時をわずか遡る。
「ライダー。真名タフムーラスの弱点について、論ずべきではないかと」
臙条叶奪還作戦の前の作戦会議中。当時はまだ消滅していなかった第五次のキャスターはそう言った。目まぐるしく出撃準備を整えながら、寝起きのはずの椎名聖はそれに応じる。
「──山を恐れるもの、か」
『
ルーラーによって真名を暴かれたライダー──賢王タフムーラスは悪魔を統べ、その恩恵として民に繁栄と叡智を齎したが…………その最期は悲惨なものだった。
彼の乗騎として、最大戦力として、いいように使われ続け鬱屈としたものを肚の底に溜めていた大悪魔アンリ・マユ。どうにか復讐の機会を伺っていたソイツは千載一遇の好機にありつくこととなる。
──およそ恐怖というものを知らぬタフムーラス王が唯一恐れるもの。古代イランの世界の柱たる、急峻な世界山アルボルズ。彼はその傍に近づいたときだけ恐怖を覚えるのだと、アンリ・マユは知っていた。
──
果たしてその甲斐はあったと言えよう。王を背にした大悪魔は、それと知らなければ流していたであろう感情の
その弱点はサーヴァントとなっても引き継がれているはずだ。
ただし問題もあった。
「世界山アルボルズなんてここには無いし、下手人の大悪魔アンリ・マユはルーラーに消されちまった。弱点を突くには要素を欠きすぎている」
「場所は
こちらも準備に駆られていたランサーが反論。積極的に愛するひとの手助けをしたいのだろう。もしくは彼の遍歴を試したか。あるいは単純に、格好いいところが見たかっただけかも知れない。
「それはそうだけど、じゃあ何処でやるって話になる。敵拠点に突っ込んだ後に悠長に準備しておくなんて、そんな時間があると思うか?」
「敵陣に突入する直前に用意しておくのは如何でしょう。今回でしたら森の辺縁部にあらかじめ仕掛けておいていざという時に活用できるようにするなど」
ランサーの言葉に聖は作業の手を止めて考える。
「……誘い出す先に仕掛けておくのはアリだな。それでライダーがどう反応するかは出たとこ勝負だが、無いよりましだろ」
そう。
サーヴァントになるにあたって伝承は霊基規格に合わせた変化を伴う。盲目のキャスターが『触れている本の文章だけは読める』能力を獲得したり、転生を繰り返した戦乙女がある種の復活宝具を獲得したりといった変化が、ライダーにも起こっている可能性は考慮すべきこと。
更に言えば伝承も不正確。
ライダーを、トラウマを抱く山に引き込んで、恐怖で硬直させたならば誰でも倒せるのか、それとも今は亡きアンリ・マユでなければならない更に別の要素があるのか。そもそもそんな隙を作るのか。あの王が? 本当に?
やってみなければ、判らない。
──最終的にランサーが先行して森の縁に現実誤認のルーンを仕掛けたきり、実際にはスーパーバイクによる最短最速の突入作戦が決行されたわけではあるが……用意だけでもしておくものだと、後に椎名聖は思うこととなった。