「────つまり」
「
叶の身体を預かっているベルは、
上体は起こされている。息は熱っぽく頬も紅潮しているが、その口調は淀みない。
語った通りの正体ならば、それくらいはやってのけよう。
「ああ。あの子はあの日──『第一次フユキ大火』の夜の記憶をリフレインしている。つらい記憶は人間性を削ぎ落し続け、やがて魂のかたちを保てなくなれば──」
「その時は臙条叶の肉体を悪性情報のみが駆動させることになる、と。…………十年来の悪性情報を蓄積してたってのか、こいつが。何だってそんなことになる?」
「叶の縁と、大部分は私の来歴と性質による」
「────すまん、やっぱりもう一回聞いていいか。
聖は眉間を揉み解しながら訪ねる。大方のことは一発で受け入れる順応性の高い彼にしては珍しい反応と言えよう。
現実逃避に近い再確認に、臙条叶の顔と声で、ベルは改めて名乗る。
世界にとっての呪いにも等しいその銘を。
「私は
「────、…………」
人類悪。あるいはビースト。
それはかつて
……確かアトラス院には対ビーストの研究をしている人間が居たハズだがどうなったのやら、と聖は思い出した。もう幾代前のことか、数えるのも嫌になるくらい昔。もしかするとまだ続けているのだろうかとまで考えて、今思い出すこっちゃないなと思考を打ち切る。
さておき、何度聞いても「何でそんなヤツがこんなトコに居るんだよ」と
「かつて私が人類を焼却せんとしたとき」
「何だと?」
「昔の話だ、聞き流せ。──当時の私たちは複数の拠点を分担して受け持っていた。その中で私が配置されたのが廃棄孔──」
つまり、
人間の精神活動に伴って発生する、不必要であったり有害であったりするあれこれ。あるべきでない有害性より切り捨てられるそれらは、けれど人ひとり分程度で何か問題を起こすことはない。あっても個人スケールの問題に留まるのが自然で普通のことだ。
散って消えるはずのそれを一極に集積する機構が存在しなければ。
そして莫大な呪いが、この地その時に発生していなければ。
何も気にする必要のない杞憂で済んでいたハズなのだ。
「叶は『第一次フユキ大火』の生存者となったこともあって、フユキの悪性情報の受け皿となってしまっている。一個人の身に余る呪いは溢れつつあるんだ」
「溢れるとどうなる」
「さあな。分かるのは碌なことにはならないだろうという程度か──」
現在、臙条叶の肉体には二つの意思が宿っている。主導権を握る生来の叶の意識と、あくまで補助的なベリアルの意識。ベリアルは叶の意識がオチた時のみ、生命維持を目的とした独自判断による表出と活動が許可されているという。
現状が正にその状況。叶の意識が廃棄孔に滑落して生命活動が危ぶまれるから、打開のためにベルがいっとき肉体を借り受けているだけ。
それが叶の精神が完全に崩壊すればどう変わるか。
ベリアルがサブで主導権は無いままに、悪性情報が叶の座に挿げ替わる。つまりベリアルは
ベリアルと一体化したことで、莫大な魔力を生成できるようになっている肉体を。
「悪性情報に魔力を流せば実体化は可能だ──臙条の異常な魔力生成量なら……」
「『碌なことにはならない』か。ならばやはり、ここで元を絶つべきなんじゃないか?」