私はここで、死ねば良かったんだ。
すべてを知った、完全に思い出した今は本当に心底そう思っている。
「かッ…………ぁ、お゙…………」
お父さんは幼い私の首をぎゅうぎゅうと絞めあげている。もちろん苦しい。死んでしまいそうなほどだけれど、このまま続けば死ぬのは確実だけれど、私はここでは死なないともう知っている。知ってしまっている。
私は苦しくって苦しくって、もう何も判らなくなって、がむしゃらに暴れまわって。
その時、手が固いものとぶつかって「カシャン」と何かが私の胸の上に落っこちてきたんだ。
視界も霞んでいたからよく見えないまま、私はそれを手に取って。
「────」
見えなかった。
けれど手触りで、
私は死にたくない一心で、
パン、パンと乾いた破裂音のあと。
私に生暖かく粘っこい液体が垂れ落ちる。
「ご────プ、ぼ」
「ひゅっ──げほげほっ、ガホ! げほっ……ゔっ」
完全に脱力したお父さんが私に落ちてきて潰された。上半身だけで私の全身くらいあるから、寸前まで絞殺されかけてて酸素の足らない私は必死でその下から這い出る。
地べたに膝をついて荒い呼吸。肩を上下させる私の横──
お父さんは、私の動かすの以外では、ピクリともしない。
「ハア、ハア、ハア…………は……お父さん、お父さん……」
揺する。
揺れた。
それは自然なこと。私は生きているから動くし動かせる。
動かない、動かされるだけのお父さんは、つまりそういうこと。
──銃で撃てば、人は死ぬ。
「あ…………」
お父さんを揺すり続ける手に握ったままの拳銃が、かちゃりと聞こえるか聞こえないかの音を立てた。
「っっっヒい──」
握っていることすら恐ろしくて投げ捨てる。そんなことをしても、尊属殺の事実がどっか行くわけでもないのに、凶器は回転しながら夜闇に消えた。
後に残るのは、私が殺したお父さんの死体と、返り血に汚れた私だけ。
生きているのは────私ひとり。
「あ、ァァ……アァァアア、ア────」
世界が歪む。
ぐじゅりぐじゅりと溶け腐って崩れてゆく。
私の間延びした声に合わせて、引っ張られ張り詰めて──
「あぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
──ついに、決壊する。
絶望に底などない。
堕ち続けるだけだ。
こんなふうに真っ暗な孔を堕ちて、堕ちて、堕ち続けて──
ほら。
これでもう百度目かな。それとも千回目だったっけ。
悪夢は終わらない。リフレインして、また
2026年の
もういい、もう見たくない、追体験なんてさせないでくれってどれだけ願っても、私の手は吸い付くみたいに拳銃を取ってお父さんの心臓に銃弾を叩きこんでしまう。
筋書きは何ひとつ変わらない。
きっと無限に繰り返し続ける。
あるいは、この悪夢に削り下ろされ、私の生きる気力なんてものが払底すれば結末も変わるのだろうか。魂をやすり掛けされるような無間の責め苦が終わった後、空っぽになった私という器を誰かがどうにかしたいのかも知れないと思っても、それももうどうでもよくなってしまっていた。
だってこの悪夢は私の真実だ。
こんな再演見たくないと思っていても目を逸らせない、私の中にずっとあった地獄がこれだ。ハルくんとベルが二人がかりで押さえつけていた蓋が外れただけで、こんなに溢れて止めどない。
こんな過去を、悲劇を、──罪を忘れてのうのうと生きていたなんて。
そりゃあ人格も歪もうものだ。心的致命傷をまやかして生きているように見せかけても、傷はそこにあって血も流れ続けているんだから、どうあったって真っ当には生きられない。心的ゾンビがこの私。
だから思う。
私なんて『第一次フユキ大火』の夜に、お父さんを撃ち殺したりせず──お父さんと一緒に、大人しく死んでいれば良かったんだって。
私の手が拳銃を握っていた。
ああ、また、私はお父さんを────私の心を撃ち殺す。あと何発撃ち込めばとどめを刺せるのかな。さっさと終わってくれないかな──
引金を絞る。
撃鉄が落ちる。
銃声が響いた。
「夢ッくらい!」
衝撃に世界が揺れる。硬質な音が響く。
「────好きにしたっていいだろ。夢なんだからよ」
私の背後から伸びている腕。握られている、銀色に輝く刃。
割り込んだ