「…………ぁ」
「どいつも、こいつも──」
話は終わりだと言わんばかりにライダーが襲い掛かってくる。ハルくんは振り下ろされる戦棍を受けると、勢いはそのままに巧みな杖さばきで地面に受け流す。
常人では不可能なサーヴァントの戦闘速度。彼もその中に身を置く英霊の一騎であると、一発で理解させられる交錯。
けれど──キャスタークラスだからか、全身のひび割れのせいか、その両方か。一度の交わりだけで、表情が軋んでいる。
ランサーに輪をかけて分が悪い。こんなのもう何度か繰り返したら、ハルくんは粉々になってしまう。だからといって彼が立っている場所を離れれば、私がぽつんと取り残される。ライダーはどちらにしても楽な勝負だから、積極的に
結局私が足手纏いで、そんなことハルくんは百も承知。
だから──
「そんなところでくたばっていないで、約束を果たしてもらいますよ!」
掲げた杖の先に、光球。予期していなかった者、この場にいる全員の視界を奪う烈光ですべてが
「人遣いの荒い……!」
「──聖っっ!?」
胴体を担ぎ上げられる感覚と、聴覚に飛び込んできた声とが彼の生存を示す。
ライダーにジャイアントスイングされた末に樹に叩きつけられた人間とは思えない元気いっぱいの彼は、そのまま全力で駆け出した。髪がなびく感覚。
「教会へ!! 保護を申し入れて脱落者として、っぐ──」
叫ぶハルくんの声が、遠ざかってゆく。
まだチラつく視界、彼はライダーと鍔迫り合っていた。近接戦闘を得手としていたランサー相手でも一歩も引かなかった──どころか単騎で撃破したタフムーラス相手に、
ましてやあんな、ボロボロの状態で。
「放してッ、ひじり──」
「彼が来れたってことは、迷宮化は解除されてる! 作った時間を無駄には出来ない!」
「違うのっ、わた、私っ、まだハルくんに謝れてな──」
「生きなさい!! それが私たちの願いです!! どうか──」
その後に続く言葉を、私の耳は聞き取れなかった。どちらの放った攻撃によるものか、激しい爆音がかき消してしまったから。
けれど、それでも────彼が何と言ったかは、伝わった。
それは何時も、何度でも彼が別れ際に告げた言葉。
私たちは何時でも一緒に居られる訳ではありません。そばに居れば助けることも可能でしょうけれど、別々の道を行けばそれも叶いません。ですからお別れの際にはこう言って祈るのです──いつか、そうハルくんが説明してくれたことがあった。
もう最近は、ずっと
***
「あぁぁ、あぁぁああああぁ、あぁぁああああああァ………………っ!!!」
臙条叶の悲嘆を背に負いながら、椎名聖はひた走る。
何を隠そう彼の肉体もかなり限界で、彼女を運んで走るのもどこまで続けられるか怪しいところだ。
特にひどいのは魔剣接続の反動。二度目だからまだ保つが、どこかのタイミングで再び昏倒するのは避けられないだろう。
……先刻まではそれも仕方ないことと思っていた。愛する戦乙女を奪われて、奪ったライダーを倒せないまでも一矢報いることができるならば、それはそれで──と。
けれどハル神父の乱入で生き延びる
反動に加えてライダーの最後の一撃。サーヴァントの膂力で大木に思い切り叩きつけられれば背骨が木端微塵になるべきところを、秘中の秘の身代わり礼装で一発は肩代わりさせた…………ものの、それでも万全ではない。
負傷を礼装に移すのは決して自動でも即時でもない。即死すればダメ、移している間に気絶してはダメ、トドメを刺されてもダメと使い勝手はあまり良くない。それでも
ギリギリまでは癒すことに専念したが、完璧ではない。痛みは残っている──礼装は一度限り、中断したものを再利用などは不可。この負傷は自力で何とかするしかない。
あっちこっちボロボロな彼がハル神父に加勢したところでたかが知れている。それなら臙条を逃がすことに注力した方がよっぽど良い。
なにせこの娘は、放置していれば自分から死にに行きかねないのだから。
「はな、してっ。降ろしてよオッ! あたし行かなきゃっ、おろしてっ!!」
「うるせぇっ、逃げるっつってんのに降ろすか! どうせ逆走しだすんだろうが!」
「どうして一緒に戦わないのっ、なんで!!」
少女の絶叫。彼女の無念、無力感の発露を一身に浴びながら、束の間──椎名聖の意識は過去へと遊離する。
(なんで、って。そりゃあ──彼に頼まれたしな)
思えばあの時も、この娘は子どもみたいに泣きじゃくっていたんだっけ。