今日も正常営業。ただし“そういうとこ”を添えてー 作:火力万能主義
どんどん完結が近づくと思うと寂しいようでやっとゴールが見えてきたという二つの想いが二律相反するばかりです。
もっとバカしたかったなーという想いもあるけども、これらすべてを込めて僕の考えたエンディングに向かってどうか最後までお供願います。
今回は作者がAiの力を借りて造ったファン曲を添えて読めば楽しさは何倍も膨れ上がると思います!
今日も楽しい思いと共に明日を迎えてほしいという僕らの願いを込めた曲です。
始まる箇所にURLを貼っておきたいですけど、運営さんから動画サイトへのURL貼りはご遠慮くださいということなので僕の活動報告の方へURLを貼っておきますのでそちらからでお願いします!
ではいよいよコラボライブの本番です、どうぞ!
やっべまたタイトルゥゥゥ
その一音に、ヤチヨの歌声が重なった。
高く。
どこまでも、気持ちよさそうに。
さあ、こっちを見て。
言われるまでもなかった。
伸ばした腕も、軽く上げた顎も、客席を見渡すその目も。
今、この世界の真ん中に立っているのは自分なのだと、少しも疑っていない。
『ワールドイズマイン』のリミックス。
聞き覚えのある旋律が、装いを変えてツクヨミに響き渡る。
その声を追うように、彩葉の伴奏が走り出した。
鍵盤を滑る指先。弾む低音。細かな電子音がその間を駆け抜け、舞台の床を走った光が、三人の足元から一斉に広がっていく。
普段よりも、ずっと楽しそうな声だった。
軽く跳ねて、笑って、時にはわざと拗ねてみせる。
それだけ表情を変えても、歌声の澄んだ響きは少しも曇らない。
くるりと身体を返しながら、次の音を何でもないことのように拾ってみせるのだから、さすがというほかなかった。
その隣で、かぐやも一歩を踏み出す。
光が、揺れていた。
右にも。
左にも。
遠く、遠く、客席のいちばん奥にまで。
何十万というペンライトが、歌に合わせて跳ねている。こちらが手を振れば、向こうからも手が上がる。名前を呼ばれた方を見れば、さらに大きな声が返ってきた。
すごい。
かぐやの口元が、勝手に緩んだ。
練習で何度も間違えたところ。
もう一回、と言われて、思わず唇を尖らせたところ。
重くなった身体を引きずるようにして、最後まで通した日のこと。
全部、覚えている。
けれど今は、そのどれもが嘘のように、足が軽かった。
踏み出す。
音が来る。
隣のヤチヨが、笑う。
それなら、私も。
歌声を重ねた瞬間、客席の光がまた大きく跳ねた。
もっと。
もっと、こっちを見て。
片手を腰へ当て、ヤチヨと並んで胸を張る。
二人分の白いスカートが揺れ、色違いの長い髪が、同じ向きへ弧を描いた。
ヤチヨが、客席へ指を差す。
ほんの少し首を傾けて。
「 よね☆」
ぱちり。
ウィンクひとつで、会場が爆発した。
歓声。
歓声。
さらに、歓声。
頭上を流れる文字は、もはや読むものではない。押し寄せる感情が、たまたま文字の形を取っているだけだった。
誰もが、その舞台に夢中になっていた。
もちろん、雅治も例外ではない。
ただし、この男の場合。
ライブを楽しむという段階にすら、まだ辿り着けていなかった。
仲間内の通話に、真実の声が入った。
「……橘くん?」
返事がない。
「たーちーばーなーくーん」
やはり、返事がない。
肩を揺らされても、顔が動かない。
かろうじて瞬きだけはしているが、視線は舞台のある一点に固定されていた。
彩葉である。
横でまとめられた髪。
顔を動かすたび、いつもとは違うところで揺れる毛先。
凛とした黒のトップスに、照明を受けて華やかに浮かび上がる白いスカート。
登場した時から、見ていた。
似合っているとも思った。
しかし、そこで終わりではなかったのである。
その格好のまま、彼女が音を奏で始めた。
少し伏せた目が鍵盤を追い、かぐやたちへ顔を上げた瞬間、口元が柔らかくほどけた。
嬉しそうだった。
あの月見ヤチヨと。
かぐやと。
自分の作る音の中で、一緒に歌って、踊っている。
それが嬉しくて仕方がないという顔を、彩葉はしていた。
雅治の思考は、そこで止まってしまったのだ。
練習の成果を見せてもらおう。
などと、ついさっきまで余裕ぶっていた男の末路が、こちらである。
なお、隣にも一名。
「……かわいい」
芦花だった。
こちらもまた、舞台から目を離さない。
両手に握ったペンライトは胸の前でぴたりと止まり、少し開いた唇から、もう一度だけ同じ言葉が漏れた。
「彩葉、かわいい……」
「うん。分かる。分かるけどさぁ」
真実は、隣の芦花を見た。
その向こうの、雅治を見た。
どちらも、石。
「二人いっぺんは、ちょっと困るんだけど」
何を言っても反応がないので、とうとう身を乗り出し、片手ずつで二人の肩を掴む。
ぐらぐら。
ぐらぐら。
「戻ってきてー。まだ一曲目だよー」
動かない。
いや、揺れはする。
揺れるのに、顔だけは舞台へ向いたままなのだ。
器用だなあ。
こんなところで発揮する能力なのかどうかは、知らないけれど。
本日の苦労枠は、これで決定した。
幸いだったのは、雅治が開演前にキャプチャー機能を入れていたことである。
三十二倍ズーム。
超高性能レンズ効果。
さらに、保存した映像をフレーム単位で切り分け、写真として取り出せるプレミアムプラン。
お値段は、それはもう。
たかが仮想空間内の撮影機能に、と言いかけた者が、決済画面の数字を見てもう一度黙るくらいには、見事な額だった。
だが、今日のためならば。
そう判断した開演前の自分には、最大限の賛辞を送りたい。
念のために、と入れておいた録画機能が、まさか一曲目の冒頭から命綱になるとは思ってもいなかったが。
人間が止まっていても、記録は止まらない。
技術の進歩とは、素晴らしいものである。
「……あ。動いた」
真実の目の前に、短い文字が浮かんだ。
『諌山』
「はいはい」
『録れているか』
「録れてるよ。ちゃんと三人とも入ってる」
『よし』
「よし、じゃないんだよね」
何ひとつ、よくはない。
せっかく生で見に来ているのだから、もう少し
そう思った真実の隣で、芦花がゆっくりと顔を上げた。
「……橘くん」
『あとで送る』
「ありがとう」
話が早い。
先ほどまで固まっていた二人が、今度は真剣な顔で同時に頷き合っている。
真実は、溜息をひとつ。
そして、二人の肩から手を離した。
「はい。じゃあ今は、ちゃんと見ようね」
その言葉に促されるように、舞台へ視線が揃う。
かぐやが、ヤチヨの前へひょいと顔を出していた。
自分も、とばかりに客席へ手を振る。ヤチヨが少し大げさに驚いた顔をして、その肩越しからまた手を伸ばす。
あっち。
こっち。
今度は、二人一緒に。
どうしたって目が足りない。
しかも、その後ろでは彩葉が笑っているのだ。
演奏の邪魔をしないぎりぎりまで近づいてきたかぐやに、ああもう、とでもいうように目を細めている。
録画していて、よかった。
この世に生まれて、よかった。
この日まで生き残って、よかった。
雅治は心の底から、そう思った。
目は二つ。
見たい相手は三人。
数が合わない以上、どうしたって仕方がないのである。
「橘くん、また止まってるよ?」
でも仕方がないじゃん。
舞台の上で、二人がすれ違った。
伸ばした指先が、ぱん、と合う。
かぐやがヤチヨを見る。
ヤチヨが笑って頷く。
次の一歩は、ぴたりと揃っていた。
彩葉の音が、その足元で弾む。
かぐやが顔を上げ、今度は誰に促されるでもなく、客席いっぱいに声を飛ばした。
雅治の手が、ようやく動いた。
カメラを持つ方とは反対の手を、高く上げる。
その隣で、芦花のペンライトも大きく揺れた。
「そうそう。それでいいんだよ」
真実は満足そうに頷いてから、自分も舞台へ向き直った。
「いろPー! かぐやちゃーん!」
声が、ほかの歓声と一緒になる。
三人の立つ場所まで届いてほしくて、今度は、さっきより大きく手を振った。
一曲目の余韻が、まだ客席に残っていた。
上がった腕も、名前を呼ぶ声も、そのまま。
そこへ、次の音が滑り込んでくる。
かぐやとヤチヨが振り返った。
彩葉が、短く頷く。
舞台の色が変わった。
『Ex-Otogibanashi』。
待っていた、とばかりに歓声が膨らむ。
今夜の新曲。その始まりに、雅治も少しだけ身を乗り出した。
かぐやの声が先へ走る。
ヤチヨが受け取り、重なり、彩葉の音が二人の間を繋いでいく。
一曲目で、こちらを見てと笑っていた少女たちが。
今度は、その足で行き先を選ぼうとしている。
月から来た姫。
地上で出会った人々。
やがて訪れる迎えと、決まっている別れ。
知っている話だ。
雅治の古典の成績については、今は脇へ置いておくとして。
かぐや姫の結末くらいは、もちろん知っている。
知っているからこそ、歌の中でその結末へ向けられる、少女の不満もよく分かった。
誰が決めた。
自分は、まだ納得していない。
そう言いたげに、かぐやが前へ出る。
高く上げた腕。迷いなく踏み込む足。白い裾が、照明の中で大きく翻った。
雅治の口元が、少し緩む。
ああ。
実に、あいつらしい。
読み終えた本へ、つまらない、と文句を言うだけでは済まないのだろう。
気に入らないなら、その先を勝手に書き足す。しかも、きっと、一人ではやらない。
ねえ。
一緒にやろうよ。
そんな声まで聞こえてきそうで。
その時、ヤチヨが歌を引き取った。
雅治の指が、止まる。
声は、明るかった。
伸びやかで、力強くて、かぐやの勢いを少しも削がない。隣へ並んだ少女の肩に触れ、同じ方へ腕を伸ばす仕草も、先ほどと変わらず軽やかなものだった。
けれど。
……今の顔は。
舞台の大きな画面に映った、ほんの短い横顔。
客席へ向けられていたはずの目が、その向こうの、ずっと遠いところを見ているように思えた。
彩葉の方を振り返る。
口元が緩む。
そのまま、次の言葉を歌うまでに、ほんの少しだけ、唇を結んだ。
かぐやが、手を差し出した。
ヤチヨの視線が戻る。
その手を取る時には、もう、いつもの笑顔だった。
気のせいだろうか。
雅治は、画面から舞台へ目を移した。
同じ歌を歌っている。
同じところで足を踏み出し、同じように腕を上げている。
かぐやは、その先へ行きたいのだと、全身で言っていた。
ヤチヨは。
あの声は、何を願っているのだろう。
伸ばした手の先に、何を見ている。
今、隣にいる二人を、どうしてあんな目で見た。
開演前にも、そうだった。
楽しかった記憶が足元を照らすと語った時、こちらへ話しかけているはずなのに、どこか遠くで、その言葉を自分にも聞かせているようだった。
歌声が、高く伸びる。
雅治は、それを聞いていた。
もう一度。
どうか。
歌詞にはない、そんな言葉まで聞こえた気がした。
「……まるで
呟きは、現実の部屋にだけ落ちた。
音声の送信は、切ったままだった。
祈りに、似ていた。
大勢の前で、こんなにも華やかに歌っているのに。
たったひとつ、誰にも触らせずに抱えてきた願いを、その声に乗せているような。
それが何なのかまでは、分からない。
分からないまま、雅治は最後まで聴いていた。
かぐやとヤチヨが、同時に振り返る。
彩葉の指が大きく動き、最後の音へ向けて、三人の呼吸が揃った。
声が重なる。
白い裾が、揺れる。
そして、止まった。
一拍遅れて、拍手が押し寄せた。
雅治も、カメラを膝へ置いて手を叩く。
目は、まだ舞台へ向いたままだった。
ヤチヨが頭を下げている。
その横からかぐやが何か言うと、顔を上げて笑った。
今度は、よく知っている笑い方だった。
「ありがとー! みんな、ありがとー!」
かぐやが、舞台の右へ左へ手を振っている。
ヤチヨもその隣で手を振り、彩葉は鍵盤の前から、少し照れたように頭を下げた。
客席の熱は、まだ下がらない。
最初から最後まで、とにかく楽しかった。
見たかったものを見せてもらった上に、期待していたよりもずっとすごいものが出てきた。
今夜の新曲も聴けた。
それでも、終わるとなれば話は別だった。
……もう終わりか。
雅治は座ったまま舞台を見下ろした。
いや、まだ見ていられる。
こちらは、何なら明日の予定まで調整しても構わない。
むろん、演者の都合もある。
準備してきた曲の数にも限りがある。
分かっている。分かってはいるのだが。
そんな客席の未練を、知ってか知らずか。
かぐやが、ヤチヨを見た。
ヤチヨが、彩葉を見る。
彩葉は二人を見比べてから、ふっと笑って頷いた。
……ん?
何だ、その顔は。
雅治が目を細める。
見覚えがあった。
何かを思いつき。
こちらには黙って進め。
そして、まんまと出し抜けたと思っている時の。
「ねえねえ、もう終わりだと思った?」
かぐやが、胸を張った。
「とっておき、まだあるんだ!」
どよめき。
まだある。
何が。
まさか。
「もう一曲! 三人で、新しく作ってきましたー!」
歓声が、ひっくり返った。
さっきまで手を振っていた人々が、その手を頭の上へ跳ね上げる。
飛び交う文字に、いくつもの疑問符と感嘆符が混じった。
『新曲!?』
『もう一曲あるの!?』
『聞いてない聞いてない聞いてない』
『いろPいつの間に!?』
聞いていない。
それについては、雅治もまったく同じ意見だった。
新曲は一つ。
そう思っていた。
何しろ、先ほど、その一つを聴かせてもらったばかりである。
舞台の上では、かぐやが笑っていた。
ふふん。
やったり~。
声に出さなくても、顔に全部書いてある。
人が驚けば驚くほど嬉しくなる、実に性格のよさそうな笑顔だった。
「……今の顔」
芦花が、ぽつりと言う。
「橘くんに似てたね」
『俺はあんな顔をしない』
「自分じゃ見えないもんねえ」
真実の相槌が、妙に優しかった。
納得がいかない。
どこぞの
ともあれ。
あの「まだ秘密」は、これのことだったのか。
かぐやが、彩葉たちを振り返る。
「間に合ったね!」
「間に合わせた、でしょ?」
訂正が入った。
「
「だいぶ違うわよ」
「いろP、頑張ったもんねぇ」
「ヤチヨも途中から、あれもこれもって増やしてたでしょ」
「おや。そうだったかな~☆」
会場に、笑いが広がった。
なるほど。
今回は、止める側まで一緒になっていたらしい。
それなら、仕方がない。
「今日ね、来てくれたみんなに聴いてほしくて」
かぐやが、客席へ向き直った。
「あと、一緒に作ってくれた二人にも!」
両側を見る。
ヤチヨが目を細め、彩葉は少しだけ眉を上げた。
「私たちも歌うんだけど」
「うん。歌いながら聴いてね!」
何とも忙しい注文だった。
けれど、彩葉は笑っていた。
ヤチヨも、もう一度、小さく頷いた。
かぐやが、もう一度、客席へ向き直る。
「『まだまだ、また明日!』」
雅治は、慌てて
危ない。
もうしばらく、頼んだぞ。
短い音が、ぽん、と弾んだ。
続いて、もうひとつ。
彩葉の指が軽やかに鍵盤を渡り、その隙間へベースが潜り込む。
かぐやの肩が、自然と揺れた。
ヤチヨも隣で拍を取り、二人が顔を見合わせたところへ、ドラム音が勢いよく入ってくる。
足が、動きたくなる音だった。
かぐやが歌い出す。
「つまずいた日の帰り道
靴の先ばかり見てたなら
ちょっと寄り道していこう
面白いもの 見つけたんだ」
歌いながら、かぐやが少し腰を屈めた。
俯いている誰かの顔を、下から覗き込むように。
こっち。
一緒に行こうよ。
伸ばした手も、その笑い方も、雅治にはよく見覚えがあった。
「「ちゃんとしなきゃ」を詰めすぎた
かばんをいったん下ろしたら
君が見つけた好きなもの
一つ私に聞かせてよ」
雅治の口元が、緩んだ。
ああ。
言いそうだ。
というか、言われたことがある。
似たようなことなら、それはもう、何度となく。
そして、ついていってしまうのである。
何が始まるのか確かめるだけのつもりで、気づけば自分まで参加している。
彩葉に見つかった頃には、二人まとめて怒られる側だ。
どうしてそうなった。
いや、理由は分かっている。
かぐやが歌いながら、ヤチヨへ手を差し出した。
ヤチヨはそれを取る。
今度は、待つ間もなかった。
二人で歩き出し、次の拍で向きを変える。
その先にいた彩葉が顔を上げると、かぐやは、見つけた、とでもいうように笑った。
「逃げてきたって かまわない
遠回りなら 大歓迎」
ヤチヨの声が重なる。
「どんな道から来たとしても
いま会えたのが うれしいな」
かぐやの腕が、客席へ向いた。
ひとつの席だけを指すのではなく、端から端まで、そこにいる人たちを迎えるように。
歌が、サビへ入った。
「またね またね また 明日
今日の続きで 会いましょう
泣いたところも 笑ったとこも
君の話を 聞かせてよ」
そこで、もうひとつの声が加わった。
彩葉だった。
鍵盤を弾きながら、二人と同じ言葉を歌っている。
手元へ落ちかけた視線が、かぐやを見て、ヤチヨを見て、そのまま前へ上がった。
三人の声が、揃った。
「いい日ばかりじゃ ないけれど
いい日を増やしに 行こうよ
ここで出会えた 君となら
まだまだ先が 楽しみだ!」
最後の一言で、かぐやが大きく腕を伸ばした。
ヤチヨも隣で手を上げる。その間から客席を見た彩葉の顔が、ぱっと明るくなった。
雅治は、カメラの画面から目を上げる。
また明日。
その言葉が、妙に近かった。
明日も、学校がある。
顔を合わせれば挨拶をして、何でもない話をするだろう。
彩葉の家へ顔を出せばかぐやが待っていて、今夜の自分はどうだったかと、きっと、何度でも聞いてくる。
そうしてまた、次の話をする。
あれをやろう。
ここへ行こう。
今度は、これを作ってみたい。
その予定の中には、当然のように、
いつの間にか。
本当に、いつの間にか。
まだ誘われてすらいない次のことを、こちらまで楽しみにしているのだから、どうにも。
雅治は、ひとつ息を吐いた。
舞台では、かぐやが客席へ手を振っていた。
難しい振り付けではない。右へ、左へ。最初はばらばらだった光が、ヤチヨも一緒に腕を動かすうちに、少しずつ揃っていく。
芦花が、隣で口ずさんだ。
「またね、またね……」
まだ、歌詞の全部は覚えていない。
それでも、繰り返しの言葉は、もう覚えていた。
真実がそちらを見て笑う。
次に同じ旋律が来た時には、二人とも、声を合わせていた。
雅治も手を上げる。
かぐやは、それを見ていたのだろうか。
客席を見渡す顔が、ますます嬉しそうになった。
二番に入ると、ヤチヨが少し前へ出た。
「名前も知らない君の声が
隣の誰かと重なった
ひとりで口ずさんだ歌も
こんなに遠くへ届くんだ」
最後の音を、ヤチヨが遠くへ伸ばした。
かぐやが耳のそばへ手を添えると、客席のあちこちから声が返ってくる。
「帰ればひとりの部屋だって
今日の続きをつれていける
思い出したら笑えるように
もうちょっとだけ 騒ごうか!」
隣の人と顔を見合わせる者がいる。
頭上へ高く光を掲げる者がいる。
言葉を追うのに夢中になって、振っていた手を胸元で止める者もいる。
かぐやは、その誰へも顔を向けた。
「うまく笑えない日もあるよね
声に ならない夜もあるよね」
かぐやの声が、柔らかくなった。
腕を大きく振る代わりに、今度は胸の前へ、そっと片手を添える。
「歌えない日は 聴いていて
そのぶん私が 歌うから」
ヤチヨが、かぐやを見る。
その視線に気づいたかぐやは、当然のように笑い返した。
「またね またね また 明日
どんな君でも 会いましょう
うまい言葉が 出なくても
君の話を 聞かせてよ」
ほら、そっちにも。
そんな顔だった。
ヤチヨの口が、少しだけ開く。
そのまま、かぐやの隣へぴたりと並んだ。
繰り返す旋律に、今度は違う言葉が乗る。
「選び直しても 立ち止まっても
その足跡は 君のもの
誰にも描けない その先を
まだまだ一緒に 見たいんだ!」
かぐやが笑う。
隣のヤチヨと、その向こうで弾いている彩葉を、順番に見ながら。
彩葉の音が、その二人を追いかける。
雅治の空いた方の手は、いつの間にか膝の上へ下りていた。
視線だけは、舞台から離れない。
やがて、ドラムが引いた。
重なっていた音が、ひとつずつ少なくなる。
残った彩葉のキーボードに、かぐやの声が乗った。
さっきまで大きく動いていた手も、今は、胸元にそっと添えられている。
「消えない痛みがあることも
戻れない日があることも」
そのことを歌う声は、急に大人びたりはしなかった。
いつものかぐやのままだった。
「全部分かるとは言えないけど
君の話を 聞いていたい」
雅治は、少しだけ顎を引いた。
胸の奥で、何かが動いた。
それに名前をつけるより先に、次の言葉が来る。
「『生きるのは最高だ』って
今日は言えなくたっていい」
かぐやが、ヤチヨを見た。
彩葉を見た。
それから、客席へ顔を上げた。
「君に会えてよかったって
私はいま 歌えるよ」
客席へ向けていた手が、ゆっくりと動いた。
右へ。
それから、左へ。
舞台の近くで、ひとつ、ペンライトが上がる。
遠くの席でも、同じように光が揺れた。
かぐやが頷く。
見えているよ、と伝えるように、もう一度、大きく。
その顔を見て、雅治の口元が緩んだ。
会えてよかった、か。
まったく。
それは、こっちの台詞だ。
隣で、真実が小さく息を吸った。
芦花は舞台を見たまま、ペンライトを握り直している。
雅治も、背筋を伸ばした。
音が、止まる。
ほんの、一拍。
かぐやが息を吸った。
ヤチヨが隣へ並び、彩葉も客席へ顔を上げる。
次の瞬間、音が一斉に戻ってきた。
「またね またね また明日
今日の続きで 会いましょう」
客席から、声が返った。
もう、知っている。
さっき初めて聴いたばかりの歌を。
この夜のために、三人が用意してきた言葉を。
「泣いたところも 笑ったとこも
君の話を 聞かせてよ」
右から。
左から。
舞台を囲む光の海から。
かぐやの目が、大きくなった。
自分の声に重なってくる声を聞いて、隣のヤチヨを見る。
ヤチヨも、かぐやを見ていた。
二人が、同時に笑う。
それを見た彩葉まで笑って、歌いながら、次の音を少し強く弾いた。
練習では、なかった声がする。
自分たちだけで合わせていた歌に、こんなにも大勢が加わっている。
かぐやが、もっと、と両手を上げた。
ヤチヨもその隣で、大きく客席を煽る。
けれど雅治には、一度だけ、その顔が見えた。
かぐやを見て。
彩葉を見て。
歌いながら、少しだけ眉を寄せたヤチヨの顔が。
笑っているのに、どうにも、泣き出しそうに見えた。
かぐやが、その手を取る。
ヤチヨは、今度は、握り返した手を高く掲げた。
「いい日ばかりじゃ ないけれど
いい日を増やしに 行こうよ
ここで出会えた 君となら
まだまだ先が 楽しみだ!」
白いスカートが揺れる。
二人の間から、彩葉の顔が見えた。
こちらを見た、気がした。
雅治は頷いた。
届いたかと、聞くのなら。
ああ。
きちんと届いたとも。
ちゃんと、心に響いたさ。
かぐやが歌う。
ヤチヨが歌う。
彩葉も、顔を上げたまま声を重ねる。
「今日も 明日も その先も
君の歩幅で 会いにきて
生きるのは最高だ
君と出会えて 最高だ!」
その最後の言葉を、雅治は、三人の顔を見ながら聴いていた。
伴奏が、軽やかなものへ戻る。
かぐやが、まだ楽しそうに肩を揺らしていた。
ヤチヨも隣で拍を取り、彩葉の指が、最後の旋律を追いかける。
「またね またね また明日」
かぐやが、客席へ身を乗り出す。
「次に会ったら 何しよう?」
問いかけるような、その一言。
彩葉の指が鍵盤を離れ、最後の音が、きらりと響いた。
誰もが、その余韻を追っていた。
かぐやが隣を見る。
ヤチヨが頷く。
二人揃って彩葉を見ると、彩葉は、やっと肩の力を抜いて笑った。
できた。
声にはならなかった。
けれど、三人とも、同じ顔をしていた。
そこへ、拍手が来た。
歓声が重なる。
次から次へと名前が呼ばれる。
かぐやが目を輝かせ、ヤチヨの手を握ったまま、何度も客席へ頭を下げた。
彩葉も呼ばれて、二人のそばへ歩み寄る。
差し出された手を取ると、かぐやは、もう片方の手も高く上げた。
三人で、もう一度。
雅治は、カメラを下ろしていた。
録画は残った。
あとで、何度でも見返せる。
そのことを分かっていても、今、目の前で笑っている三人へ手を叩くのを、やめられなかった。
芦花が声を張る。
真実も負けじと両手を振る。
雅治は、客席を流れる文字の中へ、自分のものをひとつ加えた。
『もう一曲』
まだまだ、遊び足りない。
今夜ばかりは、あの少女と、まったく同じ気分だった。
燃やしたぜ...
もう完結までのプロットは出来上がったからこのまま疾走るのみ。
でも、ココ最近シらぬイキメてないからそろそろ補給したくなる()
シらぬイネタ切れで銀魂ネタ入れようにも作品雰囲気も世界観も違うしそもそもシらぬイは喋らないしボケるだけだから自然とかぐやと彩葉にツッコミが回るけども、それじゃただのコピペー……。
3Dモデル作ってぐるぐる回すGifでも挿絵用に作ってみようかな
今回もお読みに来てくださってありがとうございます!
本篇の第二十六話の初期原稿、幻の竹取合戦が見たい? 26.5話扱い
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見たい!今すぐに見たい!
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まだいいかな?本篇完結してからは?
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まだ大丈夫。それよりも次の話はよ。