今日も正常営業。ただし“そういうとこ”を添えてー 作:火力万能主義
仕事用文体のままだったから違和感あったんや(汗)
あと、復帰してまもなく二次創作日間ランキング70位まで上がりました。
ありがとうございます。
7月から9月の間には大仕事が連続で控えてるんで、出来るだけその前に本編を進ませたいですね。
久々にカフェイン決めて走ると気ん持ちいいイイイ
あと、あらすじ新しいものに変えてみました!
※コメントの要請により本編と番外編の順番を入れ替えました、しおりの位置が二つほどズレてると思います!
第十六話 届かないままで、少し近い
私こと酒寄彩葉には、最近悩みがあります。
それは
スパァン!
「彩葉ー! 匿ってぇ!」
言い切る前に玄関が死んだ。
いや、死んではない。たぶん。蝶番はまだ生きている。生きていてほしい。修理費とか出せないので。
勢いよく開いた扉から金色の何かが飛び込んできて、靴を脱ぐのもそこそこに、狭いワンルームを一直線に突っ切る。
言うまでもなく、かぐやである。
電柱生まれの宇宙人。
現代日本在住。
現在、全力逃亡中。
「ちょ、待って。匿うも何も、うちにそんなスペースないから」
お布団。
机。
小さな台所。
申し訳程度の収納。
参考書。
配信用機材。
かぐやの服。
かぐやのお菓子。
かぐやが「これかわいい!」と叫んだ結果、なぜか増えた謎の小物たち。
うん。
無理。
この部屋に人一人を隠せる余白があるなら、まず私がそこに入りたい。切実に。
「っていうか、何に追われてんのよ」
「そ、それはぁ……」
かぐやは私の背中に隠れながら、露骨に目を逸らした。
怪しい。
実に怪しい。
この子が目を泳がせる時は、大体ろくなことがない。
そして、その大体は私の胃に来る。
「雅治との筋トレをサボって、真実たちとカフェでケーキ食べてたところを見つかった……」
「あ……」
終わった。
それはもう、完全に終わった。
ケーキが悪いんじゃない。
甘いものは悪くない。むしろ私だって食べたい。最近ちゃんとしたケーキとか食べてないし。いや今そこじゃない。
問題は、筋トレをサボったこと。
それも、あのジム配信の後に「かぐや、これからも頑張る!」とか自分で言い出したくせに、当たり前のように裏切ったこと。
そして何より。
その裏切りを、よりにもよって本人に見つかったこと。
こんのバカ。
いや、それにしても。
「よく逃げ切れたわね」
相手はあの橘君だ。
あの身長から来る足の長さ。
溢れんばかりの筋肉とコンピューター並みに速い反射神経。
底が見えないバカげた持久力。
たぶんその気になれば、かぐやが一歩目を踏む前に捕獲してる。
なのにここまで逃げ込めたということは、橘君が手加減したのだろう。
手加減というか。
あれだ。
あえて逃がして、逃げ道を塞いで、最後に追い込むやつ。
獲物に希望を見せてから仕留めるタイプのやつ。
筋トレの悪魔か。
いや、普段の橘君はそんな人ではない。
礼儀正しい。
落ち着いている。
変に人をからかったりもしない。
ただし、かぐや相手だけは別。
あの子に関してだけ、たまに意地悪い顔している。
真顔なのに。
あと、意外と負けず嫌いも出る。
とても出る。
思えば、そもそもの原因はあの日だった。
かぐやがジムへ突撃した夜。
ドッキリのつもりで橘君の前に現れた月の姫は、かの邪知暴虐……とまでは言わないけど、まあまあ邪知暴虐な筋トレの悪魔に返り討ちにされた。
そして、その帰り。
よりにもよって本人の前で。
「へっへーん! どうよ雅治! 腹筋なんてかぐやにかかれば、ぜぇーんぜん余裕だったんだよ!」
などと、満面の笑みで言い放ったのである。
自爆だった。
それはもう、見事な自爆だった。
火薬量多め。
導火線短め。
爆心地、
橘君はその時、ほんの少しだけ黙った。
そして。
「そうか」
と言った。
それだけだった。
でも、私だけは見たのだ。
あの時の橘君の目を。
あ、これ毎日やらせる気だ。
そう思った。
案の定。
翌日から、かぐやには無理のない範囲で、しかし絶対に逃げ道だけは残さないルーチンが組まれたのであった。
腹筋。
スクワット。
プランク。
ストレッチ。
休憩。
水分補給。
安全確認。
全部ちゃんとしている。
ちゃんとしているからこそ逃げられない。
鬼か。
いや、鬼でもここまで面倒を見てくれはしない。
だから、今日のこれは。
自業自得。
実に、自業自得だった。
「かぐや」
「ピャーッ!」
低い声が落ちた瞬間、かぐやが変な鳴き声を上げて私の腰にしがみついた。
やめて。
私は盾じゃないのよ。
耐久値もそんなにないのよ。
かぐやが開けっぱなしにした玄関に、いつの間にか橘くんが立っていた。
フード付きのグレーのウェア。
黒いハーフパンツ。
普段とは違う装い、でも顔はいつもの落ち着いた表情。
ただし、今日に限ってはその落ち着きが怖いぐらいに静かである。
怒鳴らない。
走らない。
目に血も走っていない。
なのに、明らかに目が据わっている。
静かな筋肉ほど怖いものはない。
今知ったけども別に知りたくなかった。
「ここにいたか、かぐや」
「彩葉ぁ!」
「私を盾にしないで」
かぐやはなおも私の後ろに隠れようとする。
無駄だった。
橘くんの腕がすっと伸びる。
そのまま、かぐやの腰を片腕で抱え
ひょい。
「ぎゃあああああ!」
持ち上げた。
ネコちゃんでもあるまいに。
いや、かぐやが軽いのか橘くんがおかしいのかは分からない。
たぶん両方。
「ちょっと橘君! 荷物みたいに運ばない! せめて下ろして歩かせなさい!」
「丁度いい重さだったんだが」
「ダンベルじゃないんだから!はよ降ろせ!」
「逃げないと確信できればな」
「逃げたんじゃない、かぐやは避難しただけだもん!」
「それを社会では逃避だと呼ぶんだぞ、かぐや」
はい、有罪。
月姫、敗訴。
判決、閉廷。
「さあ行くぞ。まだ今日のルーチンが残っている」
「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!」
「腹筋とスクワットだけだ」
「その後にプランクもあるじゃん!」
「覚えているなら話が早い」
「覚えてるから嫌なのぉ!」
かぐやの手足が空中でばたばた暴れる。
金色の髪が揺れる。
みんなのアイドルかぐや姫は、現在、筋肉によって運搬中である。
何この絵面。
「彩葉ぁ! 助けてぇぇぇぇ!」
涙目。
伸ばされる両手。
助けを求めている声。
いや、別に死にはしない。
いつもの腹筋をするだけだ。
筋肉痛が少し残るだけの。
たぶん。
おそらく。
橘くん基準の「少し」は本当に信用できないだけども。
「……自分で続けるって言ったんだから、自分で何とかしなさいよ」
私は小さく呟いた。
その瞬間、かぐやが信じられないものを見る目でこちらを見た。
「こ、この……!」
震える指先が私を指す。
「裏切りものぉぉぉぉぉおおおおお!」
腹の底から響いてくる断末魔。
たかが筋トレで出していい声ではない。
「酒寄、終わったら戻す。夕方前には終わるだろう」
「ごゆっくりどうぞー」
「彩葉ぁぁぁぁ!」
橘君はかぐやを小脇に抱えたまま玄関へ向かう。
連行。
完全に連行。
ただし、犯人は自供済みである。
「忘れないからねぇ! この恨み、絶対忘れないからねぇ!」
「今日のおやつはプリンでいいか?」
「カラメル多いやつ!」
「分かった」
チョロッッッ。
恨みが溶けるの早い。
カラメルに負ける怨恨って何。
「……橘君」
「何だ」
「そうやって甘やかすから、いつまで経っても変わらないのよ」
「筋トレは最後までやらせるさ」
「そこじゃなくて」
「彩葉の分も入れて二個ね!」
「だから勝手に人の金を使うなっつーの」
そんなやりとりを最後に扉が閉まった。
ばたん、という音の後、部屋に静寂が戻ってくる。
戻った。
戻ったはずなのに、全然落ち着かない。
嵐が去った後の部屋って、なんでこんなに散らかってなくても散らかった気分になるんだろう。
私はしばらく玄関を見つめて、それから深く息を吐いた。
私こと酒寄彩葉には、最近悩みがあります。
静かな時間が、まったく続かないことです。
月から来た自由奔放な少女が走る。
それを筋肉と理屈でできた男が追う。
真実は面白がる。
芦花はニコニコ見守る。
私は止める、けども止めきれない。
大体、止めきれない。
朝から晩まで。
怒って。
呆れて。
頭を抱えて。
たまに笑って。
いや、笑ってない。笑ってないけど、口元が勝手に負ける時はある。そこは不可抗力ということで処理したい。
これまでの人生と比べれば、明らかに騒がしい。
騒がしいなんてもんじゃない。
狭いワンルームに、月と筋肉と配信が詰め込まれている。
情報量で部屋が狭い。
物理的にも狭い。
なのに。
前より、空っぽではない。
……なんて、しんみりした言い方をすると負けた気がするので、今のはなし。
充実。
たぶん充実。
おそらく充実。
そういうことにしておきたい。
少なくとも、平穏という言葉だけは、いつの間にかこの部屋から完全に家出していた。
できれば帰ってきてほしい。
家賃は払えないけど。
「……いや、待って」
そこまで考えて、私はもう一度玄関を見た。
さっきまで橘君が立っていた場所。
かぐやが開け放した扉の向こうに、当たり前みたいに現れて。
当たり前みたいにかぐやを捕まえて。
当たり前みたいに私へ一言報告して。
当たり前みたいに帰っていった。
いや。
いやいやいや。
「……私、女の子なんだけど」
誰もいない部屋に、ぽつりと声が落ちる。
もちろん、返事はない。
返事があったら、それはそれで怖い。
というか、今の今まで普通に流していたけど。
ここ、私の部屋である。
女子高生のワンルームである。
しかも一人暮らし。
一般的に考えれば、男子高校生がそんな場所の玄関に、あんなにも自然に、すらっと、遠慮も迷いもなく立っているのは、なかなかに問題がある。
問題しかない。
いや、入るなという話ではない。
むしろ、かぐや絡みだと入ってもらわないと困る場面の方が多い。
多いのが問題なのでは?
「ハァ...」
自分で思って、自分でダメージを受けた。
前にも似たようなことはあった。
あの子育て三連休。
月から来た赤ちゃんが三日で少女になるという、人生で二度と経験したくない類の超特急育児期間。
あの時も、橘君は私の部屋にいた。
泊まり込みに近い形で手伝ってくれた。
かぐやを寝かせたり。
ミルクだの着替えだの生活用品だの、必要なものを用意したり。
私が倒れないように見張ったり。
何なら私より先に動いていた場面すらある。
正直、助かった。
とても助かった。
助かったのは事実である。
悔しいけど。
ただ、その時は気にする暇がなかった。
男女がどうとか。
距離感がどうとか。
女子の部屋がどうとか。
そういうものより先に、気にしなければならないものが多すぎた。
かぐやの成長速度。
かぐやの食欲。
かぐやの服。
かぐやの常識。
かぐやの寝相。
かぐやの行動範囲。
かぐや。
かぐや。
かぐや。
全部かぐやじゃん。
いや、本当にそうだったから困る。
だから、あの場では私も橘君も、少なくとも表面上はそこまで気にしなかった。
気にしなかった、というより。
気にしたら負けだった。
一度でも「これ、状況としてどうなの?」と冷静に考えた瞬間、そのまま床に膝をついて動けなくなっていたと思う。
それくらい、あの三連休は色々と終わっていた。
そして終わっていた三連休が明け、学校が始まり、配信が始まり、ジムだの料理だの水ロケットだのを経由して、今に至る。
つまり。
あやふやになったまま、ここまで来てしまったのである。
最悪の成り行き任せ。
いや、最悪ではない。
橘君は別に変なことをする人ではないし、むしろ変なことをする前に安全確認を三つくらい挟む人だ。
その信頼はある。
あるのだが。
それとこれとは別。
私は女の子で。
橘君は男の子で。
ここは私の部屋で。
それなのに彼は、かぐやを追いかける必要があると判断した瞬間、何の迷いもなくここまで来る。
世話焼き仲間。
共犯者。
かぐや被害者の会。
たぶん橘君の中で、私はそのあたりに分類されている。
同じかぐやを育てた人。
同じかぐやに振り回される人。
同じかぐやを止めようとして、だいたい止めきれない人。
それは分かる。
分かるのだけれど。
「……こっちは、そんなところじゃないっつーの」
声が小さくなる。
言った後で、自分の顔が少し熱くなった。
何を言っているんだ私は。
誰に言っているんだ私は。
そもそも、そんなところってどんなところだ。
はい、自爆。
完全に自爆。
かぐやのことを笑えない。
橘君にとって、私はやっぱり異性の女の子というより、同じ嵐に巻き込まれた世話焼き仲間くらいにしか映っていないのかもしれない。
いや、それはそれで信頼されているということではある。
それは分かる。
分かるけど。
違う。
違わないけど、違う。
面倒くさいな、私。
私は玄関をもう一度見た。
さっきまで橘君がいた場所。
当たり前みたいに立って。
当たり前みたいにかぐやを捕まえて。
当たり前みたいに私へ報告して。
当たり前みたいに帰っていった。
ほんと、そういうとこ。
「……ほんっとう、そういうとこ」
ため息と一緒に吐き出した言葉は、誰にも届かない。
届かなくていい。
届いたら困る。
困るけど。
ちょっとくらいは、分かってほしいとも思う。
だから余計に、腹が立つ。
橘雅治。
真面目で、礼儀正しくて、無駄に気が利いて、筋肉で、理屈で。
人の心の柵の内側へ入ってくる時だけ、距離感がバグっている男。
学校で見る橘君は、基本的に「僕」だ。
穏やかで、丁寧で、角が立たない優等生。
でも、最近は少し違う。
芦花や真実たちに見せる、少し気を許した顔。
そして、私とかぐやにだけたまに見せる、もっと奥の顔。
口調が落ちて、一人称がふっと「俺」になる瞬間。
たぶん本人は、そこまで意識していない。
でも私は、何度か見てしまった。
学校の「僕」でも、表向きの優等生でもない。
たぶん一番、本当の橘雅治に近い顔。
……いや。
何を冷静に分析しているんだ私は。
危ない。
この話は危ない。
「……ほんっとう、そういうとこ」
私はもう一度、深く息を吐いた。
よし。
この話は終わり。
終わりったら終わり。
そう決めたところで、スマホが震えた。
画面を見る。
真実からだった。
真実:かぐや無事回収された?
真実:というかタチバナくん怒ってた?
真実:怒ってるタチバナくん見たかったなー
こやつ。
私は即座に返信を打った。
彩葉:見世物じゃありません
彩葉:あとあんたも共犯だからね
すぐに既読がついた。
真実:えー
真実:ケーキは不可抗力
真実:季節限定だったし
季節限定は免罪符にはなれないのよ。
少なくとも筋トレから逃げたかぐやを匿う理由にはならない。
私はスマホを握ったまま、また玄関を見る。
静かだった。
今度こそ静か。
けれど、どうせ長くは続かない。
*
数時間後。
ぴんぽーん。
インターホンが鳴った。
「……はいはい」
返事をしながら立ち上がる。
どうせ宅配かなにかだろう。
かぐやではない。
あの子はインターホンを押す前に扉を開けるから。
いい加減に覚えてほしい。
現代日本の文明を。
ドアスコープを覗く。
その横で、かぐやが壁に手をついて立っていた。
立っている。
立ってはいる。
ただし、脚がぷるぷるしている。
「……生まれたての小鹿?」
「彩葉ぁ……」
扉を開けると、かぐやが涙目でこちらを見上げた。
「かぐや、足が、足が地球に負けた……」
「重力に負けたのね」
「地球つよい……」
「...そうね」
さすがに足の筋肉痛に呑まれながら階段を上る辛さは分かる。
想像以上に辛いよね、それ。
かぐやはよろよろと一歩踏み出した。
そして、すぐ止まった。
「いたい」
「そりゃそうでしょ」
「彩葉、抱っこ」
「しない」
「裏切りものぉ……」
「ああ、もう 」
ほら手貸して。やっぱ彩葉だけはやさしいぃ。
橘君は、玄関の外で立ったままこちらを見ていた。
入ってこない。
さっきとは違う。
ちゃんとインターホンを押して。
ちゃんと待って。
ちゃんと、こちらの返事を待っている。
何それ。
急に正しくなるのやめてほしい。
こっちの心の準備が間に合わない。
「酒寄」
「何?」
「入っていいか」
「……今さら?」
「今さらでも、確認は必要だろう」
「……ああ、うん。いいよ。かぐや、このままだと玄関で崩れるし」
「助かる」
橘君は靴を揃えてから入ってきた。
きっちり。
きっちりしすぎ。
さっき、かぐやを小脇に抱えて連行していった人と同一人物とは思えない。
「かぐや、座れ」
「座ったらもう立てない気がする」
「なら寝転がれ」
「それはアイドルとしてどうなの」
「今さらでは?」
「彩葉が言うともっと刺さるよぉ!」
かぐやは文句を言いながら、結局布団の端に倒れ込んだ。
ぽすん。
「うぅ……かぐや、今日が命日かも……」
「筋肉痛で死んだ人はいないから」
「じゃあ、かぐやが最初の一人になる……」
「不名誉すぎる」
橘君は持っていた袋を机の上に置いた。
「プリンだ」
「カラメル多いやつ?」
「ああ」
「雅治、好き……」
「そうか」
「チョロい」
秒で撤回。
命よりカラメル。
この子の世界観、相変わらずよく分からない。
「酒寄の分もあるぞ」
「……私、頼んでないけど」
「かぐやが勝手に頼んでいた」
「彩葉の分も! って言ったの」ヘヘン
「言わなくていいのよ、そういうことは」
「だってかぐや、優しいから!」
「優しさを人の財布に乗せない」
橘君は少しだけ袋の位置を直した。
取りやすいように。
私とかぐやの、ちょうど真ん中。
そういうところ。
ほんと、そういうところ。
「で」
私は腕を組んだ。
「かぐやはちゃんと全部やったの?」
「やったぞ」
「かぐや、やった……かぐやは、がんばった……」
「サボった分は?」
「補った」
「補わされたぁ……」
「自分で逃げたんでしょ」
「彩葉が正論で刺してくる……」
かぐやはプリンの袋を抱えたまま、布団の上で丸まった。
動けないくせに、プリンだけは離さない。
生命力が強い。
「酒寄」
「何?」
「さっきのことだが」
橘君が玄関側に立ったまま言った。
まだ座っていない。
部屋の奥までは入ってこない。
線を引いている。
分かりやすく。
分かりやすすぎるくらいに。
「急に入ったの、悪かった」
「……あの状況なら仕方ないでしょ。かぐやが逃げ込んできたし」
「それでもだ」
「真面目」
「必要なことだ」
「そういうとこ」
「何がだ」
「別に」
言ってから、少し後悔した。
いや、後悔というか。
言葉が勝手に出た。
よくない。
最近、本当に口が勝手に負ける。
「前にも、似たことはあっただろ」
「あ、三連休の時?」
「ああ」
「似たことっていうか、あれはもう、似たどころじゃなかったけどね」
赤ん坊。
成長。
食事。
服。
寝かしつけ。
常識。
配信。
隠蔽。
学校。
バイト。
睡眠不足。
そして、私の財布。
思い出すだけで、こめかみが痛い。
「あの時は、気にする余裕がなかった」
「私もなかったけどね」
「だろうな」
「だろうなって何よ」
「見れば分かった」
「……そんなにひどかった?」
「ひどかったとも」
「即答しないでよ」
「嘘はつけない」
「そこは甲斐性ってのを見せてよ」
橘君は少し黙った。
ほんの少し。
かぐやがプリンの蓋を開けようとして、手がぷるぷる震えている音だけがした。
「酒寄は」
「うん?」
「よく、倒れなかったと思う」
「……」
軽口が止まった。
止められた。
そういう言い方をされると困る。
怒れない。
逃げづらい。
「倒れかけてはいたけどね」
心は。
「知っている」
「知ってるんだ」
「見ていたからな」
「……見てたんだ」
「ああ」
橘君は、こちらをまっすぐ見ていた。
いつもの落ち着いた目。
淡々としているのに、雑ではない。
「あの時も後ろでなく前を向いていた」
「そんな格好いいものじゃないって。ただ必死だっただけ」
「それでもだ」
「……」
「必死でも、前を見ていた」
やめてほしい。
そういうの。
こっちが雑に笑って流せない言い方をするの。
「橘君」
「何だ」
「そういうの、面と向かって言う?」
「言うべきだと思った」
「今?」
「今」
「タイミング」
「悪かったか」
「悪いっていうか、心臓に悪いのよ」
「すまない」
「謝られると余計変になるからやめて」
「了解した」
素直。
そこで素直になるな。
私は視線を横へ逃がした。
かぐやがプリンを開けられずに、こちらを見ている。
「彩葉、開けて……」
「今?」
「手が震える……」
「筋トレの成果ね」
「成果ってこういうのじゃないと思うの……」
仕方なく、私はプリンの蓋を開けた。
かぐやはスプーンを握りしめ、幸せそうに一口食べる。
「んまぁ……」
「復活早いわね」
「プリンは命を救う」
「筋肉痛は救えないけどね」
「うぅ……」
橘君はそのやりとりを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
笑った。
分かりづらいけども、今なら分かる。
無表情みたいな顔の奥で、ちゃんとかぐやを見ていること。
呆れているのに、少し楽しそうなこと。
「何?」
「いや」
「今、笑ったでしょ」
「ああ」
「やけに素直なんだね」
「隠すことでもないからな」
「……そう」
そう。
そうなんだ。
この人は、隠すところと隠さないところが本当によく分からない。
「俺は、酒寄を子ども扱いしているつもりはない」
「急に何?」
「さっきの続きだ」
「会話の再開地点が遠いのよ」
「そうか」
「そうかじゃない」
橘君は少しだけ考える顔をした。
言葉を選んでいる。
選んでいるのに、たぶん最終的には直球が飛んでくる。
嫌な予感しかしない。
「君に手を貸したのは、弱いと思ったからじゃない」
「……うん」
「一人で抱えすぎていると思ったからだ」
「それは、まあ」
「俺は、そういう時に手が伸びないことがあるのを知っている」
少しだけ、声が落ちた。
かぐやのスプーンが止まる。
私も、止まった。
「……橘君?」
「重い話をするつもりはない」
「もう半分くらい重いけど」
「なら、ここで止めるが」
「止めるんだ」
「ああ。今する話ではない」
それ以上、踏み込まない。
自分から言いかけたのに。
でも、踏み込ませない。
その線の引き方が、少しだけ分かった気がした。
「ただ」
「ただ?」
「酒寄には、同じになってほしくないと思った」
「……同じって」
「言わなくていいなら、言わない」
「……」
ずるい。
そうやって、選ばせる。
無理に押しつけない。
聞くかどうかを、こちらに渡してくる。
私は少しだけ唇を結んだ。
「今は、いい」
「分かった」
「でも、いつか聞かせてね」
「その時が来るならば話そう」
「話したくなかったら?」
「その時は、そう言う」
「……ほんと、真面目というか理屈というか」
「よく言われる」
「でしょうね」
かぐやが、プリンのスプーンを口にくわえたまま、こちらを見ていた。
目がきらきらしている。
やめろ。
その顔をするな。
「彩葉」
「何」
「きゅってした」
「黙ってプリン食べてなさい」
「雅治も、きゅってしてる?」
「さぁな」
「分からないの?」
「分からないこともある」
「雅治なのに?」
「俺にだって分からないものはある」
かぐやは「ふーん」と言った。
何か分かったような顔をした。
絶対分かっていない。
でも、たまにこの子は分かっていないまま核心を踏むので油断できない。
「とにかく」
私は咳払いをした。
「次から、入る時は今みたいに確認して。かぐやが突撃してきても、まず一回」
「ああ」
「緊急時は別。火とか刃物とか窓とか、そういうのはすぐ止めて」
「分かった」
「あと、私が寝落ちしてても勝手に部屋の中を片づけない」
「……分かった」
「今、間があったけど」
「モンスターの森が、な」
「...くっ」
「身体に障ると思うが」
「勉強に妥協はないから」
「そうか」
「そうかで納得しないで。いや納得して。どっちでも腹立つ」
橘君は小さく頷いた。
頷かれると、こちらが変なことを言っているみたいになる。
いや、変なことは言っている。
たぶん。
「酒寄」
「今度は何?」
「溶ける前に食べた方が美味しいと思うが」
机の上には、私の分のプリン。
カラメル多め。
頼んでない。
頼んでないのに、ちゃんと私の好きそうなやつ。
いや、好きそうとは言ってない。
むしろ好き。
くそ。
「食べていけば?」
口が勝手に言った。
また負けた。
今日は口の治安が悪い。
橘君は少し目を瞬いた。
「いいのか」
「プリン三つあるし。かぐやに二つ食べさせると夕飯入らなくなるし」
「かぐや、入るよ?」
「おやつは一個まで」
「でもプリンは別腹……」
「筋肉痛の姫は黙って一個」
「横暴!」
「筋肉痛するところでくすぐるわよ」
橘君は少し迷ってから、玄関ではなく机の方へ来た。
ちゃんと、私の邪魔にならない位置に座る。
近すぎない。
遠すぎない。
さっき引いた線の、ちょうど向こう側。
それが少しだけ。
本当に少しだけ。
悪くなかった。
「いただきます」
「いただきます!」
「……いただきます」
三人でプリンを食べる。
変なの。
少し前まで、こんなことになるなんて思っていなかった。
男子が自分の部屋でプリンを食べている。
電柱生まれの宇宙人が布団で筋肉痛になっている。
私は参考書を開いたまま、プリンを食べている。
やっぱりこの部屋、狭いかも。
「うまいな」
「雅治、プリン選ぶの上手!」
「知り合い曰く名店だそうだ」
「そこは自力じゃないんだ」
「知らないことは聞いた方が早い」
「……そういうとこ」
「またか」
「またよ」
「何がそういうところなんだ」
「教えない」
「そうか」
「そういうとこも含めて、そういうとこ」
橘君は少し考え込んだ。
かぐやはにやにやしていた。
私はプリンを食べた。
甘かった。
腹立つくらい、ちゃんと甘かった。
その日は、それ以上大きな事件は起きなかった。
かぐやは筋肉痛で動けず、布団の上で「月が遠い……」とかよく分からないことを呟きながら寝落ちした。
橘君はプリンを食べ終えると、食べた容器をまとめて、私の邪魔にならないように立ち上がった。
「遅くなる前に帰る」
「うん」
「かぐやのストレッチは、明日の朝でいい。今日は無理に動かさなくていいからな」
「そうさせとく」
「酒寄も、今日は早めに寝た方がいい」
「人の睡眠まで管理しないでよ」
「すでに顔に疲れが出ているぞ」
「出てない」
「出ている」
「出てないってば」
「なら、そういうことに」
そう言って、橘君は帰っていった。
今度はちゃんと、玄関で一度振り返って。
「また明日」
とだけ言って。
扉が閉まる。
部屋には、かぐやの寝息と、机の上に開きっぱなしの参考書と、少しだけ残った甘い匂いがあった。
静かだった。
久しぶりに。
ちゃんと静かだった。
それなのに、前ほど空っぽではなかった。
……なんて。
そういうことを考えてしまった時点で、たぶん負けだった。
何に負けたのかは知らない。
知らないことにしておきたい。
*
そして後日。
あの静かな夜のことを、私はほんの少しだけ良い記憶として処理しようとしていた。
処理しようとしていたのだ。
静かな時間。
甘いプリン。
少しだけちゃんと引き直された距離。
あやふやなまま近づきすぎていたものが、ほんの少しだけ整った気がした。
気がしただけだった。
この生活が、そんな綺麗な余韻を許してくれるわけがなかった。
「彩葉!」
「何」
放課後。
私の部屋に転がり込んできたかぐやは、なぜか妙に元気だった。
筋肉痛はまだ完全には抜けていないはずなのに、目だけはぎらぎらしている。
嫌な予感がした。
ものすごくした。
「かぐや、考えたの」
「嫌な始まりね」
「力で勝てないなら、ルールで勝てばいいのだ!」
「もっと嫌な方向に進んだ」
「というわけで!」
かぐやは鞄の中から、ばっと何かを取り出した。
ピコピコハンマー。
安全メット。
……安全メット。
商品名はそう書いてある。
ただし、どう見ても百均のパーティーグッズである。
「叩いて被ってジャンケン!」
「なんで持ってるの」
「真実が選んでくれた!」
「ハァ」
共犯が増えた。
後で詰める。
絶対に詰める。
夏休みのプリント見せるのなし。
かぐやはピコピコハンマーを掲げ、勝ち誇った顔で言った。
「これなら筋肉関係ないもん!」
「いや、あると思う」
「ない!」
「あると思う」
「ないったらない!」
その時、インターホンが鳴った。
ぴんぽーん。
私は玄関を見た。
かぐやも見た。
そして、ドアスコープを覗くまでもなく分かった。
たぶん橘君だ。
なぜなら、かぐやが勝負道具を持ち込んだ瞬間に現れる男だから。
そういう運命になっているのかもしれない。
嫌な運命。
私は深く息を吐き、玄関へ向かった。
「……はいはい」
扉を開ける。
そこには、橘君が立っていた。
いつもの落ち着いた顔。
手には、頼まれていた参考書。
そして目の前には、ピコピコハンマーと安全メットを構えたかぐや。
うん。
今日も駄目そうだった。
「彩葉、カメラ!」
「は?」
「これはリベンジだから! みんなに見届けてもらうの!」
「見届けてもらうようなものじゃないでしょ」
「かぐやの勝利の瞬間だよ!」
「まだ勝つ前提なのが怖い」
とはいえ、かぐやはもう止まらなかった。
こういう時のこの子は、止めても止まらない。
止めたら窓からでも飛び出しかねない。
いや、さすがに飛び出さない。
飛び出さないよね?
……飛び出すかもしれない。
私は諦めて、スマホを三脚に固定した。
画角を確認。
私の顔は映さない。
部屋の住所が分かるものも映さない。
机の上の参考書も、学校名が見えないように裏返す。
窓の外は絶対に入れない。
音声は最低限。
かぐやいろPチャンネル、突発配信。
タイトルは、かぐや命名。
『かぐや、今度こそ雅治に勝つ! 叩いて被ってジャンケン対決!』
勝手にタイトルを決めるな。
いや、もういい。
どうせ止まらない。
「橘君、顔出しは?」
「構わない。問題があるなら外す」
「問題しかないけど、今さら外す方が変に目立つのよね……」
「なら、このままで」
「そういう判断が早い」
「必要だからな」
「ほんと、そういうとこ」
配信開始ボタンを押す。
数秒遅れて、コメント欄が流れ始めた。
『かぐやっほー!』
『突発きた』
『タイトルがもう不穏』
『雅治ニキに勝てるの?』
『無理では?』
『いろP、止めて』
『いろPが止められるなら苦労してない』
うるさい。
分かってるわよ。
私が一番分かってる。
「今日こそは、雅治に勝つからね!」
リビング代わりの床スペースで、かぐやは高らかに宣言する。
手にはピコピコハンマー。
頭には、百均で買ってきた安全メット。
もう一度言う。
安全とは。
「……何を始める気なの」
「叩いて被ってジャンケン!」
「また勝負挑むの?」
「今度こそ勝ぁつ!」
その自信はどこから来るのだろう。
筋トレで負けて。
かけっこでも実質負け。
水ロケットでは勝負ですらなかった。
そろそろ人間として、自分の勝率と向き合ってほしい。
なお本人は、戦績表を見せられても「次は勝つから大丈夫!」で片づけるタイプである。
強い。
心だけは。
「ハンデで、雅治は目を閉じて一秒休んでから動くルールねっ!」
「それで構わん」
「いいの!?」
「構わない」
橘君は床に正座したまま、いつもの落ち着いた顔で頷いた。
ここ数日で見慣れた筋トレ服装。
そして目の前には、ピコピコハンマーとメット。
絵面がもうおかしいのよ。
明らかなパワーキャラにハンマーを持たせてどうするのよ。
いや、ピコピコだけど。
ピコピコだけども。
橘君が持つと、もうその時点でこちらの脳が勝手に警戒音を鳴らす。
ビーッ。
危険です。
この男子高校生に鈍器を持たせないでください。
いやだからピコピコだって言ってるでしょうが。
でもピコピコで済む未来が見えないんだってば。
ああ、今日も頭の中で渋滞が起きている。
勉強どころではない予感しかしない。
参考書を開いているのに、目の前では月の姫と筋肉が叩いて被ってジャンケンの準備をしている。
なんで?
ここ、私の部屋なんだけど。
進学校に通う女子高生の、貴重な自習時間なんだけど。
橘君。
アンタいつも数学と英語で満点取ってるからって、暇すぎじゃない?
ってかジムは?アンタ片付けとかいいの?遊んでいいの?
どうせ全部終わらせたから遊んでんでしょうけどもさぁ。
余裕がある人間の遊び方が怖いのよ。
だからかぐやが調子に乗るんじゃない。
もう、
「よっしゃーいくぞぉい!」
「準備はできている」
「最初はグー!」
二人が拳を出す。
「「じゃんけんぽん!」」
かぐや、パー。
橘君、グー。
「……!」
勝った。
かぐやが勝った。
よりにもよって初手で勝った。
かぐやの顔がぱぁっと輝く。
待ってましたと言わんばかりに、ピコピコハンマーを両手で持ち上げた。
橘君はまだ目を閉じている。
一秒ルール。
拳もグーのまま。
勝った。
今度こそ勝った。
少なくとも、かぐやの顔にはそう書いてある。
「もらったぁぁぁ!」
振り下ろされるピコピコハンマー。
狙いは橘君の額。
身長差のせいで、かぐやが全力で振ってもぎりぎり届くかどうか。
でも届く。
届くはずだった。
「一秒」
橘君の目が開く。
「時は動く」
次の瞬間。
カコン。
かぐやのピコピコハンマーは、橘君の額に触れる寸前でメットに阻まれていた。
あと一センチもなかった。
本当に、あと一センチも。
なのに、その間に。
橘君はメットを被っていた。
しかも顎紐まで結んでいた。
「な、なにぃぃぃいいいッッッ!?」
かぐやが絶叫する。
私もしたい。
どういう身体してんのよ。
いや、身体だけの問題か?
目を閉じていた。
腕もグーの出しっぱなし。
そこからメットを手に取り、被り、顎紐を結ぶ。
一秒で。
無理。
人類の操作速度ではない。
ホットキーでも押したのか。
『は?』
『は?』
『は?』
『今の一秒?』
『一秒の密度が濃すぎる』
『このDIOが』
『ザ・ワールド!』
『メット装着RTA世界一』
『グー出したまま防御完了してて草』
『かぐや勝ったと思った? 残念でした』
『かぐや、今のは泣いていい』
『雅治ニキ、対かぐやだけ妙に意地悪で草』
『いろPの胃がまた死んだ』
コメント欄が一斉に流れた。
大丈夫。
私の胃はもうだいぶ前から死んでいる。
「……橘君」
「何だ」
「今の、どうやったの」
「必要な動作を短くした」
「答えになってないのよ」
「なっていると思うが」
なってない。
絶対なってない。
かぐやはピコピコハンマーを握りしめたまま、ぷるぷる震えていた。
「ま、まさはるぅ~」
出た。
奥の手。
『 あ ま え る 』
かぐやは目をうるませ、声を甘くして、両手を胸の前で握った。
真実あたりに仕込まれた動きである。
間違いない。
余計なことを。
「なんだい、かぐや」
橘君が、爽やかに微笑んだ。
え。
ちょっと待って。
何その顔。
普段の落ち着いた表情でも、かぐやに甘い時の少し緩んだ顔でもない。
なんというか、すごく穏やか。
すごく優しい。
そのくせ、底が見えない。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
「かぐや、まさはるのこと好きなの、知ってるよねぇ?」
「ああ、もちろん」
「じゃ、じゃあ――」
「だから安心しろ」
「ヱ?」
かぐやの声が変になった。
私も変になりそうだった。
橘君はメットを脱ぎ、今度はピコピコハンマーを手に取る。
爽やかな微笑みのまま。
「痛みを感じる間もなく、終わらせる」
「あ、ああ、あああああああああ」
ああ、うん。
知ってた。
というか、最初からだいたいのオチは見えていた。
かぐや。
なぜそこで甘えれば勝てると思ったの。
確かにお相手の橘君は女の子、というか、他人には基本的に甘いし控え目なのよ。
でも勝負事と筋トレに関しては、妙に容赦がない。
それが橘雅治という男でもあるんだというのを、私はつい最近になって気付いたのだ。
第二ラウンド。
「最初はグー!」
「「じゃんけんぽん!」」
かぐや、チョキ。
橘君、
合掌。 Ω\ζ°)チーン
「ヤベッ」
またしてもグーのまま目を閉じている橘君と慌ててメットを被ろうとするかぐや。
でも焦り過ぎてまだ手も付けてない。バカ。
「1秒」
そして、世界は動くのね。
「ふんっ」
「うぎゃぁぁぁああああー!!!!」
ピコピコハンマーが振り下ろされる。
ただし、狙いはかぐやの頭ではない。
かぐやの被るはずだったメット。
当たった瞬間。
ぱきゃん。
安全メットが割れる いや、
安全とは。
いや、だから百均のパーティーグッズである。
分かっていた。
分かっていたけど、ピコピコハンマーで割れるものではない。
「メットがぁぁぁ!」
「次からは、ちゃんとしたものを用意するように」
「次がある前提なの!?」
「勝つまでやると言ったのはかぐやだろう」
「言ったけどさぁ!」
かぐやは頭を押さえながら涙目になっていた。
怪我はない。
橘君はちゃんと当てる場所も威力も調整している。
調整した上でメットだけ割っている。
それはそれでおかしい。
『ゴリラかよ』
『ば……バカな!』
『この筋肉があああぁぁぁ』
『東京ジャングルのゴリラさん』
『おいでよ筋肉の森』
『ピコピコとは』
『安全メット、無事死亡』
『いろP、これ人間?』
『いろP:知らない』
『知らないで済ませるな』
コメント欄が好き勝手言っている。
完全に同意である。
最初の結果を見た時点で分かったことである。
かぐやは何がどうあっても、正面からでは橘君の防御を突破できない。
その反面、橘君は今の速度の半分でも、かぐやを手玉に取れる。
うん。
クソゲー。
やらなくてよかった。
「彩葉もやる?」
「やらない」
即答だった。
命は大事にしたい。
*
数日後。
今度は、もっと平和な企画のはずだった。
かぐや、真実、芦花の三人で撮るコラボショート動画。
内容は、かわいいダンス。
ただそれだけ。
かわいい服を着て。
かわいい曲に合わせて。
かわいく踊る。
平和。
実に平和。
少なくとも、メットが割れる心配はない。
「親指小指ピンピン♪」
かぐやが両手の親指と小指を立てて、顔の横へ寄せる。
真実がそれに合わせて、きゅっと表情を作る。
芦花は流石だった。
動きが柔らかい。
指先までかわいい。
この三人だけなら、ちゃんと映える。
ちゃんとかわいい。
ちゃんとショート動画になる。
私はスマホを構えながら、少しだけ安心していた。
少しだけ。
この時点で油断していたのが悪かった。
「最高にチャームでラブリーな私♬」
三人が両手を重ね、その上に顎を乗せる。
かぐやは少し大げさ。
真実は自分の見せ方を分かっている。
芦花は何をしても様になる。
いい。
これはいける。
ちゃんとかわいい。
そして、最後。
「私こそお☆姫☆様」
三人が後ろを向き、ステップを踏んで、上半身だけ正面へ戻す。
お花ポーズ。
片目ウインク。
右足だけ持ち上げる。
かわいい。
はい、かわいい。
よし撮れた。
そう思った瞬間だった。
「あ、雅治!」
かぐやが横を見た。
私たちが立っていた公園の横道を、橘君が通りかかったところだった。
手にはタオルと水筒。
たぶん、さっきまでジムか何かにいたのだろう。
通りすがり。
本当にただの通りすがり。
なのに、かぐやの目が輝いた。
あ、まずい。
「雅治も一緒にやろ!」
「僕も?」
「うん!」
「撮影中だろう」
「だから一緒に撮るの!」
「いや、これは女性向けの振り付けでは」
「大丈夫! 雅治ならできる!」
何が大丈夫なのか。
どこが大丈夫なのか。
大丈夫の定義を月へ返してきてほしい。
「橘君、無理にやらなくていいからね」
私は一応止めた。
一応。
止めたのだ。
後で何か言われても、私は止めた。
ここ大事。
「一度見せてもらえれば十分だ」
「え?」
橘君が真顔でそう言った。
何を?
一度見れば?
いい?
「もう一回、通しで見せてくれ」
「よっしゃー!」
かぐやは嬉しそうに頷き、真実と芦花も面白がって位置につく。
私は嫌な予感しかしなかった。
そして三人は、もう一度踊った。
親指小指ピンピン。
最高にチャームでラブリーな私。
私こそお姫様。
十秒。
本当に、たった十秒。
橘君はそれを見た。
見ただけだった。
「分かった」
「分かったの!?」
「ああ」
何が分かったの。
私には分からない。
橘君は少しだけ立ち位置を確認し、三人の横に並んだ。
高い。
デカい。
圧がすごい。
かわいいショート動画の画面端に、急に筋肉質な巨人が入ってくる。
ジャンルがぶっ壊れる。
「じゃあ、いくよー!」
かぐやが元気よく声を上げる。
音楽が流れた。
そして。
「親指小指ピンピン♪」
橘君が一緒に踊る。
完璧だった。
腹が立つほど完璧だった。
両手の親指と小指を立てる角度。
顔の横へ寄せるタイミング。
首の傾け方。
次の動きへ入る間。
全部合っている。
というか、かぐやより合っている。
「最高にチャームでラブリーな私♬」
両手を重ねる。
顎を乗せる。
無表情に近い顔で。
しかし、振りだけは完璧にかわいい。
地獄かな?
真実が吹いた。
芦花が崩れた。
私はスマホを構えたまま固まった。
撮れている。
撮れてしまっている。
止めるべきか。
いや、もう遅い。
「私こそお姫☆様」
最後のステップ。
後ろを向く。
上半身だけ正面へ戻す。
お花ポーズ。
片目ウインク。
右足を持ち上げる。
やった。
やってしもうた。
完璧にやってしもうた。
しかも、妙にキレがいい。
体幹が強いから、片足で止まっても一切ブレない。
ウインクもできている。
なんで?
どうして?
誰がこの男にそんな性能を与えたの?
教えてヤチヨ。
十秒の動画。
たった十秒。
でも、見た者の精神を破壊するには十分すぎる威力だった。
「……なんの罰ゲーム?」
私の口から、素直な感想が漏れた。
真実は床にしゃがみ込んで笑っていた。
「無理、無理無理無理! タチバナくん、キレが良すぎる! かわいい振りを本気で踊らないでよ!」
芦花は腹を抱えたまま俯いている。
「だめ……真顔なのに、ちゃんとかわいいのが……だめ……」
かぐやだけが、目を輝かせていた。
「雅治すごい! 一回でできた!」
「動きを覚えただけだ」
「それを普通は一回でやらないのよ!」
私は思わず突っ込んだ。
橘君は少し首を傾げる。
「十秒なら、まだ短い方だろう」
「長さの問題じゃない」
「そうか」
「そうよ」
そうか、で流すな。
理解しろ。
いや、理解されたらされたで困るけど。
撮れた動画を再生する。
三人のかわいいダンス。
そこに混ざる高身長男子高校生。
無駄に正確。
無駄にキレがある。
無駄にウインクが上手い。
特級呪物だった。
保存していいのかこれ。
公開していいのかこれ。
いや、駄目でしょこんな劇物。
公開したが最後生物テロでヤチヨにつかまるのが目に見える。
あ、それならいいかも。
いや、やっぱだめ。
私は正常、私は正常、私は正常。
倫理と欲望が私の中で殴り合っている。
「彩葉、載せよ!」
「載せない」
「なんでぇ!?」
「威力が高すぎるから」
「絶ぇ対ハッピーなのに!」
「こんな劇物にハッピーも夢もないのよ」
あってたまるもンか。
私は動画をもう一度見る。
橘君の最後の片目ウインクで、真実の笑い声が裏返っている。
芦花が画面端で崩れている。
かぐやが満面の笑顔。
橘君は真顔。
「...スゴイネー」
夏である。
今日も青空が綺麗だった。
翌朝、スマホが死んでいた。
通知。
通知。
通知。
通知。
何。
怖い。
画面を開くと、かぐやが勝手に上げた例の動画が伸びていた。
【雅治もお姫様ダンス踊ってみた!】
終わった。
人類には早すぎたはずの十秒が、なぜか人類に受け入れられていた。
しかも真顔の筋肉男子たちが、次々と真似していた。
やめて。
増えないで。
世界に筋肉お姫様を輸出しないで。
「最っ高にCOOLだぜぇ!」
「うるさい。元凶は正座」
「はぁい……」
橘君は動画を見て、少し黙るも。
「動きは悪くない」
「そこじゃない」
「体幹が安定しないのがネックだな」
「採点すんな」
私はスマホを伏せた。
見なかったことにした。
世界も、できれば見なかったことにしてほしい。
夏である。
今日も青空が無駄に綺麗だった。
夜。
ツクヨミの一角。
シらぬイの工房では、いつものように無声配信が行われていた。
画面に映っているのは、作業用フィールド。
工具。
金属フレーム。
ケーブル。
そして、床に転がった人体パーツ。
下半身。
腕。
首。
胴体。
書き方が完全に事件現場である。
だが違う。
これは事件ではない。
たぶん。
おそらく。
シらぬイの配信では、事件と試作品の境界線がかなり薄いので断言はできない。
『またなんか作ってる』
『人体パーツ転がってるんですが』
『通報した方がいい?』
『ツクヨミ運営ー!』
『でもシらぬイだしな……』
『その言葉で全部済ませるな』
画面の中央に、小さなプラカードが浮かぶ。
『本日の試作』
次。
『トレースシステム(仮称)』
さらに次。
『持ち主のアバターの動きを模倣する等身大アクセサリー』
『つまりあれか?』
『質量を持った分身?』
『ヤチヨのあれ?』
『え、あれ一般ユーザーが再現していいやつ?』
『よくない匂いがする』
『またツクヨミの規約とにらめっこしてそう』
ヤチヨには分身がある。
複数の姿を同時に動かし、複数の場所で同時に存在する、あの管理人AIならではの反則技。
当然ながら、普通のライバーにはできない。
アバターは一人につき一つ。
操作する意識も一つ。
複数アカウントの同時操作も、分身化も、簡単に許されるものではない。
ならばどうするか。
同じアカウントを増やせないなら、アクセサリーを動かせばいい。
シらぬイはそう考えたらしい。
らしい、というのは、本人が喋らないからである。
だが大体そういうことだろう。
発想がもうおかしい。
『理屈は分かる』
『分かるか?』
『分かるけどやるな』
『一般人はそこでアクセサリーを等身大にしない』
『ヤチヨの分身を再現しようとするとか神聖冒涜だろ』
『また管理人AIに喧嘩売ってる?』
とはいえ、まだ未完成だった。
下半身。
腕。
首。
胴体。
パーツはバラバラ。
各部位の同期テストすら終わっていない。
リンクしているのは、まだシらぬイ本人のアバターだけ。
モーションデータの整理も。
外部使用者への割り当ても。
安全制御も。
バランス補正も。
全部まだ。
まだ、何も終わっていない。
終わっていないはずだった。
「▓▓ッ」
床に転がっていた首が跳ねた。
『は?』
首が回る。
ごろん、ではない。
ぎゅるん。
そういう回転だった。
ブレイクダンスである。
首だけで。
なんで?
「▓▓ッ、▓▓ッ」
シュッ。
シュシュッ。
ガタン、ガタタタッ。
腕が動き始めた。
床に転がっていた二本の腕が、肘を支点にリズムを刻む。
手首が返る。
指が鳴る。
肩がないのに肩で風を切っているように見える。
どういう構造?
下半身も続く。
膝が曲がる。
足首が跳ねる。
床を蹴る。
腰がないのに腰の入ったステップを踏む。
いや、腰はまだ接続されていない。
なのに腰がある。
気合いでか。
『待って』
『動いた』
『いや動くのは分かる』
『分かるなよw』
『踊ってない?』
『首だけでブレイクダンスしてるんだけど』
『下半身キレッキレで草』
『腕のアイソレ上手すぎだろ』
『なんでパーツ単位で踊れるんだよ』
シらぬイが止まった。
完全に止まった。
マスクのせいで表情は見えない。
だが、分かる。
絶対に驚いている。
これを想定していた顔ではない。
というか、これを想定できる奴がいたらそれはもう未来予知である。
床の上では、バラバラの人体パーツが軽快に踊っていた。
首だけが回る。
腕だけが振る。
足だけが踏む。
胴体だけが謎にウェーブする。
全部別々なのに、なぜかリズムは合っている。
しかも。
『あれ?』
『この振り見たことある』
『待ってこれ』
『かぐやと雅治ニキがこの前踊ってたやつじゃね?』
『例のダンスじゃん』
『やめろ腹痛いwww』
『バラバラ死体みたいなパーツで劇物ハッピーダンス踊るんじゃねーよwww』
そう。
これは、少し前にかぐやと雅治が一緒に踊ったダンスだった。
なぜ。
どうして。
何がどうなってそうなる。
恐らく、雅治が練習がてらツクヨミでモーションキャプチャーしたデータが、何かの拍子に勝手に読み込まれたのだろう。
理屈としては、多分そう。
たぶん。
おそらく。
でも、だから何だという話である。
勝手に読み込むな。
勝手に踊るな。
しかも上手いな。
『さすがシらぬイ』
『創ったものは踊りでさえ一流』
『俺たちにできないことを平然とやってのける』
『そこに痺れるぅ』
『憧れ……ないな、うん』
『つーかコヤツも驚いてんじゃん』
『バグってる本人が一番バグに困惑してるの草』
『ワロスワロスw』
ヤチヨ以外には使用できないアバターの分身化。
複数アカウントの同時使用と操作。
それを擬似的に再現するため、連休明けから研究してきた。
その末路がこれ。
バラバラ人体パーツのキレキレダンス。
どうしてこうなった。
いや、どうしてこうなったと言いたいのは視聴者だけではない。
たぶん、シらぬイ本人も思っている。
だが。
そこで止まらないのがシらぬイだった。
「……」
彼はしばらく、床の上で踊るパーツたちを見ていた。
腕。
足。
首。
胴体。
それぞれが別個に動きながら、なぜか一つのダンスとして成立している地獄絵図。
普通なら、まず止める。
安全確認。
原因調査。
ログ解析。
不具合修正。
それが正しい。
たぶん、本人も分かっている。
分かっているはずだ。
なのに。
シらぬイの手が、ゆっくりと顎へ向かった。
『あ』
『考え始めた』
『駄目だ』
『止めろ』
『その沈黙はロクなこと考えてない』
『こいつ今、修理方法じゃなくて使い道考えてるだろ』
『絶対そう』
そう。
彼は目前のバグをどう直すか考えているのではない。
否。
どう使えばおもろそうか。
それを考えていた。
こいつ。
本当にこいつ。
シらぬイは、床に転がったパーツを拾い上げる。
まず下半身。
次に胴体。
腕。
腕。
首。
カチリ。
カチリ。
カチリ。
無駄に手際がいい。
バラバラだったパーツが、あっという間に人型へ組み上がっていく。
完成したのは、シらぬイと同じ姿をした等身大アクセサリーだった。
白いシャツ。
黒いズボン。
作業用前掛け。
ガスマスク型のマスク。
ただし本体ではない。
偽物。
分身もどき。
トレース人形。
『できちゃった』
『組み上げるの早すぎ』
『人体錬成?w』
『いや完成度高いなオイ』
『さっきまで床で首だけ踊ってたやつとは思えない』
『だから嫌な予感しかしない』
シらぬイはそれを、自分の背後に立たせた。
そしてもう一体。
予備パーツを組み上げる。
カチリ。
カチリ。
カチリ。
二体目。
さらに三体目。
四体目。
五体目。
『増えた』
『増やすなキモチワル』
『なんで予備パーツそんなにあるんだよ』
『これ量産前提だったの?』
『やめろ画面圧が強い』
『シらぬイが林になっていく』
気づけば、シらぬイの背後には、同じ姿の人型アクセサリーがずらりと並んでいた。
シらぬイ。
シらぬイ。
シらぬイ。
シらぬイ。
シらぬイ。
シらぬイの林。
嫌すぎる。
本人一人でも情報量が多いのに、それが複数並ぶとかまさに地獄絵図。
画面の治安が悪い。
いや、顔は隠れているし、動きも静かだ。
なのに圧がすごい。
無言の大群って怖い。
シらぬイ本人が、ゆっくりと右手を上げる。
背後のシらぬイたちも、同じタイミングで右手を上げた。
完璧な同期。
『うわ』
『動いた』
『同期した』
『怖っ』
『でも揃っていて腹立つ』
『軍隊かな?』
『アイオニオン・シらぬイ』
『ツクヨミ終わった?』
次の瞬間。
音楽が鳴った。
いや、正確には工房に流していた作業用BGMが、勝手にダンス用のテンポへ切り替わったのだ。
なぜ。
どうして。
誰が。
決まっている。
シらぬイの他にあるか?
そして、シらぬイ本体が一歩踏み出す。
背後の分身もどきたちが、同時に踏み出す。
肩。
肘。
手首。
膝。
足首。
全部が揃って動く。
しかも上手い。
かぐやと一緒に練習していた時の、あの妙に真面目なダンス。
あれが、無言のガスマスク集団によって再現されている。
地獄かな?
『wwwwwwwww』
『やりやがったwwwww』
『同じ顔のシらぬイが踊ってる』
『怖い怖い怖い』
『でもキレキレなのマジで腹立つ』
『完成度で殴ってくるな』
『これがヤチヨ分身機能への回答ですか?』
『回答が最悪すぎる』
『分身ではなく量産型シらぬイ』
『ツクヨミに放ってはいけない生物兵器』
コメント欄は崩壊した。
笑う者。
引く者。
怖がる者。
録画を始める者。
切り抜きタイトルを考え始める者。
世界は広い。
人類は愚か。
シらぬイはもっと愚か。
そして、配信をたまたまつけっぱなしにしていた彩葉は。
「…………」
部屋の中で、スマホを片手に固まっていた。
画面の向こうでは、無言のシらぬイ軍団が踊っている。
揃っている。
キレている。
無駄に上手い。
あの人、本当に何をしているんだろう。
いや、何をしているかは分かる。
分かるけど分かりたくない。
「……うわぁ」
素直な感想が漏れた。
ドン引きである。
かなりドン引きである。
ただし問題はそこではない。
この配信を、かぐやが見たら。
絶対に言う。
百パーセント言う。
むしろ言わない未来が見えない。
『かぐやもやりたぁい!』
言う。
絶対言う。
そして橘君は、たぶん少し考える。
考えた後、言う。
『簡易版なら可能だ』
やめて。
その「可能だ」が一番怖い。
可能にするな。
可能性を潰せ。
芽のうちに摘め。
私は慌ててスマホを操作し、かぐやへメッセージを送った。
彩葉:今すぐシらぬイの配信を見るのをやめなさい
彩葉:絶対に見ないで
彩葉:特に踊ってるやつ
送信。
既読。
早い。
かぐや:もう見てる!
かぐや:これ欲しい!
かぐや:かぐやもやりたぁい!
終わった。
世界は終わった。
いや、終わってはいない。
終わったのは私の平穏である。
いつものことだった。
くそ。
*
同じ頃。
ツクヨミ管理領域。
月見ヤチヨは、問題の配信映像を見つめていた。
隣には、犬DOGE――FUSHI。
画面の中では、シらぬイ軍団がまだ踊っている。
無言。
無表情。
完璧な同期。
そして妙にキレのある動き。
「ねぇ、FUSHI」
「なんだい、ヤチヨ」
「あれって、普通かな」
「そんなわけあるかバカタレ」
即答だった。
ヤチヨは少しだけ黙った。
AIである。
ツクヨミ管理人である。
膨大なログと演算資源を持ち、ほぼあらゆる行動パターンを予測できる存在である。
そのはずだった。
だが。
アホとバカの行動パターンは、時に超AIの処理能力すら置き去りにする。
ある意味、シらぬイはツクヨミの限界を突破した。
誇るがいい、シらぬイ。
お前が最強。
いや。
最凶である。
「……どうしてこうなったのかな」
「作った奴がシらぬイだからだろ」
「それ、答えとして強すぎない?」
「でも合ってる」
画面の中で、シらぬイ軍団が一斉にターンした。
キレッキレだった。
ヤチヨは、そっと視線を逸らした。
どうしてこうなった。
最近読み始めた遊戯王作品のファンサーが素晴らしすぎて顔の半分は涙目、口はニヤニヤ爆笑しながら叫ぶカオス極まる顔面の作者がこの世のどこかにありきけり………なんちゃってw
ここまでお読み頂き感謝です。
いつも感想が来るたびにうれしくてうれしくてたまりませんわい。
だからどんどん送ってください(笑)
明日からまた新しい一週間が始まりますね。
もう6月も半分に入りこむとは、本当超かぐや姫!が出てきたのが一昨日のように感じますね〜
明日からも皆さんも学校やお仕事、お頑張りくだされ。
作者も頑張りますのでまた週末にお会いしましょう。
番外編を時間列に合わせて本篇の合間に入れてみる?
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話の展開やネタの繋がりがあってよさそう。
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「番外」やから別途でいいんじゃね?