「────ッ」
それは、殺意。
握り潰され晒された果実のような、内面剥き出しのグロテスク極まる感情。
『──聖堂教会は、勝つためじゃなく
『おそらく。先刻、貴方がたの突入を察知するより前に、彼女はライダーを止めようとしていたように見受けられました』
全体チャンネルで交わされる聖とキャスターの念話を聞きながら私が思ったコトは、まだ繋がってたんだ、なんて場違いな驚き。目覚めてからこっち何も聞こえてこなかったから
それから、ゆっくり内容が脳に染み渡ってきた。
──要するに、目的のすり合わせが出来ていなかった、ということか?
あの気迫から鑑みるにライダーは聖杯への願いを胸に、必勝を期して召喚に応じた、が。
代行者ミシェル・ドーソンは
思い返せば彼女は願いを叶えて欲しくて聖杯戦争に参加した、とは言っていなかった。目的は
私と話したかったミシェルはライダーによる拉致までは渋々許容したものの、『魔術で記憶をこじ開ける』だの『私の中の魔を利用する』だのは看過できなかった──そういうことか。
ここに来れればそれで満足だったミシェル・ドーソン。今の彼女は、察するに勝つ気なく
目的はあるが願いはない。死に物狂いで聖杯を勝ち取らないといけないらしいライダーとの、いわば
本気で勝ちに来ているライダーからすれば手ひどい裏切り。
それゆえの、殺意。
私たちに向けて然るべき純然たる害意のベクトルは今や、マスターであるはずの女性へと集中していた。この星で一番高い山の頂か、一番低い海の底か、そう思わせる
「────、ッぐ!?」
……何も出来なかった。
させてもらえなかった、がより正確か。
口を開いて一言発しようとした瞬間、彼女の身体にどこからともなく現れた鎖が絡みつき、身動きを封じた。口までぐるぐる巻きの彼女は簀巻きというのが適切で、そんな中で唯一片腕だけはわざわざ別に拘束されているのが目立つ。
その手の甲には、光放つ令呪があった。
「残念だ、マスター。それとも
ライダーの言葉は驚くほど平板で、人工的だった。彼の鎖が縛り上げている主へ向けた声とは到底思えない。
そこで違うのかと気づく。主へ向ける声に相応しくないと感じたのは自然なことで、なぜならそれは主従関係の破綻宣告だったから。とうとう見限った相手に
もがくミシェル・ドーソンの背後、黒いがっちりした体格の悪魔が、音も無く現れる。
ランサーが動こうとするが、彼女の目前にはライダーが居る。いくら彼女とて、同格以上に牽制されれば介入することは難しい。
私たちもそうだ。いつの間にかそこいら中にいるライダーの使い魔たちの間をすり抜けてミシェルを助けに行ったりすることは出来ない。無理をすればオートバイの残骸のようになるのは目に見えている。
なすすべもなく、見ているしかなかった。
「令呪はサーヴァントにとって益にもなり得るが、害にもなる。何の対策もしないと思ったのか? ルーラーのような突発的事態ならばともかく、貴様とはずっと共に居たのに。
余はずっと考えていたぞ。貴様が余を排さんと考え、令呪を励起させれば、直ちに縛鎖がその身も心も封じ込める。そういう仕組みになっていた」
今やミシェルは腕一本で吊り下げられた蓑虫だ。令呪が輝く手は胴体から引き離され、掲げるように保持されている。
「──それが今、作動した。貴様は余を殺そうとした。であるならば──」
「代償を支払ってもらう」
悪魔の爪が、ミシェル・ドーソンの腕を切断した。