「──何で出てくことにしたんだ」
話し合いの後。
二人きりになって開口一番の聖の言葉は、それだった。
「
つっけんどんな口調に、私もどこか喧嘩腰みたいになってしまう。別に言い争いとかしたいワケじゃない、むしろ逆だからこそ──意識してしまい過ぎるがゆえに反対の行動を取ってしまっているだけ。
それでも、彼のことは知りたいから会話をしない選択肢も選べずに訊ねてしまう。
彼も同じ質問をされたはずで、返答なんて決まっている。
「聖はどこ行くの?」
「──さあな。決まってねえよ」
本当に決めかねているのか、私には隠したいのか。
どうせ明かしてくれないだろうと予期していたって、ちょっとは傷つく。けれど今更そっけない返事ひとつっきりで会話を打ち切らせるつもりは気はないっての。
聖が自分の話をしないなら、話題に沿った内容となると、
「私はどうしようかな。行く当てもないから……どうすればいいと思う?」
「どうってお前の選んだ道じゃないのか」
「道は選んだけど、歩き方を知らないの。というか行先も知らない。旅立つことを決めただけ」
「準備も経験もなしに故郷を離れるなんて、碌なことにはならないぞ。海外旅行とは違うんだから」
「そういえば私、この街から出た事ないかも」
記憶する限りでは皆無。物心つく前のことは流石に知らないし確かめようもないけれど、実のお母さんが私を産んですぐに亡くなっちゃって、お父さんは一人で私を育ててくれていたから、そんな余裕はなかったんじゃないかな。
『第一次フユキ大火』以降はましてや旅行どころではなかった。心の余裕の面を抜きにしても、数年は
大災害で天涯孤独の身となった私を引き取ってくれた
片腕が無いことはさしたるハンディキャップにはならなかった。なにせ両腕が必要になるような場所に出なかったから。徹底的に外出を避け、家の敷地から一歩も出ない生活。唯一外出したのは、彼女が死んだ日のハルくんのところへの────
「…………」
……臙条美青──第四次聖杯戦争のマスターにして、聖堂教会の代行者。
そしてハル神父──彼女の召喚したキャスター。
二人のことも、ほとんど判っていないまま。ミシェル・ドーソンに聞いたっきりで、当事者たちの証言も得られなくなってしまっている。同じ時間を過ごしたはずなのに、今はこんなにも遠い。
……そういえば彼女──ミシェルもどうなっているのか不明だな。自らのライダーに腕を斬り落とされて令呪を奪われ、意識を失って戦場から引き離されていく姿が、私が最後に目撃したミシェル。あの時はいっぱいいっぱいで心配なんかできなかったけれど、ちょっと落ち着くと無事を祈る感情も湧いてくる。
──きっぱりと『私はこの街を出ます』って遠坂さんに言いきったくせに、そのことを本腰入れて考えたくないのか、思考は取り留めも無い。
黙り込んでしまった私の心境を見透かしたように、聖も、
「…………やっぱり、ちゃんと考えた方がいい。第五次聖杯戦争が終わるまでは猶予も貰えてるんだ、今後の人生を左右する決断、そんなあっさりするもんじゃないだろ」
「そうも行かないから。出てくなら準備は大忙しなんだから。あの
今すぐにでも帰って始めたいくらい、と続けると聖は険しい顔で首を横に振る。
「無理に決まってんだろ。フユキにはまだ四騎のサーヴァントがいる、この宿を出たら狙われるに決まってる。旅立つってんなら片付けは諦めて、聖杯戦争が終わるまでは教会の保護下に──」
「別に、帰りたいなら止めないぜ。そんなに危険ってこともないだろうしな」
スッと静かな音だけで開くフスマから、遠坂さんとセイバーが揃って入ってくる。彼らの借りた部屋に置いてもらっている身ではあるものの、急に来るとビックリしてしまうのはもはや性質だから大目に見て欲しい。
聖は私を一顧だにせず、
「遠坂……。それはどういう意味だ」
「今更君たちに手出しするほど、
「──話が、見えないん、だけど」
彼の語る内容は、とても複数騎のサーヴァントが街中を跋扈していつ交戦状態になってもおかしくない聖杯戦争中盤の情勢とは思えない。“
遠坂さんはそこでようやく、私たちが状況を把握できていないことに思い至ったらしい。
「ン──ああ、言ってなかったか。うっかりしてた」
それは対ライダーにのみ注力せざるを得なかった私たちには知り得ない情報。
第五次聖杯戦争中盤の、もう一つの激突。
「
「な────」