Fate/second to none   作:吉田一味

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ゆめのめざめ①

 

 肩に負う少女が、かすれた声で呟いた。

 

「────ひじりは、知ってたの」

 

「何を」

 

「全部。なにもかも。ハルくんがサーヴァントだったのも、義母(かあ)さんがマスターだったのも、……………………十年前の、第四次聖杯戦争のせいで『フユキ大火』が起きたのも」

 

「いいえ(ノー)、いいえ(ノー)、はい(イエス)、だな」

 

「なに……それ。判んない」

 

「第一問、ノー。やべぇ神父だとは思ってたが、まさかサーヴァントとまでは知らなかった。

 

 第二問、ノー。“臙条(えんじょう)”に聞き覚えがあるとは思ってたが、それが第四次の参加者とは繋がらなかった。

 

 そして第三問、イエス──第四次聖杯戦争が十年前なのも、その終結と『フユキ大火』のタイミングが符合しているのも知っていた」

 

 少女の表情は伺い知れない。彼女は頭を後ろに担がれている。もっとも前を向いていたとしても、項垂れて前髪で隠れた顔は見えないけれど。

 

 質問をするということは他者を求めるということ。

 

 にも関わらず他者を拒絶するような精神(こころ)の壁。

 

 アンビバレンツな在り方を尊重してやれる余裕が、今の椎名聖(しいなひじり)には無かった。ずっと担いだまま走り続けることも難しい。かと言ってこのまま降ろして、またライダーの方へ走って行かれては守るものも守れない。

 

 どこかで白黒はっきりさせなければならず、

 

「俺からも訊くが────その死にたがりは『フユキ大火(じゅうねんまえ)』からか?」

 

「さあ──ふふ、判んない。判んないよ。なにも──」

 

 腹をくくって踏み込んでみても、返ってくるのは投げやりな言葉。

 

 けれどその言葉は彼女にとっての真実を孕んでいた。明確な理由が無い、あるいは本人にも判らない。原因を取り除こうにもそれが記憶から隠されていてはどうにもならないという手詰まりの構図。

 

 それでも匙を投げることはできない。一度関わると決めた者を命惜しさに放り出すなど、ヘルギの沽券に関わる。

 

「最初は聖杯への願いがあるのかと思っていた──けれどすぐに巻き込まれたのは見て取れて。ただ、それにしては妙な点がいくつかあって気にはなってたんだ。場慣れと積極性」

 

 日常に身を置いていた一般人にしては生きるか死ぬかの場に適応し過ぎている。これは未経験(はじめて)ではありえない。いくら人間(ヒト)とは違うからと説明されて、地下室のシューティングレンジでどれだけ練習したところで、廃サナトリウムでアーチャーを狙撃した時のような──いいや、それよりさらに前、臙条叶(かなえ)と椎名聖の校舎の初対面の時のような躊躇の無い発砲は困難だ。

 

 意思持つ人型を撃つ経験を、どこかでしている。

 

 そして彼女の経歴上、どこかなど『第一次フユキ大火』以外にあるものか。

 

「………………」

 

 十年前にタ(・)ガ(・)が外れても不思議ではないと聖は考える。

 

 …………それくらい悲惨極まる大災害だった。

 

 当時フユキに住んでおらず、後から聖杯戦争の情報収集のために聞き/読みかじっただけの彼にも分かる大破局(カタストロフ)。

 

 おそらく三騎以上のサーヴァントの宝具による激突は街に消えない傷跡を刻み込んだ。時間帯──深夜と夕暮れ──の違いや、避難の有無といった差異はあるものの、あくまで戦いの余波で市街を巻き込んだルーラーとは異なり明確に街(・)を(・)焼(・)く(・)こ(・)と(・)を目的とした痕跡も散見されたため、先の戦い(第二次フユキ大火)に被害規模で上回られることはないだろうと聖は踏んでいた。

 

 第四次聖杯戦争の重大機密──サーヴァントかマスターを目撃したことで記憶を消された可能性が浮上してくるが、それはそれで不自然な部分もある。『記憶を封じられたうえでなお行動原理や人格形成に影響を及ぼすほどの何があったのか』という疑問と、『それほど重大な経験をする危地に居て、どうやってただの少女であるはずの彼女が生き残ったのか』という点だ。

 

 長期的な記憶操作はただの暗示には難しいが、ハル神父が第四次聖杯戦争のキャスターと明かされた今であれば不思議な話では無くなる。彼ならばそれくらいの魔術は造作もないだろうし、義母の死までの数年間は親しくしていたというから、その間に手入れ──安定化・永続化も施せたことだろう。

 

 それだけの手間をかけるほどの…………ただ巻き込まれただけではない“何か”がある。

 




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