「…………ぐ」
太い枝にひっかかって洗濯物のようになっていた椎名聖が、身じろぎする。
悪魔たちの襲撃によってランサーの肩上から脱落し、森の中に墜ちていたのだ。
敵手の数、軍勢と称すべき魔の波濤を侮った。あそこでタロスに蹂躙されている一軍だけがライダーの手勢であるはずもないというのに。この森は未だ敵陣、そのただ中に留まって悠々と観戦するなど愚の骨頂。
もっとも気付けたとして、正しく采配できたかは怪しかったが。
「ゴホッ、ごほ、ぐ──!」
発作の如き苦しみ。
咳と、全身に走る間断なき激痛とが、彼の意識に打ち込まれる錐のようであった。
毛細血管一本一本に沸騰した猛毒を通す方が十倍マシな耐えがたい辛苦。並の人間ならば正気を失うか、あるいはもっと安直に意識をシャットダウンして逃避する痛みそのものに耐えて意識を保った代償は、ほぼ完全な行動不能。
これほど苛烈な反動が襲い来るとは想定外だった。なまじ目覚めた直後は平静であったものだから“動ける”と勘違いしてしまったが──いざ本番となって剣を抜けば、御覧の有様だ。
ここまで期間を空けずにヘルギの魔剣化を再使用したことは、永い転生の間にも前例がない。そうなると反動の大きさだって観測史上初だ。迂闊に切れない切札、秘中の秘として温存し続けていたことが、ここに来て裏目に出るとは──
「くッ…………、……ぐ、う」
それでも、少しはマシになってきた。
発作直後の全身がバラバラになりそうな激甚期は脱した。戦闘には堪えずとも、多少の身動きくらいは可能なくらいに収まってくれたのはせめてもの救いと言える。
樹冠から飛び降りる。四つん這いに近い着地体勢、たかが十数メートルの衝撃を殺し切れないことに重傷具合を実感してしまう。
老人よりも弱弱しい現状で追撃を受ければ万事休す。上空ではランサーが敵を殲滅しているらしき音が響いている。一緒に落下したであろう臙条叶を回収し、ことが片付くまで身を潜めねば。
──彼は失念していた。
ライダーの手勢はこの森に限らず至る所に居ると。
そして、椎名聖たちはそもそもは電撃作戦を期して拠点を後にしたと。
『──マスター。残念なご報告です』
「キャスター!? ッしまった、そっちが──!」
ライダーはその軍勢に物を言わせて、フユキほぼ全域に監視網をしかけている。それは一行の拠点たる臙条邸にも及び──そこには現在、キャスターが単独で留まっている。
彼はほぼ戦闘能力を有していないが、本来の計画であれば問題にはならなかった。最速最短で叶を奪還し、ライダーを叩いて安全を確保する目論見だったからだ。
ライダー主従の決裂と叛逆。
椎名聖の反動発作による戦力低下。
複数の予期せぬアクシデントが状況をかき混ぜ、撤退を余儀なくさせられたことで、リスクが浮かび上がるのは必然であった。追い打ちをかけるようにライダーの拠点を
『表に屯していた悪魔たちは結界を突入しようと盛んです。門を破るまでさほど時間は要しないでしょう』
「そうなったら終わりだろ、アンタ! 落ち着き払ってるのもいいがさっさと言ってくれ、いま令呪で──」
ここで最後の一画を使い切っていいのだろうかと逡巡するそぶりも見せず、聖は令呪に魔力を通す。今すぐにでも絶対命令権を行使せんとしていた彼を制止したのは、
『いいえ、ですから──
「は?」
そんな彼の