもう眠くて眠くてしゃーないわ」
欠伸をする松原さんを見て、知らず知らずの内にそんなと呟いていた。部屋の中からは入れと言ってくるしどうすればいいのかと考えていれば、松原さんは指で鬼の角のような形を作り、私と視線を合わせるように腰を下げてくれた。
「それにな、はよ入らんと、鬼より怖い副長様に食われちまうぞ」
「忠司っ!!」
「怖い怖い……まっ、そないな心配してもなる様にしかならへんからな。頑張れや」
「わっ!」
そう言い残し、私の頭を乱暴に撫でると今度こそ松原さんは去って行った。
――――――――
少女を連れ、役目を終えた忠司は自分の部屋に帰りながら腕を組んで考え事をしていた。
「せやけどどないするか、ちょっと子にはおんゆうたが結構目ぇが冴えてきよったからな」
う~んと更に深く唸る忠司。
「無理矢理にでも寝るか?……あ~そない言えば酒がまだ残ってたな」
酒でも寝るかとも思うが寝ないと今夜がきついなと考えていると、どうやら自分の部屋に着いたようだ。
「しゃあない。部屋ん中で考えるか」
そう言って忠司は自分の部屋の中に入った。