最強魔法使い若作りアマロロおばさん(41)の幼児?退行?   作:秘密の豚園

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第3話 チュー!?交渉!?買い出し!?新たな敵!?

 

 

 

 舌子(したこ)鼻子(はなこ)を戻して、一人で軽い食事を終えた後。先輩の寝息と、囁くような音量の情報番組をバックに、僕は、目目子(めめこ)の膝の上で横になっていた。

 

 姦しい(かしましい)二人はもういない。そして、今、僕の目の前には、光も情景もない。それでも、腹の底まで響くような低い呼吸音と、甘く汗ばんだ体臭が、彼女の存在を誇示していた。

 

「…リチャ…。…甘えん坊…。…せっかく【()()】がいるのに…。…貴方は内向き…。」

唾液の纏った口が開いた音がする。2m20cmの巨躯が愛おしそうに僕の顔を覗き込んでいる情景が浮かぶ。でも、僕に呆れたようなそんな声を出すお前が、内心で悦んでるのは、僕が一番分かっている。

 

「先輩は寝てるし、別に良いだろ。てかさ、お腹減ってるとか言ってたくせに、あの人、ご飯も食べずに寝ちゃったよ…。」

 

「…フフ…。」

 

「それに…朝から疲れちゃった…。甘えさせて…。」

僕の言葉は、頬への愛撫で返された。柔く、筋肉の類も、傷もない、湿った水かきのにおいが甘ったるい、そんな手のひらだった。

 

「でも…不健全よ…。…25にもなって…。こんなの赤ちゃんじゃない…。…ダメよ…?」

そう言って、お前は恍惚の顔で僕の顔を撫でているんだろ?

 

「やめなよ、目目子。そんなお為ごかしは。お前の前では、僕は赤ちゃんで良い。それにお前だって、本当は僕を甘やかすの好きだろ?」

僕の言葉に囁くような笑い声が返ってくる。

 

「ンフフフフ…。ええ、好きよ…。でもね、好きでは足りないの…。とても…とっても…とぉっても…だぁい好き…なの…。…一生…こうやっていたいぐらいに…。」

倒錯した母性に、無謬の愛。目目子の姿は顕現中には見えない分、内面や体つきといったステータスには特に力を入れた。

 

「でしょ?そう設計したもの。だから今は甘えさせてよ。…頭がパンクしそうでさ。」

僕は今でも処理しきれていない。先輩の現状に、僕が気づかなかった先輩の好意に。

 

 自分のキャパで問題や情報を処理できない時は、一度リラックスしたいんだ。甘えたいんだ。縋りたいんだ。

 

 鼻子と舌子はもちろん、耳子(みみこ)触子(さわこ)だって愛してる。

 でも、甘えるとなると、やっぱり目目子が一番良い。

 

 それに、目目子を顕現させて産まれる闇は嫌いじゃないし、むしろ好きなんだ。

 

 恒久的ではない暗闇は安心感があって、一時的な欠損で心地よいという理由。

 

 情報が整理しやすくて、それ以外の感覚が過敏になるのが好きという理由。

 

 それに、暗闇の怠惰は、幼い頃の布団の中の安堵を色濃く強く感じられる。

 

「…ねぇ、リチャ…。私の事…好き…?」

僕の思案をかき消すように、一定の抑揚で疑問が耳に届く。

 

「大好きだよ。」

僕は、短く事実を告げた。

 

「フフフ…。ねぇ、いつものアレ…スるゥ?耳舐めとぉ……。」

目目子が言葉を言い切る前に、僕は手のひらをそっと、彼女の方へ向けた

 

「…今はァ…パスかなぁ…。先輩いるしさ。てか、先輩まだ寝てる?」

 

「…あら…そう…?残念…。そして…あの子はぐっすりよ…ぐぅッすり…寝ているわ…。」

 

「そうなんだ。」

 

「そうよ。」

 

「……。」

 

「………。」

 

 気まずさの見当たらない沈黙の後、口の開く粘ついた音が聞こえる。

 

「…ん…あのね…チューの……濃いやつをね…して欲しいの…。リチャと最近…ご無沙汰だったから…。」

荒くなった鼻息が僕の額をくすぐった。使い魔からのねだりが僕の耳を撫でた。

 

 レゾンデートルとして、僕からの愛を享受する使い魔、愛を施す妻。自慰を表す人に似た何か。僕を渇望する感情だって実際は、自由意志のように見えても、僕の範疇の中に過ぎない。造られたプロセスだ。

 

「………………。」

だからこそ、いつもだったらすんなりと受け入れていた提案も、今回だけは少し口をつぐんだ。何故だか分からない。気恥ずかしさなんてない。

 

 でも敢えて言うなら

「先輩もいるし…。……軽いやつね……。」

その行為は裏切りみたいに感じられたから。モラルを言い訳に、妥協を呟き、僕は目目子の膝の上から頭を離した。

 

「………恥ずかしがり屋……。」

 

「恥ずかしくもなるよ。だって人前だよ?」

 

「人前…ねぇ…。…それか……他人との関係に…憧れちゃった…?」

 

「………さ、どうだろ。てか、ほら…そっちが口近づけてくれないと。こっち、今、暗くて分かんないもの。」

 

「……うん……ごめ…。…んむっ…んんッ…んふッ…。」

 

 塩辛い雑味も、粗野なミントの風味もなかった。肌の境がまだ感じられるほどの、各々の境界を知覚できるほどの軽い接吻だった。人肌で温められたさらりとした唾液が、僕の唇を濡らす。

 

「ん…。」

僕は自身の唇に舌を沿わせると、口の周りに付いた目目子の唾液を口内にしまい込む。舐めとって、口の中で自身のモノと混ぜ合わせる。

 

「ん…。満足?」

 

「あぁ…。良いッ…。キスが甘じょっぱいのも、生活感を感じられて最高ッ……。そして………喉を鳴らして……。私のモノを飲み込んだと…アピールして…。喉仏を上下させてッ…。」

これじゃあどちらが主か分からない。それでも傷つくプライドなんてものはなかった。それから僕は喉の奥に、混ざったモノを流し込んだ。

 

「んぐッ…。ぷは……。これで良い?」

 

「うんッ!…100恒河沙点ッ…。でもォ、もうちょっと………。」

物惜しそうな彼女の声を制するように、僕は立ち上がる素振りを見せる。

 

「膝枕、ありがとうね。…僕、そろそろやる気だすよ。」

 

「……えぇ…もう消えろって言うのぉ……?ちょっと……早い……。」

 

「まぁまぁ、また会えるじゃないの。んじゃ、またね、大好きだよ。」

別れの際の言葉と共に、次第に僕の瞳に光と情景が映る。ソファの上で眠る先輩、そして自身の膝を枕にして僕を寝かせていた目目子の顔が見える。

 

 名残惜しそうな糸目の巨体が、僕に小さく手を振った。

 

「……うん…、また…呼んでね…私も………だぁいすき…。」

使い魔を戻すその瞬間だけ、捧げたその五感で彼女たちを感じられる。それが猶予時間なのかは分からない。

 

 でも、僕が自身の瞳で目目子の体を捉えられるのは、僕の中に帰す時のこの瞬間だけなんだ。

 

 耳子の声を感じられる一瞬。

 鼻子の香りを感じられる一瞬。

 触子の肌を感じられる一瞬。

 舌子と同じ物を味わって、共有できる一瞬。

 

 僕らが同じものを共有できる、唯一の時間は、1分にも満たない。

 それでもその時間は、彼女たちと同じくらいに愛おしくて、何より慈しむべきものなんだ。

 

 目目子の残滓も消えて、部屋には僕と先輩だけになる。

 

 使い魔ではない他者。これから僕と生きることになる、誰か。

 

 実感は湧かない、責任感はまだ産まれない。

 何から手を付けたらいいかも分からない。

 

 それでも。

「んぐ………ひゅう……すッ…。」

この人を蔑ろにすることだけは、この先ない。そう思えた。

 

 僕は、口の周りを袖で拭うと、ソファの前で小さく座り込んだ。

 

 細身の体に、幼い精神性。変わってしまった中身。あの頃をなぞるように、それでいて新しい先輩を受け入れるように、僕は先輩の頬に手を触れた。

 

「…アンタ…、ホント、変な人ですよ…。」

 

「…んぐ…ひゅい…。」

 

「…あ、そういや()()()()()()…。先輩のホウキ…2本どうなるんだろ…。…ま、いっか…。」

 

「…んじゅぞ…。ん…ひゅ…。じゅ…。」

 

「…あ、唾液が…。………あぁ…はしたない…。人のこと言えないけど………。」

 

「ん…んみゅ………ん~。」

 

「あ〜…。ティッシュ…ティッシュ…。…舌子、出てこい。」

口内に残った醤油の塩味と、味醂の甘みが消えると、背後から生暖かい舌が、僕の首に巻きついた。

 

「ねぇ…。」

いつもより低い声で舌子が唸る。

 

「…な、なんスか?」

 

「…目目子と()()()()シてたよねェ…?…私のこと…焚き付けたかったのォ…?…そぉいうの…ちょッち…妬いちゃうんだけどォ…。」

官能と奔放を主に構成しているからか、舌子は特に【そっちの方面】に話を引き摺る癖がある。泡の粒を纏った舌は僕の首を一周経由して、僕の左手の薬指を舐め回していた。

 

「…ん…、リーちゃんは…私のなのにッ…。私だけのぉッ…。」

 

「寝る前に、チューしてあげるから、今はやめなさいよぉ…。…ティッシュ取ってきて貰える?」

あぁ、薬指がぐっしょり濡れてしまった。先輩のワンピースで拭いておくか。

 

「…良いよォん…。ついでにこの女の世話もちゃんとしてあげるゥ…。べへへへッ…。」

舌子が、甘えた抑揚で答えると、口内に舌を全て収納して、僕の肩に顎を乗せた。

 

「お、いつになく素直じゃない。」

設計した自由さから少しズレた従順さ。

 

 この振る舞い、この雰囲気…。

 

 アレだな…。

 

「今から3時間、唾液飲ませ合い込み、ベロチュー…べへへ…。」

来た。いつもの交渉だ。

 

 スケベ交渉開始ーッ!!

 

 ここでスケベ交渉の仕方の解説をしよう。

 

 僕は【伴侶は5人じゃ足りないか?(ケッコン・ハカバ)】の、つまり使い魔のプロンプトとプログラムを組んだ時、限りなく都合が良くて、僕を愛するように設計したのだ。

 

 そのため、5体は僕を愛し愛されることに報酬系を多く分泌する。したがって、こういった【()()】を僕に良く持ちかける機会がある。交渉は放棄してはいけない、対価は必ず払わなければならない。僕らの間では愛が通貨になる。

 

 お願いだとか、おねだりとの違いは…、雰囲気ッ…慣れッ…そう言うほかない。

 

「今日の22時から24時まで2時間、舌入れあり、唾液飲ませ合いあり。これでどう?」

 

「チッ…。でも良いよ…飲んでやるッ…。その条件もォ、そして夜にリーちゃんの何もかもをォ…。」

舌子は、僕の肩から顎を離すと、おもむろにティッシュの置いてあるカウンターまで歩いて行った。

 

「…愛されてる………のか?」

僕らの日常。性と愛を価値基準と報酬にする歪な普通。都合の良い創作物のような掛け合い。慣れっこな交渉だったはずなのに、なぜか胸が逸る。この胸のもどかしさは、さっきの目目子のパターンと同じだ。

 

 先輩と何かしらの契りを結んだわけでもないのに、コイツらとの行為がなぜか裏切りのように考えてしまう。不貞のように思い込んでしまう。

 

 でもそう感じるのは、5体にとっても不誠実な気が……。

 

「リーちゃァん。」

背後からかかる声に僕は振り返る。

 

「お、ティッシュは?」

 

「なァい。あと、確認したけどウチにストックも無いィ。」

舌子が肩を竦めて、そう言った。手には空になったティッシュケースが握られている。

 

「え。」

 

「あとォ、キッチンペーパーとかアルコールティッシュも無いン。ゴミ袋もストック無いし、その他諸々………。あァ、トイレ紙のストックも無いねェん…。」

舌子が言葉を続ける。

 

「……あ~、マジかぁ………。」

ウチってなんも無いんだな。トイレットペーパーのストックがないのは、いただけない。QOL下がりまくり。換算すると、慣れない親戚の家で過ごすときと同じレベルの居心地の悪さだ。☆2.3ぐらいのQOL指数だ。

 

「…買い出しィ?」

 

「…ですなぁ。…あ…。留守番と先輩の子守さ、頼める?」

僕は目を細め、上目遣いで舌子の目をじっと見つめた。

 

「……はァ?ヤダァ………。一緒に行こォ………。買い物デートォ………。」

 

「さっき先輩の世話するって言ったばっかりじゃん、嘘つき!」

 

「それはァ、リーちゃんもいるのが前提ィ…!一人っきりで、この女の世話なんて………ヤダァ………。」

 

「でもなァ…。先輩の事は、あのジジイの指示があるまで秘匿しなくちゃいけないから外に出せないし………。誰かに見てて欲しいんですよねェ~?」

 

「…だったら買い物我慢するか……配達頼めばァ?…それならァ、イチャイチャできるよォ…?」

首を勢いよく横に曲げた舌子が僕に問いかける。

 

「ヤダッ!配達は金がかかるし、今すぐ買いたいもの。それに()()()()なんて、阿保がニュースになってるのに、お前らだけ外に行かせらんないよ。」

 

「…でもォ…私、留守番なんてェ…。」

 

「21時~24時に延長。」

 

「やるゥ!!」

チョロいというかなんというか、まぁ、僕の時間と愛を糧にしているから、対等な等価交換ではあるのかな?

 

 さてと、買う物をメモして、それから舌子が自立で動けるように数時間分の魔力を流してェ…。

 

 あ、先輩の口の周りの唾液は……まぁ、僕の袖で拭けば良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

【同日 同時刻】

 

 その男は、歩いていた。

 ひび割れ、修繕の行き届いていないアスファルトの歩道を進んでいた。

 確かな足取りと、明確な悪意と、少々の悪戯心、そして財布と煙草と共に。

 日常に忙殺されている大衆に、自身の倫理を穿つように。

 

 そして、その男の歩みは、道徳からは乖離していた。

 その他大勢の肩を柔く打ち、その脛に軽く足を当てた。挑発するように、目線を集めるように、軽薄な鼻歌と共に、道を踏みしめていた。

 

 男は歩いていた。そして何かを待っていた。

 誰しもが、胸に宿している()()の開放を待ち望んでいた。

 

 程なくして

「…アンタ…さっきから迷惑なんだよ!」

怒りの赤を顔に灯した青年が、男の手首を強く掴む。

 

 義憤に駆られた顔なのか、被害者なのか、追いかけてきたのか、対向者かは、男にとって、問題ではなかった。問題は、()であった。そして青年の振り絞った勇気の底には、出涸らしのような道徳があった。

 

 周囲の歩行者は青年に直接的に味方することはなくても、無言の支持を送る。小さな連帯感がその青年の背中を押していた。

 

 そこには、男の渇望している、()()()()()が芽吹きつつあった。

 

「あ、なんだ?ガキ、舐めてんじゃねぇぞ。」

男は敢えて、記号的に振舞った。浅く、俗悪な、中途半端な悪に成り下がった。

 

 その一言に、青年の目にあるものが宿った。怒りとは違う、免罪符が灯る。

 

「話があんならよぉ!こっち来いよ!ガキがッ!」

「良いよ、付いていってやるよ。」

 

 男の指さした路地裏に、青年は足を急いた。男は青年に並ぶと、その恍惚を、装った怒りで隠した。背後から突き刺さる市井の目に、隣で顔を赤くする青年に、さらに心の中で口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男は、歩いていた。

 

 ひび割れ、修繕の行き届いていないコンクリートの壁に足を着け、進んでいた。

左右の窓ガラスを避けるように。ダクトを指でなぞり、空に向かって、歩いていた。男は地面だけでなく、壁をも自身の道としていた。

 

 その背後には、ゴミ箱に丸々収まった青年が、静かな息を繰り返している。

 

「はぁ…ぐっ…。うぅ………。」

青年は死んではいない、四肢の欠損も無い。骨折と疲弊と絶望と恐怖と、胸ポケットに深く挿入された一万円が、男の所業を物語っていた。

 

 そんな青年に、振り返ることなく、男は呟いた。

「一万円は謝礼さ。まぁまぁ美味しかったよ。お前の義憤、道徳、倫理、モラル…。そして一番は………。」

男は狩った。

 

「……その正義感………。」

()()を、狩ったのだ。

 

 雑居ビルの縁に足を掛けた男は、独りごちる。

「…次はナンパ男にでもなろうかなぁ。そして、セコム君かセコムちゃんを狩ろうかなぁ。あ、でも、次はもうちょっと濃い目の正義も狩りてぇ…。あ、でも…人殺しとかドラッグは怖いしなぁ……。健全に狩りたいしなぁ。」

 

 男は煙草を一本箱から取り出し、火をつけることなく口に咥えた。

 

「…チッ…。アイツ、歩道にガム捨てやがった。クズが………。」

タバコのフィルターを唾液で濡らし、ビルの隙間から市井の人間を眺める男がいた。

 

「…もっと狩りてぇなぁ。」

そう呟く男の名は【オルルグ・グリンカ】

 

 そして、またの名を【()()()()

 

 露悪の疑似餌で、正義を狩る男が、ビルの上から人々の営みを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

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