Fate/second to none   作:吉田一味

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さらば愛しきストレンジャー④

 

 いくら何でも前触れもなければ潔過ぎる。それが率直な、聖の感想。

 

「待て、諦めるには早いだろ。令呪で転移させれば──」

 

 空間転移。

 

 ある地点から異なる地点への、距離を無視しての瞬間的な移動は全人類の夢といっても過言ではない。

 

 本来は魔法の領域、現代魔術師では不可能な芸当であっても、令呪を用いれば実現できる。押し入られそうになっている臙条邸書斎に留まっているよりはマシだろうと、キャスターの妄言とも思える発言をひとまず無視して命令を出さんとする彼に先んじて、

 

『貴方の元へ瞬間的に転移することは可能でしょう。ですがそれは時間稼ぎにもならないのでは? 私は皆さんの逃亡の枷にはなれど、手助けは出来ません。令呪を無駄に使うだけならば、温存して未来に賭ける方がまだしも有益です』

 

令呪(ツノ)を溜めてサーヴァント(ウシ)を殺す、ってか。新しいことわざだな、意味は馬鹿まるだしってところか? いいから来いってんだよ、役に立つ立たないじゃない、出来る限りの働きをするために!」

 

 キャスターの言い分はひとつの道理かもしれないが、非現実的に過ぎる──星空に夢を追いかけて足元を疎かにすれば、すっ転ぶのが関の山。

 

 キャスターを見殺しにして、よしんばこの場をキャスターの助け無しに切り抜けられたとして、温存しておいた令呪で誰と契約できようか。それならばキャスターと共に生き延びる可能性に賭けて森を逃げる方がずっと上等。そうすればこの先の戦いも──────

 

『そう、それが問題の根幹なのですが…………、……謝罪しなければなりません。私はもう、生き延びたとしても戦えません』

 

「な────どう、いう」

 

『私はキャスターとして召喚されるにあたり、ある種の二面性を与えられて霊基を構築しました。それはジキル博士のよう(じんかくてき)な意味ではなく、役割(ロール)としての多重存在です』

 

 即ち、配役者(キャスター)。俯瞰視界から物語を睥睨し、文筆で以て干渉するもの。

 

 そして、詐役者(プリテンダー)。いち登場人物として振る舞い、自ら物語に関わっていくもの。

 

二重召喚(ダブルクラス)……とも少し差異はあるようですが、つまりはそういったサーヴァント。私は作家であり、同時に登場人物でもある。()()()()は、自作に登場人物として自分自身(わたし)を出していましたから、その影響もあるのでしょう』

 

「それは──判ったけど。それが、なんで」

 

『お忘れですか、と言えればよかったのですが。────(かれ)は短篇作家です。生涯を通して数十頁を超える長編を記したことのない小説家です。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ──椎名聖は、呻くしかなかった。

 

 霊基特性上の問題。()()()()による現界のリミット。サーヴァント・キャスターは物語(せかい)に関われば関わるほど、記述量を消費して巻末(おわり)に近づいてしまう。

 

 魔力も霊核も関係ない。生身の人間に寿命があるように、キャスターには文字数の枷があるだけのこと。伸ばす手段も探せばあるかも知れないが──終わるべきものの引き延ばしは得てして歪になるものだし、そもそも模索する余裕がない非常事態が現状だ。

 

 ……おそらくキャスターが今に至るまで打ち明けなかったのは、無理な延命を厭うてのことだろう。その気持ちは理解できるし尊重したい。が、いくら何でも今言い出すことでもないだろう!

 

「…………ッ」

 

 けれどキャスターの沈黙を、椎名聖は咎める気には到底なれなかった。

 

 彼の説明、キャスターの真実。関わり続ける限りサーヴァントとしての寿命をすり減らす難儀な性質だが、裏を返せば──何もしない限り、ただ一冊の書を堪能するかの如くに無介入であれば、彼の現界時間も保ったであろうということ。

 

 本当に、真実知見を求めるならば。ただ頁をめくり続け、キャスターにとっての異聞世界を堪能するだけならば、やりようはいくらでもあったはずだ。マスターからすら姿を眩ませ、あるいは契約を断って、独りで潜伏することもキャスターならば出来たろう。けれど彼は、それを選ばなかった。

 

 刻一刻と減じていく残りの空白を噛みしめながら、時に自らの手でそれを埋めながら、聖杯戦争の参加者として聖と共に戦ってきた。キャスターが居なければ越えられなかった危地が果たして幾度あったか数えきれない。……彼が原因のものもあるが、言いっこなしというものか。

 

「──────」

 

 呑み込む。

 

 キャスターの助けも。

 

 キャスターの迷惑も。

 

 ……彼がもう、消えるという事実も。

 

「……そう、か」

 

 呑み込もうとしたのに、

 

『言っておきたいことがあるようでしたら今のうちにどうぞ。これが最期なのに我慢するのも、まさしく気の毒というものでしょう』

 

 なんて当の本人が言ってくるものだから、爆発した。

 

「ホンッッット気が合わねえな、俺ら! じゃあ言わせてもらうと、アンタ聖杯戦争を勝ち抜くパートナーとしちゃあ酷いもんだったぜ! 俺じゃなきゃ召喚直後に契約解除だったろうな!」

 

『その点については申し訳なく思っています。私は不出来なキャスターであったことは間違いないでしょう。しかしそれを言うのであれば、貴方もなかなかのものでは?』

 

「それは──……」

 

『夢で互いの過去を追体験するというのは、聖杯戦争の主従には珍しくないことのようです。それだけで自分のサーヴァントを排除するか選択肢に入れるというのは、いささか過激な主と言えるのでは?』

 

「う……いや待て、それは確かにそうかもしれないけど、そもそもキャスター、インチキしてたんじゃないか、あの時?」

 

『さて、何のことやら』

 

「おい! やってたな、このやろー!」

 

『ふ、ふふふふ……』

 




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