「おはようございます、マスター」
「おう、お早うキャスター」
──召喚から数えて、二日目の朝。
マスター・
彼らは毎日の合流の無意味さを主張し、臙条邸への逗留を希望した。
ここ臙条邸は深山町の一角に位置する。
むろん叶は大反対したが、ランサーがキャスター陣営の妥当性を認め、「何かあれば私が主従まとめて始末しますから」と請け負ったのが大きかった。結局は
そのための大掃除やら、キャスターの宝具から逃れた幻獣についての説明やら、あとは『叶を襲ったのがキャスターの幻獣では』という疑いを晴らすための説明やらで、初日は吹き飛んで。
翌日からは、日中に逃亡している幻獣たちを探し回って、夜はあれやこれやの準備──具体的には、叶の銃弾のルーン加工や、聖の魔術礼装の調節、あとは叶へのレクチャーなどをして過ごす日々。
だからこれは、その頃の話。
聖が借りていた部屋の前で、主が出てくるのをどうやら待ち構えていたらしいキャスターを視認した時点で、聖は只ならぬものを感じていた。
「ランサーとの手合わせの前に、少々お時間をいただいても?」
「構わないけど、何だ。改まって言うことか?」
「はい。
「──判った。書斎でどうだ」
「ええ、あそこなら打ってつけかと」
サーヴァントの頼みに、マスターの表情が引き締まったものになる。彼らは連れ立ってキャスターの根城と化した一室へ向かう。
聖が鍵をかけて、室内に何も
「夢を見ました」
キャスターの言葉に、聖は完全に表情を消した。
サーヴァントは夢を見ない、という。彼らは生きているように振る舞いはしても、その存在からして死者だ。では、そんな存在が夢の代わりに見るものとは。
嫌な予感は一秒ごとに増していって、張り詰めた弦のよう。
強ばった声が静寂を切り裂く。
「何の夢だ」
「貴方の、です。──いいえ、正しくは
一閃。
キャスターの首に付きけられていたのは、聖が愛用するタイプのショートソード、その一振り。名のある魔剣ではないが神秘性は十分、サーヴァント相手でもあるいは、と彼が目した一品。後に廃サナトリウムにおけるアーチャーとの交戦でも用いられ、アサシンの使い魔──
つまりは明確な殺意の顕れ。
同時に、それを紙一重の距離で
刃を突き付けられても尚、キャスターの穏やかさは揺らがない。事ここに至っても開かれることのない瞼、もしや気づいていないのではとすら疑う泰然自若ぶりだが、
「正直、ここで終わってもおかしくはないと思っていました」
「
苦々しげに吐き捨てる聖の表情は、あありにも苦悩に満ちている。彼がここまで感情を露わにしたことが、かつてあっただろうか。
少なくとも聖杯戦争が始まって、キャスターが召喚されてからこちら、
「あんたをここで消せば、叶とランサーにどう言い繕っても不審がられる。聖杯戦争から脱落した上に同盟も破棄されたら、俺の願いは叶わない」
必死に冷静さを保とうとしているけれど。それは、僅か震える煩悶の声だ。
──未だ、迷っている。どちらにも傾き得る分水嶺が、ここ。
穏やかに佇んでいるように努めていても、やはり荒事慣れしていない自分は隠しがたい。キャスターも己の震えを自覚した。それが声に乗らないよう、そっと、
「……貴方は、それほど賭けているのですね。この聖杯戦争に」