薄桜鬼〜今弁慶の一生〜 作:桜好き
三人に遅れるように部屋に辿り着く忠司と左之。二人が辿り着いた時は、どうやら部屋の少女と話し始めた所だった。
何の話しをしているのか気になって、三人の間から顔を覗かせると部屋の主は不安げな表情をしながら、斎藤、平助、新八、左之の顔を覗いている。
最初は忠司の存在に気づいていなかったが、ふと目を上げた時に二人の目が合った。
「…………」
「…………」
「…………二〜〜!」
「ひっ!?」
不安を和らげようと飛び切りの笑顔を見せた忠司だったが、少女は恐ろしいものを見たような顔をして、数歩後退り目元を潤ませている。
少女の様子に傷付いた顔を見せていると、肩に手を置かれた。
「平助」
「駄目だって忠さん。只でさえ厳つい顔してんのに、そんな顔にされた誰だってびびっちまうって!」
「平助! 誰の顔が厳つくて無愛想で崩れとるって!」
「ぎゃあぁあぁぁああ!」
平助の頭を絞め上げる忠司を見て、更に怯える少女の目からは涙が溢れそうになっている。
それを見かねた左之は、二人を止めると斎藤と二人で目の前の少女を落ち着かせていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
暫くして、落ち着いた少女は一息吐いて忠司達を呼んだ訳話し始めた。どうやら話しを聞いて欲しいようなのだが。いかんせん彼女は新選組の闇の部分を見てしまったからには、例えどんな事情であってもそれを汲んでやる事は難しだろう。
その旨を淡々と説明する斎藤の言葉に表情を暗くする少女。そして追い討ちをかけるように覚悟を決めろと言い出す平助、新八、左之の三人。……若干二名は彼女を男と勘違いしているようだが。
まあ、ほぼ冗談で言っているようなものなので忠司もそれに乗るように話し始めた。
「まあ、心配しぃな。ワイらは腕は良いから、痛い思いはさせんとさっぱり逝かせてやるから安心せぇ」
「…………」
少女は俯き肩を震わせている。少し怖がらせ過ぎたなと思い忠司は話しかけようとすると。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「分かりました」
「はっ?」
「逃げも隠れもしません。好きにして下さい」
「いや、えーと、あれ、えーー」
忠司が話しかけようとすると、少女はその言葉とともに畳の上に正座をすると真っ直ぐと此方を見つめている。その目はやけくそになったものではなく、覚悟を決めた者の目をしていた。
忠司が動揺して何も出来ずにいると、後ろから左之が出てくる。少女の前に立つ。何か嫌な予感がしたのか忠司も左之の隣に立つ。
「じゃあ、何か言い残すことはあるか」
「ちょ、おい左之! ワレ何をゆってんんや!」
「いいから……ほら、さっき、話を聞けって言ってたよな」
「……もういいんです」
少女の言葉に今度はこの場に居る人間、全員が意外そうな顔を浮かべた。
「何を言っても無駄だってわかりましたから。そちらの……松原さんが言った通り、痛い思いをさせずに殺して下さい」
「……分かった」
言葉では強気に出ているが、体は小さく震え、閉じた両目には涙が薄っすらと浮かび、膝の上で両手を握りしめている。
左之が微笑みながら、腰の刀を抜こうとした時。斎藤が落ち着いた声で後ろから制止した。
制止の言葉に数秒の間を置くと苦笑を浮かべた。
「分かってるって、少しからかっただけだよ……だからよ忠司、この手、離してくんねえか」
「え……」
少女が目を薄く開くと、刀を抜こうとしている左之の手を掴んでいる忠司の姿があった。ついさっき斬り捨てると言った当の本人が、まさか自分を庇っていると思わず、少女は間の抜けた声を出していると、厳しい目をしながら左之の手を離した。
「左之……ワイ、そないな冗談は好きやない、気を付けろ」
「悪かったよ」
「ワイにやなくてそん子に謝り」
忠司から言われた左之は「確かにな」と呟くと、腰を下ろし少女の視線の高さに合わせると「すまねぇ」なと言いながら笑みを浮かべた。
その様子に満足したのか、忠司もまた笑顔を浮かべた。
「堪忍な嬢ちゃん。悪気は無かったんや……やけど、あそこまで度胸があるとは思わんかったわ」
「ああ、こんな度胸があるいい女、みすみす殺しちまうのは勿体無いな」
「……え?」
「は?」
「……女?」
「はぁ……」
忠司と左之の言葉に目を見開く少女。そして背後からは間の抜けた声が二つに、呆れを感じる溜息が聞こえた。
少女が口を開こうとするのを遮るように忠司は振り返ると。
「斎藤、ワレはそん二人連れて局長と幹部連中を部屋に集めておいてくれや……詳しく事情を聞かなあかんやろ」
「分かった……新八、平助行くぞ」
「ちょっと待てって斎藤、え、女ぁ?」
「そんなことはどうでも良い、行くぞ」
「いやいやいや!? どうでも良くないから! てか、一くん、なんでそんなに落ち着いてんの!」
「……ええから、さっさ行けやっーー!?」
ぎゃあぎゃあ喚きだした平助と新八を叫んで追い出すと、斎藤も二人を追いかけるように出て行くのを見送ると、忠司は勢いよくふすまを閉めた。
「たく……あん二人はどなあしよもないな、って、何や、どないしたん?」
忠司が振り返ると苦笑を浮かべる左之の背後に、隠れている少女がいた。
「なんで、隠れるんや」
「そりゃあ、お前、その風体であんな叫べば女は誰だって怯えちまうだろうが」
「それもそうやな……すまんかったな嬢ちゃん、怖がらせちまったな」
「い、いえ……それより原田さん、松原さん、私が女だって気付いていたんですか?」
「まあ、確信はなかったからカマかけてみたんだけどな」
「ワイもそうやないかなとは思っとたっんやけどな」
忠司と左之が顔を見合わせて笑っていると、左之は少女の頭を優しく撫でると視線を向けた。
「身の安全を全部保証するとは言えねえが、悪いようにはしねえから、何でそんな格好をしてんのか教えてくれよ」
な、と笑いかけると、少女は少しだけ安心したような顔をしてコクリと頷いた。
その様子を見ていた忠司は。
「あーあ、これだから色男は」
「妬くなよ、忠司」
「妬いとらんわっ!!」