薄桜鬼〜今弁慶の一生〜 作:桜好き
文久四年一月、新選組が永らく捜索していた蘭方医、雪村綱道。その娘と名乗った男装の少女、雪村千鶴が父の行方を捜しに京の町に現れた。
成り行き上彼女を捉えることになった新選組は、雪村綱道捜索の手掛かりになると判断し、彼女の性別を男と偽り新選組で保護することになった。
その処遇が決まった翌日、屯所内の一室で忠司は、その部屋の主である鬼の副長こと、土方歳三と話し込んでいた。
◇◇◆
「ほな、あん子は土方さん付きの小姓ってことでええんやな」
「そうだ。不本意だがな……何が可笑しいんだ忠司?」
部屋にある火鉢に手をかざしながら忠司は土方と会話していた。帰ってくる返答は、土方の機嫌が悪いのか素っ気なく、机に向かって仕事をしていて忠司の方を振り返りもしない。
書をしたためている土方の後ろ姿を見て忠司は、眉間に皺を寄せて険しい目つきになっている土方の姿を想像してにやけている。すると土方は、振り返ることなく低い声で忠司に怒った。
「いやいや、何も可笑しいことありまへんて」
「そもそもテメェが余計なことを言わなきゃ、こんな面倒くさいことにはならなかったんだ」
「だからそら、何度も謝ったやないですか! それにワイが何も言わんでも総司が何やかんや言うて、土方さんに押し付けたはずや」
「たく……否定できねえとこが嫌になる」
土方と忠司の頭には、無邪気に笑う沖田の姿が浮かんでいた。その想像に土方は深い溜息を吐き、忠司は一層その笑みを深くしている。
「たくっ、なっちまったもんは仕方ねえ。それよりも忠司、お前には……」
「あん子の監視しろ言うんやろ? 分かっとりますけど、あん子は幹部待遇で?」
「そうだ」
「せやけど事情を知らん隊士がほとんどや。なんぼ副長付きの小姓や言うてもたかが小姓、それがいきなり幹部待遇ってゆうたら……」
「隊士からの不満が出るか」
忠司の考えを読んだのか土方は筆を止める事なく、忠司の話しを遮った。
「だから隊士連中との接触が極力ない様に、お前を含めた事情を知る幹部たちで交代で監視するが」
「が? がって何や、ごっつ嫌な予感するんやけど」
「基本はお前が監視していろ」
「やっぱり! そないな気がしたんや!」
がっつり項垂れながら深い溜息を吐く忠司。そんな忠司に構わず土方は更に話しを続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◇
あらかた話しを終えた忠司は、立ち上がり背を伸ばし首を数回鳴らすと、まだ仕事をしている土方に向かって話しかけた。
「ほな、ワイは戻るさかい」
「ああ、ご苦労だったな」
仕事をしながら一切振り返る様子のない土方に苦笑しながら、襖を開けて外に出たが再び襖を開け、顔だけを覗かせた忠司は。
「土方さん」
「ん? 何だ忠司、まだ何か……」
「とこん詰め過ぎると禿げるで……綱道みたいに」
目を大きく見開いたまま土方が振り返ると、既に忠司の姿は無かった。
そのすぐ後、「忠司ぃっ!」と叫ぶ土方の怒声が屯所中に響き渡り、新米隊士達を震えあがらせたのはまた別のお話。
次も遅くなるかも