・梨々華(リリカ)(15?)
この物語の主人公。自身に関する記憶がなく、気付けは電脳空間にて倒れていたところをギルモンに助けてもらった。その後探偵をやっている安藤和人(カズト)とそのパートナーデジモンに出会い記憶を取り戻すまでの間彼らの助手として共に行動する。
・ギルモン
リリカのパートナーデジモン。元気で明るく正義感が強いがどこか抜けており天然なところも。リリカのパートナーなるとき絶対守ると誓う
安藤 和人(カズト)
私立探偵を営んでおり、相棒のディテイモンと共に仕事で電脳空間に向かったところに傷をおった主人公とギルモンに出会う。二人を探偵事務所兼自宅に連れていき、事情を聞いた後、助手として居候させることとなる。
ディテイモン
安藤のパートナーデジモン。ドーナッツと珈琲と謎をこよなく愛する。安藤の昔のパートナーデジモンの転生体らしい。姿は青色猫のような姿をしており片眼鏡をしている。現実世界(リアルワールド)では15歳くらいの少年の姿をしていたり、青猫の姿になっていたりしている。得意技は相手の情報を推理する『サーチ』。
桜木 桃子(モモコ)
安藤探偵事務所から少し離れたところにある研究所で暮らしている博士。デジアプリにデジファーム、ヒューマンデータ(デジモンが人間に変装できる)など、様々なモノを作っている。安藤探偵事務所の仲間の一人。あだ名は『博士』。パートナーデジモンはエンジェモンとエンジェウーモン。
喰魔 ゼブル(バアルモン)
『クウマカフェ』を営むマスターであり安藤の仲間、主に情報収集役。イケメンで料理と珈琲が美味しいためとても人気なお店(主にマスターが人気)。
食べることが好きで、休みの日は色んなお店の食べ放題や大食い大会にも出ている。一部記憶を失っている。
〜株式会社『アヴァロン』:開発運営室〜
ここは株式会社『アヴァロン』内にある開発運営室。アヴァロン内のバグや違法行為が行われていないか確認する場所でもあり、電脳空間『アヴァロン』内のシステム拡張や運営を携わっている場所でもある。
そしてこの部屋に区切られた一室がある。
そこはこの開発運営室の室長である“小鳥遊 有馬”の仕事部屋だった。
「………。」
小鳥遊 有馬は詩人の机のうえにあるいくつものモニターを凝視しながら片手でメモを取っていた。
モニターには電脳空間『アヴァロン』の映像が流れており、人々の営みやショッピング、娯楽施設で遊ぶ利用者の姿が映し出されていた。
しかし小鳥遊 有馬が見ていたのはそれではなく、『アヴァロン』の裏の世界。本来人の立ち入りを禁止している場所、『エリア0』の映像を見ていた。
写っていたのは倒れた白い少女と赤い恐竜のような生き物を抱える大きな二足歩行の青い猫。そしてその近くにいた男性。
青い猫は一人と一匹を抱え姿を消し、男も電脳空間からログアウトした。
そのまま彼らが消えたあとも画面を見続ける小鳥遊 有馬。
すると扉からノックの音が聞こえ画面から目を離した。
「小鳥遊室長、失礼します」
「ああ、構わないよ。どうぞ」
入ってきたのはこの会社の社長秘書だった。
「こちら社長からです」
そう言って渡された資料に目を通す。
「感情スキャン機能……『アヴァロン内の交流を円滑にするため、ユーザーの深層心理(喜怒哀楽)を可視化するエフェクトを強制実装しろ』って、これ本気で言ってるの?」
「そのようです」
その言葉に小鳥遊 有馬は頭を抱える。
「『全ユーザーの脳波同調率を24時間記録する常駐プログラムの埋め込み』って…… ホントにあの社長は何がしたいんだ……これじゃあこの会社の理念から外れるだろ。これは『繋がり』じゃない、ただの『監視』だ」
「あの社長は地位と名誉と金しか目にないようですしね。それに最近では兵器開発に携わり始めたとの噂を耳にしますし……」
「その噂を聞いたよ。この脳波データも、兵器の命中精度を上げるための被験体データにするつもりなんだろう。真相が分からない以上どうしようもないけどね……それよりこれ、できるわけないって社長に突き返してきて」
そう言って渡された資料を秘書に返した。
「しかし…」
「何か言われたら『ユーザーからの支持率下るぞ』って言われたとでも言ってて」
「わかりました」と秘書はその資料を受け取った。
「そう言えば先ほどから何を見ているのですか?」
「ん?ああ実は…」
と先ほど見ていた映像を巻き戻し秘書に見せた。
「これは…」
映し出されたのは白い少女と赤い恐竜のような生き物、そして相対する不気味な人型。
「最近『アヴァロン』を利用してるユーザー達が話してた噂の“幽霊”。
それからこの子達」
そう言ってマウスカーソルを使い少女と赤い生き物を指す。
「この赤い生き物は…“デジモン”ですね。エリア0で現れる謎の存在だとか…」
「まぁね、それもだけど……この白い子、ログインの記録がないんだ」
「それは…違法ログインをしているということですか?」
その言葉に小鳥遊は首を横に振った
「違う、そもそもデジヴァイスを使って入った形跡がないんだ。
まるで突然『アヴァロン』内部から現れたようにね」
「それじゃあまるで」
「ああ、“デジモン”や“幽霊”のようにこの現実世界じゃない別のところから来たように」
映像は流れ続け、不気味な人型と対峙し敗れた所に青猫と男性が現れ、不気味な人型が退治され消えたところで映像は停められた。
「彼らは確か探偵の…」
「あの少女とデジモンは彼らの保護に入ったみたいだし、少し様子を見ようと思ってね」
そうして椅子にもたれかかった小鳥遊はコーヒーを一口のんだあと訝しむような顔をした。
「なんか…このコーヒー不味くない?」
「社長命令でメーカーを変えてます」
「はぁ…マジか…。
あのコーヒー好きだったんだけど……」
持っていたマグカップを机に置き天を仰ぐ小鳥遊。
「後で前のメーカー名、調べておきますよ」
「…ありがとう。君には助かってるよ」
「……貴方が本来社長の座に就くはずだったんです。前社長も社員も皆、そう思ってました」
「仕方ないさ、あの社長だ。
前社長が亡くなったあと何かしでかしたんだろうが……調べることが多いからね」
「……」
「ほら、きみも早くもどったほうがいいんじゃないかい?」
「…そうですね、失礼します」
「うん、お互い頑張ろう」
そういうと、社長秘書は少し微笑んだあと部屋をあとにした。
残された小鳥遊 有馬はもう一度マグカップを手に取り、不味いといったコーヒーを飲み干した。
「さてと、取り敢えずこの事を“彼ら”に話しておくか」
そうしてパソコンと向き合い直した。
「できるだけ早くあの社長の悪事の証拠を見つけないと」
◇
〜???〜
目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。
(ここは‥たしか私、あの変なやつに襲われて‥そして誰かが助けてくれて‥)
私はゆっくりと体を起こし、周りを見渡した。
やっぱり見知らぬ空間、誰かの家の部屋だということだけしかわからなかった。
「‥‥!そうだ!ギルモンは!!」
そう思い立ちベッドから降りようとしたが
「う~ん‥ムニャムニャ」
すぐ隣で寝ていたギルモンに気づき安堵した。
襲われたときの傷はどうやら癒えており幸せそうな寝顔をしていた。
「ギルモン‥よかった‥」
私は胸をなでおろす。自分のせいでギルモンに何かあったらと思うと胸が苦しくなった。
「おや?やっと目が覚めたのかい?」
突然聞こえた声に驚き、声の方を向くと、部屋の入口に立っている一人の少年の姿があった。
「えっと、きみは‥」
「話は後々。さ、起きられそうだったら下に降りてきてほしい。君のことを色々と聞きたいからね。
あ、その子も連れてくるように」
僕は先に言ってるよ。と少年は言い、部屋を出ていく。
私はギルモンを起こしてベットから降り、部屋を出て一階へと降りた。
一階へ降りているとあの少年が階段の下で待っていた。
「こっちだよ」
そう言うとすぐ下にある扉の中へと入っていった。私とギルモンは少年の後を追うように扉の中へ入ると、あのとき助けてくれた男の人がいた。
「あの‥」
「怪我の方はもう大丈夫か?」
「え?」
そう言われ自分の体を見渡した。よく見ると倒れる前と服装が違うし、治療もされてたことにも気づいた。
「はい。どこも痛くはありません」
「そうか、なら良かった」
「あの‥ここは‥」
「ああ、すまない。先に教えとくべきだったな、ここは現実世界にある俺の自宅兼仕事場だ。あえて『現実世界』といったのはお前が『仮想空間』である『アヴァロン』のエリア0で気絶したから、わかりやすくな。」
「な、なるほど‥」
「それと自己紹介がまだだったな。俺の名前は『安藤 和人(カズト)』だ。ここで探偵をやってる、そして‥」
「はいはーい、僕は『ディテイモン』、彼のパートナーデジモンだよ〜」
安藤さんの横から割るように入ってきた少年は先程私達を案内した人だった。
‥‥?今この人『パートナーデジモン』って言った?
「え?デジモン?」
「あー、いまは人間の姿を‥取ってるからわからないよね。」
そう言うとの少年の体が光、姿形が変わりだした。
「この姿ならわかるかな?エリア0で一度見たと思うけど」
光が消え、眼の前に現れたのはたしかにあのとき見た大きな二足歩行の青い猫だった。
「え!?ど、どういうこと!??」
「あー‥説明すると長くなるからこれは後で説明する。ディテイモン飲み物持ってきてくれ」
「はーい、和人はブラックでいいよね。君は?」
デジモンから少年の姿に戻ったディテイモンは少女に聞いてきた。
「お、同じので‥」
「オッケー!ギルモン君は?」
「ブラックってにがい?」
「人によるけど苦いよ〜」
「うーん、にがいのにがて‥」
「じゃぁミルクにしよっか!」
「うん!!」
ディテイモンは「それじゃあ入れてくるねぇ〜」。と言い残し部屋を出ていった。
「立っとくのも何だ、そこのソファに座るといい。俺も座る」
「は、はい‥」
対面式に置かれたソファとその間にある長机。そして向かい合って座る私達。
「さて、あらかたお前の質問には答えたな。こちらからもいくつか質問させてくれ」
安藤さんは真剣なおもむきで私の方を見た。まるでここからが本題だというように。
「“お前”は、何者なんだ?」
それは私が一番知りたい質問であった。
だから私は包み隠さず今までのことを話した。
〜安藤探偵事務所 一階 仕事部屋 〜
「記憶もなく、倒れていたところをギルモンが助けてくれたと‥そして記憶の手がかりを探すためにエリア0をフラフラしていたらあの正体不明のヤツに襲われた‥‥か」
「はい」
少しの沈黙が流れる。
安藤さんは腕を組み、何かを考え込んでいるようだった。
その時、ずっと胸の奥に引っかかっていた疑問が口をついて出た。
「あの…私たちを襲ったアレはなんなんですか?」
「……あれか」
安藤は口につけていたコップを机に置いた。
「正直に言うと、俺たちもよく分かってない」
「え?」
「わかってるのは、あれが“強い感情”に引き寄せられるってことと……デジモンに寄生するってことくらいだな」
「寄生……」
「最近になって急に確認され始めた現象でね」
飲み物を持ってきたディテイモンが言葉を引き継ぐ。
「僕たちはあれを仮に“アンノウ・ヴァイラス”って呼んでる。未確認存在って意味さ」
「今までは白い霧みたいな、ノイズの混じった形しか確認されてなかったんだが……」
「人型は初めてだったね」
安藤が少しだけ表情を曇らせる。
「……まぁ、なんとか倒せたから良かったがな」
その言葉に不安がよぎる。
“なんとか倒せた”ということは、もしかしたら倒せなかったかもしれないということだ。
次またアレにあったとき、今度こそやられるのでは。
「リリカ大丈夫だよ!」
不安になっていた私に声をかけるギルモン。
「またアイツが出てきてもリリカを守ってみせるよ!次は絶対に負けない!」
「はは、頼もしい騎士様だな。お前も、そう不安な顔するな、少なくともここは安全だ」
その言葉に少し安心した。
「…そう、ですね。
ありがとうございます、安藤さん、ディテイモン。ありがとうギルモン」
「うん!」
「しかし記憶喪失か…また面倒な拾いものをしちまったな」
「記憶がないだけじゃなく現実世界に本体もなく、更には彼女についての個人情報すらない。こんなことをありえないんだけどねぇ‥」
飲み物を淹れて持ってきたディテイモンがそう呟いた。
ますます私の事がわからなくなってしまった。現実世界に本体すらないとか……。
‥‥ん?『現実世界に本体がない?』
「あ、あの。現実世界に本体がないって‥じゃあなんで私はここに?」
「ん、あぁそれはな‥」
珈琲に口をつけていた安藤がその疑問に答えた。
「ディテイモンに頼んでそのまま連れてきた」
「……え?そ、そのまま??」
「おう、そのまま」
「え?そんな事が可能なんですか?」
安藤は珈琲を飲み干し、カップを机においた。
「本来ならそんなことは出来ないはずなんだが、何故かお前は例外だったらしくてな。デジモンがデータの世界からこちらの世界に来る感覚でディテイモンが連れてきたんだよ。」
「ボロボロの君達を放って置くわけにもいかないし、ギルモンならまだしも、君は大分賭けだったけどね」
なんか…凄いことを聞いたような気がする……。
「まぁ、ここまで質問しておいてなんだが。お前、行くあてはあるのか」
「あると思います?」
「……ねぇよな…」
「はい」
「……」
沈黙が続く、翌々考えたらわたしには行く宛も帰る宛もないんだ。するとディテイモンが提案してきた。
「だったらカズト、記憶が戻るまでの間 君の助手にしたらいいんじゃないかい?」
「「!」」
「おまえ…、簡単に言うけどな」
「いいじゃん、丁度人手が足りなくて困ってたでしょ。ここで探偵の助手をしていれば君は人手が増えて仕事が楽になるし、彼女は記憶の手がかりを探せるし、WIN WINだろ?」
そこまで言うと安藤そんはかんがえるように黙った。確かに安藤さんにも私にも利益がある…なら‥。
「あの!私からもお願いします‼」
その言葉に驚いた安藤さん。
「自分が何者か知りたい、どうしてあそこにいたのか…どうして私に関する記録すらないのか‥‥。お願いします!足手まといにはなりません!!絶対に!!」
「ほらほらカズト、彼女もああ言ってるんだしいいじゃないか。それとも、君は記憶もないか弱い少女を追い出すほど非道な探偵だったのかい?」
ニマニマと黒い笑顔で言うディテイモンに困ったようにため息を付く安藤さん。
「別に追い出すなんて言ってないだろ‥、はぁ…わかったよ」
「!じゃあ」
「ああ、ただし助手になるからには覚悟しとけよ。探偵の仕事はお前が思ってる以上にきついぞ」
「はい!頑張ります!!」
「よーし!君の今後は決まったとして‥‥君はどうするギルモン?」
「ん?ボク?」
そういえば一緒に来ていたギルモンはどうするのだろう。そう思い私もギルモンに聞いてみた。
「ボクは君と一緒にいる!
キミと一緒にいると楽しいし…大好きだもん!」
「でもギルモン、おじいちゃんのことはどうするの?」
「あ、そうだった。う~ん、う~~~ん‥‥」
「おじいちゃん?」
「あ、えっとこの子の育ての親で、確か名前は‥“ジジモン”…だったはず」
「うん!ジジモンのおじいちゃん‼」
そこまで聞くと安藤さんは少し考えるように黙った。
「もしかして‥デジタルワールドにいる『育て屋のジジモン』のことか?」
そう質問するとギルモンは驚いたあと嬉しそうに「うん!」と返事をした。
「『育て屋』?」
「ああ、昔お世話になったことがあってな。まぁこの話はいつかするさ。それよりあのジイさんのところのガキだったのか、ならすぐに連絡いれれるぞ」
「ほんとう!?」
安藤は作業机に向いパソコンを操作した。すると画面にギルモンが話していたジジモンが写った。
「おじいちゃん!」
『む!ギルモンか!!』
「じいさん久しぶりだな」
『おお、カズトくんか。久しぶりじゃのぉ!』
「急に連絡入れて悪いな、実は‥」
『まぁまて、話を聞く前にじゃ』
そうするとジジモンはギルモンの方を向き
『ギルモン!!!!お主またリアルワールドのネット空間に行ったな!!あれほど勝手に行くなと言ったじゃろうが!!!!!!』
「ごめんなさーーーい!」
ジジモンの怒声が部屋中に響きわたった。
『なるほどの、事情はわかった』
小一時間ほどの説教が終わりようやく本題へと話を進められた安藤。ちなみにギルモンはすごく反省してるのか怒られてちょっと凹んでいた。
『ギルモンがそう望んだのなら、好きにするといい』
「いいのかじいさん」
『なに、ギルモンがそう決めたのだろう。ならわしからは言うことはない。それに…』
「じいさん……?」
少しの沈黙の後、ジジモンは首を振りなんでもない素振りを見せた。そしてギルモンに向き直る。
『ギルモン』
「なに、おじいちゃん?」
『その子についていくというのなら、力のあるお主がしっかり守ってやるのじゃぞ。』
その言葉を聞き、ギルモンは「もちろん!」と力強く頷いた。
『そして名も知らぬ少女よ』
「は、はい」
『記憶もなく、自身のことで手一杯で大変だろうが、どうかギルモンのことをよろしく頼む』
「はい!」
私も力強く返事をした。
『それじゃあカズト君、探偵家業頑張るのじゃぞ。また困ったら依頼するやもしれんしの』
「その時はどうぞご贔屓に、じゃあな」
『うむ』
そして会話が終わるとパソコンの画面が消えた。
「それじゃ、ギルモンの保護者からの許可もおりたことだしーー。改めて二人共、ようこそ我らが安藤探偵事務所へ。歓迎するよ♪」
「探偵の仕事は大変なことが多いぞ、泣き言は言わせないからな」
「はい!精一杯頑張ります!」
「ボクもボクも!!」
そうして記憶をなくした少女とギルモンは安藤探偵事務所で助手として記憶が戻るまでのあいだ居候することになったのだった。
「さて、そうなるとお前の名前や個人情報やらを考えなきゃいけないな」
「名前と個人情報、ですか?」
「ずっと“名無し”って訳には行かないだろ。それに個人情報がなければ周りの奴らからも怪しまれるし、無いよりかはマシだ」
ソファから作業机に移動した安藤は机においてあったPCを起動し作業をしていた。
「名前かぁ…」
記憶をなくす前、私にはどんな名前があったのだろう。
「莉々華《りりか》…ってのはどうだ?」
「え?」
そう聞いてきたのはPCを顔を向けたまま、視線だけを少女にむけ聞いた安藤だった。
「“りりか”……ですか?」
「覚えやすいだろうと思ってな。嫌なら別のを考えるが」
「い、いえ!“莉々華”で大丈夫です!ありがとうございます!!」
「ならいいが…」
「いいわけないだろ!」
名前が決まって一安心…と思った矢先、ディテイモンが安藤の机を叩いた。
「さっきから何を調べてるのかと思ったら『女の子 名前 日本』って検索して調べるとか!」
「うるせぇな…思い出すまでの間使うだけだしいいだろ、本人も良いって言ってんだし」
面倒くさそうにそっぽを向く安藤。
「名前考えるの苦手だからって安直すぎるだろう!」
「…」
「こら!分が悪くなると黙るのやめなよ!」
「…」
「聞け〜〜〜!!」
そう言うとディテイモンは人の姿から二頭身くらいの小さな猫になって安藤さんをポカポカと殴っていた。
「あ、あの!ホントに大丈夫なので…」
「そう?嫌なら嫌って言って良いんだよ?」
ディテイモンは少し不満そうにこちらを見た。不安にさせないよう「ありがとう、大丈夫です」といい頷いた。
それに納得したのかディテイモンは人の姿に戻ってギルモンのところへ向かった。
「ったく…悪かったな、あいつが言った通り名前を考えるのが苦手でよ」
「いえ、ありがとうございます」
「改名したくなったらいつでも言え、個人情報が出来上がるまでだが」
「は、はい…」
この人、ホントにサラッと凄いこと言うよな…。そんな事を考える少女ーーいや、“リリカ”だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ぐぅ~…
名前が決まって小一時間が立った頃、小さな音が聞こえた。
それはギルモンのお腹からなっていた。
「おなかすいた…」
「そういえばお前達が起きてからまだ何も食べてなかったな」
時計の針を見ると12時を過ぎた頃だった。
「色々とやる事があるが、まずは腹ごしらえからだな。…さて、となると飯はどうするか…」
PC作業からいったん手を離し、考え込む安藤。
ちなみにリリカとギルモンは少し前までディテイモンの案内で部屋を見て回っており、先ほど戻ってきていた。
「ならさカズト、どうせなら彼のお店まで行かない?ご飯ついでに紹介しとこうよ」
「そうだな、アイツ等にもちゃんと紹介と事情を説明しとかないといけないしな」
「「アイツ等?」」
ギルモンとリリカは二人の会話についていけず首を傾げた。
ディテイモンはそんな二人が面白かったのか少し微笑んだ。
「僕たち、安藤探偵事務所の仲間さ」
◇
『星見原(ほしみはら)市』
〜商店街:ブティック店〜
私たちは今、商店街にあるブティック店に来ています。(ギルモンは退化をしてお人形のふりをしてます)
ここに安藤さんのお仲間が居る…と言うわけではなく、ここに来た理由は私の服を選ぶため。
私が今着ている服は安藤さんの服を借りてきているじょうたいだったので新しいのを買ってくれるとのこと。
「さすがにその格好じゃな」
そういい、店員に声をかける安藤さん。
「あら探偵さん、いらっしゃい。珍しいねあなたが来るなんて」
「まぁな、悪いが店主こいつに似合いそうな服を2、3着ほど買いたいんだが?」
「ん?この子は」
「あ、えっとリリカといいます。あの…えっと」
「俺の親戚の子で昨日からこっちで面倒見ることになってな。ただ急ぎできたから着替えの入った鞄を忘れたらしくて新しく買おうと思ってよ」
「あらそうだったの?大変だったわね」
「え!あ、いえ…」
「ここは色んな種類の洋服や靴があるから好きなだけ見てって。良いのがあったら教えてね」
そう言われ私は店員さんにお店の中を案内された。
数分後、買い物を終え今度こそ安藤さんの仲間のところへ向かった。
「ありがとうございます、買っていただいて…それもこんなに」
買ってもらった服はお店の奥にあった服で、黄色の黒を基調とした服で肩出しスタイルの服と薄手のパーカーに黒の短パン。
黄色に黒の小さなダイヤ模様がワンポイントで入っている長靴下と動きやすい黒のブーツスニーカー。そして服にあった模様と色のゴーグル。
その他にも寝間着や部屋着など数着ほど買ってくれた。
「まぁ、あるに越したことはないだろ。次からは自分で買えよ、給料はちゃんと出すんだから」
「はい、何から何までありがとうございます」
「リリカ似合ってるよ♪」
「ありがとうギギモン。
…そういえばギギモンってギルモンの退化した姿なんですよね、どうしてデジモンって退化ができるんですか?」
「さぁな、デジモンは進化も退化出来るって事はわかってるんだがな。ディテイモン、お前は何かわかるのか?」
前を歩いてたディテイモンに質問を投げかけた。
「さぁね、僕達デジモンですらよくわかってないんだ。どうして退化が可能なのかって。」
「ギギモンはわかる?」
「わかんない」
そう言って首を振るギギモン。
デジモンである彼らでさえもこのメカリズムは分かってないらしい
他にも移動中、ディテイモンがデジモンに関することを少しばかり教えてくれた。
デジモンは『デジタルモンスター』の略称であること。
彼らは本来この世界とは別の『電脳世界(デジタルワールド)』に存在していること。
デジモンは進化と退化を繰り返し、強くなる存在ということ。
たまに『現実世界(リアルワールド)』に迷い込むものも居ること。
全ては聞くことができなかったけど、なんとなくデジモンに関することはわかった気がする。
「デジモンって、不思議な生き物ですね」
「そうだな…っともうすぐ着くぞ」
商店街の裏道を通り、抜けた先に2階建ての建物があった。
「ここは?」
「俺の仲間が経営してるカフェだ。因みに二階がそいつの自宅になってる」
そう言って安藤さん達はお店の中に入っていき私たちは今その後を追った。
中に入ると、お店の外でも感じた通りとても素敵なお店だった。席の数は多すぎず少なすぎずちょうどいい数で、お店は行ってすぐにはキッチンの見えるカウンター席もあり。そして何と言っても珈琲の優しいいい匂いがする。
ふともう一度カウンターの奥を見ると、キッチンで作業している男性がいた。金色の短い髪。赤い目を片目だけ前髪で隠れており、少しミステリーっぽい雰囲気の人だった。
「やっほーゼブル。来たよ〜」
「いらっしゃい‥そいつが拾ってきたって言った人間か?」
「拾っ…! お前言い方ってもんがあるだろ」
「似たようなもんだろ」
そう言うとゼブルと呼ばれた人は手元の作業に戻った。
「はぁ…コイツは『喰魔ゼブル』。ここの店主で俺の仲間だ、主に客からの情報源を頼んでる」
「リリカです、本日から探偵事務所で助手として働かせてもらえることになりました。よろしくお願いします!」
「ぼくギギモン!」
「“助手”?」
ゼブルはリリカの言葉に反応し聞き返した。
「えっと、記憶が戻るまでの間だけで…」
「…どういう事だ安藤」
「その説明の前に飯頼んでいいか?話せば少し長くなるからよ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ほら、出来たぞ」
テーブルに並べられたのは美味しそうなピザトーストが二つとドーナッツセットが一つ、ハムチーズサンドが一つ。
飲み物はリリカとギルモンがカフェオレ、安藤とディテイモンがアイスコーヒー。
「いただきまーす!」
「いただきます!」
ピザトーストに一口かぶりつく、甘酸っぱいトマトソースとチーズの香りが口いっぱいに広がりリリカとギルモンは目を輝かせた
「おいひー!!」
「凄く美味しいです!」
目を輝かせる2人に「そうかよ」と素っ気ない返事をするゼブル。
「あれぇ〜、ゼブル照れてる?」
「照れてねぇよ」
「ウッソだ〜頬ちょっと赤いんじゃないのぉ?」
「あんまりしつこいとドーナッツ下げるぞ」
「ウソウソごめんって!」
からかうように笑いながらも取られないようにと謝るディテイモン。
「はぁ…それで安藤、事情を話してくれるんだよな」
そう言うとゼブルは安藤の隣の席に座り聞いてきた。
口にいれていたハムチーズを飲み込み、事情を話した。
「昨日の依頼でエリア0の調査が終わった帰りに“ヤツ等”に襲われていたこいつらを助けて、事情を聴いたら記憶喪失だったと…」
「そういうことだ、記憶が戻るまでの間は家で助手として働くことになったから昼メシも兼ねて紹介をと思ってな」
ハムチーズサンドを食べ終え、コーヒーを飲みながら答える。
「しかしよく助手にしようと思ったな」
自身のお昼用のまかないを食べなが聴くゼブル
「助手にしようって提案出したのはディテイモンだ。まぁ最近仕事の依頼が増えてきて猫の手も借りたいって考えてたからな。ちょうどよかったよ」
「…」
「なんだよ、文句でもあるのか?」
「お前が決めたことだ、文句なんかないさ。ただ…」
そう言いゼブルは一瞬だけリリカのほうを見た。
こっちを見ていることに気づいたリリカはゼブルの方を見て目が合い、首を傾げた。
「ただ?」
「いや、なんでもないさ。このあとはどうするんだ?」
「このあとは桜木の所に行ってから帰るつもりだ」
「そうか」
そこで会話は終わり、昼食を食べ終えたリリカ達は安藤さんの奢りで会計を済ませ次の目的地へと向かった。
商店街をでて少し歩いた先の住宅地。
その道を進み、一つの建物が見えた。それは二階建ての一軒家で白を特徴とした建物だった。門の看板には『桜木研究所』と書かれていた。
「ここは?」
「もう一人の仲間が住んでる場所だ。連絡はもうしてる、入るぞ」
そう言うとリリカ達を連れて中に入った安藤。
中に入ると広々とした空間に様々な機械が置いてある。
中央のデスクの前に一人の女性がコーヒーを飲みながらこちらに振り返った。茶髪の髪を一つにまとめ、白衣を着き、メガネを掛けた女性だ。
「あら、いらっしゃい安藤、ディテイモン」
「やっほ~桃子、来たよ〜」
「悪かったな急に押しかけて」
「良いわよぉ、どうせ暇してた所だったし。その子がメールで教えてくれた助手ちゃんとそのパートナーくん?」
「そうだ」
「こんにちは」
「こんにちは~!」
「元気がいいねぇ、良いことだ!」
そう言いギギモンの頭をウリウリと撫でた。
ギギモンは嬉しそうにしていた。
「私は桜木桃子、この研究所の所長よ。と言っても私と私のパートナーデジモンだけなんだけどね」
「モモコさんもデジモンを?」
「ええ、でも今は仕事を頼んでるからココにはいないの。機会があったら紹介するわね。あ、そうだギギモンくんに渡すものがあったんだった」
「?」
「取ってくるから皆はそこのソファに座って待ってて」
そう言って桃子は手に持ってたコーヒーを置き、奥の部屋へと駆けていった。
「はいこれ、ギルモン君のでしょ」
「僕のバック!」
桃子さんが持ってきたのは電脳空間でギルモンが肩にかけていた大きなバックだった。
あの時の戦いでバック紐が切れていたが綺麗に修復されていた。
「他にもほつれてたところもきれいに直したわよ」
「ありがとう!!」
お礼を言うとギルモンは嬉しそうに鞄を受け取った。
「よかったねギルモン」
「うん!」
カバンを肩にかけ、嬉しそうにするギルモンを見たあと桃花は安藤の近くに移動した。
「にしてもまさかアンタが助手を雇うなんて。しかも居候もしていいと来た。珍しいこともあるもんだねぇ」
「うるせぇ、なんで二人して疑問を持つんだ…」
「え、なに?ゼブルにも言われたの?」
頭を抱えながら「そうだよ…」と疲れたように言う。
それに少し同情するかのように苦笑いをした。
「それより、頼んでたやついいか?」
「ああアレね。リリカちゃん、ちょっといいかしら?」
「はい?」
「ちょっとお姉さんと奥の部屋行こっか。ギルモンはここで待ってて」
「?」
桃子についていき奥の部屋に入るリリカ。
底にあったのは机と椅子、パソコンが数台があった。
「あの、ここは?」
「実はね、安藤のヤツからちょっと頼まれごとされたのよ。ささ、遠慮せずにそこの席に座って!」
言われるがまま席に座るリリカ。
すると目の前に、1台のノートパソコンが置かれその画面には『テスト』とデカデカと映し出されていた。
「えっと…?」
「記憶喪失って聞いてたけど、何処まで忘れているか分からないでしょう。だから学力や生活面に関してのテストをしようって話。私は隣の部屋にいるから終わったら呼んで」
「あ、わからないところは飛ばしていいから!」と言うと桃子は部屋からでていった。
なんだかよく分からないうちに説明が終わった。
置いてけぼりになってしまったが、たしかに自分自身に関すること以外で忘れてないか気にはなるから。
「取り敢えず、頑張るか!」
そしてパソコン画面のスタートボタンをクリックした。
〜1時間後〜
桜木研究所 ロビー
ソファに座っていたギルモンはソワソワしながらリリカが入っていった扉を見ていた。
「まだかなぁ…」
「ウ~ン、もうすぐ終わるんじゃないかな?」
ディテイモンは持っていた懐中時計を見ながら答えた。
「早く終わらないかなぁ」
「そうだね…そういえばギルモン、そのバッグの中には何が入っているの?」
「この中?えっとねぇ〜」
そう言ってバックの中を探り始めたギルモンとそれを横で見るディテイモン。
そして2人を対面してソファに座りながら仕事用のデジヴァイスで仕事の依頼が来てないか確認をしている安藤。
「…今のところは急ぎの依頼はないか」
デジヴァイスの電源を切り、貰っていた珈琲を飲みながら二人を見る。ギルモンはバックから出したものをディテイモンに見せており興味深そうにディテイモンは見ている。楽しそうだ。
そう思っているとリリカ達が入っていった扉が開き、2人が出てきた。
「あ!リリカ!」
リリカが戻り、嬉しそうに駆け寄るギルモン。
その後ろからディテイモンもついてきた。
「思ったより時間かかったね?」
「いやぁ…思ったよりもテストの問題が多くて…」
そう言うリリカは少し疲れていた。
桜木は安藤の元へ行き、テストの結果を見せた。
「テストの結果、生活面に支障はないみたいね。見た感じ、ほんとに自分自身に関する記憶だけ忘れてるみたい学術面も問題なし」
「そうか、ありがとよ」
そう言いもらった結果用紙を折りたたみ着ていたコートの裏ポケットに入れた。
「このあとはどうするの?」
「どうるすもなにも…もう帰るが?」
「あらそうなの?もっとゆっくりしていけばいいのに」
「いろいろあるんだよ…おいリリカ、ギルモン、ディテイモン帰るぞ」
「はーい」
「またいつでもおいで♪」
「お世話になりました」
そして四人は桜木研究所を後にし、探偵事務所兼自宅へと帰るのであった。
家にたどり着く頃には日も沈みかかり、空はオレンジ色に染まっていた。
改めて安藤さんの自宅兼探偵事務所を観てみたが、立派な二階建ての家で庭やガレージなどがあった。
「安藤さんって結構お金持ちなんですか?」
「ん?お金持ちっていうか…この家は貰い受けたものなんだよ」どうやら昔ある依頼人からの仕事を受けた時、結構高齢な方で施設に入るつもりだったらしいが家をどうするか悩んでたらしい。
それでどうせならと頂いたようで、最初は断ったがどうしてもと譲らずそれに根負けし譲り受けただとか。
「仕事がしやすいように少し改築したが、まぁ昔の話だ」
そう言い、事務所部屋に入る安藤達。
「明日から探偵の助手として働いてもらう。頼んだぞ」
「はい!頑張ります!」
「ぼくもぼくもー!」
「ふ、気合だけは一丁前だな」
「2人ともよろしくね」
明日から探偵の助手としての仕事が始まる。
自身の記憶を取り戻すため、少しドキドキと緊張もあるがギルモンもそばにいる。安藤さんやディテイモン、他の頼れる仲間たちがいる。きっと大丈夫。
日も完全に落ち、空には星がまたたき始めた時間、玄関のチャイムがなった。
ドアを開けると桜木さんとゼブルさんがいた。
2人の手には買ってきたのであろう食材の入った袋があった。
「せっかく新しい仲間ができたんだから歓迎会しないと!」
「俺は別にいいって言ったんだがこいつが無理やり…まぁ夜食ぐらいは作ってやる」
「お前らな…」
「それじゃあお邪魔しまーす」
「邪魔するぞ」
そして夕食の時間、食卓には料理が並んでいた。
唐揚げ、サンドイッチ、サラダ、スープ。
そして中央には、こんがり焼けた大皿グラタン。
「うわぁ……!」
思わず声が漏れる。
「すごい……こんなに……」
「歓迎会だからねぇ」
ディテイモンが得意げに胸を張る。
「作ったのは俺だがな」
キッチンからゼブルさんが皿を運びながら言った。
「そこは空気読んで僕の手柄にしとこうよ」
「嫌だ」
「即答!?」
「いい匂い!早く食べようよ!」
ギルモンが待ちきれず席につく。
「待て待て、全員座ってからだ」
安藤が頭を押さえながら席についた。
全員が座り、手を合わせる。
「「いただきます!」」
そして皆思い思いに料理を取り始めた。
「おいしい……!」
グラタンは熱々で、とろけるチーズの下に濃厚なソース。
優しい味だった。
「当たり前だ」
ゼブルがそっぽを向いたまま言う。
「今ちょっと嬉しそうだったよね」
「黙れ、青猫」
「青猫って言った!」
ギルモンは唐揚げを頬張りながら尻尾を振っている。
「ゼブルすごい!毎日これ食べたい!」
「断る、さすがに毎日は飽きるからな。
それにずっと作ってやるつもりはないぞ」
「ぶー!ケチ!」
「言ってろ」
笑いが広がる中、ふとゼブルさんを見る。
無口で少し怖そうだけど、料理は上手い。
不思議な人だ。
その視線に気づいたのだろう。桜木さんが、にやりと笑った。
「そういやリリカちゃん、この人のこと人間だと思ってるでしょ?」
「え?」
「……桃子、やめろ」
「え?なになに?」
ギルモンも身を乗り出す。
「実はこの人――」
そういうと桜木さんはゼブルさんの身体に少しだけ触れ、何かをすると一瞬だけゼブルの体がふっと淡い光に包まれた。
「!?」
次の瞬間。
そこにいたのは、白い装束をまとい、鋭い眼光を持つ人型の異形の存在。
頭は藍色のターバンで巻かれており、その中心には赤い瞳があった。
人ではない、明らかに別の何か。
「デジモン……!?」
リリカが立ち上がる。
光が消え、再びゼブルさんの姿へ戻る。
「驚かせるなよ……」
「いや絶対見せた方がいいって」
桜木さんが笑う。
「す、すみません……びっくりして……」
「普通の反応だ」
ゼブルさんはため息をつき、水を飲んだ。
「正体をみられたならちゃんと言ったほうがいいな。」
そうしてゼブルさんは、もう一度デジモンの姿になった。
「俺の本当の名前は『バアルモン』だ。よろしく頼む」
そう言って人の姿に戻り席に着いた。
「えー?名前だけ?」
「十分だろ」
桜木さんの言葉に面倒くさそうに答えた。
「でも……デジモンって、皆変身できるんですか?」
「皆ってわけじゃないさ」
ディテイモンが答える。
「僕みたいに人型になれるのもいるし、ゼブルみたいに化けるのが上手いのもいる。個体差ってやつだね」
「そういうことだ」
食事を再開したゼブルさんは少し不満げな様子で答えた。
「無愛想なのだけが欠点だけどね」
「お前を黙らせる方法はないのか」
ディテイモンに苛立ちをぶつけたあとゼブルさんはふと静かになる。
「……まぁ、姿を変えられても万能じゃないがな」
「?」
「俺も、なくしたもんがある」
部屋の空気が少しだけ変わる。
「ある時期の記憶だけ抜け落ちてる。
自分が誰かは分かる。どう生きてきたかもな。だが……一部だけ、ぽっかりとな」
リリカは息をのんだ。
「……それって」
「お前とは違う。全部じゃない。だが、気持ちは少し分かる」
ゼブルはリリカをまっすぐ見た。
「思い出せないってのは、地味に厄介だ」
その言葉は、妙に優しかった。
「……はい」
リリカは小さく頷いた。
自分だけじゃない。
記憶に傷を持つ人が、ここにもいる。
そう思うだけで、胸の奥の不安が少し軽くなった。
「よし!しんみり終わり!」
桜木さんが立ち上がり、皆彼女に視線が向いた。
「デザートいくわよ!」
「あるの!?」
ギルモンの目が輝く。
「商店街で買ってきたドーナッツよ、ディテイモン好きでしょ?」
「やったーーー!!」
ディテイモンとギルモンは盛大に喜んだ。
「現金なやつだな」
コーヒーを飲んでた安藤さんが2人の反応を見て笑った。
「デザートは飯食ってからだ。早く食いたかったらさっさと食べ終えろ」
「「はーい!」」
そして皆でゼブルさんの作った料理を食べ終え、デザートのドーナッツを食べた。
「リリカ」
安藤さんが私の名前を呼ぶ。
「騒がしい奴らだが皆俺の仲間だ。
だから安心していい、お前の記憶の手がかりを必ず見つけてみせるさ」
その言葉になにか、こみ上げてくるものがあった。
胸の内が暖かくなるようなものが。
「はい!」
私は彼の言葉におおきく返事をした。
そして時間帯も遅くなり、歓迎会が終わって桜木さんとゼブルさんはそれぞれの家に帰っていった。
自分たちも明日の為にと寝る準備に入り就寝することに。
因みにリリカの部屋は連れてきてもらった時に使った部屋をそのまま使わせてもらえることに。
どうやらもともと客室用だったらしいが「まぁいいだろう」とのことで。
ギルモンと二人で寝ると少し狭いベット。
後日必要な家具を買いに行こうと言われたのでその時が来たら相談しようかな。
…今日一日で色々あったような気がする。
明日からは探偵の助手としての手伝いや自身の記憶の手がかりを探す。
…本当に見つかるのだろうか、自分の失った記憶を。
うまくできるのか、探偵の助手を…。
そう不安になっていると
「りりか?」
「あ、ごめん起こしちゃった?」
「ううん」
そう言うと眠そうな目をこちらに向け、じっと見てきたと思うと「フヘヘ」とフニャフニャな笑顔を向けてきた。
「どうしたの?」
「えっとねぇ、僕リアルワールドに来たのは初めてで、皆の前でリリカのことは絶対に守るって言ったけどね、ほんとは不安だったんだ、ちゃんと僕にできるのかなって。
でもね、リリカの顔見たらなんかできるような気がしてきたんだ」
そう言ってまた眠そうなフニャフニャ顔で笑った。
不安なのは自分だけじゃなかった、それにギルモンは私を守るって言ってくれた。
なんだかそれだけで大丈夫な気がしてきた。
「ありがとうギルモン。さぁ、明日のためにもう寝よっか」
「うん、おやすみリリカ」
「おやすみ、ギルモン」
そうして私たちは眠りに落ちた。
学校の帰り道。
夕焼けに染まる通学路を、二人の少年少女が歩いていた。
「だから!もう少し考えて行動しなさいって言ってるでしょ!」
「わかってるって、何回も言うなよ…!」
少女に詰め寄られ、たじたじになりながら言い返す少年。
傍から見れば喧嘩のようにも見えるが、その様子はどこか慣れたものだった。
言い合いながらも、二人の足は自然と同じ方向へ向いている。
――いつもの光景だ。
そんな中、少年――我妻アズマはふと足を止めた。
「……?」
視線の先。
細い路地の奥。
商店街の裏通りへと続く、薄暗い道の中に――
“それ”はいた。
赤い体。
長い耳。
そして――
まるで尻尾のように揺れる、複数の影。
「……なんだ、あれ?」
一瞬だけ、目が合った。
次の瞬間、その赤い生き物はくるりと背を向け、路地の奥へと駆けていく。
「あっ――」
思わず一歩踏み出すアズマ。
「ちょっと!我妻!」
振り返ると、少女が呆れた顔でこちらを見ていた。
「また変なもん見つけてんじゃないでしょうね?」
「いや、今の見ただろ!?赤いウサギみたいな――」
「は?何それ。見てないけど」
ぴしゃりと言い切られる。
アズマはもう一度路地の奥を見る。
だが、そこにはもう何もいなかった。
「……気のせい、か?」
「ほら、行くわよ。置いてくからね」
「お、おい待てって!」
少女はさっさと歩き出し、アズマは慌ててその後を追う。
けれど――
胸の奥に残った違和感だけは、消えなかった。
あの赤い生き物。
そして、まるで“こっちを見ていた”あの視線。
(……なんだったんだ、あれ)
その疑問が、頭から離れないままアズマは少女の背中を追いかけた。
次回は安藤の助手として初めての依頼を受けるリリカとギルモン。依頼内容は電化製品の電源が勝手に付いたり、モニターがバグったりする異常現象についてだった。
そして新たな事件を持ってきた依頼人『アズマ』。
彼を見つめる影の正体とは?
次回もお楽しみに!