薄桜鬼〜今弁慶の一生〜 作:桜好き
結局、目が覚めてしまい部屋で酒を飲むことにした松原は、今は勝手場をあさくって酒とその肴に合うものを探していた。
「あかんな、源さん。酒、どこにしもたんや?」
ここでもない、と唸りながら松原は酒を探しているとドタバタと足音が近づき、勝手場に勢いよく足音の主が入って来た。
「あ、忠さん! なにやってんの、そんなとこで?」
「何や平助か」
勝手場に入って来たのは、まだ少年だと言われても納得できる幼さを残した青年、藤堂平助だった。
無邪気な笑顔の平助を一瞥すると再び酒探しに没頭する。
「ちょっ、ちょっと! なんだよその反応!」
「やかましいぞ! ぎゃやぎゃやおがるな! 」
「いやいや、忠さん俺、一応四番組組長なんですけど!?」
松原に詰め寄る平助は、新撰組の最年少組長なのだが。
「ワイよりチビな奴を組長っては認めへん」
「はあっ!? んだよそれ! 意味分かんないですけど!」
喚き散らす平助を冷たくあしらいながら酒を探していると。
「さっきからうっせーぞ平助!」
「静かにしねーと土方さん達にどやされるぞ……って、忠司じゃねえか、お前まで何してんだよ」
「しんぱ……永倉組長に原田組長。いやなに、寝つきが悪かったもんでぇ酒でも呑もうかって思いまして」
勝手場に入って来た二人の男。一人は新選組二番組組長、永倉新八。新選組一の剣の使い手と言われているほどの男だ。
「おいおい、んな畏まるような間柄じゃねえだろう俺たち? いつも通りにしてくれって」
「さよか、やったら新八。こないだの飲み代さっさって払ってくれなあか。ほんで、今迄の飲み代ぜええんぶひとつのこらず耳揃えて払ってくれ」
「えっ!!? いや〜あの……すまん!! もう少し!もう少しだけまってくれ!」
「たく、何やってんだ。みっともねぇ」
両手を合わせて必死に頭を下げる新八を、呆れるように見ている男は新選組十番組組長、原田左之助。槍の名手である。
「いや、でもよ左之」
「でも、じゃねぇよ。新八、お前は一応組長何だから、もうちっとしっかりしろよ」
「うっ」
「新八っつぁん、怒られてやんの!」
「お前もだ平助。お前はもう少し落ち着きやがれ」
「ぐっ」
注意されていた新八をからかった平助も、左之に注意され肩を落とした。そんな三人を忠司が笑いながら見ていると、左之が急に忠司の方を振り向いた。
「お前もあんまりこいつらをからかうな。図体だけはでけぇ癖に頭ん中はガキなんだからよ」
「すまんな、馬鹿共からかうのは楽しくてしゃあなくてな」
「んだと、左之!」
「忠さん、ヒデェ!」
今度は四人で暫く騒いでいると、勝手場に眉間に皺を寄せた斎藤がやって来た。
「これは一体何の騒ぎだ」
「一くん、聞いてくれよ。左之さんと忠さんが……」
ぞくぞくと人が集まって来る様に、眠気が吹き飛んでしまった忠司。こんだけ騒げば、そのうち土方さんも来るんじゃないか、見つかったら不味くね、この状況、なんてことを考えていると。
「すみませーん! 誰かいませんかー!」
勝手場まで響いてきたその声に、今まで騒いでいた連中も一気に静かになり、声のした方に皆顔を向けていた。
「なぁ、今の声って」
「ああ、今朝の子だろ」
「なんかワイたちの事を呼んでぇへんか」
「はっ! なかなか肝の据わった小僧じゃねぇか」
「へへ、確かにな!」
「小僧……ねぇ」
「…………」
関心したような新八と平助を尻目に、神妙な顔をする左之と静かに目を閉じている斎藤が目に入った忠司は首を傾げた。
(?……もしかして、こん二人)
自分と同じ事を考えているのではないか、そんな考えが浮かんだ忠司だったが。「行くか!」と大声を上げ、勝手場を出て行った新八に呆然としてしまった。
「ちょっ、待ってくれよ新八っつぁん! 俺も行くって!」
「新八、平助、廊下は走るものではない」
一人先に飛び出した新八を追いかけるように、平助と斎藤も勝手場から出て行き、左之と忠司、二人だけが勝手場に残されてしまった。
「たく……新八も平助もさっき言ったこと、もう忘れちまったのか?」
「あの二人は脳みそまで筋肉で出来てるんやろ」
「ははっ、ちげぇねぇ」
二人して笑うと、忠司はさっき考えたことを、左之にぶつけてみた。
「なぁ、左之」
「ん? なんだ忠司」
「お前、あの子のことどない思う」
「どうしたんだよ、急に」
「いやな、年端もいかん小娘が男装しとるのがちょっと気になってな」
忠司の言葉に少し驚いた様子の左之。
「なんだ、お前は気付いてたのか」
「やっぱ、ワレも気付いとったか……ちょい待ち、お前はってことか」
「ああ、平助と新八はまるっきり気付いてねぇ」
「さよか」
二人とも頭を抱えながら深いため息を吐く。
「じゃあ、ワイらも行かんとあかんな。あん二人に任せるのも心配や」
「まあ、斎藤の奴もいるから、何とかなると思うがな」
「しかし、あん二人には常に気を張れとは言わんが、もう少し何とかならへんかなぁ」
「まあ、無理だろうな」
「せやな」
再びため息を吐いた二人は勝手場を後にし、自分達を呼んでいる者の部屋へと向かった。