魔術廻戦 作:バタービールの風呂に浸かりたい
──魔法を放つには、正しい動作が必要だ。
正確に、ズレなく、優雅に杖を振る。
「──チェストォォオオオオオ!!!!」
杖の先から赤い光が迸り、等身大の人形に持たせた杖がひとりでに弾かれたように宙を舞った。
「……ハァ……ハァ……くっそ……ハリポタに魔力なんて概念あったっけ? ある程度魔法使ったらガス欠になるんだが……」
──俺の名前は
いずれホグワーツに進学する予定の新米魔法使いだ。
さっきの前置きはハリポタ原作でハーマイオニー・グレンジャーが言ってたことを俺なりに解釈して格好良く言っただけである。
「転生して10年……ぼちぼちホグワーツからの入学届が届いてもおかしくないと思うんだが……」
あれ? 日本にもホグワーツ的なとこあるんだっけ。
そっちに進学する感じ? 流石にそこまで深く読み込んでないし憶えてねぇから分かんないけど……折角
「うむうむ、不思議な力が使えるからという理由で山奥に軟禁されてはや三年……マグル生まれの利点だなこりゃ」
まあここまで言えば分かる通り俺は転生者だ。
前世のことはあんまり憶えてないが、平凡な日常を送りつつも非日常に憧れていたどこの世界にもいるような凡人だった気がする。
それゆえに色んな小説や漫画やアニメなどを嗜んでいた。
中でも俺が好きなのは偉大なる小説家であるJ.Kローリング氏が描いた魔法ファンタジー小説の『ハリー・ポッター』。
ちょっと話はダーク寄りだが、数多の魔法が飛び出る少年少女の勇気と成長劇にはワクワクさせられたもんだ。
「まさかハリー・ポッターの世界に……なのに現代日本に転生するとは思いもしなかったわ」
何度言ったか分からないセリフを吐く。
俺が転生したのは日本だった。それ自体はありがたい。
英語分かんないし、いきなり異国の地から再スタートと言うのも精神面でのハードルが高いからな。
そして生まれ持った"力"からしてハリー・ポッターの世界に転生したことは確実だ。
なぜだか分からないが『俺は魔法が使える』という事実を5歳くらいの時に自覚したのだ。魔法族ってこんなもん?
「とはいえひっそりやってた魔法の修行が両親にバレて……気味悪がられて山奥の小屋に軟禁、と……ちゃんと食糧を定期的に運んでくれるのは優しさなのか殺す度胸が無いからなのか」
もしくは捨てるのは外聞が悪いからなのか。
両親の思考は分からないけれど、俺にとっては最高の修行環境が手に入ったのもまた事実。こんな息子が生まれてきて申し訳ないとは思うが、俺の後に生まれた弟がきっと家族仲を良くしてくれるだろうと思う。
「無言呪文はある程度成立……杖無し呪文はやっぱり無理か。適当に木の枝加工して作ったけど、これが杖判定でオッケーなんだ」
魔法の修行はそれなりに良い感じかな。
溢れ出る内側の力を放出するように操作して、放ちたい魔法をイメージすると成立する。ハリポタ世界の魔法となんか若干違うような気もするけど、出てくる呪文はハリポタのものなのできっと合っているはず。
杖を持っていないとなぜだか呪文は使えないが、その代わりに俺の知っている呪文よりも威力がかなり上がっているのは気の所為なのか本当なのか。
始めて発動させた「ウィンガーディアムレヴィオーサ」という浮遊呪文で大樹を根元から引っこ抜いた時には自分の力を疑ったね。
「でも使いすぎると気絶するんだよな。意味分からん」
ハリポタに魔法力とか魔力とかMPみたいな概念があったっけなぁ、と思いつつ、修行を繰り返してたら容量的なものは増えているから尚更わからん。
体の内側に溢れ出る力そのものがきっとMPなのだろうと思う。
現に多めにソレを注いだ魔法は威力が上がってるからな。
調節が利くのは割とありがたい。
「んー、山奥にいるから入学届が来ないのかな。そろそろ街の方まで出てみるか……」
軟禁されてから三年の間はほぼ小屋の外に出ることはなかった。
なにせ小屋はそれなりに広いから修行環境として悪くなかったし、それなりに標高が高いのか小屋のストーブを炊いていないと寒かったから、出不精の俺は外に出ることを嫌った。
あとぶっ壊せるけど一応鍵かかってたし。
「とはいえ野蛮な方法は取りたくないのでぇ……《
カチッという音とともに、扉の鍵が開く。
ゆっくりとドアノブを回すと、ガシャリ! と何かが落ちる音が響いた。
「んぁ? ……おぅ、南京錠と鎖か。しっかりしてんな」
どうやら両親は思ったより逃がす気が無かったようだ。
うーん、俺が逃げたってバレるとちょっと面倒そうだな。
身代わりでも用意しようと思ったが、毎回食糧とかもドア下の通気口から小分けにして送られるし、ドアの鍵さえ閉めておけばしばらくはバレないだろ。
「《
グチャッ! とおおよそ鍵を閉めたとは思えない音が響き、ドアの鍵と南京錠は無事に施錠された。戸締まり便利魔法すぎるぜ。
「うぅ、さみぃな。《
杖の先から炎が噴出される。
木の枝で作った杖なのに、杖と認識したものは自分で発した魔法で燃えることはない。不思議すぎる。
暖を取る手段としてはあんまり良くない気はするけど無いよりはマシだなこれ。直接体を温める呪文とか
にしても使える魔法は勝手に脳内で浮かぶとかクッソ便利な能力だなぁ……これが転生特典ってやつか?
と、そんなことを考えながら山を下っていく。
道は分からないが、バッグの中には《
「外の匂いだなぁ〜。ちゃんとシャワーは完備されてたから清潔さは大丈夫だと思うが……待ちに入った時に変に思われないかな」
というかここはどこなんだろうな。
箒とか作れれば良かったんだけど、ただの木を加工した箒モドキだったら飛べなかったんだよなぁ……木の枝で杖の代わりにできるのに判定が謎に厳しいの勘弁してクレメンス。
「……ん? なんだアレ」
しばらく歩くと、道の先にウヨウヨ動く変な塊を見た。
何かの動物にしては異様にデカいし、気色悪い。
警戒しながら近づくと、謎の塊は俺をパッと見た。
「うわキッショ!!!」
塊には目があった──100個くらい。
見た目は……なんだろう、真っ白い肉塊みたいな感じ。
まん丸の肉塊に大量の目がついてる。
思わず叫んだ俺に塊は反応し、口が無いのに喋った。
「ョ゙うこそぉぉぉ゛!! エエェェエンリョしなィでぇ゛!!」
「歓迎するなら身なり整えてこいよォ! 《
杖の先からエネルギーが放たれ、ソレは化け物の眼前で弾けて爆発した。
ドゴォォォォォオオオ!!!
と地面全体が揺れるような大きな音が鳴り響く。
周りの木々は薙ぎ倒され、近くの草原は焼け野原になっている。
「ハァ……ハァ……多めに力使っちまった」
激しい爆発は数秒続き、土煙が晴れた頃には化け物は跡形もなく消え去っていた。
「……っ、やべっ、燃えてる。《
俺は水を放出させる呪文を使って片っ端から消火していく。
燃え広がりそうなエリアには《
「ふぅ……にしてもなんだったんだアレは」
先ほど現れた化け物について考える。
ビジュアルが化け物すぎて魔法を撃つことに躊躇いがなかったわ。アレが人間とかだったら俺は死ぬほど後悔することになるが、今となっては確かめる術がない。
……うーん、考えられるとしたら魔法生物か?
「魑魅魍魎って言葉が生まれるくらいだからな……日本の魔法生物が妖怪的なヤツでも不思議ではないか……」
俺はそう納得することにした。
どう考えても人に仇なす部類の魔法生物っぽいしな。
また今度見かけたら討伐しておこう。
☆☆☆
──化け物ばっかなんですけど!?!?
「ぎゃー!! 《コンフリンゴ》!! 《レダクト》!! 《ディフィンド》ぉぉおおおお!!!」
夜の森で格闘すること二時間。
俺はクソキショい魔法生物を約32体討伐した。