黄金に輝く剣を、寸でのところでフヴァレナが受け止めた。
「ぐ、うッ──!?」
弾ける火花それ一つ一つが膨大な熱量の凝縮だ。
熱と熱。聖剣の発する眩い輝きと、ライダーを覆い守る白き
「────な」
その端から新しい体組織が造り出されてゆく。際限なき破壊と、再生とが、セイバーの霊基上で拮抗する。
剣と光の激突。
破壊と再生の均衡。
「──────オ」
────先に崩れたのは、崩したのは、聖剣。
「オ、オオオ、オオオオオォォオ────」
燃える騎士が吼える。太陽に突っ込むに等しい無謀を押し通す気概。発せられる光熱をジェット噴射代わりに玉体へと一歩一歩、僅かでも確かににじり寄る刃。万物万象を焼き熔かす王気であろうと、この剣ならば斬り裂けると。
そう、信仰レベルで心に刻まれている。
ならば恐れることなど何も無く──
「ォオ『
焼却の痛みを踏破して、騎士は剣を振り切った。
「がア────」
騎王、両断。
横薙ぎの一撃は胴から入って反対側に抜け、きっかり上下に切り
ライダーはそんな自身を眺める。
前に突き出していたため繋がったままの両腕で、胸元の傷に触れる。灼き斬れて血の一滴も流れ出さないそれに、彼は何を思い、何を感じたのか。
穏やかな様子からは、絶命に至る一斬を受けたとは信じがたかった。
致命傷だ。
ルーラーは『
そもそも彼への対抗戦力を求めて、この一連の戦いを起こしたのだから。
「──こんな幕切れか。呆気ないものだな」
一度は勝てると確信するまでの絶頂から、転がり落ちる時は一瞬だった。『
ライダーもそれは了解しているから、
「やれやれだ、栄えある騎士王の名が泣くな。奇襲からの力押しとは、美学は無いのか」
なんて恨み言が精いっぱい。なるべくして落ち着いた結末に文句くらいは言ってやりたくなったのだろう。
セイバーは刃を納めながら肩をすくめる。
「さあ、どうだろうな。必要とあらばやるんじゃないか。まあ、そんなことをせずとも、正面からの力押しで勝利をもぎ取るからこその騎士王だが」
「貴様、貴様のことを言っているんだ。何を他人事のように──」
上半身と下半身が物理的に分かれていなければ詰め寄りそうな剣幕だ。こんな輩に負けて死ぬなど受け入れがたいという心境を慮ってか、セイバーは一瞬黙って──考えて。
誠実さの証として、彼は、明かす必要のない真実を告げることとした。
「他人事、なんだよ。俺は騎士王
「──────は」
誠実ではあったのだろう。
けれどそれは、この戦いの意義そのものを否定する言葉だった。
──思えば、奇妙な点は多かった。
星の聖剣エクスカリバーは誰もが知る神造兵装なのに、その真名解放があれっぽっちとは。そもそもセイバーは剣を振るうというよりは振り回されて、結果的に敵を斬れているといった具合ではなかったか。
先刻も、フヴァレナの熱量のみならず、彼は自身の握る剣の光に焼かれていた。もっとも損壊の激しかったのはしっかと握る両の手。
宝具として所有していても、真なる担い手ではなかった──ということか。
『真名看破』スキルを持つルーラーが、セイバーを
納得と脱力感が襲ってくる。張り詰めていた意識の糸が切れたのを感じた。
「悪いな、ライダー」
「………………いいや。騙された私が、悪いのさ」
***
セイバーが歩いてくる。
聖がとても逃げられないと把握しているから、刺激しないようにゆっくりと。聖もまた、同様の注意を払いながらゆっくりと身を起こす。
「キャスターのマスター。椎名聖」
「…………元、な。令呪も消えて、俺はもうただの椎名聖だ」
「そうか」
短い応答から内心は読み取れない。
セイバーの乱入前と構図は同じ。ライダーがセイバーに代わっただけ、なのか。目的も霊基性能も不明なだけ、どうにもならない手詰まりの色が濃くなったくらい。
そして、更に響くのは時間経過。
魔剣接続後の意識の希薄化、過負荷による昏倒は耐えがたいところまで来ている。意識を吊っていた綱の繊維が一本一本切れていって、 最早最後のか細い一本だけ。とても保っていられる状態ではない。
せめて、せめて。
せめて、死ぬ時まで、は──────
椎名聖は地に倒れ伏す。
彼が最後に見たのは、同じく倒れて動かない臙条叶のそばに近づいてゆく、もう一人の足だった。