──弱りましたね。
ランサーはどうにか身を起こす。鈍器の一撃は戦乙女を強か打ち据え、その機能を著しく低下せしめた──要するに、かなり効いた。
最も困ったことはダメージそのものではなく、順当にこうなったということ。
ランサーでは、ライダーには敵わない。
そもそもが戦乙女は、戦闘目的に製造されたわけではない。その主目的は戦場の監視・観測および勇士の選定。
戦いに生きて戦いに死んだ者たちを、勇ましき丈夫たちを、大神の殿堂へと運び導くある種の自動機械。死出の道先案内人にして死後の歓待人。それが彼女たちだ。
無論、大神オーディンの成すこと。高水準の戦闘プログラムは組み込まれているし、三度の生をヘルギに寄り添って在る中で幾度となく死線を潜り抜けた。決して戦えない訳ではない。
その程度ではどうにもならないほど、ライダー──タフムーラスが勁いだけ。
肉体性能:ライダーに分がある。
製造直後の高い『神性』を維持していたならまだしも、
この私の霊基、駆体性能には望むべくもない。
戦闘技術:ライダーに分がある。
自国を荒らした悪魔の軍勢を悉く打ち倒し、
長らくの平和を取り戻した彼は、まさしく一騎当千。
戦棍さばきは惚れ惚れするほど。
英霊位格:ライダーに分がある。
敵方には宝具として“悪魔の軍勢”、
のみならずもう一つ“異常な学習能力”らしきものを持つ。
私は見た──キャスターの召喚したタロスを戦わずして消滅せしめたのを。
私が繰り出したルーン魔術も、彼は打破するのではなく破却した。
彼がその気になれば魔術師として召喚されることもあり得るだろう。
……勝てない。
サーヴァントの霊基、この程度の性能ではライダーを犠牲なく倒すことは出来ない。
椎名聖──彼女の愛するヘルギの当代が、もしも今を生きる人類でなく、英霊の力を真に発揮できる器を持っていたなら、タフムーラスであっても……などと、考えるだけ詮無いこと。
同盟者たるキャスターの気配も亡い。おそらくはライダーの手勢に討たれたか。……聖のサーヴァントであったならば、きっと立派に討死したのであろう。逃げたなどとは過ぎりもしない、彼が信じたものは彼女も信じる。無条件に。
キャスター。大神の殿堂へと導くべき勇士とは感じなかったが、それでもいっときを共に過ごし、轡を並べた戦友と言ってもいい間柄だ。彼が戦いの中にペンを置いたことを寿ぐ。
──役割を全うしましたか。見事。
──であるならば、次は私の番。
──既に二度……いいえ、五度。
──きっと、今度もちゃんと出来ますとも。
──愛のためならば。何も、惜しくはない。
彼女は身を起こす。瓦礫の中から。
おのれの命を使い果たすために。