「この、貴様────何を勝手に死のうとしているッ!!」
少女の
眼球が十字に裂けて──その内側、黒々と覗く深淵が
これが、こんなものは人間の魔眼であるものか。これはもっと常ならぬもの──神秘と魔より成る異形の器官。
──緊急避難条項拡大適用申請。
…………………………承認。臙条叶の干渉権全権を使用。
──魔眼解放シーケンス開始。
──疑似神経接続、全開通。
完了。
──魔力充填開始。
…………………………………………完了。
──照準設定。
補正術式発動:完了。
──…………。
──灯を。
──種火を熾せ。
──光帯はなくとも。祭壇はなくとも。
──我が名、我が存在のもとにいま、すべての価値を焼却せん──
絹を引き裂くような、魂を研磨するような、乙女の断末魔のような、この世のものと思えぬ凄絶な高音が響き渡る。
臨界点を超えた魔力が、黒い霧のように溢れ出す。
その奥、見通せぬ闇の中、ライダーは少女へと続いて連なる厳かな柱廊を、確かに見た。
ライダーにそれを制止することは出来ない。『
かといって『
「────」
王は腹を括った。
何をしてこようが、防ぐ自信はあった。真向から受けることを選ぶ。
少女のカタチをした魔が手を伸ばす。人差し指でライダーを指さして、親指は真っすぐ空に向けて。敵を撃ち抜く形を作る。
別に、そんなことをせずとも発射は可能で、むしろ邪魔なくらいなのだが。彼女の身体で彼女の代わりに戦うのならば、これは必要だろうと
「──『焼却式:ベリアル』──!!」
告げて、自らの名を冠した最終兵器を解き放った。
──それは無価値を意味する名。
──それは地獄と悪魔とを統べる王。
──そしてそれは古代イスラエルの名君、魔術王ソロモンの使い魔の一柱の名。『レメゲトン』は
比類なき魔なる者の瞳が輝く。
今や顔にまで拡がった裂け目から、純化されたエネルギーが発射された。筆で引かれた流麗な線のような一筋は細い。けれどそれは威力の矮小さを意味するのではなく、むしろその逆。
一切の余計な破壊をまき散らさず、狙った標的をピンポイントに撃ち抜く凝集した精密射撃。
「お──おぉぉおおオオオッッ!!」
咄嗟に庇って翳した手が貫かれる。フヴァレナによって減衰しているにも関わらずこの威力。それが無ければ霊核を穿つ致命傷を負っていたとライダーは戦慄し、同時に歓喜する。
七十二柱の御遣い。そのうちの一柱とはいえ、聖杯戦争における戦力としては申し分ないことを、図らずも
この魔眼があればサーヴァント撃破も容易となる。英霊に神秘で引けを取らない魔眼がどうしてこんな現代に眠っていたのか、そもそも『ソロモンの七十二柱』が何故そんな魔眼を持っているのか、疑問は尽きないが問題はない。
魔神は疑いようもなく『悪』であり、タフムーラスの『
事情になど興味はない。
心情も斟酌しない。
ただその力だけがあればいいと、歯を剥きだしに彼は猛る。
頭上に集めていた熱量を操って魔眼の力条を受け止め、包み込む。ただぶつかり合えば競り勝った時に臙条叶を消し飛ばしてしまう。炸裂を抑え込み、精密なコントロールで破壊を最小限に──────
そして、無価値化の奔流と恒熱が激突し。
すべてが飽和した。