「俺には第五次を止める力はなかった。きっとこの先も、そのレベルまで上り詰めることは出来ない──だったら、ここで、現場で出来ることをやるだけだ。どれほど罪深くても」
「──待て。罪だと? どういうことだ、何を考えている!」
性急に話を進めていくウィルを一旦落ち着かせようとアーチャーは試みるも、思い詰めた青年は止まらなかった。もしも主従関係が逆で、アーチャーの手に令呪があったら、一画切れば止められただろう。
けれどそれはあり得ない仮定。結局ウィルは瞼の裏に焼き付いた火に追われるまま、
「アーチャー、頼みがある。────明日の会談の場で、日本自由同盟のマスター、
「──、──」
協力の拒否から更に一歩踏み込んで、一線を越える言葉を告げた。
聖杯戦争の他陣営の排除自体は、別に問題視される内容ではない。問題なのは二点──『他陣営の側から協力を申し入れてきている』のを『ウィル個人の独断で』排除しようという部分。
必然──誰にも悟られず止められないよう、土壇場での行動となる。
「だまし討ちをしろと言っている、という認識であっているか」
相棒のはずのアーチャーの底冷えする声に、ウィルは操縦中にも関わらずどうしても一度目を閉じて、ぐっと肚に力を入れて覚悟を込めて──
「…………いいや、虐殺を。
「………………何を、言っている?」
「頼む。ルーラーだけじゃ足りないんだ、上層部を諦めさせるには。サーヴァントは制御可能な兵器などではなく、触れるべきでなかった危険極まりない怪物であると判断させるためには、
操縦桿を握る指が真っ白になっているのを、アーチャーは見た。
「……アーチャーが受け入れがたいなら断って構わない。こんな提案をする俺が許せないなら、この場で俺を殺してくれ。このヘリは対神秘加工の一つもされていない、完全に一般的な機体だ。君なら紙切れのように引き裂いて撃墜できるだろう」
あるいはそれでも構わないのだろう。合衆国の監視の目から隠れて密会したマスターが自らのサーヴァントに殺されるのでも、聖杯戦争のアンコントローラブルっぷりのアピールにはなる。会談現場での唐突な虐殺よりはインパクトは弱いが、第六次や本土での開催を躊躇わせる一助くらいにはなるだろう。
何より、こんなことを頼むような
「………………」
彼の苦悩と覚悟が並々ならぬものだと悟って、アーチャーはしばし考え込む。
受諾──会談の場を殺戮現場にし、サーヴァントの恐ろしさを知らしめて合衆国上層部への抑止とする。その場での死者数は最も多くなるだろうが、首尾よく運べば未来の惨禍を未然に防げるだろう。
拒絶──残虐な指示を出す主のみを抹殺し、主従関係の破綻を喧伝する。それでも、彼ほどのサーヴァントがマスターを排除したという事実は残る。
「頼むよ。どちらを選んでくれてもいい」
あるいはどちらでもなく、ただこの密会をなかったことにして明日に臨むか。いいや、それはあり得ない。自らの契約相手が命を賭して頼んできた願いを流して、漫然と過ごすために聖杯の呼びかけに応じたわけでは決してない。アーチャーとて、戦う理由はある──祖国のためだ。
ならば、どうするべきか。
「こんなこと、令呪で命令したくないんだ。そもそも君には通用しないし──」
アーチャーの宝具『|独立宣言《デクラレーション・オブ・インディペンデンス》』は令呪による束縛からすら自由になれるというもの。「夜来暮子を殺せ」も「ウィリアム・マクマホンを殺せ」もアーチャーの前では等しく無意味に消えるのみだ。ここからサーヴァントの
ただし、アーチャーの考えは違っていた。
「…………いいや。令呪は切ってもらう。そうでなければ不十分だ」
彼は冷たい瞳で告げる。そこに宿るのは、無慈悲無感情無作為に裁く雷の鳳の雷光ではない。考え抜いた人間にのみ宿る、意思の輝き。
肚は決まった。
アーチャーは──