Fate/second to none   作:吉田一味

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主の御加護があらんことを①

 

 宙を抱く腕をそっと夜の森に降ろす。

 

 そこに居た彼女がもう居なくとも、せめて、それくらいはしたかった。

 

「──────もう、いいのか」

 

「……ああ。別れはちゃんと言えた。これ以上はない」

 

 青年はゆっくりと立ち上がる。ライダーの見据える背中は揺らぎも震えもしていない。

 

 振り返らず、

 

「待ってくれたこと、礼を言う」

 

「今更、僅かな刻を惜しむこともない」

 

 ライダーからしてみれば、ランサーさえ撃破してしまえば残るは恐るるに足らない人間(マスター)二体だけだ。死にゆくばかりの戦乙女に無闇に手を出して、またぞろ妙な術をかけられても面倒なだけ。穏やかに消滅してゆくのであればそれを待ってからゆっくり片付けてしまえばいい。

 

 そういう冷徹な判断のみがあった。

 

 ()からすれば利害の一致でも構わなかった。

 

「そうか。じゃあ──」

 

 彼女との最期の会話が、思う存分に出来たのだから、後は──

 

「カーラの仇。ブッ殺してやる」

 

「…………出来もしないことを抜かすのは、悪だな」

 

 振り返った椎名聖(しいなひじり)の瞳、赤く腫らした眼。

 

 そこに、黒い稲妻が爆ぜた。

 

 

 

***

 

 

 

 …………身体の力が抜ける、とはこういうことを言うのか、と思う。

 

 悲しくて、寂しくて、動けない。

 

 私のランサー、私をずっと守ってくれた頼もしき戦乙女。

 

 彼女がこの世界の何処にも居なくなってしまったこと、もう二度と会えないこと、彼女の透き通るような声も、流れる細やかな髪も──────何もかも、消え去ってしまったこと。

 

 涙が、溢れて止まらない。

 

 彼女の涙は綺麗だったなあ、ぼんやりと思い出す。ひとしずくだけ、ぽろっと零れて儚く消えてしまって。

 

 私はそうじゃない、あんな風には泣けない。見苦しく泣き濡れて止めどない私は、彼女のようにはなれない。

 

 やっぱり、違うよ。おかしいって。私のためにランサーが死ぬなんて。

 

 ランサーは愛されて、必要とされていたんだから。

 

「オオオオオオッ」

 

 だから、ほら──聖はあんなにも怒り狂って、サーヴァントのライダー相手に大暴れ。

 

 黒い靄のようなオーラを纏って、未明の暗森を獣のように。私の目でも追いきれないほどの速度でライダーを翻弄する彼を、私も立ち上がって助けなければならないのに。

 

 芯が砕けてしまったのだろうか。私はもう──ダメだった。

 

 ああ……聖がライダーに勝つとか勝たないとか、私にサーヴァントがもう居ないとか、そういう次元ではなく。

 

 臙条叶(えんじょうかなえ)はこの森で、終わりなんだと悟る。

 




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