宙を抱く腕をそっと夜の森に降ろす。
そこに居た彼女がもう居なくとも、せめて、それくらいはしたかった。
「──────もう、いいのか」
「……ああ。別れはちゃんと言えた。これ以上はない」
青年はゆっくりと立ち上がる。ライダーの見据える背中は揺らぎも震えもしていない。
振り返らず、
「待ってくれたこと、礼を言う」
「今更、僅かな刻を惜しむこともない」
ライダーからしてみれば、ランサーさえ撃破してしまえば残るは恐るるに足らない
そういう冷徹な判断のみがあった。
「そうか。じゃあ──」
彼女との最期の会話が、思う存分に出来たのだから、後は──
「カーラの仇。ブッ殺してやる」
「…………出来もしないことを抜かすのは、悪だな」
振り返った
そこに、黒い稲妻が爆ぜた。
***
…………身体の力が抜ける、とはこういうことを言うのか、と思う。
悲しくて、寂しくて、動けない。
私のランサー、私をずっと守ってくれた頼もしき戦乙女。
彼女がこの世界の何処にも居なくなってしまったこと、もう二度と会えないこと、彼女の透き通るような声も、流れる細やかな髪も──────何もかも、消え去ってしまったこと。
涙が、溢れて止まらない。
彼女の涙は綺麗だったなあ、ぼんやりと思い出す。ひとしずくだけ、ぽろっと零れて儚く消えてしまって。
私はそうじゃない、あんな風には泣けない。見苦しく泣き濡れて止めどない私は、彼女のようにはなれない。
やっぱり、違うよ。おかしいって。私のためにランサーが死ぬなんて。
ランサーは愛されて、必要とされていたんだから。
「オオオオオオッ」
だから、ほら──聖はあんなにも怒り狂って、サーヴァントのライダー相手に大暴れ。
黒い靄のようなオーラを纏って、未明の暗森を獣のように。私の目でも追いきれないほどの速度でライダーを翻弄する彼を、私も立ち上がって助けなければならないのに。
芯が砕けてしまったのだろうか。私はもう──ダメだった。
ああ……聖がライダーに勝つとか勝たないとか、私にサーヴァントがもう居ないとか、そういう次元ではなく。