Fate/second to none   作:吉田一味

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長く短い夢②

「おはようございます、マスター」

 

「おう、お早うキャスター」

 

 ──召喚から数えて、二日目の朝。

 

 マスター・臙条(えんじょう)叶および、そのサーヴァント・ランサーと、首尾よく同盟を結べたキャスター陣営の二人。

 

 彼らは毎日の合流の無意味さを主張し、臙条邸への逗留を希望した。

 

 ここ臙条邸は深山町の一角に位置する。(ひじり)の自宅や拠点がある新都とは、橋を挟んでフユキ的な真反対だ。他勢力の監視網や使い魔は、既に叶や聖の素性をも掴んでいるだろうし、見つかれば容赦なく攻撃される。そんな危険を冒すくらいならば、聖杯戦争が終結するまでのあいだ、この広い屋敷のほんの一部でいいから貸してくれないか。──聖の主張はこうだった。

 

 むろん叶は大反対したが、ランサーがキャスター陣営の妥当性を認め、「何かあれば私が主従まとめて始末しますから」と請け負ったのが大きかった。結局は家主(かなえ)も折れて、彼らは一階にそれぞれ部屋を用意されたのだった。

 

 そのための大掃除やら、キャスターの宝具から逃れた幻獣についての説明やら、あとは『叶を襲ったのがキャスターの幻獣では』という疑いを晴らすための説明やらで、初日は吹き飛んで。

 

 翌日からは、日中に逃亡している幻獣たちを探し回って、夜はあれやこれやの準備──具体的には、叶の銃弾のルーン加工や、聖の魔術礼装の調節、あとは叶へのレクチャーなどをして過ごす日々。

 

 だからこれは、その頃の話。

 

 聖が借りていた部屋の前で、主が出てくるのをどうやら待ち構えていたらしいキャスターを視認した時点で、聖は只ならぬものを感じていた。

 

「ランサーとの手合わせの前に、少々お時間をいただいても?」

 

「構わないけど、何だ。改まって言うことか?」

 

「はい。廊下(ここ)は避けて、どこかで」

 

「──判った。書斎でどうだ」

 

「ええ、あそこなら打ってつけかと」

 

 サーヴァントの頼みに、マスターの表情が引き締まったものになる。彼らは連れ立ってキャスターの根城と化した一室へ向かう。

 

 聖が鍵をかけて、室内に何も()()がないことを二人それぞれ確認。警戒完了(オールクリア)で即座に本題へ。

 

「夢を見ました」

 

 キャスターの言葉に、聖は完全に表情を消した。

 

 サーヴァントは夢を見ない、という。彼らは生きているように振る舞いはしても、その存在からして死者だ。では、そんな存在が夢の代わりに見るものとは。

 

 嫌な予感は一秒ごとに増していって、張り詰めた弦のよう。

 

 強ばった声が静寂を切り裂く。

 

「何の夢だ」

 

「貴方の、です。──いいえ、正しくは()()()()の」

 

 一閃。

 

 キャスターの首に付きけられていたのは、聖が愛用するタイプのショートソード、その一振り。名のある魔剣ではないが神秘性は十分、サーヴァント相手でもあるいは、と彼が目した一品。後に廃サナトリウムにおけるアーチャーとの交戦でも用いられ、アサシンの使い魔──幽精(ジンニーヤー)相手に投擲し回収する暇が無かったため失われた、質実剛健を鋼で体現した鋭い刃。

 

 つまりは明確な殺意の顕れ。

 

 同時に、それを紙一重の距離で静止(とめ)る、理性の顕れ。

 

 刃を突き付けられても尚、キャスターの穏やかさは揺らがない。事ここに至っても開かれることのない瞼、もしや気づいていないのではとすら疑う泰然自若ぶりだが、

 

「正直、ここで終わってもおかしくはないと思っていました」

 

()()んだろ。なら判るはずだ、俺がどれだけ()()()()か」

 

 苦々しげに吐き捨てる聖の表情は、あありにも苦悩に満ちている。彼がここまで感情を露わにしたことが、かつてあっただろうか。

 

 少なくとも聖杯戦争が始まって、キャスターが召喚されてからこちら、(キャスター)が閲覧する限りでは無かった。

 

「あんたをここで消せば、叶とランサーにどう言い繕っても不審がられる。聖杯戦争から脱落した上に同盟も破棄されたら、俺の願いは叶わない」

 

 必死に冷静さを保とうとしているけれど。それは、僅か震える煩悶の声だ。

 

 ──未だ、迷っている。どちらにも傾き得る分水嶺が、ここ。

 

 穏やかに佇んでいるように努めていても、やはり荒事慣れしていない自分は隠しがたい。キャスターも己の震えを自覚した。それが声に乗らないよう、そっと、

 

「……貴方は、それほど賭けているのですね。この聖杯戦争に」




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