Fate/second to none   作:吉田一味

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プラネタリウム・ショウ④

「……じゃあ、魔神柱ベリアルが死んでいるとして。どうして人類悪ともあろうモノが、人理を焼却したと豪語する獣が、敗北して死亡までしてるんだ? あんたの居た世界を焼き払ったというのなら、一体敵は誰だったんだ?」

 

「──────」

 

 ここまで問いに間を置くことはあっても、それは言葉を溜めて考えを促すくらいのものだった。

 

 これは違う。

 

 ベルの脳裏にはきっと死に際の戦いの記憶が去来していて、胸がいっぱいで言葉が詰まったのだ。すぐ横の私だけは見えた、彼の掌(・)の(・)口(・)がわずかに戦慄いたのを。

 

 それはベルが死んだ戦い。人理を焼却せんと企てた獣と、それに抗う者との────

 

「──人理継続保証機関フィニス・カルデア。国連と魔術協会の協力によって成立した魔術組織。地表全てが焼却された世界で唯一残された彼らは、人類最後のマスターを据えて我々の事業を阻止するべく行動を開始した。

 

 焼却のための要点──七つの人理定礎に発生させた特異点。聖杯によって異なる世界に捻じ曲げられた歴史改変点を修正し、我々の本拠地の座標を突き止め、迎えた最終決戦は2016年12月22日」

 

 ────それは。その日は。

 

 私の運命のすべてが変わったあの夜──『第一次フユキ大火』とまったく同じ日付。

 

 ……二つが、近づいてくるのを感じる。

ニホンが滅びた此処と、人理が焼却された彼方が。

 

「我々に敗北はありえなかった。戦場は我々の領域。群体たる我々は七十二柱の概念を有しており、すべてを打倒されない限り補充は容易だ。そうでなくとも我々には光帯、つまり人理を焼却して発生させた膨大な熱量がある。戦いにもならない。そのはずだった──」

 

 ……きっと、彼らにも予想外の事態が起こったのだろう。

 

 今になっても信じられないような、語ることさえ憚られるような、決定的な大転換点。

 

──辿り着いた人類最後のマスター。

 

人理継続保証機関カルデアの善き人々。

 

光に消える菫髪の少女の、雪花の盾。

 

そして、彼らの█の『訣別』────

 

「──我々の光帯は防がれ、結合は解除され、魔神王はばらばらの魔神柱たちに別たれた。流星雨の如くに参集した英霊たちに助けられながら、人類最後のマスターは人類悪を打倒し、彼らの歴史と星を取り戻した。私も敗北した──事実ベースならば、それが全てだ」

 

 到底語り尽くせない物語が、それこそ夜空の星くらいにあったんだろう。その気になれば一晩だって語れそうな話をぐっと飲み込んで、

 

「こ(・)こ(・)か(・)ら(・)が(・)本(・)題(・)だ(・)。

 

 ……我々は結合を解除された結果、個我を獲得した。特異点に集結したサーヴァントたちと戦うもの、逃亡するもの、まったく別の行動に出たもの。それぞれがそれぞれの目覚めた自分自身に従って独自に行動し、そのほぼ全ては討たれ、消滅した。

 

 私も致命傷を負い、特異点から逃亡を図った──その時に何を考えていたか、口に出すのは憚られるが仕方あるまい。白状するとだな、」

 

 今や口だけになった魔神は、肺もないのに溜息を吐く。

 

「私はただひたすらに『死にたくない』『ここで終わりたくない』とばかり思っていた。崩れ始める霊基を必死に維持して、一部は消滅偽装のために切り捨てて、どこでもいいから死なない場所を求めて並行転移を繰り返したんだ」

 

 恥じるように告げられようとも、そんなのは当たり前の感情だろう。

 

 生きとし生けるものは当然備える本能。私は今でも共感できるとは言い難いけれど、少数派であることくらいは自覚している。ソロモン王の眷属にもそんな自然な生存欲求があるものなんだなと感じ入る。

 

 失いたくない。生きていたい。

 

 これまで積み上げてきたものが台無しになってしまう無念。これから何も積み上げられない羨望。あるいはもっとシンプルに、死という最高の未解明事象への純粋な恐怖。

 

 最後のはあまりありそうにないセンだが、どれでも理由はより取り見取りだ。全部乗せの可能性もある。

 

 けれど、ベルの理由はやや毛色が違った。

 

「私はここで終われない、まだ何も成し遂げていない。──人理焼却による極点への飛翔、魔神王ゲーティア(われわれ)の大偉業が実現したならばそれで良かった。けれどそれが破却されてしまえば、魔(・)神(・)柱(・)ベ(・)リ(・)ア(・)ル(・)に(・)は(・)発(・)生(・)し(・)た(・)意(・)味(・)が(・)何(・)一(・)つ(・)と(・)し(・)て(・)存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)ま(・)ま(・)、無価値に燃え尽きてしまうだけになる。そんな生涯(けつまつ)は耐えられなかった」

 

「──ちょっと待って、何を言ってるの?」

 

 友人のこれまでになく熱のこもった言葉が理解しがたい。だって、死ぬことと価値は別問題だ。大業を成し得なくても、それだけで人生の価値が決まるなんてことにはならないと思う。

 

 価値は他人(ひと)が付けるもの。自分で決められないからこそ、もどかしく、眩い意味。

 

 真に無価値な存在なんて、それこそ存在しないんじゃないか────

 

 ……私はベルのことがよく分からなくなりつつあったが、ベルは私のことは分かっていた。私が口に出すより先に、私が言わんとしていた言葉への返答を発する。

 

「私はただ一柱(ひとり)、七十二柱の魔神柱の中で役(・)割(・)を持たない魔神柱なのさ」

 

 ──どうやら。魔神柱たちは、爆(・)弾(・)のようなものらしい。

 

 ソロモン王の死後、活動を開始した彼らは魔術師たちの血筋に己の因子を仕込んだ。時代と場所とそれ以外の条件をすべて満たすと発動し、魔術師を魔神柱として覚醒させるプログラム。そうやって人類史の要点に介入することで、人理定礎(マイルストーン)を爆破する計画の実行者となる。

 

 詳しく説明を受けた遠坂さんは「ひどく悪辣な計画だな」と忌々しげに吐き捨てたし、聖はむっつりと黙り込んでしまった。セイバーも落ち着いているというよりかは目が据わっているように見える。

 

 実のところ私だって聞いていて不快には感じていた。だって他人の人生を利用することしか考えていない計画──まあ、そんな非難も馬鹿馬鹿しくなるけれど。なにせ最終目標が全人類の抹殺、人類史を焼き払ってその熱(エネルギー)を転化しての新しい星の創造だなんて言うんだから。魔術師たちの人生が魔神柱の器(いれもの)になったくらい、どうってこと──…………。

 

 ……話を戻そう。

 




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