Fate/second to none   作:吉田一味

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ゆめのめざめ⑥

 

 少女の企てを阻止せんと動くライダーを今度は椎名聖が粘って食い止める。縛り上げて動きを封じようにも、鎖は絡まって自分の腕を固く締め付けるばかり。鬱陶しくも命を奪(と)りに挑む魔剣士を前に、それで一手足りなかった。

 

 あらかじめ敷設されていたルーンが励起し、定められた通りに世界を改竄する。

 

 それはライダーを害しないがゆえにライダーに防がれない、世界の側を欺く大魔術。世界を支え聳える古代ペルシャ神話の御山アルボルズ。その環境をそっくりそのまま再現する、記憶魔術とルーン魔術の複雑合同奥義(コンプレックス・コラボレーション)。

 

 ──思えば、これは椎名聖(ヘルギ)と戦乙女(カーラ)の、互いがそ(・)う(・)であると知っている状態で行われた、数少ない共同作業であった。

 

 たとえそこにキャスターの手助けが加わっていようと、ライダーを陥れるための準備だろうと、起動したのが臙条叶(ベル)の魔力であろうと、

 

 …………ランサーが、既に消滅してその成果を見届けられなかろうと。

 

「どうだッライダー、俺(・)た(・)ち(・)の術は──!!」

 

 それが無事に役目を持てて良かったと、椎名聖はこの死地であっても感慨深くなってしまっていた。

 

「──────っ、っっ──」

 

 急峻な岩っぽい斜面。

 

 切り立った崖から吹く乾いた風。

 

 どこまでも果てしなく広く高く深い青空と、それにさえ届きそうな峰々。

 

 それは震えるほど雄大な自然。

 

 それはかつて彼(ライダー)の生きた世界。

 

 現代(イマ)にあり得はずもない彼らの霊峰。

 

 そしてそれは、タフムーラス王の死したる地────

 

「シィイッ」

 

 刹那。聖は勝負を決めにかかる。

 

 ライダーに生じた隙は大きい。そこを衝いて、これで殺(と)る。まだあと一手、ベルの奥の手の魔眼は残っているもののどこまで有効かは不明なまま。そんなのを当てにせずとも、ここで霊核を貫いてしまえば済む話だ。ライダーが生前に根差した恐怖に硬直した今以上の好機、など────

 

 ……それは、嗅覚と呼ぶべきもの。

 

 鼻の奥が痛(・)く(・)なる。たったそれだけを根拠に彼は、全速力で走り出した躰を全身全霊で逆制動。筋肉という筋肉、関節という関節、骨の一本一本に至るまでが軋む音を聞きながら彼は、

 

 世界がめくれ上がる熱(・)量(・)から間一髪で逃れた。

 

「────やってはならぬことをした」

 

 転げて距離をとる──よりも早く、膨張した空気が彼を弾き飛ばした。またしても樹に打ち付けられた彼を、ゆらりと逆光のライダーが振り返る。

 

 肉体の痛みすらかき消すほどの驚愕が、椎名聖の意識を支配していた。

 

 あれは。あの輝きは、何だ──?

 

 脳裏を過ぎるはルーラーの宝具。王を唯一のものとする『威光顕す鉄王冠(コーローナ・フェッレア)』の、大帝の頭上に建言する第二形態があ(・)あ(・)ではなかったか。

 

 いいや違う。あの宝具に物理的な破壊力は皆無だった。

 

 目前のこれ──タフムーラスの背(・)に(・)顕(・)れ(・)た(・)、太陽の如き純白の光輪──

 

「────光背(フヴァレナ)……かッ!!」

 

 それは『アヴェスター』にある概念であり、ある種の権能。

 

 この世すべての善(アフラ・マズダ)に認められた王にはその証として与えられるオーラ、それがフヴァレナである。

 

 仏教における後光やキリスト教におけるニンバスと似通った偉大さの捉え方だが、その特徴はやや異なる。

 

 フヴァレナは永遠絶対の王権で(・)は(・)な(・)い(・)点である。

 

 ”王に相応しくない”と判断が下れば、フヴァレナは小さな光焔と散って離れてしまう。五行思想、易姓革命──天が支配者を見放した時には悲劇と破滅が訪れるという考え方が近しいと言えよう。まさしくタフムーラスの息子であるジャムシードが、堕落の末にフヴァレナに見放され破滅を迎えている。

 

 常に己を戒めていなければ消えてしまうだけあって、そのチカラは凄まじい。

 

 ライダーは今や英霊の枠に収まらないほどに、その存在規模を膨れ上がらせている。

 

 神霊──本来は聖杯戦争で召喚されることなど到底有り得ないような高位の霊基にまでレベルアップしているのが見て取れる。特筆すべきは、その強化・上昇が決して破滅的なものではないということだ。

 

 ライダーの霊基の状態は安定。完全に制御されてライダーに一切の負荷も反動も及ぼさない『神性』に近いエネルギーが、それだけでルーンによる環境偽装を剥がして穴をあけてしまっているのだ。

 

 げに恐ろしきは光輝の王権。

 

 それだけに椎名聖は納得できていなかった。

 

(こんな──こんな切札があるなら、大悪魔にだって負けねえハズだ──!)

 

 おかしい。妙である。道理が通らない──

 

 フヴァレナがある状態の、生前のタフムーラスは今よりもっとずっとずうっと強大だったはずで、大悪魔アンリ・マユでも容易く殺せる相手ではなかったはずだ。それが伝承では、悪魔は王をその背からあっさり振り下ろし、一方的に殺している。

 

 ではフヴァレナは無かったのか。仮に生前──死んだときがそうだったとして、今は使えた理由は何だ。

 

 偽物のアルボルズゆえか。

 

 大悪魔アンリ・マユの不在か。

 

 それとも────

 

「踏み込んではならぬ領域に踏み込んだ、貴様は、死ね。跡形もなく消えろ──────」

 

 思いを巡らせる暇など与えない。

 

 そもそも何もさせず、何も残さぬよう。

 

 ライダーから溢れるオーラがうねり、その一部が鎌首をもたげる。太陽表面の紅炎(プロミネンス)のようなそれは、しかし純白に空間すら焼き尽くす。

 

 それが幾条も束ねられて、掲げたライダーの手の先に巨大な柱の如き光景を現出させる。あれをぶつけられようものなら、防ぎきれるモノがどれだけあろうか。

 

 ──キャスターの『幻獣(エル・リブロ・デ・ロス)辞典(・セレス・イマヒナリオス)』から、『ヨナ書』の大いなる魚。または青銅巨人タロス。

 

一撃で蒸発するだろう。およそ命持つものの耐えられる熱ではない。

 

 ──セイバーの『全て██████理想郷(アヴァロン)』。

 

原理不明なだけに断言はできないが、

『十字さす運命の槍(ロンギヌス)』を防いだ時のを見るに、

周囲一帯焼き尽くされれば持主が焼けてしまうだろう。

 

 ──ルーラーの『我この徴にて勝てり(ラバルム)』。

 

挙げた中で最も防げないが、最も生き残る目が高そうだ。

あの大帝であれば層状に重ねて熱を軽減し、

その間に距離をとるくらいはやりそうだ。

 

 並みいるサーヴァントたちの最強の切札、宝具。それに匹敵、ないし凌駕するコレも、また──

 

「────『王には光を、榮えこそを(フヴァレナ・タフムーラス)』ッッ!!!!」

 

 真名とともに解放された宝具は、全てを吹き飛ばし、焼き尽くした。

 




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