What the hellⅠ
すべてが燃えている。
天も、地も、人さえも。
「アアアアアッ、熱い、熱────」
「誰かぁ、誰かあ!! 助けてェ!!」
阿鼻叫喚。修羅の巷。そんな語彙を当時の私は持ち合わせていなかったけれど、本能が教えてくれる。ここに居たら私たちもああなると。
即ち、死ぬのだと。助かる余地など、この極限の火焔には無いのだと。
幼子でも理解る業火。夜を焼く赫。
──始まりは知らない。私は寝入っていたから。
当時の私にとっては真夜中だったけれど、まだ日付の変わらないくらいのことだったと後に聞いた。
いつも通り布団で丸まっていた私はお父さんの「起きなさい、叶! 逃げるぞ!!」という叫びで目を覚ました。何が何だかわからなくて、お出かけなら着替えないととワタワタする私を、お父さんは寝巻のまま抱きかかえて。
外に出たらビックリした。夜のはずなのに明るい。冬のはずなのに寒くない。
けれどそれは昼の柔らかな白光ではなく、春の陽気ではなく。
「──────っっ」
すべてを焼尽せんと猛威を振るう地獄の業火、その赤々とした照り返しと熱風。
私の生家にも、炎は迫っていた。それどころか一帯は炎上していない家屋の方が多いくらいで、だから私の家が燃えたのもそう後ではなかったろう。推測形なのは、この目で焼け落ちるところは見ていないから。ぼんやりと眺めていれば自分たちも真黒に焦げた炭の塊になると想像するのは容易かったから、一目散に逃げたんだ。
そうして私はもうずっとお父さんに抱きかかえられている。だからこんな、周囲を観察
お買い物に行く時の道。幼稚園に通う道。お母さんのところに行く時の道。お父さんと晩御飯の買い物に行く道。道、道、道───
無事なところなどない。
悉くが焼けて崩れて、無惨に残骸を晒している。
夜空を舐めるいくつもの火焔の舌。焼けて脆くなり、轟音と共に崩壊してゆく家屋。赤子のように丸まって転がる、道端の────
「見るな、叶……! 眼を閉じて、ぎゅってしてるんだ!」
「う、ん……! 分かった!」
お父さんの言うことに従って、私は目をぎゅっと固く瞑る。必死にしがみついて、これらのことが全部終わるよう願っていた。
お父さんならきっと何とかしてくれる。お父さんといれば大丈夫。お父さんなら助けてくれる。お父さんなら絶対に────
「大丈夫だからな、叶……! お父さんが絶対に助ける、大丈夫だから……!」
──なんて。
──そんな希望的観測、叶うわけなかったのにね。