Fate/second to none   作:吉田一味

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悔いの道の果て①

 

 ──椎名聖(しいなひじり)の掌から令呪が薄れ、遂に完全に消えた。

 

 それは彼の聖杯戦争の終わり。

 

 まだ目はあるにしても、それは万に一つ。使用されないまま契約サーヴァントを喪ったマスターの令呪は、一度は聖杯へと還ってゆく。逆の存在──マスターを喪った“浮いた”サーヴァントが現れない限りは、その令呪が契約者候補たちへ再配布されることはない。

 

 そんな“もしも”を考慮する余裕はない。

 

 フユキ郊外の夜の森中、ライダーの陣地の真っただ中。この危地を脱しない限りは、未来の話など後回しだ。

 

 警戒すべきはライダーの従える悪魔たち。

 

 この森──敵の“領地”の離脱には、監視網を構築してくる連中は邪魔極まりない。かなりの数が臙条(えんじょう)邸、キャスター排除のために送り込まれたであろうことを考えれば、そう残っていないのではないかと楽観視してしまいたくなるが────

 

「…………、っ──」

 

 ──キャスター。彼が最期に何をしたのか。何をしようとして何が出来たのか、聖は知らない。聞いてすらいない。

 

 彼は最期の最後まで、聖のサーヴァント・キャスターであり続けた。そんな彼が“やる”と決めたのであれば、出来ないはずがあろうものか。

 

「──ありがとう、キャスター」

 

 彼の献身に報いろ、椎名聖。彼は自分に喝を入れ直す。

 

 肉体的な負荷、魔剣と繋がるまで賦活させた転生魔術の代償は収まってきている。全力で戦闘するとなったら些か以上に厳しいが──逃亡にも差し障るピーク時ほどではない。

 

 撤退は絶対不可避(マスト)というのが現状の指針だった。彼の体調、戦場が敵陣渦中であること、そしてライダー陣営のごたごた──ミシェル・ドーソンは令呪を奪われたうえで気絶させられ、意識を失ったままサブのセーフハウスにでも隔離されていることだろう。

 

 彼女が目覚めればライダーとの契約は破棄される可能性が高い。

 

 そうなればヤツは終わりだ。ライダーとて変わりの契約者を探すだろうが、どこにでも都合よく居るようなものじゃない。かなりの高確率で、現世へ繋ぎとめる楔を喪失して退去する。

 

 いまこの場で必死になってライダーを撃破するメリットは薄い。

 

 逆にライダーは、何が何でもここでこちらの陣営を潰しにくるのは間違いない。

 

 早急にこの場を離れなければ──

 

「…………居た、臙条──」

 

 夜の森の中を這いずって、やっとのことで発見する。

 

 倒れ伏してピクリとも動かないのは心配になるが、胸は動いていた。額からそれなりに出血の跡はあるが──傷が、無い?

 

 拭いつつ触診。やはり切傷は見つからない。頭部からの出血は激しくなりがちと言っても、そもそも血の出る開口部が無いのは奇妙な話だ。意識を失っている以上、彼女が何かした結果とも思い難い──原因を突き止めたくなる衝動を切り捨てて、

 

「臙条、起きろ、臙条……!」

 

 揺さぶって意識の覚醒を促す。本来推奨される手当からすると真逆だが、そんな悠長なことを言っていられる状況ではない。全部終わったらいくらでも病院で診てもらえばいいし、魔術も礼装もありったけ使ってやるとも。

 

 今は何より、目覚めて自分の足で歩いて──走って逃げて欲しい。

 

「ン……。ぅ、ひじり……?」

 

 瞼が開いて、焦点のあわない瞳──

 

 一瞬赫(・)く(・)揺らいだように見えたのは……果たして錯覚だったのか。

 




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