今日も正常営業。ただし“そういうとこ”を添えてー 作:火力万能主義
ずっと頭の中でブレーキダンスしている。
ジムで思いついたネタをかえって即仕上げました。
まだ本篇十七話も仕上がっている途中やっつーのに。
これも全てシらぬイってやつの仕業なんだ。(`・ω・´)
なんで頭ん中のシらぬイを皆さんにおすそ分けします(笑)
あ、最後に番外編の位置関連にアンケート開こうと思いますんで皆さんのご意見お待ちしておりまーす!
番外編 ピコピコ・ピーコ・ピココ
通算戦績、三十四戦三十四敗。
かぐやは負けている。
ひどく負けていた。
それはもう、清々しいほどに負けていた。
叩いて被ってジャンケン。
ルールは単純。
ジャンケンに勝った者はピコピコハンマーを取り、負けた者は安全メットを被る。
先に相手の頭を叩けば勝ち。
先にメットで防げば防御成功。
子どもでも分かる。
小学生でもできる。
つまり、月から来た宇宙人でもできる。
はずだった。
「なんで勝てないのぉぉぉぉ!」
かぐやは床に突っ伏して叫んだ。
画面の向こうではコメント欄が流れている。
『また負けた』
『三十四敗目おめ』
『くそ雑魚かぐやwww』
『かぐや、じゃんけん弱すぎない?』
『いやジャンケンには勝ってる時もある』
『勝った後に負けるのが芸術点高い』
『ピコハン界の敗北姫』
「敗北姫じゃないもん!」
かぐやは跳ね起きた。
涙目。
頬ぷく。
かわいい
手には折れかけたピコピコハンマー。
その向かいで、橘雅治はいつものように座っている。
落ち着いた顔。
揃った姿勢。
手元には安全メット。
そして横には、なぜか予備のピコピコハンマーが数本。
準備がいい。
良すぎる。
そんなものに準備の良さを発揮しないでほしい。
「雅治、もう一回!」
「構わん」
「次はルールを変える!」
「聞こう」
雅治は淡々と頷いた。
止めない。
止める気がない。
それどころか、ほんの少しだけ楽しそうですらある。
いや、表情は変わらない。
でも分かる。
この男、たぶん楽しんでいる。
『まさはるニキ、付き合いいいな』
『いや付き合い良すぎて怖い』
『かぐや相手だけ妙に容赦ないの好き』
『容赦はないけど安全確認はしてるだんよね』
『そこが一番怖いけどなw』
かぐやは立ち上がり、拳を握った。
「ここからが本番だから!」
「そうか」
「かぐや、もう負けない!」
「そうか」
「本当に負けない!」
「分かった」
「その顔やめてぇ!」
「まだ何もしていないが」
「その、負けるまで付き合うよ、みたいな顔!」
「していたか?」
「してるぅ!」
していた。
たぶん。
視聴者全員が思っていた。
だが誰も言わない。
なぜなら面白いからである。
*
ルール壱
『かぐやは部屋の中であれば動き回れる』
「シュワーッ!」
脱兎のごとく。
抜蝉のごとく。
またしてもチョキで負けた瞬間、かぐやはその場から飛び去った。
速い。
無駄に速い。
筋トレから逃げる時にだけ鍛えられた、謎の瞬発力である。
かぐやは雅治の腕が届かない距離を保ちながら、部屋中を動き回る。
右へ。
左へ。
机の陰へ。
布団の上へ。
画面から消えたと思ったら、なぜか下から顔だけ出てくる。
アイドルのアの字もない。
「ふははっ! これなら当てられないっしょ!」
また煽る。
懲りない。
本当に懲りないこいつ。
『煽るな負けるぞ』
『フラグ建築速度が速い』
『黄色いご……閃光』
『今ゴって言いかけた?』
『やめろ姫だぞ』
『姫の動きじゃないんよ』
かぐやは、雅治仕込みの煽りウォーキングで部屋中を駆け回る。
いや、仕込んだ覚えは雅治にはない。
たぶん。
でも何かしらの影響は出ている。
悪い方向に。
「ふぅ」
雅治が小さく息を吐いた。
瞬き数回。
目だけがかぐやの軌道を追う。
右。
左。
布団。
机。
画面外。
床。
天井ではない。
さすがに天井ではない。
次の瞬間、雅治はピコピコハンマーを手から離した。
投げた。
いや。
放った。
軽く。
何でもないように。
ピコピコハンマーは壁に当たり、跳ね、床に落ち、さらに机の脚に当たり、角度を変える。
一回。
二回。
三回。
あり得ない軌道。
やめて。
ピコピコにそんな物理演算を背負わせないで。
「へ?」
ちょうど後ろへ下がったかぐやの脳天に、ピコピコハンマーが吸い込まれた。
ぽこん。
「ぐえっ」
またしても人気ライバーが。
いや、女の子が出しちゃいけない声を出した。
『跳弾wwww』
『狙って出せるもんなの?』
『マトリックス?』
『じゃ次は実弾でスロー回避でもするんか』
『まず日本の法律より先にいろPママに絞め落とされるだろ』
『かぐやん家の序列』
『いろP(絶対王政)>まさはるニキ≧かぐや』
『尻に敷かれてて草』
「なんで分かったの?」
「見れば分かるだろう」
「普通は目で見ても分からないよぉ!」
「そうか」
「そうかじゃないの!」
第一ルール、失敗。
かぐや、三十五敗目。
*
ルール弐
『かぐやは武器を使える』
「チェストォォォォオオオオ!」
かぐやが吠えた。
手にはプラスチック製の長いパイプ。
見様見真似の示現流。
ただし、素材は百均。
殺意は高い。
威力は低い。
声量は近所迷惑。
「ご近所に迷惑だから声は低めに」
画面外から、いろPの注意が飛んだ。
いた。
珍しくいた。
いや、配信管理のためにいるのは当たり前なのだが、今回はかなり早めに注意が飛んだ。
声量の危険判定である。
「チェスト……」
かぐやは少しだけ声を落とした。
でも構えはそのまま。
目だけは本気。
完全に武士のつもりである。
「いくよ雅治!」
「来い」
「チェストぉ!」
「脇が開いてるぞ」
「うひゃぁあッ!?」
雅治の手元から、箸が一本伸びる。
箸。
なぜある。
どこから出した。
かぐやの開いた脇へ、すっと差し込まれる。
つん。
それだけ。
それだけで、かぐやは崩れ落ちた。
「くすぐったぁぁぁい!」
『箸www』
『武器の格差』
『パイプ対箸』
『箸一本で沈む姫』
『脇が甘いって物理で言うな』
『雅治ニキ、実はパンダ戦士説』
『これ武術教室?』
「雅治、ずるい!」
「隙を突いただけだ」
「箸じゃん!」
「箸だけで十分」
「名言っぽく言わないで!」
第二ルール、失敗。
かぐや、三十六敗目。
*
ルール参
『かぐやは罠を張れる』
仕込み座布団。
百均で買ったプラたらい。
シらぬイ講座~トラップの真意~を見ながら一晩かけて準備した、かぐや渾身の罠地獄。
罠が罠を呼び、次の罠がさらに次を起動する。
逃げ場はない。
はずだった。
「そこ」
「うぎゃっ」
「右」
「ぴゃっ」
「足元」
「なんで分かるのさぁ!?」
「見れば分かる」
「リアルに写輪眼はないよぉ!?」
「心の目で見るんだ」
「は゛ら゛た゛つ゛~!」
結局、一つも成功しなかった。
座布団は踏まれず。
たらいは落ちる前に受け止められ。
かぐやは地団太を踏んだ。
ここまで来れば、もはや正攻法では勝てない。
罠でも勝てない。
ならば。
最後に残るのは、交渉である。
「雅治」
「何だ」
「ここで負けてくれたら、これあげる」
かぐやは、どこからともなく一冊の小さなアルバムを取り出した。
表紙には、丸文字でこう書かれている。
『かぐや厳選! 彩葉すやすや寝顔写真集』
「……」
雅治が止まった。
完全に止まった。
今まで罠を見抜き、たらいを受け止め、ピコピコを構えたまま微動だにしなかった男が。
止まった。
『止まった』
『効いてる』
『まさはるニキ?』
『今、呼吸止まった?』
『寝顔写真集は反則』
『それは罠じゃなくて禁術』
『死なば諸共?』
『いろP本人の許可は?』
『あるわけないだろ』
「彩葉、疲れるとすぐ机で寝ちゃうんだよ」
「……」
「これはね、かぐやがちゃんと毛布かけてあげた時のやつ」
「……」
「こっちはプリン食べたあと、参考書抱えたまま寝たやつ」
「……」
「あとこれ、かぐや的ベストショット」
かぐやがアルバムをちらりと開く。
見せる。
見せてしまう。
雅治の目が、ほんの一瞬だけ動いた。
そして。
首が。
ほんのわずかに。
縦へ
「煩悩退散ッ!」
ぼふんッ!!
雅治が自分の頭にピコピコハンマーを叩き込んだ。
自害である。
ただしピコピコで。
「ええええええ!?」
かぐやが叫ぶ。
コメント欄も叫ぶ。
『自害したwwwww』
『煩悩退散www』
『一瞬負けかけたぞ今』
『見た? 今見た?』
『まさはるニキ、完全に揺れた』
『ピコピコで精神統一するな』
『ピコピコが折れたんですが』
『欲望に勝った代償がピコハン一本』
雅治の手元で、ピコピコハンマーが折れていた。
一撃。
たった一撃。
百円の命は短かった。
雅治は折れたピコピコをしばらく見下ろし、無言で横へ置いた。
ぽい。
※あとでスタッフが片付けました。
「……ふぅ」
「ま、雅治?」
「危なかった」
「危なかったの!?」
「危なかった」
認めた。
認めやがった。
雅治は鞄から新しいピコピコハンマーを取り出した。
値札がついていた。
八百円。
さっきより少し高い。
「予備だ」
「なんであるの!?」
「必要になると思った」
「ピコピコに予備を用意する人初めて見たよ!」
「それと」
雅治は、かぐやの手からアルバムを抜き取った。
「これは没収する」
「あっ」
「本人の許可を取れ」
「デスヨネ~」
「酒寄の尊厳に関わる」
「そこまで?」
「そこまでだ」
かぐやはしょんぼりした。
雅治はアルバムを伏せ、画面に映らない場所へ置く。
そして、新しいピコピコハンマーを構えた。
「さあ、続けるぞ」
「待って。今の流れで?」
「ああ」
「煩悩に揺れたのに?」
「何もなかった」
「一瞬負けかけてたけど」
「何も、なかった」
強弁だった。
かなりの強弁だった。
一応、ピコピコが折れたので互いに無効点とする。
とある馬鹿力のせいで備品が折れたりしたら無効の上に弁償である。
かぐやは唇を尖らせた。
「雅治、ずるい」
「何がだ」
「彩葉の寝顔に負けかけたくせに」
「負けていない」
「首、ちょっと動いたもん!」
「動いていない」
「動いた!」
「動いていない」
『動いた』
『動いてた』
『絶対動いた』
『これはリプレイ案件』
『いろPに報告しようぜ』
『やめろ消されるぞ』
今日も、かぐやは勝てなかった。
ただし。
一瞬だけ、魔王の心は揺れた。
それだけは確かだった。
「ただいま~」
「「あ」」
玄関から、聞き慣れた声がした。
酒寄彩葉。
いろP。
この場における、唯一にして絶対の審判。
画面の向こうでは、事情を察した視聴者たちが一斉に沈黙した。
『』
『』
『』
『』
『』
『』
『』
『』
彩葉は、ゆっくりと部屋を見た。
かぐや。
雅治。
折れたピコピコ。
変に伏せられたアルバム。
そして、配信中の画面。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
長い。
とても長い。
やがて彩葉は、にこりともせずに言った。
「説明」
合掌。
Ω\ζ°)チーン
*
ルール玖
『かぐやは仲間を呼べる。行動は二人にそれぞれ一回ずつ』
いろPによる説教を受けた。
それはもう、受けたとも。
かぐやは正座。
雅治も正座。
視聴者はなぜかコメント欄で正座。
寝顔写真集は没収。
中身は確認前に削除。
かぐやは泣いた。
雅治は何も言わなかった。
言える立場ではなかった。
それから数日後。
かぐやは、まだ諦めていなかった。
懲りない。
本当に懲りない。
「よろしく真実!」
「うん、頑張ろうね!」
「来るがいい」
いつもトライ&エラーを繰り広げる伝説の勇者。
その名は、かぐや。
必ずや、かの邪知暴虐な筋肉の化身に一矢報いるために日々努力している。
搦め手。
罠。
心理戦。
交渉。
すべてを試みるも、結果は全敗。
しかし、勇者には共に魔王と戦ってくれる仲間がいる。
よくリアルでもデザートの美味しいカフェを巡ったり、一緒にコラボして配信をしているグルメ系ライバー『まみまみ』こと、諌山真実。
普段はマイペースでかぐやと一緒に彩葉のツッコミ対象になったり漫才を繰り広げるが、実は意外と体育の成績もよく、身体スペックも高い。
彩葉のペースについていける数少ない猛者である。
何が言いたいのか。
質で勝てないなら数で勝てばよいのだ。
みんなやっていることだろう?
無限にアイテムで回復し。
ラスボス以上のスペックと難度を誇るDLCボスの装備で全身を固め。
仲間とペットを呼び寄せて捻じ伏せるプレイを。
君も、したことはあるだろうか。
つまり。
これは反則ではない。
れっきとしたルールによる数の暴力である。
ちなみに、みんなのオカンにして唯一のブレーキ枠たるいろP、酒寄彩葉さんはバイトでお留守。
つまり、かぐやの好き放題ということである。
間が悪い。
ただ、それだけである。
「さー観念せい、雅治ぅ」
「タチバナ君には悪いけど、私たち二人で最強だから」
「「ね~」」
かぐやと真実がにこにこしている。
雅治は座ったまま、静かにピコピコハンマーを置いた。
「ルール確認だ」
「出た、雅治のルール確認」
「大事だからね」
「二人の行動は、それぞれ一回ずつ」
「うん!」
「僕の停止時間は一秒」
「うん!」
「勝敗判定は頭部への命中のみ」
「うん!」
「それ以外は無効」
「うん!」
「分かった」
分かった。
その一言がすでに怖い。
しかし、かぐやと真実もこの日のために準備してきた。
アイコンタクト。
スタートダッシュ。
ピコピコの受け渡し。
雅治の防御パターン。
過去の敗北映像。
全部見た。
全部研究した。
一週間も。
一週間。
その努力をもっと別の方向に使ってほしい。
「いくよ、真実!」
「いくよ、かぐやちゃん!」
「「「最初はグー。じゃんけんぽん!」」」
かぐや、パー。
真実、チョキ。
雅治、パー。
二対一のルールにより、かぐやチームの先攻。
『目を閉じる』『1秒停止』の縛りはいまだに健在。
雅治はパーのまま目を閉じている。
『いけるか?』
『今回はいける?』
『二人ならワンチャン』
『いや相手まさはるニキだぞ』
『でもこの作戦は強い』
『今度こそ?』
かぐやがピコピコハンマーを手に取る。
真実は、目を閉じた雅治の横へ回り込んだ。
背後を取る。
完璧。
いくら二人に増えても、たった一秒さえあればいくらでも防ぎきる相手に、普通に攻めても勝てない。
ならば、一撃目を防がせる。
防いだ。
そう認識した瞬間に生まれる、ごくわずかな油断。
そこを突く。
この日のために、かぐやと真実は練習した。
ひたすら練習した。
普段から性格も似ている二人の協力プレイは、誰しもの想像以上だった。
まず第一打。
「もらったぁ!」
正面からちゃぶ台越しの一撃。
馬鹿正直な動き。
だが、これは布石。
ここまでで約〇・八秒。
そして。
「一秒」
雅治の目が開く。
亜音速並みの速さで
カチン。
当然、防がれる。
しかし、ルールには『
まだ、真実の
真実ぅ! あとはお願いッ!
任せなさい!
かぐやは、メットとぶつかった反動を利用し、ピコピコハンマーを背後の真実へ投げ渡す。
トス。
完璧なトス。
真実はそれを受け取った。
狙うは、雅治の頭部。
正面ではメット。
ならば後ろ。
メットで覆い切れない、頭部判定ギリギリの場所。
雅治の動きを読み、次へ備える。
ルールを利用し、相手の動きを読んで次を備える
すべては
魔王の教えを受けた勇者は今、その教えをもって魔王を討とうとしていた。
熱い。
かなり熱い。
絵面はピコピコハンマーだけど。
タチバナ君ッ
雅治ッ
『『覚悟ー!!』』
カーンッ!!!!!
真実の全力フルスイングが入った。
ここまで、ちょうど一秒と
誤差はない。
後のことは後で謝る。
今は勝つことだけを考える。
手応えはあった。
固いメットではない。
人の身体に当たった感触。
いくら雅治が速くても、限られた面積のメットで同時に二つの攻撃を完全に防ぐことは人体的に不可能。
だから、これは確かな一撃。
「よっしゃー!! 獲ったゾ~!」
「へへぇ、タチバナ君ごめんねぇ? 勝たせてもらったよー」
イェーイ。
ハイタッチ。
勝利の雄たけび。
勝った。
勝ったのだ。
ついに勝った。
通算戦績四十三戦四十三敗。
いや、そこからさらに負けているので実際はもっとひどい。
でも細かいことはいい。
今は勝った。
ようやく言える。
月兎どもに言える。
じゃんけん雑魚wwwとか抜かした連中を見返せる。
彩葉に、仇を取ったんだと言える。
※別に仇ではありません。
雅治に一つ、勝った。
それは大きい。
いつも大きな背中を見せてくれていた雅治へ、ついに言える。
かぐやはもう子どもじゃないよ、と。
私も雅治と彩葉の横に立てるくらい、大人になったんだ、と。
これで言える。
そして言うんだ。
二人に。
ありがとう、と。
仲間と力を合わせて難関に立ち向かい、希望を掴み取る物語は誰しもが好きである。
それは王道。
それは友情。
それは勝利への道。
事実は小説より奇なり、という言葉がある。
人間が想像する物語よりも、はるかに予測不可能で不思議であるという意味。
しかし、それをひっくり返せば、物語上では不可能で不自然なことでも現実ではいくらでもありえるんだ、と。
誰もが不可能だと思うことを可能に変えたのは、いつだった今を生きる、現実の人間たちであった。
そして、今はかぐやがその『不可能』を『可能』へと変えた。
それこそ、かぐやが追い求めるハッピーエンド。
ただし。
かっこいい王子様がかわいい王女様を助けるなんてお話は
もう飽きてしまったこの世である
『あり得ない』があり得ないように。
主人公が『不可能』を『可能』へと変えるように、魔王にも『不可能』を『可能』へと変えることができる。
それが
「かぐや」
「「え?」」
倒れたはずの魔王が、顔を上げた。
痛がる様子もない。
どころか、さっきより少しだけ目が鋭い。
「諌山、思ったより腕っぷしがあるな」
「え、あ、ありがとう?」
「筋トレをすすめた甲斐があった」
「そこで評価するの!?」
まるでダメージなど最初からなかったと言わんばかりの復活である。
「そ、そんな……確かに当たったはずッ。どうして?」
「ハッ。ま、まさかタチバナ君ッ」
真実が何かに気づいた。
そう。
それは。
「ルールは、相手の
そして相手は二人でこちらは一人。
攻撃も防御も二人分である。
ならば、答えは簡単にして明瞭。
かぐやのブラフであった最初の一撃を受けた衝撃に沿って身体をずらす。
普段の自分を見てきた二人ならば、これぐらいビクともしないと信じてくれるのを信じたのだ。
「……つまり」
「一撃目はメットで受けた。その衝撃に合わせて身体をずらし、二撃目を肩口に誘導した」
「肩口!?」
「頭部ではない」
「判定勝ちする気だったの!?」
「ルール通りだ」
わざと危険な場所で受けたわけではない。
あくまで相手の狙いをずらし、頭部から打点を外す。
今度こそ勝ったと思ったかぐやであったが、いかんせん相手が一枚どころか二枚三枚も上だった。
常に相手の裏をかき、斜め上の後ろから常識をぶん殴る。
それを少なくとも2年、シらぬイとして活動を始めた時期だけを見ても年期が違う。
それが橘雅治である。
ついでに、シらぬイである。
年季が違う。
悪い意味で。
「さあ、第二ラウンドだ」
「ルールを守って楽しく、だろう?」
「ごめん、いろP」
「ああ、最後に夏限定韓国風練乳かき氷食べたかった」
今日も勝てなかったよぉ。
*
別に勝てとか言ってないけどさ。
「橘君?」
「上に乗せる重石はいるか?」
「うん。石はいらないし、もう突っ込まないけどさ。一応は聞くわよ?」
「なんで正座か、だろう。分かっている」
「で、そのわけは?」
「見れば分かる」
さすがに今回はひどかったのか、かぐやは涙目のまま彩葉の腰と服にぎゅっとしがみついて離れない。
愛娘である。
いや、違う。
でもだいたいそんな感じである。
彩葉は部屋を見た。
ピコピコ。
メット。
配信画面。
正座する雅治。
しがみつくかぐや。
そして、すべてを理解した。
「そういうところだっつーの!!!!!!」
どこから取り出したのか、彩葉の手にハリセンが握られていた。
かぐやの私物である。
振り下ろされる一閃。
てっぺん。
腕。
みぞおち。
面、籠手、胴。
吸い込まれるような見事な燕返し。
スパパパァン!
「……お見事」
雅治は正座したまま、静かにそう言った。
夏である。
今日も、かぐやは勝てなかった。
*
*
*
*
*
「ふぅ……ごめんね、タチバナ君。さすがに今日の彩葉さんは怖いや」
配信終了後。
雅治へ、一件のメッセージが届いていた。
真実:身代わりのお返しに、韓国の激旨鶏ささみワンボックス送るね。
雅治がすべての罪と咎を背負っている隙に、逃走に成功した真実。
普段はあまり見せない、隠れ猛者としての判断力である。
逃げ足。
状況判断。
ヘイト管理。
どれも高水準。
さすが、彩葉のペースについていける数少ない女。
ただし。
逃げ切れたとは言っていない。
「 ま み ?」
その日。
諌山真実は、初めて知った。
いろPの索敵範囲は、思ったより広い。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
いつも感想、評価とお気に入りすべて感謝ばかりです。
もう感想がずっと送られてくるから朝起きてスマホを確認する時と仕事終わって帰る時期が一番ドキドキしてる( ◜ω◝ )
はて今回のネタがいくつあったのかすべて見抜けた猛者はいただろうか。
いたらいたで同類が見つかったそうで頭シらぬイがもう一人いたのかと受け入れるべきだろうか(笑)
番外編を時間列に合わせて本篇の合間に入れてみる?
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話の展開やネタの繋がりがあってよさそう。
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「番外」やから別途でいいんじゃね?