今日も正常営業。ただし“そういうとこ”を添えてー   作:火力万能主義

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くっ思った以上に原作導入部からの改変が難しいぃぃぃ

いくらアニメだとしても、こんな状況で児相も警察にも一言も相談できず一人子育てを始めるというのは、予想以上に僕の中での納得と違和感のバトルに油を注ぐ注ぐぅ 
 しかも、何気に優秀な主人公が二人もいるんだから、こんな非常事態であっても学生二人で子育てを初める、責任をもつという結論までに導くのだけでも相当な無理な話だったぁ。かぐやが宇宙人でホンマに助かったワイ!


ああああああギャグ書きたいギャグ書きたいギャグ書きたいギャグ書きたいギャグ書きたいバトリたいバトリたい早く新武器だして視聴者で試し撃ちがしたいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ

そんなこんなことで第七話ですどうぞ!


第七話 七色の夜は、まだ終わらない

第七話 七色の夜は、まだ終わらない

 

 

 酒寄からの電話が切れた瞬間、俺はもう部屋を飛び出ていた。

 

 鍵を掛けた記憶が曖昧なくらいには早かった。

 廊下を抜け、階段を下り、夜気の残る外へ飛び出した時には、頭の中で必要な情報が勝手に並び始めている。

 

 酒寄彩葉。

 呼吸が乱れていた。

 声が上ずっていた。

 言葉がまとまりきっていなかった。

 それでも、助けを求めた。

 

 その時点で十分だった。

 

 あいつは、人に頼ることに慣れていない。

 正確には、慣れる前に自分で抱え込む方を選んでしまう。

 

 真面目で、優秀で、きちんとしていて。

 一見すれば、何でもそつなくこなす優等生に見える。

 だが中身は、そんな綺麗なものじゃない。

 

 不器用で、甘くて、断るのが下手で、結局最後は自分が損を被る側へ回る。

 感情的で、周囲の人間や状況に振り回されやすいくせに、妥協の仕方も、力の抜き方も知らない。

 だから、勉強も、バイトも、将来のことも、全部まとめて自分の身を削ることでどうにかしようとする。

 

 危うい。

 綺麗だ。

 見ていられない。

 

 だから目で追ってしまう。

 だから、つい余計な一言を挟んでしまう。

 だからノートを貸す。

 だから疲れた顔をしていれば気づいてしまう。

 負担にならない程度に、重くならない程度に、手が届くところだけで支えようとしてしまう。

 

 どれだけ追い込まれても、身を削ってでも前へ行こうとする人間の痛みは知っている。

 過去そのものをわざわざ思い返さなくても、その手の苦しさはもう身体のどこかに染みついている。

 

 だから、思う。

 

   俺みたいにはなるな

 

 逃げるしかできなくなる前に。

 削れに、削られて、前も後ろも見えなくなる前に。

 酒寄彩葉(あいつ)には、そうなってほしくない。

 

 だから、走る。

 

 途中で理屈を組み立てたわけじゃない。

 考えるより先に身体が動いていた。

 

 夜の街を切るように走りながら、スマホを取り出す。

 酒寄から送られてきた位置情報。

 それに続けて届いた建物の外観写真。

 

 いつもなら、あいつはここまでしない。

 位置情報まで送るのは、もう自分で何とかする段階を越えている証拠だ。

 

 走る。

 信号待ちが煩わしい。

 少し回り道をして、さらにギア(スピード)を上げる。

 曲がり角のたびに景色が変わる。

 駅前の明かり。コンビニ。暗い住宅街。駐車場。似たようなアパート。

 通り過ぎる風景を頭の片隅で捌きながら、画面と現実を照合していく。

 

 送られてきた建物の画像。

 外壁の色。

 階段の位置。

 道路の幅。

 電柱。

 

 あれか。

 

 写真の端に写っていた件の電柱らしきものが視界に入った。

 その隣の建物も一致する。

 間違いない。

 

「酒寄!」

 

 名を呼びながら駆け込む。

 

 返事は、すぐにはない。

 その一拍が無駄に長く感じられた。

 

 もう一度周囲へ視線を走らせる。

 建物の陰。

 階段。

 その裏。

 

 見つけた。

 

 共用階段の裏側、外灯の届きにくい小さな死角へ、酒寄はひっそりと身を潜めていた。

 腕の中には赤ん坊。

 その小さな身体を落とさないように抱き締めたまま、壁へ背をつけている。

 

 そこで、ほんの一瞬だけ息が止まった。

 

 普段は見せない顔だった。

 見たことがないと言っていいほど、眉間に深い皺を寄せている。

 泣いてはいない。

 泣いてはいないくせに、もう泣き出す寸前みたいな顔をしていた。

 

 限界だ、と俺は一目で理解する。

 

 それでも酒寄は、こちらを認めた瞬間に、どうにか口を開こうとした。

 

「酒寄、大丈夫か」

 

「……橘、く」

 

「いい。喋るな。もう一人じゃない」

 

 即座にそう返して、雅治はまず赤ん坊を見る。

 次に酒寄を見る。

 息の速さ、目の焦点、腕の強張り。

 全部がまだ張り詰めたままだった。

 

 だから、少しだけ茶々を入れる。

 

「ちゃんと人に頼れたじゃないか。偉いな」

 

 酒寄が目を瞬く。

 返事をする余裕もないくせに、その一言だけは予想外だったらしい。

 

「……今、それ言う?」

 

「今だから言う。後だったら、君はどうせ流すだろ」

 

 少しだけ、肩の力が抜ける気配があった。

 それで十分だった。

 

 手を差し出す。

 

「その子、こっち寄越せ。君は一回呼吸整えろ」

 

「……落とさないでよ」

 

「落としたらその場で殺されそうだから、やめておく」

 

「そういう……冗談、今、笑えない……」

 

「笑わせるために言ってない。安心させるためだ」

 

 言いながら、慎重に赤ん坊を受け取る。

 軽い。

 だが、その軽さとは裏腹に、酒寄の腕が赤ん坊を離した瞬間、彼女の膝がかすかに揺れた。

 

 ほら、一度吸って、ゆっくりと吐く。

 そうだ、よく出来ているじゃないか。もう1回吸って、吐いて。

 そのままゆっくり呼吸するんだ。

 

 ここまでずっと、気力だけで立っていたのだろう。

 

 呼吸が少し落ち着いてすぐにもう片方の腕を差し出し、その肩を支えた。

 

「立てるか」

 

「……たぶん」

 

「『たぶん』は部屋に入ってから言え」

 

 その返しに、酒寄は今度こそ少しだけ息を漏らした。

 笑ったわけではない。

 でも、張りつめたものがようやく、少しだけ緩んだ音だった。

 

「……説明はあとで聞く」

 

「信じるの?」

 

「今はそこが優先じゃないだろう」

 

 それよりも君の精神と赤ちゃんの方が大事に決まっている。

 そう言おうとした瞬間、静かに寝息を立てていた赤ん坊がグズり出し、ついに泣き始めた。

 

 思わず二人して肩が跳ね上がる。

 一瞬、周りに目を配るが、特に人の気配や目線は感じれない。

 これだけは幸いだった。

 

 よし、俺が来たからにはもう外で時間を費やすこともない。

 さっさと落ち着ける場所にでも酒寄を放り込んで、赤ちゃんも泣き止ませなければ。

 

「行くぞ。部屋、どっちだ」

 

「……上」

 

「よし。俺が前に行く。君も転ぶなよ」

 

「命令口調」

 

「今はそうする」

 

「……橘くんって、ほんとこういう時だけ……」

 

「後で聞く。今は階段見ろ」

 

 一度腕の中で泣きじゃくる赤ん坊を抱き直す。

 

「とにかく、今は中に入ろことだけを考えろ。ここで泣かせ続けるのはまずい」

 

「う、うん」

 

「今は俺がいる。もう君一人じゃないから、少しは安心してくれ」

 

 右腕に赤ん坊を抱いたまま、酒寄を半歩庇う位置へ立つ。

 共用階段を上りながら、何度も後ろを振り返る。

 酒寄がついてきているか。

 足を踏み外していないか。

 呼吸がまた乱れ始めていないか。

 

 そのどれも、見落とす気はなかった。

 

 気づけば、仮面も猫かぶりも、かなぐり捨てたままここまで来ている。

 学校でなら絶対に見せない顔で、酒寄のことばかり見ている自分がいる。

 

 けれど今は、それでいいと思った。

 

 部屋の前へ着く。

 酒寄が震える指で鍵を探る。

 

「焦るな。ゆっくりでいい」

 

「……急がせてるの、そっちなんだけど」

 

「矛盾してるのは分かってる。いいから開けろ」

 

 ようやく鍵が回る。

 ドアが開く。

 

 ここまで来て、俺は小さく息を吐いた。

 とりあえず、外から見えるところにはもういない。

 もう少しだけ、持ち直せる。

 そう思った、その次の瞬間だった。

 酒寄が一歩、部屋の中へ踏み込む。

 

 見慣れた床。

 毎日見慣れた机。

 日々見慣れた狭い空間。

 

 ようやく帰ってきた、という実感が遅れて身体へ届いたのだろう。

 

 張りつめていたものが、そこで一気に切れたのが見えた。

 

「あ……」

 

 小さく息が漏れる。

 

 次の瞬間、酒寄の腰から思わず力が抜けた。

 

「酒寄!」

 

 反射で一歩踏み込み、空いた腕を伸ばす。

 赤ん坊を抱えたままでは万全とは言えない。

 それでも倒れ込むより先に肩と背中を支えるには十分だった。

 

 酒寄の身体が、そのまま俺の腕の中へ預けられる。

 完全に抱き込むほどではない。

 けれど、自分で支えきれなくなった重みが、はっきりとこちらへ寄りかかってきた。

 間に合った、と。

 

「……っ、ごめん」

 

「謝るな。酒寄はもう十分頑張ったんだ。そのまま座ってろ、少しは楽になるはずだ」

 

「……うん」

 

「ほら、玄関の床は固い上に冷える。さっさと上に上がるぞ」

 

 そんな返しをしながらも、オレの視線は酒寄の顔から離れなかった。

 眉間に残った皺。

 泣きそうなまま踏みとどまっていた目元。

 浅い呼吸。

 ここまで本当に、気力だけで持っていたのだと分かる。

 

「今はまだなにも言わなくていい。ただ休め。今は身体も精神も休ませてあげるのが一番だ」

 

「……うん」

 

 今度こそ逆らう余裕もなかったのか、酒寄は小さく頷いた。

 俺も赤ん坊を抱いたまま、もう片方の腕で彩葉を支え、ゆっくりと部屋の奥へ入っていく。

 

 ようやく帰ってきた。

 その安堵だけで、人はここまで簡単に力が抜けるものなのかと、俺は半ば呆れ、半ば納得しながら、酒寄の体温を腕に感じていた。

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

 部屋の中へ一歩入った瞬間、ようやく「帰ってきた」という感覚が遅れて身体へ届いた。

 

 冷たいフローリングの床。

 毎日向き合っていた机とエナドリの竹林。

 狭く、見栄えのない、しかしいるだけで安らぐワンルーム。

 

 その「いつも」が見えた途端、あと一歩その奥へと踏み込んだ瞬間に、それまで気力だけで張りつめていた何かが、ぷつりと切れた。

 

「あ……」

 

 間の抜けた息だけが漏れる。

 次の瞬間には、腰から下の感覚がふっと遠のいた。

 

 立っていられない。

 

 そう理解した時にはもう遅くて、膝から下が自分のものじゃないみたいに力を失っていた。

 

「酒寄!」

 

 床へ崩れ落ちるより先に、橘君の腕が肩と背中を支える。

 赤ちゃんを抱えたまま、空いた方の腕だけでとっさに私を受け止めたのだから、ほとんど条件反射みたいな動きだった。

 

 自分から体重を預けるつもりなんてなかった。

 そんな余裕もなかった。

 それなのに、切れた糸の代わりみたいに、私の身体は少しだけ彼の方へ寄ってしまう。

 

 近い。

 男の子の体温だ、とどうでもいいことだけが妙にはっきり分かった。

 汗の匂い。外の夜気を纏って走ってきた服の熱。上がった呼吸。

 全部が生々しいのに、不思議と嫌じゃなかった。

 

「……っ、ごめん」

 

 やっと絞り出した声は、自分でも驚くほど弱かった。

 

「謝るな。立てなくなっただけだ」

 

「それ、ほとんど同じじゃない……」

 

「違う。まだ喋れてる」

 

 今それを言うのか、と思った。

 でも、その無駄に落ち着いた返しが、逆にありがたかった。

 全部が終わったみたいな空気にしないでくれる。

 まだ動ける、まだ何とかなる、と、言葉の端で無理やり現実へ引き戻してくれる

 

 体重を預けながら玄関の床にそのまま座り込んでしまった私。

 それを見ても嫌な顔一つせず手を差し伸べてくれる友人(橘君)

 

 思わず、その手を掴みながらも

  ああ。ちゃんと頼ってよかったのかもしれない

 

 そう思わずにはいられなかった。

 

 橘君は赤ちゃんを抱いたまま、もう片方の腕で私を支え、部屋の奥まで入れてくれた。

 その時点で、もう私は自分の足でまともに歩いているのか、引きずられているのかも怪しかった。

 

 どうにか壁の近くまで来て、私はそのまま床へ座り込む。

 私はそのまま床へ座り込んだ。

 背中が壁に当たる。

 冷たい。

 ようやく何かに支えられた、という感じがした。

 

 息を吸う。

 浅い。

 吐く。

 うまくいかない。

 

 胸だけが忙しなく上下して、肺の奥まで空気が入っていない感じがする。

 落ち着け。

 深呼吸。

 そう思うほど余計に失敗する。

 

 その瞬間、赤ちゃんは再び大きく泣きだした。

 

「ふやあああああ……っ」

 

 再び放たれるは第二波の泣き声(セカンド・インパクト)

 容赦がない。

 この小さな身体のどこにそんな力があるのかと思うくらい、真っ直ぐで、容赦なくて、こっちの神経だけを正確に削ってくる泣き声だった。

 

 そして。

 

 ドン

 

 隣の壁が鳴る。

 

 びく、と肩が跳ねた。

 

 薄い壁一枚向こうからの、分かりやすすぎる苦情。

 当然だ。

 こんな時間に、事情も何も知らずに聞こえてくるのは、ただの赤ちゃんの泣き声でしかない。

 

「壁ドン……初めてなんだけど」

 

 半分呆然としたまま、そんな言葉が口をついて出た。

 自分でも何を言っているのか分からない。

 でも、そうとしか言いようがなかった。

 

 地味にショックだった。

 いや、地味どころじゃない。かなりショックだ。

 でも無理もない。この時間帯にこれだけ泣いていたら、誰でもそうする。

 

「今は(あちら)を気遣ってやる余裕などない」

 

 橘君が赤ちゃんをあやしながら言う。

 その声は、学校で聞く「()」のものじゃなかった。

 

 感じのいい優等生の、角を削った穏やかな話し方じゃない。

 もっと短くて、もっと無駄がなくて、必要なことだけを真っ直ぐ通す声。

 仮面の下からそのまま出てきた、「()」の声だ、と直感で分かった。

 

 

 泣き止まない。

 橘君も慣れていない。

 見れば分かる。抱き方も、揺らし方も、何が正解か手探りのままだ。

 肩の入れ方も、腕の角度も、全部がぎこちない。

 

 それでも彼は投げ出さない。

 横抱きにして、少し揺らして、狭い部屋の中を抱いたまま二歩三歩と歩いてみる。

 やり慣れている人ならもっと自然にやるのだろう。

 でも彼はそうじゃない。

 そうじゃないのに、今この瞬間にできることを一つずつ試している。

 

  どうして、そこまで

 

 喉の奥にその問いが引っかかったまま、私はどうにか立ち上がり、赤ちゃんを返してもらう。

 

「ああ、怖くない怖くないよー。ほら、べろべろばぁ~……」

 

 自分で言っていて、何をしているんだろうと思う。

 でも、思うだけで何も浮かばない。

 あやし方なんて知らない。

 抱いて、揺れて、声をかけて、それでも泣き止まない。

 

 その時、スマホを覗いていた橘君が顔を上げた。

 

「酒寄、歌だ」

 

「……歌? 私が?」

 

「今ネットで見たんだが、子守歌でもなんでもいい。とにかく一定のトーンとリズムで声が続いた方が落ち着けると書いてあった」

 

「急にそんなこと言われても……」

 

 言いかけて、言葉が止まる。

 

 赤ちゃんは泣き止まない。

 私はまだ呼吸すらちゃんと整えられていない。のどもカラカラのまま。

 でも、橘君はこんな状況なのに、私を少しでも早く休ませようとして、赤ちゃんを抱いて、調べて、考えて、必死に向き合ってくれていた。

 

 慣れていないのに。

 何の準備もなかったのに。

 これ、橘君には何の関係もない話だったはずなのに。

 

 だったら、やるしかないじゃない

 

 子守歌。

 そんなもの知らない。

 保育園の頃に歌ったような歌なんて、都合よく口から出てくるはずもない。

 

 その瞬間。

 

  『泣くな。泣くんは楽をしてるだけで』

 

 お母さんの声が、一瞬だけ頭の奥を掠めた。

 

 胸の奥がきゅっと詰まる。

 けれど今は、それどころじゃない。

 

 小さい頃のことなんて、いちいち思い出したくない。

 あの人の言葉も、あの時の空気も、今さらここへ連れてきたくない。

 でも不意打ちみたいに、こういう時だけ思い出してしまう。

 

 泣くな。

 甘えるな。

 弱いままで楽をするな。

 

 そんな言葉が、一瞬だけ胸の中へ刺さる。

 

 でも、今は違う。

 

 違う。

 大事なのは過去(むかし)じゃない。

 今、目の前で泣いているこの子だ。

 今、この部屋の中でどうにかしなきゃいけない現実(いま)なのよ。

 

 静かな歌。

 赤ちゃんが泣き止める歌。

 心を落ち着かせる歌。

 

 視線が揺れて、勉強机の正面へ吸い寄せられる。

 そこに鎮座していたのは、勉強机の正面に置いてあるヤチヨのアクリルスタンドだった。

 半分神棚みたいに置いてあるそれを見た瞬間、頭の中が一本につながった。

 

 これしかない。

 

 自分でも笑えるほど、そういう時だけは迷いがない。

 苦しい時。

 眠れない時。

 どうしようもなく心がささくれた時。

 何度も私を助けてくれた歌。

 あの歌なら、今も私を支えてくれる気がした。

 

「……子守歌じゃないけど」

 

 そう言うと、橘君は赤ちゃんをまた私の腕より抱き直しながら、あっさりと言った。

 

「構わない。君がいいと思ったのなら、それでいいはずだ」

 

 その言い方が、ずるいと思った。

 

 丸投げじゃない。

 責任も押しつけない。

 ただ、私が選んだものをそのまま受け止める。

 

 不器用なのに、そういうところだけ妙に上手い。

 

 私は深く息を吸った。

 喉は痛い。

 呼吸はまだ少し浅い。

 それでも、歌えないほどじゃない。

 

 歌うのは『Remember』

 ヤチヨのデビュー曲。

 何度も何度も聴いた。

 覚えようとしなくても、身体のどこかに残っている。

 

 ♪」

 

 最初の声は、少しかすれた。

 それでも歌う。

 

   ~♪」

 

 狭い部屋の中へ、私の声が落ちていく。

 赤ちゃんの泣き声とぶつかり、少し揺れて、それでも途切れずに続く。

 

 橘君は何も言わない。

 ただ、赤ちゃんを抱いた腕を静かに揺らしている。

 その手つきは不器用だ。

 不器用なのに、投げ出す気は欠片もない。

 まるで自分のことみたいに真剣で、そこがまた、ずるかった。

 

 泣き声が一瞬だけ強くなる。

 そのあと、少しずつ、波が引くみたいに勢いを失っていった。

 

「……効いてる?」

 

「恐らくな」

 

「恐らくって」

 

「だが、この顔がその答えなんだろう」

 

 その返しに、思わず息が漏れる。

 笑ったのか、呆れたのか、自分でも分からない。

 でも、その一息だけでも、さっきよりずっと楽だった。

 

 歌を続ける。

 一番が終わって、二番へ入って、また最初へ戻る頃には、赤ちゃんはさっきまでの泣き方が嘘みたいに静かになっていた。

 その顔はとても柔らかく、安らぎで満ちた幸せそうな表情(かお)だった。

 

 眠りはじめている。

 それが、素人の私にも分かった。

 

「……ようやく眠った」

 

「まだ浅いだろうけどな」

 

 橘君の声も自然と小さくなる。

 

 そこで私は、初めてちゃんと彼の顔を見た。

 

 学校で見る時とは、やっぱり違う。

 穏やかで、感じがよくて、礼儀正しいけど少し距離のある優等生の顔じゃない。

 

 もっと冷静で。

 もっと無駄がなくて。

 下手な大人よりずっと大人びていて。

 なのに、赤ちゃんを見る目と、私を気遣う時の声だけは、やけに温かい。

 

 いつもの仮面の奥にいる、本当の橘君。

 もし口にしたら怒られるかもしれない。

 でも、こっちの方がずっと人間臭くて、ずっと優しいと思った。

 

 こんな顔もするんだ。

 こんな声で、誰かを助けようとするんだ。

 

 歌いながら、そんなことばかり思ってしまっていた。

 

 胸の奥で、何かが静かに揺れる。

 でも、まだそれが何なのかは分からない。

 分からないままでよかった。

 

 だって今は、それどころじゃない。

 

 現実は消えていなかった。

 

 赤ちゃんはいる。

 家の前の電柱は普通の電柱に戻った。

 警察へどう話すのか。

 親へどう説明するのか。

 そもそも一晩、この子をどうするのか。

 

 考えるべきことが、休む暇もなく並んでいる。

 

 その時、私はようやく、あの問いを口にした。

 

「……どうして、助けてくれたの」

 

 橘君が少しだけ目を上げる。

 

「しかも、あんなに走って。橘くんとは、何の関係もない話だったのに」

 

 自分で言いながら、少しだけ苦しくなる。

 だって本当にそうだった。

 これは私の問題で、私の家の前で起きて、私が抱え込んでしまった意味不明な出来事だ。

 

 なのに、彼は来た。

 迷わず来てくれた。

 

 橘君は赤ちゃんを抱いたまま、少しだけ視線を伏せた。

 それから、いつもの「()」じゃない、短い声で言った。

 

「君が俺に頼ってきた時点で、他の二人には到底助力を望めない状況だと推測した」

 

 淡々とした言い方だった。

 でも、その中には妙な迷いがなかった。

 

「だから、出来るだけ早く駆けつけた。それだけだ」

 

 それだけ。

 本当に、それだけのことみたいに言う。

 

 でも、そんなはずがない。

 そんな簡単なことで、あんなふうに走ってこれるわけがない。

 

 そう言い返したかったのに、言えなかった。

 

 その()()()()の中に、どれだけの本気が入っていたのか。

 今の私は、もう少しだけ分かってしまっていたから。

 

 

   *

 

 

 

 

 

 その夜の時刻は、もうとっくに日付を跨いでいた。

 

 部屋の中は静かだった。

 さっきまで壁の向こうへ容赦なく響いていた泣き声が、今はもう嘘みたいに消えている。

 残っているのは、浅く、小さく、途切れそうな寝息だけだった。

 

 雅治はスマホの画面を見ながら、時刻を確かめる。

 深夜十二時はとっくに超えて二時にせまっている。

 ここから買い出しに出ることは不可能ではない。駅前まで行けば、まだ灯りの残っている店はあるかもしれない。

 だが、すぐにその考えを切った。

 

 なしだ

 

 この時間に、酒寄と赤ん坊だけを残して部屋を空ける。

 その時点で、もう選択肢として弱すぎる。

 赤ん坊がまた泣き出すかもしれない。

 酒寄の状態がもう一度崩れるかもしれない。

 あるいは、何か別の、説明のつかないことが起きるかもしれない。

 

 ここまでの流れで、「()()()()()()()()()()()」のは楽観が過ぎた。

 

 だから今夜は、出ない。

 

 そう決める。

 

 問題は、酒寄と赤ん坊をどう休ませるかだった。

 

 壁へもたれたまま座り込んでいる彩葉は、もう起きているのか寝ているのか分からない顔をしていた。

 目は開いている。

 けれど、焦点が少し遅れる。

 限界のところで、何かを考え続けるほど意識がはっきりしているようにも見えない。

 本当に意識だけがどうにか張りついている様子だ。

 

「酒寄」

 

 低く呼ぶ。

 

 彩葉がゆっくりと顔を上げる。

 反応が半拍遅い。やはり、限界なのだろう。

 

「……なに」

 

「布団あるか」

 

「……隅」

 

 短い返答だった。

 雅治は部屋の隅を見る。畳まれた敷布団一式がきちんと寄せてある。

 こういうところは、本当に妙に彼女らしいと思う。

 

 雅治は立ち上がり、できるだけ音を立てないようそれを広げた。

 敷布団を敷き、掛け布団を出し、枕まで置く。

 人の家で勝手にそこまでやるのはどうなんだ、と一瞬だけ思ったが、今さらだった。

 

 その背中へ、彩葉の声が飛ぶ。

 

「……私も、やる」

 

「やらなくていい」

 

「でも」

 

「でもじゃない。座ってろ」

 

 即答だった。

 

 彩葉は少し唇を結ぶ。

 起き上がろうとするが、腰がついてこない。自分でもそれが分かったのだろう。悔しそうに眉を寄せる。

 

「そんな顔するな」

 

「してない」

 

「してるだろう」

 

「……してても、今は仕方ないでしょ」

 

 拗ねたような返しだった。

 だが、その声音自体がもう眠気に引かれている。角が立ちきらない。

 

 雅治は布団を整えながら答える。

 

「仕方ないなら、なおさら黙って休め」

 

「橘君、言い方がほんと雑」

 

「雑で通じるならその方が早い」

 

「優等生の皮、どこいったの」

 

「お前のせいで剥がれたんだろうな」

 

 その返しに、彩葉は一瞬だけ目を丸くした。

 それから、ほんの少しだけ息を漏らす。

 笑ったのか、呆れたのか、自分でも分かっていないような、あいまいな呼気だった。

 

「……責任重いんだけど、それ」

 

「なら、その自覚を持て」

 

「横暴だぁ..」

 

 会話は軽いのに、彩葉の声は少しずつ沈んでいく。

 眠気が、波みたいに確実に来ているのだろう。

 

 雅治は布団の準備を終え、今度は赤ん坊を見下ろした。

 まだ眠っている。だが浅い。少しの刺激で起きる可能性は高い。

 

「移るぞ」

 

「……うん」

 

 頷く彩葉の動きが、もう遅い。

 しかも、立ち上がろうとしても腰がついてこない。

 足元もまだ頼りなかった。

 

 雅治は赤ん坊を抱いたまま、一度息を吐く。

 それから、まず赤ん坊を先に布団へ寝かせた。

 小さな口がわずかに動く。

 起きるかと思ったが、泣きはしない。

 

 次に彩葉の方だ。

 

「次」

 

「雑に“次”って言わないでよ……物じゃないんだけど」

 

「じゃあ、自分で歩けるか」

 

「……歩く」

 

「ほんとか?」

 

「歩く、って言ってるでしょ」

 

 言うだけの勢いはある。

 だが、立ち上がろうとした瞬間に膝が揺れた。

 

 雅治は即座に手を差し出す。

 

「ほら」

 

「……」

 

「意地張るのは明日やれ」

 

「別に意地なんて」

 

「張ってるだろ」

 

「……橘君って、ほんとそういうとこだけ無駄に鋭い」

 

「“だけ”は余計だな」

 

 そう言って手を差し出す。

 彩葉は小さくむっとしながらも、結局その手を取った。

 引き起こされる。

 

  細い

 こんな身体で、毎日あれだけ削って生きているのかと、妙なところへ感心する。

 

 立った瞬間、視界が少し揺れる。

 眠い。

 身体が重い。

 もう考えたくない。

 

 それでも、こんな時に全部預けるのは何だか悔しかった。

 

「……私、赤ちゃん見るから。橘君はもう帰って」

 

 ぽつりとこぼれたその言葉に、雅治の眉がぴくりと動く。

 

「帰るわけないだろう」

 

「でも」

 

「でもじゃない」

 

 きっぱりした声だった。

 さっきまでよりも少し低い。

 

「このまま君とその子だけ置いていく方が危ない」

 

「……そんなこと言っても」

 

「言うさ。少なくとも夜明けで君がちゃんと目を覚ますまでは、ここにいる。何かあったら、すぐ動けるように」

 

 彩葉はそこで言葉に詰まる。

 

 申し訳ない。

 でも、少しだけほっとする。

 その二つが喉の奥でぶつかって、うまく言葉にならない。

 

「……迷惑、かけるじゃない」

 

「今頃にそれを言うか。今さら増えても誤差だ」

 

「誤差で片づけるには、だいぶ大きい気がするんだけど」

 

「その辺の会計は明日だ」

 

「雑すぎる……」

 

 言い返しながらも、彩葉の声はどんどん弱くなっていく。

 

 雅治はその様子を見て、少しだけ口調を緩めた。

 

「酒寄」

 

「……なに」

 

「今日は、ちゃんと人に頼れたじゃないか

 

 彩葉が瞬きをする。

 

「そういうの、今……?」

 

「今だからだ」

 

 短く言い切る。

 

「後になったら、君はどうせ「別に大したことじゃなかった」みたいな顔するだろ」

 

「……しない」

 

「するさ」

 

「……」

 

「だから今言う。ちゃんと頼れたのは偉い」

 

 彩葉は何も返せなかった。

 

 こんな時に、そんなことを言われると思っていなかった。

 責められるでもなく、説教されるでもなく、ただ()()()()()を褒められる。

 それが変に胸へ刺さる。

 

「……橘君って、変」

 

「そうだろうな」

 

「自覚あるんだ」

 

「...フッ言われた今に気付いただけさ」

 

 その返しに、彩葉は少しだけ口元を緩める。

 もう反論する元気すら、半分くらいしか残っていない。

 

 雅治はその隙を逃さない。

 

「さ、座れ」

 

「...命令口調」

 

「今だけはな」

 

「……はいはい」

 

「返事が雑になっていないか」

 

「眠いの」

 

「ならちょうどいい」

 

 布団へ腰を下ろす。

 いや、下ろしたというより、沈み込むように崩れたと言った方が近い。

 柔らかい場所へ身体を預けた途端、それまでどうにか保っていた緊張がまた一段抜ける。

 

「……あ」

 

「どうした」

 

「なんか、布団入ったら、急に……」

 

「今まで気力で起きてただけだろうな」

 

「それ、分かってても言わないでほしい」

 

「仰せの通り」

 

「……うん、それでいい」

 

 そう言ったはずなのに、沈黙が続くと妙に心細い。

 彩葉は自分でも勝手だと思いながら、掛け布団の上から赤ん坊へ手を伸ばした。

 

「もう少し、近く」

 

「ん?」

 

「その子。もう少しこっち」

 

 雅治は少しだけ目を細め、それから何も言わず赤ん坊を布団の中で彩葉の隣へ寄せた。

 彩葉は安心したように、その小さな身体へ手を添える。

 

「……ありがと」

 

「礼を言うなら、明日の朝まで何も起きなかった時にしろ。そして、さっさと寝なさい」

 

「今、それ言う?」

 

「眠れと言っている」

 

「ほんとに、優しいのか冷たいのか分かんない」

 

「両方でいいだろ」

 

「……ほんと、そういうとこ」

 

「そういうとこ、で済ませるな」

 

「説明すると長そうだから、やめる」

 

「賢明だな、そして早く寝なさい」

 

 いつも以上に、ぶっきらぼうな返しだった。

 けれど、そのぶっきらぼうさの奥に、ちゃんと“ここにいる”という安心がある。

 

 彩葉はそれを感じ取ってしまう。

 感じ取ってしまったからこそ、もう無理に起きていようとする気力も削がれていく。

 

「……橘君」

 

「今度はなんだ」

 

「絶対、寝ないでね、とは言わないけど」

 

「言わないなら黙って寝ろ」

 

「まだ言い終わってない」

 

「...ああ」

 

「……いなくならないで」

 

 その言葉は、ほとんど眠気に引かれて出た本音だった。

 言った本人が一番驚いたみたいに、少しだけ目を開く。

 

 雅治は一瞬だけ黙った。

 けれど、次に返ってきた声は短く、静かだった。

 

「了解」

 

 それだけだった。

 でも、それだけで十分だった。

 

 彩葉の肩から、最後の力が抜ける。

 まぶたが落ちる。

 眠気が一気に押し寄せてきて、もう抗えない。

 

「……ごめん」

 

「だから謝るなと」

 

「……でも」

 

「いいから寝ろ。お前の分まで、今は俺が起きてる」

 

 その言葉を聞いたところまでは覚えている。

 そこから先は、もう曖昧だった。

 

     *

 

 雅治は、彩葉の呼吸が少しずつ深くなっていくのを見てから、ようやく玄関のたたきへ腰を下ろした。

 

 靴箱へ背を預けるには少し狭い。

 膝も窮屈だ。

 それでも座っているだけなら朝までは何とかなるだろうと思った。

 

 スマホを開く。

 時刻はもう深夜十二時をとっくに回っている。

 

 ここから朝まで、眠るつもりはなかった。

 

 酒寄が目を覚ますまで。

 赤ん坊がまた泣き出すまで。

 あるいは、何かしらで状況が変わりだすまで。

 いつでもすぐ動けるようにしておく。

 

 使えそうな情報は片端から拾うしかない。

 

 乳児。保護。夜間。相談先。

 家出した子どもの扱い。

 一時保護。

 保護者とのトラブル。

 善意の保護が民事だの責任問題だのへ飛び火する可能性はあるのか。

 一人暮らしの学生が抱え込んだ場合、どこまでが危険で、どこからがまずいのか。

 

 調べる。

 読む。

 また別の言葉で調べる。

 

 だが、やはり根本のところでは何も足りない。

 

 “赤ん坊”。

 “保護”。

 “夜間”。

 そういう言葉ならいくらでも出てくる。

 けれど、“光る電柱”を前提にした話はどこにもない。

 

「……ない、か」

 

 小さく漏れた独り言は、奥の寝息へ吸い込まれて消えた。

 

 部屋の方へ目をやる。

 彩葉は、ようやく安心したみたいに眠っていた。

 その隣で、赤ん坊も静かだ。

 

 このまま朝まで何も起きなければいい。

 せめて、夜明けまでは。

 

 そんな都合のいい願いを、口には出さなかった。

 ただ、スマホを握ったまま、二人の方へ意識を向け続ける。

 

 何かがあれば、すぐ動く。

 泣き声が戻れば、すぐ立つ。

 彩葉の呼吸が乱れれば、また支える。

 

 眠らず、待つ。

 

 そう決めた夜の静けさは、やけに長かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った、その時だった。

 

 ふ、と。

 

 布団の上が、淡く七色に光った。

 

 雅治の目が開く。

 

 赤ん坊だった。

 

 その小さな身体が、輪郭ごと薄い七色の光に包まれている。

 強い光ではない。

 だが見間違いでは済まない。

 家の前の電柱が放っていたという、この(ひかり)が間違いなくそうだ。

 

「……おい」

 

 思わず立ち上がる。

 玄関の狭さに膝をぶつけるのも構わず、布団のそばまで寄る。

 彩葉は起きない。

 起きないまま、隣で起きている異変に気づきもしない。

 

 (異変)はほんの数秒で消えた。

 

 だが、それで終わりではなかった。

 

 赤ん坊の身体が、さっき見た時と微かに違っていた。

 ほんの少し。

 けれど確実に。

 

 布団の沈み方が違う。

 服の余り方が違う。

 ついさっき腕に抱いた時の重さの記憶と、目の前の姿が食い違っている。

 

 若干。

 だが、確かに大きくなっていた。

 

 見間違いではない。

 疲労でもない。

 今、目の前で成長した。

 

 ようやく雅治は理解する。

 

 これは普通の人間じゃない。

 普通の赤ん坊であるはずがない。

 

「……宇宙人、か」

 

 言ってみると、馬鹿みたいだった。

 だが、他に適当な呼び名もなかった。

 

 警察。

 児相。

 その他の公共機関。

 

 頭の中で候補だけは一瞬よぎる。

 けれど次の瞬間には、全部切り捨てられた。

 

 なしだ。

 

 ここまで来れば、もう普通の保護では済まない。

 公にした時点で、自分も酒寄も説明不能な渦中へ放り込まれる。

 善意だの責任だの以前に、ろくな結末にならないことだけははっきりしていた。

 

「またしても予定が狂うとはな」

 

 静かな独白だった。

 

 呆れ半分。

 諦め半分。

 それでも投げ出す響きではない。

 

 雅治は、隣で眠る彩葉へ目を向ける。

 ようやく安心して眠れた顔だった。

 今起こす気にはなれない。

 

「高校二年になってやることが子育てとは、確かに向こうにいた時には想像もしなかっただろうな」

 

 逃げた先で待っていたのが、まさかこんな夜だとは誰が思う。

 

 だが現実は、いつだって予定より勝手だ。

 

 雅治は静かに座り直す。

 朝が来れば、また考えることが増える。

 酒寄も起きる。

 この赤ん坊だったものも、どうなるか分からない。

 

 それでも今だけは。

 

 この妙に静かな夜を壊さないように、ただ見張るしかなかった。

 

 

 




今日もおまけのサービス付きです。
思った以上に本篇が書きづらく、これ以上は余計な蛇足しかならない、もしくはストーリーが地平線の彼方にアラライしそうなんでここまでです(汗)
そのお詫びとしてはなんですが、裏設定(?)みたいなものだと思ってください♡

今日もお読みいただき、そぉしてぇ!!感想とお気に入り、評価をしてくださって感謝です!
アンケートも昨日の時点で80名以上の方々より自由にせい、ということでこのまま僕の思うがままにアクセル全開でいかせていただきます!
では、またお会いしましょう!ありがとうございましたぁぁぁぁあぁあああ




おまけ:赤ちゃん対応適性(暫定)

 酒寄彩葉
抱ける。あやせる。歌える。
ただし、全部自分一人で抱え込もうとして先に倒れる。

 橘雅治
泣いた時の優先順位は切れる。冷静。記録も取る。
ただし、抱き方は素人。子守歌のレパートリーはたぶん皆無。

 諌山真美
駆けつける速度は最速。心配もする。
ただし最初の五秒で「えっ誰の子!?」と叫ぶ。

 綾紬芦花
落ち着いて状況を整理する。
ただし、途中から静かに「これ大変だね」と現実を刺してくる。



---

おまけ:酒寄彩葉の寝落ち直前・脳内

* 迷惑かけた
* やばい
* 赤ちゃんどうしよう
* 隣うるさいよねほんとすみません
* ヤチヨありがとう
* 橘君なんでいるの
* なんでそんなに落ち着いてるの
* なんでそんなにちゃんと助けてくれるの
* ……ちょっと安心する
* でも今それ考えてる場合じゃない
* 眠い



- - -


NGシーン「子守歌候補を間違えた場合」


「子守歌……子守歌……」

「思いつかないのか」

「思いつかない」

「童謡とか」

「知らない」

「意外だな」

「橘君に言われたくない」

「それはそうだ」




- - -

NG1 「壁ドン後に橘が完全に間違える」


 ドン、と壁が鳴る。

「……来たな」

「どうしよう」

「大丈夫だ。まずは隣人対応だ」

「赤ちゃんより先に!?」

「現実問題、苦情の方が早い」

「優先順位おかしいでしょ!」



- - -

NG2「ヤチヨの歌で寝るどころか逆にノる赤ちゃん」

「……効いてる?」

「いや」

「え?」

「寝るどころかテンポに乗ってる」

「そんなことある!?」




おまけ① 深夜検索履歴

橘雅治・深夜の検索履歴(一部抜粋)

* 乳児 夜間 保護
* 一時保護 高校生 責任
* 抱っこ 泣き止まない
* 粉ミルク 月齢 不明
* 隣人 赤ちゃん 苦情
* 善意の保護 民事
* 光る電柱
* 赤ん坊 七色
* 宇宙人 乳児 対処

最後はもう諦めかこいつ

- - -

おまけ② 「俺」について

裏話:この夜の橘雅治について

 学校で見せている“僕”は、整えて見せるための声である。
 一方、この夜に出ていた“俺”は、緊急時にだけ仮面より先に出る声だ。
 短く、無駄がなく、少しぶっきらぼう。
 けれど、その分だけ本音に近い。

- - -

おまけ③ 言わなかった一言

本編では言わなかったこと

 橘雅治は、あの夜のうちに酒寄へは言わなかった。
 ヤチヨの歌を選んだことも。
 あの歌声が本当に良かったことも。
 教室で作っている少し意地を張った優等生の声より、ずっと好きだったことも。


昼パートと夜パートの前後分けにしてほしい?

  • 雰囲気の違いがあれだ。一度分けるべし。
  • シリアスとギャグの部分だけ分けてほしい。
  • 文字数が多すぎるから何回か分けるべし。
  • このまま作者の好きにしてもかまわない
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