魔神柱たちは世界各地の歴史の転換点を狙って配置された。ソロモン王は過去と未来を見通す千里眼とやらを持っていて(この話をベルがしたときに、聖がすっごいウンザリした顔をしていた。きっと
「…………じゃあ──
「如何な運命の悪戯か、そうだ、私はただ一柱の顕現先なき魔神柱だ。私だけなのさ。七十二柱の中でこのベリアルのみは、予備役として不測の事態に備え顕現先を設けなかった──それも無論、計画の内だ。不完全な世界の是正のための計画に穴があってはいけない。完璧な計画のため、私は諾々と役無き役を受けたとも」
──計画は完璧だったのだろう。
彼らは彼らの世界の地球、人間世界を焼き払い、目的達成まであと一歩のところまで迫ったに違いない。けれど最後の最後で、
それは宿命づけられた破綻、約束された清算。
魔神柱たちと魔術王とやらがどうすることもできない、訣別。
「……かくて私たちの計画は崩壊し、私は役割無き柱として──」
「……どうして、ベルだったの?」
それは素朴な疑問だったけれど、ベルの痛いところを突いてしまったらしい。一瞬黙ったあと、
「────さあ、な。名前かもな」
「名前?」
押し黙っていた聖が口を開く。
「ベリアルって名前は聖書にも見られる。その意味は『無価値なるもの』──」
「────」
だから、役割を与えられなかったの? とは聞けなかった。ベルは決して浮いた無用な駒ではなく、ただ出番が無かっただけ。自分たちの存在意義と定めた大一番で見せ場がなかったやり場のない感情を、外野がどれだけ斟酌しようとしたって失礼になる。
私には、ただベリアルの無念を認めることしかできない。
「敗北後の私の行動原理については理解してもらえたと思う。当時の私は魔神王から分離したばかりな上に、そもそも瀕死も瀕死の風前の灯火だったから、正直に言えばどうやってこの世界に流れ着いたかは不明だ」
「あー……。まあそうだよね。逃げるのに必死な時ってそれどころじゃないし……」
覚えがある。直近で二回か三回はそういうシチュエーションに巻き込まれている気がするもん。
ベルはあんなのを、
「最終的に私はこの世界に到達した。崩壊しつつあった霊基は大聖杯に墜落し、空っぽになっていた器を満たした。意識はアインツベルンの小聖杯を経由して接触した────
誰かが「大聖杯と、小聖杯──」って呟くのが聞こえたけれど、私はそれどころじゃない。
「
そういえばそういう話だったと思考が繋がる音がした。ベルの執念の話に囚われていて、その後の話──この世界にやってきてからのことに思案を巡らす余裕、無くなっていた。
取りこぼしたくないから、とりあえず付いていくことに専念する。それだって出来るかどうか。
居住まいを正す私を待ってくれてから、ベルは続きを語り出す。
「第四次聖杯戦争は私の漂着時点で既に決着がついていたようだった。美青は小聖杯を確保していたが、『第一次フユキ大火』を食い止められず、生存者の救出に奔走し、辛うじて未だ息をしているだけの子どもを一人保護していた────」
「────それが、私……」
「そうだ。死にかけのお前と、機能停止の私。臙条美青が聖杯の機能を応用して二つを一つにした」
先刻語られた魔神柱移植による救命とは、聖杯も利用してのことだったのか。
「目の前で死にゆくお前を助けたい一心の美青と、何が何でも消えたくない私とでなら、利害は一致していた。お前の心の傷を当時は知らなかったとはいえ、同意も無しに執り行うべきではなかったし、いまさら取り返しもつかない。それでもどうか……謝罪させてほしい」
「────」
「済まなかった、叶。私は自分の目的のためにお前を利用した。望まぬ人生に巻き込んだ。到底許される行いではない。けれど、それでも────」
そこにあるのは口だけで、その形すら人間のものとは違う。けれど想いは伝わるもの。
十年もの間、私の肉体に寄生・同化し棲みついた魔神柱ベリアルだからじゃない。
「こうして事情を明かせる日が訪れて、面と向かって謝罪できて、私は嬉しく思ってしまっているよ」
「…………私もだよ、ベル。許さないだなんて思わない。ずっと、守ってくれて、ありがとう」
友人だと思ったのは訂正させてもらおう。
どんな時も一緒に居てくれる、私の家族だ。
──私が償えない罪を負っていようとも。
──ベルが、もしかすると私以上の咎人だろうと。
血が繋がっているかどうかも、種族が異なっていることも関係なく、私と一番長く居てくれたベルが家族でなくて何だというのか。
そんな大事な存在を、庇わないなんてことがあるもんか。