「!!」
──己を穿った戦棍を掴んだ。
『マスター、令呪を!』
合図が来た。
こんな状況であっても、いいやこんな状況だからこそ、彼女の頼みは断れない。全力で遂行する。きっとランサーはこうなることを予期して予め頼んできていたに違いない、だから大丈夫全部上手く行く──そう妄信して。
それが何を引き起こすか、知る由もなく。
「ランサー! この令呪で──勝って!」
最後の一画。
手の甲に残っていた赤い十字が発火し、魔力となってランサーに流れ込む。血潮とは異なる活力が霊体を駆動させ、本来ならば不可能な戦闘続行を実現する。
……とっくに致命傷のランサーの命を、消えかけの手持ち花火のように燃やし尽くしながら。
「行け、『
「ぬ────!?」
ランサーの踊る手は、彼女の外套にルーンを描き切った。黒衣はリンゴの皮みたいに細長く切り裂かれ、独りでに伸びあがり、蛇のように意志を持ってライダーに絡みつく。
ランサーの戦棍を掴んだ腕ごと、ライダーの片腕は完全に封じられた。黒布の覆いは包帯のように、二人を結び繋ぎとめる架け橋。
刃に魂が走る。
ライダーの武器と片腕を一時的に封じられただけでも千載一遇。絶好の機会を見逃す
──言わずもがな、戦力差の開きは未だ大きい。
片や、生身の人間、しかも本調子からは程遠い椎名聖。
片や、ランサーに腕一本と武器を封じられただけのサーヴァント、ライダー。
ルーラーの
……きっとワルキューレに会ったあの丘だ。
ランサーはそんな彼を一番よく理解しているから、そんな彼を死なせたくないから、叫んだ。
「──ヘルギ! 私、を!」
──致命的に食い違った、
「
「!!」
「なッッッ──」
「な──に、を言ってるの、ランサー」
叫んだ彼女以外のその場の全員。漏れなく衝撃を受けて固まった。
「この術が効いている間、私とライダーの霊核は共有状態にあります! 今なら、今だけ──だから、さあ! 私を!!」
二人は今だけは一つ。ランサーが霊核を破壊されればそのダメージはライダーにも伝わる。普通に斬りかかれば勿論激しく抵抗するライダーの霊核を狙うよりも、無抵抗で聖を受けいれるランサーの胸を貫く方が、確実だ。
ではランサーが自決しないのは、その余裕すら無いからだろう。彼女は術の維持に必死。このまま霊基崩壊すれば術が先に解けて犬死になるから、死の淵に墜ちるのを文字通り死に物狂いで耐えている。
ライダーもまた、瀕死のランサーを殴り殺そうとせず術の解除に全力を注いでいるのは、被術が発動したままでそれをやれば自殺と同じ事だから。霊核共有を断ってからでなければ動けない。
「~~~~~~~ッッッッ」
だから、状況を動かせるのは、聖だけ。迷うことも躊躇うこともない、勇猛果敢にして果断なる魔刃の担い手たる、椎名聖。
そんな彼が、止まった。
「出来るワケ………………ねえだろがッ……!」
獣のように駆けだしていたのに、まるで迷子の子どもみたいに棒立ちの彼は食いしばった歯の隙間から呻く。
「俺に、俺に君を殺せって言うのか!!! 出来るワケないだろ、そんなこと!!!」
今がどういう状況で、彼が動けずに居ることがどれだけの損失になるか。彼は頭が回るからきっと全部理解してしまっていて、それでも身体は言うことを聞かなくて──いいや、そうじゃない。
身体より何より、魂が動く気力を喪ってしまっているのだ。だってほら、輝いていた刃は今やすっかりもとの鉄。
「俺が──、おれは……ッ!!」
「──────」
ランサーはそんな彼の体たらくに目を見張って、そして、ふっとほどけるように微笑んで。
そんな彼女の胸の中心を、鉄の塊が粉砕した。
「ランサー──!!!!」
「──カーラ!!!!」