此処を死に場所と見込んでも、存外しぶとく生き残るもの。今後の予定など無いに等しいが、生きている以上は生き続けていくのは自然なこと。
ひときわ真剣な遠坂久満に向き直って、
「──椎名聖。君はこの街のことをどう思う?」
「…………街頭インタビューか?」
「違う。俺の目的に関わる大事な質問だ。本心から答えてくれ」
飾りのない真っすぐな言葉は一考に値すると思わされる力強さがあった。臙条叶を人質に取られているも同然なので弱い立場、この程度の質問を跳ねのけて事を荒立てるのは好戦的に過ぎるか。
……と言われても。
あまり考えてこなかった切り口に、光を当てられたので目を向けてみる。
この街……フユキは聖杯戦争の舞台。椎名聖にとっては出生地でこそないものの、十年近くを過ごし育ってきた故郷ともいえる街なのは事実。
では、あるものの。
「…………すまん。熟慮してみたものの、本質的に俺は街に興味はなかった。別に積極的に破壊しようとは思わないが、だからと言って街を理由に躊躇するつもりもない」
──フユキ大橋の赤いアーチはぐにゃぐにゃにひん曲がって原形を留めていない。それはキャスターの召喚した幻獣『ヨナ記』の大いなる魚の墜落によるものであり、命じた椎名聖の咎である。彼とて大橋はしばしば利用していたし、馴染みは人並みにあった。けれど『オペレーション・マトリョーシカ』にはどうしても開けた高所が必要だったから粉々になると知りながら幻獣召喚を敢行した。
そうすべきと決めたなら、踏み出す一歩を止めないのが椎名聖という人間性。
行く道に花が咲いていようと、踏みにじって顧みない。
つまるところ優先順位の問題で、誰しもが直面する現実だ。大事なもの、尊ぶべき事柄などは世に多くあれど、それらに順序を付ける必要に迫られるのは稀なこと。「親と恋人、どちらか一人しか助けられないならばどうする?」なんてそのテの質問はしばしば戯れに発されるが、そこに真実の決断は発生しない。太陽の下、ありきたりで幸福な日常を過ごす人々には無縁なシチュエーションだからだ。そして、殆どの人間はそんな決断を下せない。時間切れで選べもせずに状況に追い立てられる人の、なんと多いことか。
彼は、違う。彼は選んでしまう、選べてしまう。目的の遂行を最優先として、自らを規定した鋼の勇士。
故郷は良いものだ。大事にすべきものであるという認識は彼にもある。けれど、それを台無しにしてでも優先すべき我を通してしまうだけ。
……血に汚れた修羅。
椎名聖に今のところ遠坂久満と敵対する意思はない。だから彼にしては正直に本心を吐露したが──結果としてそれゆえに敵対することになってしまうかも知れないな、と聖は思っていた。きっと望む回答ではなかっただろうから。
それでも構わないと思ってしまうのが、彼の本質を実に端的に表していた。
果たして、遠坂久満は、
「そうか。なら、この街に居てもらっちゃ困るな」
「…………」
思っていたのよりも何倍も穏当な、そんな発言をしたのだった。
聖はまず聞き間違いを、次に言い間違いを疑う。『この街』ではなく『この世』ではないのか、と。キャスターが退去し自身もボロボロな聖に対し、セイバーが健在な遠坂久満では戦力差は歴然だ。数値にすれば一対千くらいが妥当な見積もりか。聖が布団をはねのけ飛びだすよりも早く、念話ひとつで呼び出されたセイバーが聖の首を刎ね飛ばせる。それくらい絶対的優勢のくせに『この街に居てもらっちゃこまる』だけか?
そもそもこの対話がセッティングされている時点で妙だと気付くべきだった。あの森の縁でライダーを奇襲から討った直後、今よりもっとずっとフラフラだった聖と昏倒していた臙条叶を、セイバーに命じて斬り殺させればそれで済んだ話。そうせずにこの場を設けたということは、つまり話したかったということで────
「……もしかして、勧誘か何かだったのか」
「そういう見方も出来たかもな。君次第だったんだ、椎名聖」
ヘルギの転生者。ルーラーの霊核を砕き、ライダーとの死闘を紆余曲折はあったものの生き延びた彼は、遠坂久満からしても腕の確かな実力者だ。彼の目的のための戦力はどれだけあっても足りないくらいで、志を同じくするならばヘルギの名に誘われてくる
だが、意思を統一できないのであれば、自陣に迎え入れるには危険すぎる。ほとんど不発弾を庭の置物にするようなものだ。いつヘルギ関連で爆発するか知れたものではない上に、ひとたび爆ぜれば手に負えない。フユキは聖杯戦争とは別件の被害に見舞われるだろう。
そこで“では危険なのでこの場で殺してしまおう”とならなかったのを、甘さとみるか誇り高さとみるかは人それぞれ。
聖はそれを、後者と捉えることにした。利害損得を抜きにすれば、そういうのは彼好みなのだ。
「──聖杯戦争が終わったら、
「そうか。なら余計な手間を取らせたことになる」
「気にするな。聞かれなきゃ答えなかったし、こういう場でもなきゃ聞かれても答えなかった」
「その秘密主義が……。…………、……いや、いい」
内心は読めずとも考えの表れる逡巡。
指摘してどうにかなる次元の性格ではないとでも思ったのだろう。その見立ては正しいと聖は内心肯定する。一言チクリと言われた程度で今更変われるのならこんなところまで
そしてこうして、フユキを去ることにもならなかった。
遠坂久満は大きく深呼吸しながら肩を回して、全身で“一仕事済んだ”というアピールをする。そういうところは明確に若さで甘さだなと観察する聖は、未だに遠坂久満のことを斬れる態勢を保っていた。評価はしていても、そういう根の冷酷さと用心深さもまた、変わらないもの。
そんな対面の心境は露知らず、遠坂の、
「……落着を見たから、とやかくは言わない。
そう溢した言葉に、聖は反応せざるを得ない。自分が
「────臙条は、どうなってる」