全体念話で聖が叫ぶ。それが合図になったのか、全員が動いた。
ランサーはライダーをひときわ強烈な一撃で壁まで吹っ飛ばし、くるりと向きを変えてこちらに一直線。私たちはその加速のまま抱えられるものだから、Gがもろにかかって意識がブレる──って、ちょっ、ちょっと待って!
「わたッ……しはいいから、ランサー……っ!」
「いいえ、そういう訳にはいきません!」
両肩に私と聖、それぞれを担ぎ上げる彼女はどう見ても過積載、全速力を出せていない。こんなんじゃ逃げ切れない!
ライダーが手を振ると、禍々しい巨馬がその横につける。跨って追撃してくる、そうなれば両手の塞がったランサーには文字通り打つ手がない──目を覆いたくなる私の視界を遮る、何よりも
『──『
稀代の短編作家により
山が産まれる刻というのはこんな感じなのかもしれない、とすら思わせる。まず全体像を捉えるのにすら一苦労。どうやら蹲っているらしいと把握できてしまったことで更なる戦慄を巻き起こす。背のなだらかな曲線しか見えていないにも関わらず、私たちの居る余地はこの空間に皆無──!
「な、なな、何コレ──!!」
身じろぎ。
ガン、バン、バリバリ。バキバキ!
ちょっと動いただけであちこちから破壊音。のみならず存在だけで致命的なのか、ビシビシと床にひびが走る音。床が抜ける! 天井も!
──までが、私が目で追えた、幻獣タロスの召喚直後。
ランサーが壁の大穴から私たちを運び出して、青銅巨人の姿が視界から外れた。巨怪の姿を隠す建造物──私は私が拉致された先を初めてこの目で見たわけだけれど、これが最後になるかもなという予感があった。
予感と言うよりは、あまりに直接的な、外壁に蜘蛛の巣のように広がってゆく罅、罅、亀裂──
「████████████──!!!」
卵の殻を割り砕くように、金打の巨人が
喝采するみたいに天に掲げた両の腕は、一本で神殿の柱のよう。そんなものを勢いよく振り回すものだから、風を切る轟という音で耳がやられそうになる。
ランサーが間一髪の回避をキメていなければ、耳どころか全身グチャグチャになっていただろう。長大な両腕を駄々っ子のように力任せに薙ぎ払うだけで立派な質量兵器。サーヴァント相手であっても通用する対神秘重機はしかし、完全に
「ヤバいって、これ……! どうするの!?」
暴走巨人から距離を取って、巻き起こされた惨禍を眺める。夜間だから音以外は隠せるけれど、これが日の出まで留まっていたら一発で朝のニュース番組総なめは確実、という目立ち具合。森の木々をあっさりと跨ぎ越えて聳え立つその全長は、市街からでも一目瞭然に違いない。
森のランドマーク間違いなし。森に居続けるなら、の話ではあるけれど。
タロスの身体に群がる、アリの大群のような小さな粒々がライダーの悪魔たちか。笑ってしまうようなサイズの差。私たちもあの場に居たならあれくらいかもっと小さいと考えると、出来ることなど何もないように思えてくる。
ランサーに担がれてぐったりしていた聖が、
「……タロスは、踵に弱点がある……。ライダーが知っているかは不明だが、遠からず辿り着く、だろ……。時間稼ぎにしか──ゲホッ!」
「聖、いいから無理しないで……ッ」
私のように言葉に出した訳ではなかったけれど、ランサーも彼を気遣う様子を見せた。言ってしまえばそれは隙で、私たちは全員周辺への警戒を怠っていたことになる。
初撃、反射的に回避できたのはランサーの経験の賜物か。
加速もなく体勢を崩されたところに加えられる追撃。一発、二発と受けてしまえばランサーとて一溜りも無く。
「──────あ」
感じたのは浮遊感。
何にも支えられていない、頼れる翼だとかも備えていない、空中に独りぼっちで放り出されたのだと即座に理解するには、未知の体験すぎた。
次いで、回転と重力。
ぐわんぐわんと天地が高速回転しながら引っ張られていく感覚は筆舌に尽くしがたい不快感。三半規管はスカッシュのボールみたいなことになっているに違いない。まあそれも最悪なんだけれどそんなことより回るたびに視界の占有率を増してゆく夜の森の迫る感覚が怖いって言うか死ぬっていうかそういえばなんでこんな森の上空に放り出されたりしてるのっていうかライダーの拠点って森の中だったって今知ったけどだからそれどころじゃなくて──
「ぁぁぁぁあああああ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
私は頭から木々の中に突っ込んだ。
バキバキボキと盛大な音を立てたのは、枯枝だったと信じたい。