薄桜鬼〜今弁慶の一生〜 作:桜好き
再び部屋に集められた幹部達は、件の少女の話を聞いている。幹部ではない忠司は、部屋には立ち入りはしなかったが、事情を知っていることもあり、廊下で誰も来ないように見張りをしていた。
時折聞こえてくる会話から、どうやら彼女の性別を知った幹部達の反応は様々で、中には半信半疑である者も居て、彼女の性別を服を脱がして確かめようとまで言いだす者も居たが、局長の近藤勇が慌てて抗議していた。
殺す殺さないだの物騒な話も聞こえて来たが、何とか話しが進み始めた。
忠司に聞こえて来た話しはこうだ。彼女の名は千鶴といい、もともとの住まいは江戸にあるそうだ。連絡の途絶えた父親を探しにこの京に来たようだ。男装をしているのは何かと物騒な京の町で、女の一人旅は危ないと思ったからだようだ。
(なるほどな、しかし運の悪い奴やな、父親を探しに来て羅刹に関わっちまうとはな)
そんなことを思いながら話しを聞いていると、近藤が彼女の父親の名前を聞いた。
「はい、父様は、雪村綱道という蘭方医でーー」
(……綱道……やと!)
彼女の口から出て来た名前に、大声を出しそうになる忠司だったが、何とか押し止まり、先程より集中して会話に耳を傾けた。
其処からは早かった。土方達は千鶴に、綱道が幕命を受けた新選組の協力者なのだが、今は行方が知れないこと。幕府を良く思わない者たちが、綱道に目をつけた可能性があることを説明していた。
それからの話し合いの結果、綱道探しに彼女も協力することになったようだ。そして話しは彼女のこれからの処遇の話しになってきたのだが、総長である山南敬助と土方の会話に不穏な空気を忠司は感じていた。
「彼女の処遇は慎重に考えなければいけませんね」
「なら、誰かの小姓にすりゃいいんじゃねえか? 忠司の奴なら面倒見も……」
「ちょい待ちー!?」
会話の中に自分の名前が出て来た忠司は、勢いよく部屋の扉を開けた。一瞬、部屋の中が静かになったが、いち早く我を取り戻した土方が忠司を睨みつけた。
「大声で入ってくんじゃねえよ! 他の隊士が集まって来たらどう責任取るってんだ、ああ!?」
「いやいや、ここで抗議せな何や面倒くさいこと押しつけられそうでぇな……ワイは嫌やで! 小姓なんていらんわ! なんでんかんでんワイに押しつけんといてくれや!」
「そうですよ土方さん。こういう時は言い出しっぺが責任を取らなくちゃ」
「ああ、トシのそばなら安心だ!」
「そういう事ですから、宜しくお願いしますね土方君」
思い掛けない所から、助け舟が出た忠司は安堵の表情を浮かべ、土方は苦虫を潰した表情をしていた。
忠司が土方に追い打ちを掛けようとすると、沖田が意地悪そうな笑顔を浮かべながら忠司に話しかけた。
「それに忠司さんに任せたらその子、心労で倒れちゃいますよ」
「えっ……」
沖田のその言葉に忠司は笑みを凍らせた。確かに彼女を見ると脅えた表情を浮かべていた。声を掛けると更に脅えてしまった。千鶴に理由を問い詰めようと忠司が彼女に近づこうとした時、土方が小さく溜息を吐いた。
「忠司、今日の所はそいつを部屋に戻して、てめえが監視してろ。いいな」
「はあっ、何でや!」
「うるせえっ! 副長命令だ! さっさと行けっ!」
「横暴や……」
肩を落とした忠司は、千鶴の方を見た。
「何しとんや? 早よ立ち」
「え……あ、は、はい!」
忠司に言われ、直ぐ様に立ち上がる。それを見た忠司は「行くで」と言って部屋を後にし、千鶴はその後ろを追いかけるように部屋を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「………………」
「………………」
部屋を出た忠司と千鶴の間には、気まずい空気が流れていた。お互い喋る事なくただ部屋に向かっていたが、部屋の襖の前に辿り着いた時。
「なあ……」
「……っ!……は、はい」
沈黙を破るように忠司が話しかけると、千鶴はビクッと体を震わせながら忠司を見た。千鶴の視線の先には、眉間に皺を寄せた表情をした忠司が明後日の方向を見ながら頭を掻いていた。
そんな忠司を恐る恐る千鶴が見ていると、意を決したように千鶴の方を見た。
「嬢ちゃん……ワイ、何かしたか?」
「え?」
「さっきから凄い脅えとる様やし、確かに出会いは最高とは言われんし、その後もなんやかんや脅えさせる事も言うた。せやけど、そこまで怯えられると流石にワイも傷つくわ」
「す、すみません、私……」
忠司の言葉に慌てて頭を下げる千鶴。その姿に忠司もまた慌てながら千鶴に頭を上げるように言った。
「ええんや、ええんや。嬢ちゃんの態度が普通なんやからな」
「でも……」
「まあ、今日は色んな事があったやろうし、部屋でゆっくり休み。ワイは外におるから何かあったら言いや」
そう言って襖を開け千鶴を部屋の中に入れ、襖を閉めようとした時。不安そうな顔をした千鶴の顔が忠司の目に入った。
忠司が少し考えるとすまんな、と小さく呟き、千鶴の頭に手を添えた。それに驚いたように目を見開いて千鶴は忠司の方を見上げた。
「不安な事もあるやろうし、ワイの事も信用出来んのも分かるわ。やけど、命令も無しにワイは人は斬らん」
「松原さん」
「信用しろとか、心を許せ、何て事は言わんわ。せやけど、新選組隊士は命令を必ず守る。土方さんは……副長は、嬢ちゃんを監視せえて言うた。ちゅうことわや、嬢ちゃんを守れ言うことと同じや」
だからそれだけは信じてくれーー。そう言いながら千鶴の頭を優しく撫でると、笑みを浮かべながら部屋の襖を閉じたのだった。